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婚約者が誰かわかりません!〜食堂の娘は今日も騎士たちに振り回されています〜  作者: 丹羽坂飛鳥


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19/20

 昼下がりの公園でサフィーナさんが語った過去に、言葉が出ない。

 話すことでさらに傷ついた様子の彼が、小さな溜息を吐いた。


「私は大した男ではありません。……ティランを失ったことを認められず、ただ生きている。それだけの男なんですよ、ディアさん」


 かつて神父様がかけていた言葉も。

 何もかもが腑に落ちて。


「だから、幸せになるつもりはありません。

 あなたを求める人は、他にも多くいる。……どうか私ではなく、彼らのことを見てあげてください」


 ……それでも、私は顔を上げるしかなかった。


「家の瓦礫に挟まれた私の前を、騎士様が何人も通り過ぎました」


 誰か、助けて。

 幼くて小さく、か細い声は、彼らに届かなかった。


 背中が熱くて、痛くて。

 苦しくて。

 もう諦めてしまいかけた。


 そんな時だった。

 裏葉色の髪の騎士が、振り向いて。私の方に、駆け寄ってくれた。


「サフィーナさんだけが、私を見つけてくれたんです」


 熱い瓦礫を押し除けて、たった一人だけ。

 声にならない音を、私が頑張ってきた声を、聞き届けてくれた人がいた。


「ティランさんが、望んだように。

 サフィーナさんだからこそ、私は助かったんです」


 混濁した記憶の中でも、優しくかけてくれた言葉を覚えている。

 次に会った時には失われている命かもしれないのに、再会を信じて約束してくれた、温かい人を忘れたくなかった。

 それくらい、彼に感謝していた。

 ……私を見つけてくれた、たった一人の人だった。


「孤児院で、同じ騎士様に助けてもらえた、そう言っていた子もいました。

 私と一緒で誰にも見つけてもらえない、助からないって諦めかけていたのに、その人だけが手を伸ばしてくれたんです。

 サフィーナさんが、私たちを救ってくれたんじゃないんですか?」


 生存者はいないと断じられる声に、ここにいるよと、もう言えなかった。

 サフィーナさんだけが、呼吸の音を、小さな泣き声を、あの燃え盛る炎の中でも聞いてくれた。


「あなたに救われた私がいるのに。

 自分は何もできなかったみたいに、言わないでください」


 目の前が滲んで、苦しい。

 でも、同じくらい目を閉じて、辛そうに胸を掴んでいる人がいるから。

 ……その人の苦しみに、手を伸ばした。


「ティランさんが信じて託してくれた、サフィーナさんだからこそ。

 一人でも多くの命が救われたって、助けてもらえた私は、思います」


 親友を失い、後悔にずっと苦しんできたからこそ。


「救ったことで、今につながった命がある。

 だから……もう自分を許していいんだって、ティランさんならきっと、サフィーナさんに言ってくれますよ」


 彼が抱えてきた後悔を、全て知ることなんてできない。

 それでも、自分には何もないと言っていた人が、触れた私に膝を折って。

 寄りかかるように抱きしめてきた彼からは、雨のように綺麗な涙が落ちてくる。


「より多くの人を救いたかったヒーローは、サフィーナさん、あなただって救いたいはずです」


 大きく息を吸った。

 まるで今、彼が生まれ変わるように。

 苦しみを耐えかねた泣き声を聞いた。


「きっとリファナ神も、サフィーナさんにそう伝えたくて、私を選んで巡り合わせてくれたんだと思います」


 親友を失った、悲しみの涙が。

 今も傷跡が残る私の背中に、染み込んでいく。

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