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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

冒険者ギルドの処刑人

作者: 大介丸

 

遠い朝の空の閃光が、鬱蒼とした森林を照らしていた。

 その森林内を右腕から血を滴らせている人影が疾走していた。

  人影の服装をみれば、明らかに一般人ではない。

 ましてや、魔物などが生息する森林に用も無いのに入るのは、一般市民でも

  それに携わる仕事をしている者だけであろう。

  動きやすい軽装姿を見る限り、一攫千金目当ての英雄志願の冒険者だ。



  疾走している男性冒険者は、後ろを何度か振り返りながらも走り続ける。

 その男性冒険者の貌は、恐怖に満ちて蒼く強張っている。

  「畜生!!畜生!!畜生!!」

 その言葉をまるで、呪詛の様に呟く。

  走り続けていた男性冒険者は、しばらくして全身を痙攣させて地面に倒れた。

  「・・・・・・・!!」

  全身を灼熱の激痛に襲われたのだ。

  男性冒険者は、酷く痛む右腕に視線を向けた。

  視線の先には、斬口から血が流れている右腕が見える

 恐らく何者かと闘って、斬られたのだろう。

 しばらくして、男性冒険者は、激しく咳き込みはじめて口から血の塊を吐く。

 それでも、その男性冒険者は『何か』から必死に逃れるためか、必死に地面を

 這いずる様に動く。




 この森林に来ていたのは彼の他に、あと3人の冒険者がいた。

 だが、その3人は男性冒険者が必死に逃げている『何か』によって殺害され

  ている。

 しかし、なぜこの様な眼に合うのかは心当たりがありすぎた。

  「――――冒険者ギルドの信用を傷つけた者は、どうなるかは知っている

はずだ」

  何処からともなく、低く凍えそうに冷たい声が響く。

 その声の主は、一体いつの間に現れたのか、地面を這いずっている男性冒険者のすぐ側に立っていた。

 その人物は、長身痩躯で、闇夜よりも濃い漆黒の色で統一した軽装だ。

  見た限り、動きやすく音の立たないように身体にぴったりと合っている。

  両手を黒い革手袋で覆い、フード付きのマントを羽織っている。

 また、跫音を消すためか、靴の裏に毛皮を張りつける工夫もしているようだ。

 フードから覗ける貌の所には、素顔を隠すためか仮面を被っている。

 その仮面は狐を象った仮面だが、それも黒で統一している。




  「――――――――――――」

  男性冒険者は、何かを言おうとするが声が出ない。

  全身に走る激痛と、恐怖と絶望で何も言えないのだ。

  「(う・・・噂話じゃなかったのかよ・・・・)」

  薄れゆく意識の中、男性冒険者はこの辺境都市スーリピアの酒場で聞いた

 噂話を思い出した。

 ―――――――辺境都市スーリピアは、広大な高温多湿で険しい山岳地形の

密林で覆われている『樹海』の近辺にある都市だ。

  『樹海』には、平地にはいない未遭遇の魔物の多様さが挙げられ、複雑な生態系を形成している。

 しかし、『死』だけが支配する『樹海』ではない。

  『樹海』には、危険な魔物以外に、平地には無い珍しい植物や、獣が生息して

  おり、それらを生業としている冒険者や商人などには多大な恩恵がある。

  古代からこの都市を冒険者や商人などの出発点として、また様々な人や情報、

  荷物が集まる拠点として発展してきたのが辺境都市スーリピアだ。




  『冒険者ギルド辺境都市スーリピア支部の処刑人』

  辺境都市スーリピアで、冒険者などが酒場などでひっそりと語られている

 噂話だ。

 その話を聞いた彼らは、「まさか」という気持ちで聞いていた。

  冒険者ギルドが、『汚れ仕事』専属の職員を雇っているという話などは聞いたこともなく、信憑性の無いただ噂話だと思っていた。

  第一、他のギルド支部では、聞いたこともない話だった。

 そして、その処刑人の対象となるのは著しくギルドの信用へ傷つけた者――――。

 そう、今、激しく全身を痙攣させて絶命した男性冒険者が対象である。

  狐の仮面を被った人物は、それを確認するといつの間にか姿を消した。




 ―――――――辺境都市スーリピアに存在する石造りの建物。

  幾つか窓はあるが、そのすべてに鉄格子がはめらており、その窓の数も通常の

 建物より少ない。

 この建物は、スーリピアの監獄施設だ。

  出入り口は正面にある両開きの扉のみで、その横には木造の衛兵詰所が

あった。

  薄暗く、埃っぽい臭いが充満する地下牢に狐の仮面を被った人物が下り

てきた。

狐の仮面を被った人物は、あの場所から丸一日をかけてこの施設にきた。

 ・・・いや、戻ってきたという表現が正しいかもしれない。

 その場所には、1人の男性が立っていた。

  他には見あたらない。

 その男性は、入ってきた狐の仮面を被った人物に視線を注いだ。




 オールバックに髪を撫でつけた岩の様な肉体の男性の元に、狐の仮面を被った

 人物はゆっくりと歩み寄った。

