それぞれの手
彼らは大地に祝福されし一族。ゆえに生まれつき土や石や木と言葉をかわすことができる。人は彼らを、土の妖精ドワーフと呼ぶ。
一面、氷雪の白い世界に冒険者たちはいた。彼らは猛烈な勢いで吹きつける吹雪のためにこの地に足止めされていた。
たき火の小さな、けれども充分に暖かな光が洞窟内の冒険者たちの寝顔を照らしている。
剣抱く女剣士。穏やかな寝息をたてる巫女。まだあどけない少年。ローブをまとった茶髪の魔術師。その魔術師と寸分違わぬ顔の戦士。
火のはぜる音と彼らの寝息の他に別の音が混じっていた。
シュッ、シュッ、シュッ。
躍動感に満ちたその音は小気味良く、幾度も幾度も繰り返される。
戦士は、いつしかその音が生まれる瞬間にみいっていた。その音は仲間の老ドワーフが木を削る音だった。氷の国の長い寒さに耐えてきた木の小片は、老ドワーフの手中で草原の国の蒼穹を翔ける鳥身へと姿を変えていく。
まったくドワーフたちは器用だ! 戦士はつくづくと感心した。すると唇から自嘲めいた呟きがこぼれた。
「俺の手は剣をふりまわすしか、能がないからな……」
すると老ドワーフは手を止め、戦士に向かって笑んだ。
「だがわしは、その手に何度も助けられた」
そう言うと、また木を削り出す。
まだ若い戦士は、老ドワーフの言葉をかみしめながら、自分の手をじっと見た。
外ではもう、吹雪はやんでいた。
FIN