ある魔王はお出かけする
※ 魔王の家 ※
魔 王 「終わった…」
側 近 「終わりましたねぇ、やっと」
魔 王 「まさか、仕事が終わるまでに一週間もかかるとは…」
側 近 「今頃勇者も姫を城に連れていってる頃ですかね?」
魔 王 「こんなにかかるか?どこに飛ばしたんだ?」
側 近 「彼らの国ですけど?」
魔 王 「……国の、どの辺に?」
側 近 「ん~。姫と勇者のそれぞれの国の国境付近でしょうか」
魔 王 「あ…の、国は」
側 近 「はい。誰かさんの年寄りの癇癪で、何もかも目茶苦茶になってますからね。魔法も使えねぇ気 候も定まらねぇ無法地帯になってますねぇ、あの辺は」
魔 王 「……だが、三日も歩けば、魔法の使える場所に出るだろう」
側 近 「姫が抵抗しなかったらの話でしょう」
魔 王 「…う」
側 近 「しかも、王子の方にも準備とかあるでしょうし、姫も一緒ですから、勇者もゆっくり行くでし ょう」
魔 王 「…あの姫の話は、もう…」
側 近 「そうですね。ですが、勇者帰した後、王子に手紙送っといたんで、もう来ないかと」
魔 王 「手紙?」
側 近 「はい。姫帰るってのと、王子以上のイケメンに姫惚れたって内容ですが」
魔 王 「じゃあ、しばらく王子は必死で…」
側 近 「姫をつなぎ止めてくれるでしょう」
魔 王 「よかった…!」
側 近 「貴方はビビリアンですねぇ」
魔 王 「…怖いものは怖いんだ」
側 近 「はいはい」
魔 王 「むぅ…」
側 近 「さってと。じゃあ行きますか」
魔 王 「…どこに?」
側 近 「え、勇者ん家ですけど」
魔 王 「え、なんで?」
側 近 「えっ?」
魔 王 「えっ?って、えっ?」
魔具職人「ちぃーっす。きましたぁ」
魔 王 「えっ…」
側 近 「ちぃーっす。おひさ~」
魔具職人「おひさ~。元気そうだねぇ、親バカちゃん。あ、魔王ちゃんじゃん。元気ぃ?」
魔 王 「あ、機械のお姉ちゃん!」
魔具職人「ん~。そのナリの魔王ちゃんにお姉ちゃん言われるとぉ…なんかムカつくぅ」
魔 王 「なぜ?」
側 近 「あぁ、わかるわかる。年取った気分になるよねぇ」
魔具職人「それもあるしぃ、なんか酒場のお姉ちゃん的な?」
魔 王 「そんなこと言われても…」
側 近 「まぁね。うん、わかるよ、この見た目だもんね~」
魔具職人「だよねぇ。こんなべっぴんの兄ちゃんに言われるとねぇ」
魔 王 「……っ。俺を玩具にして、楽しいのか?」
側 近 「それはもちろん」
魔具職人「とっても愉しいよぉ」
魔 王 「……ふん」
側 近 「あ、スネちゃいました?」
魔具職人「ごめんねぇ、魔王ちゃん」
側 近 「まぁ、それはともかく、きぃちゃん来たし行きますよ」
魔具職人「そっすよ~。早く行きましょ、親バカちゃん、魔王ちゃん」
魔 王 「なぜ?」
側 近 「まったく、貴方はば……。ええと、この間、勇者が鳥に乗ってきましたよねぇ?」
魔 王 (今絶対、馬鹿って言おうとした…)
魔具職人「あのでっかい鶏、迷惑なのよねぇ」
魔 王 「にわとり…」
側 近 「ちょっと飛ぶのに長い距離助走しやがるからねぇ、被害が馬鹿にならないんだよね、あの馬鹿 ドリ」
魔 王 「え、ニワトリ否定しないのか?」
側 近 「えっ、ていうか、教えてませんでしたっけ?」
魔具職人「ちょっとぉ、ちゃあんと教育しなさいよ、親バカちゃん」
魔 王 「…あの、それで…?」
側 近 「いや、多分あの勇者また来るでしょう」
魔 王 「来るのか?」
魔具職人「そん時にさ、また鶏で来られちゃたまらないよねぇ?」
魔 王 「確かに…」
側 近 「だから、勇者ん家とうちに直結する扉を、きぃちゃんに作ってもらうのですよ」
魔具職人「頑張るよぉ!こないだ工房踏み潰されたしぃ!」
側 近 「やっと作り直したのに、またベシャってされたらたまらないもんね、きぃちゃん」
魔 王 「あ、成る程…」
側 近 「わかっていただけましたね。それじゃあ行きますよ~!あ、でも魔王様はその前に…」
魔 王 「え?」
魔具職人「じゃあ、アタシ荷物持ってくるぅ」