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パラノイド・ワーム  作者: 風水ほのお
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 生き残るためには、愛する者の死を見なくてはならない。

 もしくは、愛する者をその手にかけなくてはならない。


 地球外生命体。

 そのSF映画などでしか見たことのない単語が、西暦2038年にNASAや国連から発表されてから、どれほど軽んじられてきただろう。

 2040年代には、地球は謎の粒子に覆われた。誤作動を起こし墜落するため、100ヤード以上の上空を航空機が飛べない。高層ビルにいる生物は酸欠状態になる。もちろん、人工衛星も役に立たなくなり、世界中のネットワークが遮断された。


 最新の通信手段を持っていた人類は、1世紀も前の方法に頼らざるを得なくなった。

 最新の移動手段も不可能で、1世紀以上前の方法を使うことを余儀なくされた。


 それから数年たち、アメリカで起きた暴動を皮切りに、世界中が恐怖に陥った。エイリアンが繁殖させた謎のワームにより、地球は徐々に退廃の一途をたどりつつあった。

 ワームは体長が1/3インチほどで細く、非常に臆病である反面攻撃的でもあり、動く物はたとえ同類であっても、相手を殺すまで噛みつく。体が小さく臆病がゆえに、自分より大きい宿主を探し、口や耳、鼻などの穴から侵入し脳に巣食う。そうしてワームは脳と一体化する。脳を侵された生物は被害妄想にとらわれ、目に見える動く生物全てを、自分を攻撃する敵と思いこんで攻撃してしまう。一度宿主を決めてしまうと、ワームはそこから離れることがなく、死ぬまで宿主は攻撃を続ける。


 その能力を利用するため、エイリアンはワームを培養した。ワーム自体は雌雄同体だが、繁殖本能が極めて低い。そのため希少な生き物で、宇宙全体を混乱に招くことは自然の摂理上なかった。しかしエイリアンは培養装置を作り、大量に産卵させることに成功した。

 生命体が存在する惑星に培養装置を設置し、卵をばらまき、孵化したワームを生き物に寄生させる。生き物同士で殺し合いをさせ、やがて無人となった惑星を乗っ取っていた。つまり、エイリアンは自らの手を汚すことなく、低コストで惑星を奪うのだ。


 やがて地球人同士がワームの寄生により殺し合いを始め、各地で暴動が起きた。地球の防護服では時間を要するが食い破られ、軍が使用するボディーアーマーでは隙間から侵入される。市販の殺虫剤でも効かない。

 各国の軍隊は共同戦線を張り、暴動を鎮圧し、エイリアンを見つけ次第抹殺、さらにワームの培養装置も破壊していった。


 だが、混乱はおさまらない。まだ、各地にワーム培養装置があり、エイリアンも存在している。エイリアンは自らがワームに侵されないよう、ほとんど見えないほどの透明な防護服を衣服の上からまとい、地球人に紛れて潜んでいた。見た目は地球人と変わらないが、ほんの少し耳が尖っていて髪の色は白に近い金髪、皮膚の色は青白く、瞳も白に近い。エイリアンは血液中に銅と鉄が含まれるため、血液が紫色で唇の色も悪い。帽子を深くかぶり、サングラスとマスクをすれば判別しづらく、今までに処分したエイリアンの数は、ワームのせいで激減した地球人の数よりもはるかに少ない。


 共同戦線を張った国連軍は大規模となったが、寄生された地球人に殺された軍人や、寄生された軍人も多く、常に人員不足だった。戦争は腕力ではなく頭脳で行う時代だと、嫌でも見せつけられる結果だ。


 人類は生き残るか、死滅するか。

 史上最悪のサバイバルゲームが繰り広げられる。


 西暦2055年。

 アメリカはミシガン州デトロイト。粒子フィルターに覆われて以来空はつねに薄暗く、緑は枯れ果て、灰色の濃淡という色彩の無い街。ここに駐屯している部隊に、新たに一人の青年が派遣された。

 ワームの暴動により通っていたハイスクールが閉校になり、軍が併設する学校で訓練を受けながら単位を取得し、去年卒業したばかりの青年だ。軍の学校では、希望者は卒業後に入隊でき、入隊者は学費を免除される。人類に残された希望は軍隊にあり、その軍隊では若き人材は宝であった。

 栗色のベリーショートヘア、オリーブ色の瞳をもつ彼は、真新しい迷彩の軍服姿で輸送車を降りた。

 緑が枯れ果てたこの時代では、迷彩服といえばグリーンを基調としたものではなく、灰色や茶系だ。ビルの廃虚に紛れそうな灰色の上下に、土色の防弾ジャケットを羽織っている。