  「終えました」

  眼光鋭く己を見据える男性に、鷹揚のない口調で告げた。

  「死刑執行が延びて良かったな」

  眼光鋭い男性が事務的な声で声で応える。

  狐の仮面を被った人物は、ゆっくりと仮面とフードを取り払った。

  現れたのは、緩くウエーブがかかり、銀鼠色でオールバック気味の長髪、

  濃く真一文字の眉、切れ長の二重瞼、高い鼻梁の顔立ちが現れた。

  男性の底無しに冷たく非情な瞳は、幾多の死地を潜り抜けた冒険者や傭兵にも

 共通する。

 だが、その男性が宿している様な絶望的に冥い漆黒は存在していない。

 むしろ、野心に満ち溢れてギラついている。

 しかし、この男性に甘さが窺えるというわけでは決してない。

  隙のない立ち振る舞い、底冷えする様な暗鬱とした瞳―――――。

 この男性は、多くの修羅場を潜ってきたのだろう。




 この男性こそが、噂されている『冒険者ギルド辺境都市スーリピア支部の

 処刑人』だ。

 このスーリピアでは、冒険者の『死亡』や『消息不明』には二通りの意味合いがいつ頃か人知れず存在している。

  一つは、『樹海』の魔物の生態や素材などの依頼の最中に、『死亡』や

『消息不明』になる事。

 これは、古今東西冒険者家業を携わっている者なら、誰にでも起こりうる

事だ。

 しくじって死ぬのは日常茶飯事の事であり、特に騒ぎになることはない。

 ―――――――しかし、もう一つの意味合いはこの辺境都市スーリピアでは、

  別の意味合いが存在している。

  冒険者ギルドの掟を破り、ギルドの信用を傷つけた者だ。

 その掟も、別段守る事が難しい訳では決してない。

 それはギルドに登録時に、ギルド職員が説明する注意事項の事だ。

 だが、残念ながらというべきが、一部分の愚か者はそれらの注意事項を

破っている事も事実だ。




  特に、辺境都市スーリピアで冒険者ギルドの掟を破れば、その愚か者に待っているのは死の扉を開く選択しか残されてはいない。

 それが貴族の関係者でもあっても、神の僕である司祭でもあっても、

スーリピアの冒険者ギルドで冒険者登録を行った者であれば、掟を破るもの

には容赦はない。

 逆恨みなどで、スーリピアの冒険者ギルドの襲撃計画を企てた愚か者も、人知れず咲き乱れる華の肥料となっている。

 彼の名は、ザラマム。

 元々から、この様な『汚れ仕事』を稼業と定めた訳ではない。

 ザラマムは、辺境都市スーリピアから西部地方の冒険者ギルド支部冒険者

 訓練所の教官を勤める父親の元で成長した。

 登録仕立ての新人冒険者達と一緒に毎日訓練を勤しんでおり、十代後半の時

 には、新人冒険者達に近接戦闘の技術を教えていた。




 ――――彼の運命を狂わせたのは、この世界では特に珍しくもない、理不尽な

振る舞いを行い、民を虫けらの様に扱う貴族が原因だ。

  冒険者ギルドで受付嬢をしていた幼馴染が、衆目の眼前でその貴族に陵辱さ

 れた。

 その幼馴染は、まもなくして自ら命を絶った。

 そして、その後は怒り狂ったザラマムがその貴族を打ちのめすために、その

 貴族の屋敷を単身で襲撃し、打ちのめす事には成功したが幾人もの兵士達によって取り押さえられたという展開だ。

 普通なら、この後は死刑が待っているはずだった。




 繋がれた牢獄で、取引きが持ちかけられた。

 ザラマムを取り調べに当たったのは、ザラマムの父親の訓練所で訓練を受けた事のある、辺境都市スーリピアの冒険者ギルド支部に所属する元冒険者のギルド

 職員だった。

 それらがわかったのは、ずいぶん後になってからだが。

 ギルド職員は、『このまま、死刑執行まで待つか、それとも戦闘技術の腕と

 体力を冒険者ギルドの役に立てるか、どちらか選べ』という脅迫をした。

 もし、冒険者ギルドの役に立つのであれば、死刑執行を取り消しにしてやると

 言ってきた。

 当時のザラマムは、幼馴染を喪った事でそれ所ではなかった。

 ただ考えたのは、このまま死刑執行を虚しく待ちたくないという事であった。

 ザラマムは仕方が無く取引に応じた。

 それが、『冒険者ギルド辺境都市スーリピア支部の処刑人』として、

生きていく様になった第一歩であった。




 そして、取引に応じたザラマムにはある特殊な呪法が施される事になった。

 呪法の名は、『死の宣告』

 この呪法は、三日後には必ず心臓が停止するという高度な呪法だ。

 解除出来るのも、その施した本人しか解けない。

 万が一に指示された標的を殺害する事なく逃走を計れば、『死の宣告』が

 発動し、三日後には必ず何処かで野垂れ死にする。

 また、この場所から脱獄してもだ。

 ――――これが理由で、ザラマムは監獄施設へと戻ってきているのだ。

「お前には、まだまだ仕事がある。次の命令がくるまで大人しくしていろ」

 眼光鋭い男性が事務的な声で声で告げた。

 ザラマムは、それには何も応えなかった。




とりあえず、何となく思いついたので書いてみました。

・・・疲れた・・・

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