イタズラタイツ短編・吊り橋効果
時系列は・・・まぁ察してください。
なにかと平和な日。
いつものように登校した拓馬。いつも一緒に登校している隆は、職員室に寄ってから教室へと向かうそうです。
教室には名波と一花が先に来ており、仲良くおしゃべりをしていたところに、拓馬が乱入していきました。
「おはー」
「おはよー」
「おはよう、木下君」
自分の席にカバンを置きながら、その後ろの席の方へと向く拓馬。
忘れているかもしれませんが、拓馬の席の後ろが一花の席です。
「何の話?」
「拓馬、手だして」
「手?」
名波にそう言われた拓馬は、なんのこっちゃと思いながらも、右手を差し出しました。
ビシッ!
「あいた!」
そこへ一花の痛烈なしっぺが炸裂しました。殴り抜けるタイプのしっぺではなく、威力をそこに留めておくかのような重いタイプのしっぺでした。
突然のしっぺに拓馬は混乱と痛みの両方に驚いていました。
それを見ていた名波がケラケラと笑っています。
「えっ? 何? 俺、何かした?」
「黒木さん? ホントにこれであってるの?」
「あれー? おっかしいなー? テレビだったらこれで良かったはずなんだけどなー」
「お前、いきなりふざけてんのか?」
拓馬がしっぺをされた手首を押さえながら名波と一花を見た。
そこで本気で怒らない拓馬は優しいですね。これがもし隆だとしたら、名波はファンクラブの人間を盾にしても生き延びることはできないでしょう。
ケラケラと笑ったまま返事を返そうとしない名波の代わりに一花が答えました。
「昨日のテレビでやってた、吊り橋効果の話ししてたのよ」
「吊り橋効果? 怖いときのドキドキと恋愛のドキドキを錯覚するっていうあれか?」
「そう。私はそのテレビ見てなくて、黒木さんが見ただけなのよ」
「それがなんでしっぺなんだよ」
「木下君がきたら試してみようっていうことになったんだけど、痛いときでもドキドキするんじゃないかって黒木さんが」
「注射のときもドキドキするじゃん」
ケラケラから復活した名波が割り込んできた。
「でもいきなりしっぺをするのはよくないと思いますー」
「いきなりじゃなかったらドキドキしないじゃん」
「じゃあ自分でやれよ」
「私が委員長にやってもらっても意味ないじゃん」
「じゃあ名波が市原にやってやれよ」
「私、痛いのは嫌よ」
「私も暴力反対主義だし」
「俺ならいいのかよ…」
「そのまま私に惚れてくれたら万々歳じゃない」
「あーはいはい」
と、そこで拓馬があることに気がつきました。
名波の後ろに隆が接近しながら、口元に人差し指を当てて、『俺のことは言うなよ? 絶対だぞ?』とアピールをしていました。ふと一花のほうを見ると、一花と目が合い、ウインクをされました。拓馬は目をそらしました。
そして隆が名波の真後ろに到達し、隆が頭一つ分沈んだとき、名波が間抜け面を浮かべながら同じく頭一つ分下に下がりました。
「うひゃう!」
間抜けな顔とともに発せられた間抜けな声。
名波はそのまま教室の床にヘタリ込んでしまいました。
隆は先ほどの名波同様、ケラケラと笑いながら名波を見下ろしていました。
隆は名波の背後に近寄ると、名波の膝めがけて膝カックンをしたのです。拓馬はさっきの仕返しを隆がしてくれたので少し満足そうな顔をし、一花は呆れたような顔をしていた。
しかしいつまでたっても立ち上がらずヘタリ込んだままの名波。それを少し心配した隆が声をかけた。
「おい名波? 大丈夫…」
「アホー!!!」
「!?」
手を差し伸べた相手から、まさかのアホ宣告をうけた隆は、一歩引いてしまいました。
「びっくりしたし! 腰ぬけたかと思ったし! 超ドキドキしたし! バカじゃないの? アホじゃないの!?」
「お、おう。悪かった…」
「ほんとだよ! やるなら言ってからやってよ!」
宣言すればやってもいいのか、と思った拓馬でしたが、なにも言いませんでした。
立ち上がって顔を真っ赤にした名波を見た一花が呟きました。
「これが吊り橋効果ね。模範解答だわ」
「「!?」」
それを聞いた隆と名波が一花を見て、そして互いの顔を見合わせました。
「いやいやいやいや。これは吊り橋効果じゃないでしょー」
「吊り橋効果っていうのは、意中の相手に仕向けるから効果があるんであって、俺が名波にやってもそこまで効果はないような…それこそ委員長が拓馬にやったらいいじゃねぇかよ」
「さっきやったわ」
「ほら」
「うへぇ…」
拓馬の腕に残ったしっぺの痕を見た隆は、痛そうに顔を歪めた。
「って、内出血してるじゃねぇか。痛くねぇの?」
「痛かったけど、なんか麻痺してるのか痛みがあんましない」
「委員長、おそるべしだな」
「黒木さんに騙されたのよ」
「騙されたとはひどい」
「お前が騙したのか。うちの拓馬をキズ物にしおって。どれ、腕を出しなさい」
「えーイヤだー」
「人にはやるのに自分は嫌だとか、最低なやつだな」
「やっていいのはやられる覚悟がある人だけだものね」
「そういう市原はやられてもいいのかよ」
「私は木下君にやられるなら本望よ」
「相手が悪かったか」
一花のキラキラした目をさらっと交わした拓馬は、名波に腕を出させようとしている隆を見て、それから外を見た。
「今日も平和だなぁ」
よく晴れた秋の空を見ながら、今にも一句思いつきそうな顔でそう言った。
おしまい。
「」
先日、全部読みきった記念で書きました。
相変わらず『あれ? これ、僕が書いたのか?』って思うぐらい面白かったです。
ぜひ本編もお楽しみくださいませ。