 彼がテントに向かうと、土色のジャケットに「准尉」の階級章をつけた口髭の男が、三人の部下とともに立っていた。


 青年は敬礼をすると、目の前の四人も敬礼した。


「本日より、C地区第十五部隊に配属となりました、F・B・コールドマンです」


 口髭の男が右手を差し出す。青年―FB―よりも背が低いが、肩幅が広く腕も太い。岩を連想するような体型だ。年格好は四十手前といったところだろうか。近年、エイリアンが地球全体に張った粒子のフィルターのため日光が激減したが、それでも日に灼けたいい色をしている。若いころの名残だろうか。

 FBも右手を出して握手をした。


「ようこそ第十五部隊へ。俺は隊長のジェフ・リンチ。ジェフと呼んでくれ。階級は一等准尉だ」


「あ、あの…」


 小規模の分隊なら、伍長か軍曹が指揮を取るのが常だ。ジェフのような准尉は、もっと大きな部署を任されるのではないか。

 FBの言いたいことを察知し、ジェフは肩をすくめた。


「とにかく人手不足でな。前線に出られるもんはどこにでも配属される。将官の椅子でも空きゃいいのにな。ああ、そんな畏まった態度は取らんでいい。親戚の叔父か何かだと思ってくれ」


 目尻にシワを作ってウィンクする。上下関係の厳しい世界で、ジェフのような存在は稀有だ。


 次に大男がグローブのような大きい右手を出した。間近に立つと、6フィートに少し満たない高さのFBが見上げるほどだ。

 ジェフと同年代か少し上の彼は、筋肉質な体に金色の短髪で、映画の悪役か用心棒のような風貌だが、その見た目に反して親しみやすく、人懐こい笑みを浮かべている。


「よろしく、俺は副隊長のファルコンだ。ところでお前さんのファーストネームはフレッド? フランク? FBは何の略だ?」


「ファニー・ボーイ」


 ファルコンは白い歯を見せた。


「ははっ、今の訓練所はジョークも教えるのか。よろしくな、フォクシー・バニー(色っぽいウサギちゃん)」


 FBはしてやられた、といったふうに苦笑いをした。


「嘘だよ、タチの悪い冗談だ。よろしくFB」


 笑いながら肩を軽く叩かれたが、訓練で鍛えてなければ、FBはよろけていたかもしれない。見た目どおりの力の持ち主のようだ。


 続いて自己紹介したのは唯一女性の隊員だ。細身で黒いショートヘアー、肌の色が少し濃く、東洋の血が混じっているようだ。


「はじめまして。私はダイアン。長距離射撃と体術が得意で、主に遊撃を担当しているわ。援護は任せて」


 握った右手は細めだが、女性にしては骨ばっていて、手の甲に大きな傷跡もある。数々の修羅場をくぐってきたらしい。


 最後に名乗ったのは、プラチナブロンドを後ろで結わえた男だ。長身で肌が白く、目が濃いブルーでなければエイリアンと間違えられるかもしれない。


「ナイトだ」


 男はひとことだけ言って右手を出した。冷たい手だ。粒子フィルターのせいで太陽光線が減少して気温が下がったが、それでも人間の体温かと思うような冷たさだ。

 そうか、これは――


「俺の右手は義手だ」


 顔の横でヒラヒラと右手を振り、指を器用に動かす。手首から先が作り物だが、義手と脳に仕込まれたナノコンピューターで、ほとんど誤差が無く動ける。


「ナイトの精密射撃は機械並みでな、飛んでるハエどころかノミまで撃てるほどだぞ」


 冗談まじりに言い、隊長のジェフはファルコンの方に顎をクイッと上げた。


「このファルコンは、こう見えても元軍医だ。負傷の際の手当ては任せておけ。あとは見た目どおり格闘が得意で、バズーカやガトリングなどの重機も扱える」


 全員にテントに入るように促したジェフは、今までとは打って変わって真剣な表情になった。


「コーヒーでも出してやりたいところだが、早速、任務が出ている。テントで準備しながら説明するぞ」


 四人とFBはテントに入る。意外に広いが、五人の生活空間としては狭い。武器や生活用品を収めたコンテナ、折りたたみ式のテーブルに椅子、簡易ベッドという、必要最低限の物しか置かれていない。


 そこは、これから過酷な任務の連続になるFBの、唯一の安らげる場所だった。

陸軍を舞台としていますが、未来の世界であってなおかつ地球規模の非常事態なため多少制度等が変わる、という設定で書いております。幅広い層の方々にもご理解いただきやすくするための便宜上、という点もあります。お詳しい方にはご不満が残るかと思いますが、何卒ご了承ください。

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