表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

可愛い

王都へ行く前日。


俺はルネを相手に庭で剣の稽古をしている。

今更まともに練習しても手遅れなので、実践形式の稽古だ。


「たぁっ」

「踏み込みが甘いです!」


俺の打ち込んだ太刀筋はルネに悉く避けられて、逆にルネに出っ張った腹を木刀で小突かれた。


「な、何でこんなつらいことを……」

「道中で何があるかわからないため、身を守る術を身につけるためですよ!」


へばる俺に容赦無く木刀を振るうルネ。



あの食堂の話から数日。

旅支度などは使用人に任せ、ずっとルネに稽古をつけてもらっている。


「フゥ……まったく。数日前の威勢の良さはどうしたんですか?」

「無理無理! まさかルネがここまで強いなんて思わなかったんだよっ」


ルネが息ひとつ乱れていないのに対し、運動不足の俺の体は虫の息だ。


普段なら既に「やーめた」と言って投げ出している頃だ。

そんな俺が何故まだ稽古を続けているのか。


それは「私に一太刀入れたら、なんでも言うことを聞く」というルネの言葉に乗せられたのが原因だ。


体を動かすのを嫌がり、家から出ない俺にその言葉は効いた。


俺は、いつもみずぼらしい服を着ているルネに、ふりふりスカートのメイド服を着せるチャンスだと思った。

今までどんな事でも言うことを聞いてきたルネは、メイド服は奴隷としての矜恃が許さないらしくダメだった。


普段は泣いて土下座すれば、あんな事やこんな事でもさせてくれるのに、変なところで頭の硬い奴だ。


「当然ですっ。私はフーボ様の身の安全も守る専属奴隷なのですから」


自慢げなルネは褒めて褒めてと尻尾を振っている。

そこまで褒めて欲しいなら仕方ない。


「それじゃ、ご褒美に頭を撫でてやろう」

「えっ。そ……そこまでは求めてませんよ」


既に何度か撫でられたことのあるルネは後ずさる。

だが、ここは主人らしくこいつに報いなければならない。

俺は毅然とした態度でルネの頭を撫でる。


「よーしよし。お前は本当にいい子だな〜」

「なっ。ちょ、ちょっと強引すぎですよ」


しかし口では嫌がりつつも、続けていくうちに、自分から頭を擦り付けてくる。

相変わらず、可愛い奴だ。


「まだ俺の感謝の気持ちはこんなもんじゃないぞ」


さらに、頭だけでなく獣耳も一緒に撫でる。


「……く、くすぐったいですよ〜」


体の力が抜けて、地べたに座り込むルネ。


毎回こいつは撫でられるとこうなる。

なんだかんだ言いつつも、気持ち良くて嬉しいらしい。


いつも肩肘張っているルネのこんな一面は新鮮で面白い。


「よし! こんなもんかな」

「ふぇ?」


ルネは突然撫でるをやめた俺に首を傾げる。


そこに容赦無く隠し持っていた木刀を叩き込む俺。


「わふ!?」


それは油断していたルネに見事にきまる。

俺は心を鬼にしてルネの額を強めに小突いたのだ。


「すまんな。これも正義のため。お前にどうしてもメイド服を着てもらいたいのだ」


可愛いは正義。

それだけ俺は、メイド服で更に可愛くなったルネを見たかったのだ。



その後、あんな事をした俺はルネにこっぴどく叱られた。

俺は泣きながら土下座して謝って、何とか許してもらった。


「さっきは叩いて本当にすまんかった。どうしてもルネの可愛い姿が見たかったんだ」

「それはもう気にしていません。最初にあの様な約束をしたのは私ですしね」


謝る俺にルネは仕方ないと笑いかける。

むしろ、ここまで過敏に謝る俺に困惑するほどだ。


「まぁ、あとが残るほどでもありませんし……それに、痛いのもむしろ……」

「へっ?」


頬を赤らめもじもじするルネに、今度は俺が反対に困惑する。


「な、なんでもありませんっ。早くお屋敷に戻りましょう!」


慌てて早口になるルネ。

メイド服を着たその姿は、いつも以上に可愛いかった。


どうやら俺は、ルネの別の一面をまた知ってしまったらしい。


やはり可愛いは正義だな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