家族
俺は家族が揃った食堂の席に座った。
そのななめ後ろにルネが待機する。
それを確認して父上が話し始めた。
伯爵家の当主である父上が真剣な雰囲気になると迫力があるな。
「さて、わざわざ家族を集めたわけはわかるな?」
父上の返答を促す問いに、父上と同じ赤茶色の髪の少年が答える。
「フーボの召喚魔法ことですよね」
この少年は、長男のカイル・ラインベルク。
芸術を愛する男で、俺より8歳年上の13歳だ。伯爵家の嫡子として王都の貴族院で学んでいる。
それがわざわざ実家に戻ってくるとは。
貴族とはいえ、王都から領地までの距離を行き来するのは簡単ではない。
それだけこの世界の者にとって、初めての召喚魔法の意味は大きいということだな。
「そうだ。もうフーボも召喚魔法を扱える歳になったからな」
召喚魔法は、魔力が十分にそなわる5歳児から使える。
つまり、家族が集まった目的は今日俺が召喚魔法を使うからだ。
「そんなんより、早くおれのムルちゃんに餌をあげたいんだけど」
自分勝手なことをしゃべり出したこいつは、次男のレン・ラインベルク。
俺より4歳年上の9歳児で、短髪の赤髪が特徴的なガキ大将だ。
ちなみにムルちゃんとは、レンが召喚した赤竜のドラゴンである。
まだ子供のドラゴンだから子型犬ほどの大きさしかない。
「レン。大事な話の最中に横槍を入れてはダメよ」
「はーい」
行儀の悪いレンを諌める長い金髪の女性。
その膝の上には、その女性を小さくしたような女の子がうとうとしている。
女性の名は、アリア・ラインベルク。
俺たちの母親だ。転生してすぐに見た女性がこの人だ。おしとやかな見た目に反して酒豪と名高い。
女の子の方は、俺と二つ違いの妹のシーナ・ラインベルク。
甘えん坊だが癇癪持ちで、思い通りにならないとすぐキレる。
「それでは父上。ついに俺も召喚魔法ができるのですね?」
「……それがな。今年は、フーボの社交界のお披露目と合わせて、召喚魔法をすることになったのだ」
俺の問いに答えにくそうになる父上。
どうもおかしい。
普通は家族間で5歳の誕生日を祝うとともに召喚魔法を使うのだが。
その後の父上の話をまとめると、王都で今年5歳になる王子のお披露目パーティーが開かれるらしい。
そこで同じ5歳になる貴族子弟たちが召喚魔法を使うことで、貴族同士の親交を深めるとともに同い年の中から王子のご学友を選出するために招待されたようだ。
将来の王国を支える側近を選ぶというわけだな。
パーティーには騎士爵などの一代限りの貴族から公爵までが祝いに来る。
国中の貴族や大商人ばかりか国外のVIPまで参加する盛大な催しになるそうだ。
正直面倒くさい。
部屋を出るのも億劫なのにそんなところまで行かなければならないなんて。
俺にはすでにベットでゴロゴロして、ルネとイチャコラするという予定があるのだ。
だが、そんな理由で参加を断れるわけもなく半ば強制的に参加が義務づけられた。
父上の話が終わり家族団欒の昼食の後は、それぞれ解散した。
父上はカイルに領地経営を教えに。レンはムルの餌やりに。母上はシーナと庭へ遊びに行った。
自室へと戻った俺とルネ。
重い体をゆらして早速ベットイン。
「やっぱ、たらふく食べた後のごろ寝は最高やわー」
「フーボ様! そんな風だとまた太りますよ」
ルネは眉間にしわを寄せて注意する。
「今更だから別にいいよ。ルネはせっかくかわいいのに怒鳴ってばかりでもったいないぞ」
「なっ……何を奴隷に言うのですか! そんな暇があるのなら、フーボ様はもっと貴族らしくしてください!」
俺の軽口に顔を赤くして反応するルネ。
「もうっ」と言って憤っている様子を見せるが、体が小刻みに揺れ動いている。
言葉では否定しているが褒められてうれしいようだ。
相変わらずちょろいな。
しかし、王子のお披露目パーティーか。
王子とかほかの貴族とかどうでもいいが、遠出するだけの元手が取れるぐらい美味しいもんを味わうか。
あ、あとはルネに王都のお土産でも買ってあげよう。
どんな物を買おうか、今から楽しみだ。