魔王厠録
悪乗り100%です。気分と胃腸を害したらトイレにどうぞ。
私は魔界を統治する最高責任者。分かりやすく言えば魔王だ。
そんな私は今、厠つまり便所にいる。かれこれ三〇分は経つだろうか。
私は生来、物理的な強さでいえばこの魔界一であると自負している(故に魔王なんぞやっている)が、如何せん胃腸がすぐに癇癪をおこし恐ろしい便意を催すのである。
しかも前記のように三〇分にも渡る長時間をかけても猛烈な便意は収まら。便秘どころか快調に排便しているとゆうのに。
私がこんな調子なので、部下達は私がよく籠る居城たるエウデン城(皆が魔王城と呼ぶのでこの名称が無名過ぎてちょっと悲しい)八階執政室裏側に新設した個室厠を『玉座の間』と揶揄する。
私もこの揶揄を若干気に入ったが、本来『玉座の間』として扱われてる一〇階謁見室がほんのり可愛そうだと思った。なので謁見室には魔王軍の五元帥を週変わりでローテンションし、私の名代として謁見業務をさせている。(流石に謁見中に催したら権威もクソもないので、それを回避する意味合いがある)
面倒な謁見業務はしなくていいし、心置きなく執政と排便が出来るためこの措置に私はとても満足している。
目下の悩みは、相変わらずの胃腸と、人間界より襲来した勇者を名乗る者に先導された五人程の者達である。
八つ当たりに等しい『魔物で人間界が荒れるのは魔族のせいだ(意訳』とゆう題目を掲げ、魔界でやりたい放題らしい。
そもそも『魔物と魔族』の関係は、人間界でいう『野性動物と人間』に等しい。
ただ魔界の過酷な環境で育った野性動物が魔物と呼ばれるに過ぎない。本当に困る。
まぁ、お引き取り願う為に五元帥の下に位置する一〇将軍を四名選抜し、事情説明と退去並びに賠償交渉の使者として派遣した。
そもそも人間界なんて魔族にとっては旨みと呼べるものが全くないのになぜ侵攻しようか。
こんな風に愚痴を漏らしていたら、もはや籠り始めて一時間か。時が経つのは早いものだ。
さてさて、そろそろ胃腸も機嫌を直してきた。
それにしても、五元帥の一人が戯れで異界より呼び寄せた人間の技術者が開発した温水洗浄便座は素晴らしい。
技術者の世界では、『ウォシュレット』や『シャワートイレ』と呼ばれているらしい。
今までは排便したらしっぱなしか、気にするものは備え付けの荒縄で拭くのが常識だった魔界なのだ。温水によって洗うなど革命的であった。
荒縄で拭いたところで傷一つ付かず、切れ痔とは無縁とはいえ、この温水洗浄を味わえば最早後戻りなど不能。
その技術者が持ち込んだ他の衛生技術・習慣(上下水道、廃棄物処理、風呂、歯磨き等)と共に、勅命として普及させている。
はぁ、そろそろトイレットペーパー(これも技術者が開発した)で仕上げとするか。
カラカラカラ ガチャ
「はい?」
思わず声が出た。
無作法にもノックもなしにトイレの扉を開けたのは、十六歳程の人間の男であった。技術者なら彼はもっと歳かさだし、第一彼はこのエウデン城がある魔界中央都エウデンを離れ、北部で衛生事業の陣頭指揮をとっている。
鍵をしていなかった私も非があることにはある。
だが、男よ。キョトンとした顔でドアを開けたまま私を見るな。私は排泄を人に見られて興奮するような性癖は持ち合わせてないし、むしろ嫌悪感著しい。
「はよう、閉めい」
「は、はい!」
男はようやく扉を閉めた。
まったくなんなのだ今日は。
お付き合いありがとうございました。




