声
昼下がりの公園でサフィーナさんが語った過去に、言葉が出ない。
話すことでさらに傷ついた様子の彼が、小さな溜息を吐いた。
「私は大した男ではありません。……ティランを失ったことを認められず、ただ生きている。それだけの男なんですよ、ディアさん」
かつて神父様がかけていた言葉も。
何もかもが腑に落ちて。
「だから、幸せになるつもりはありません。
あなたを求める人は、他にも多くいる。……どうか私ではなく、彼らのことを見てあげてください」
……それでも、私は顔を上げるしかなかった。
「家の瓦礫に挟まれた私の前を、騎士様が何人も通り過ぎました」
誰か、助けて。
幼くて小さく、か細い声は、彼らに届かなかった。
背中が熱くて、痛くて。
苦しくて。
もう諦めてしまいかけた。
そんな時だった。
裏葉色の髪の騎士が、振り向いて。私の方に、駆け寄ってくれた。
「サフィーナさんだけが、私を見つけてくれたんです」
熱い瓦礫を押し除けて、たった一人だけ。
声にならない音を、私が頑張ってきた声を、聞き届けてくれた人がいた。
「ティランさんが、望んだように。
サフィーナさんだからこそ、私は助かったんです」
混濁した記憶の中でも、優しくかけてくれた言葉を覚えている。
次に会った時には失われている命かもしれないのに、再会を信じて約束してくれた、温かい人を忘れたくなかった。
それくらい、彼に感謝していた。
……私を見つけてくれた、たった一人の人だった。
「孤児院で、同じ騎士様に助けてもらえた、そう言っていた子もいました。
私と一緒で誰にも見つけてもらえない、助からないって諦めかけていたのに、その人だけが手を伸ばしてくれたんです。
サフィーナさんが、私たちを救ってくれたんじゃないんですか?」
生存者はいないと断じられる声に、ここにいるよと、もう言えなかった。
サフィーナさんだけが、呼吸の音を、小さな泣き声を、あの燃え盛る炎の中でも聞いてくれた。
「あなたに救われた私がいるのに。
自分は何もできなかったみたいに、言わないでください」
目の前が滲んで、苦しい。
でも、同じくらい目を閉じて、辛そうに胸を掴んでいる人がいるから。
……その人の苦しみに、手を伸ばした。
「ティランさんが信じて託してくれた、サフィーナさんだからこそ。
一人でも多くの命が救われたって、助けてもらえた私は、思います」
親友を失い、後悔にずっと苦しんできたからこそ。
「救ったことで、今につながった命がある。
だから……もう自分を許していいんだって、ティランさんならきっと、サフィーナさんに言ってくれますよ」
彼が抱えてきた後悔を、全て知ることなんてできない。
それでも、自分には何もないと言っていた人が、触れた私に膝を折って。
寄りかかるように抱きしめてきた彼からは、雨のように綺麗な涙が落ちてくる。
「より多くの人を救いたかったヒーローは、サフィーナさん、あなただって救いたいはずです」
大きく息を吸った。
まるで今、彼が生まれ変わるように。
苦しみを耐えかねた泣き声を聞いた。
「きっとリファナ神も、サフィーナさんにそう伝えたくて、私を選んで巡り合わせてくれたんだと思います」
親友を失った、悲しみの涙が。
今も傷跡が残る私の背中に、染み込んでいく。




