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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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8/21

8.推しと女神とアヒルの子

華と恵の再会は思っていたよりも早かった。

きっちり一週間後、前回と同様に華や恵たちは会議室の前の部屋へと集められた。

前回と違って幾分か空気が軽い。

みんなここでの生活になれたのだろうか?

前回よりもすぐに捕虜たちの雑談タイムが始まった。

その中で恵は一際輝いていた。


華は複雑な思いを抱えながらも、恵へ挨拶をしに行こうとしたのだが、人の波に揉まれて叶わなかった。

恵のまわりには自然とたくさんの人が集まっている。

もう少し時間を置いてからにしようと、少し人だかりから離れた壁際に立つ。

それが良くなかった。

1度輪から外れてしまうと、中に戻るのがなかなか難しいのである。

他の人に話しかける勇気もないまま、周りの人を観察したりしていたのだが、たまにかち合う視線が気まずくなりやめた。

することもなく自分の爪や髪を無意味にいじってみる。

段々と周りの目を気にするようになってしまった。

今この場で1人になっているのは自分だけではないか。

他の人から可哀想な目で見られているのではないか。

考えたくないことが次々と浮かんできてしまう。


「華ちゃん!」


急にマドンナからお声がかかり、驚いて変な声を漏らす華。

気がつけばいつの間にか恵がこちらに目を向けている。

周りの人からの視線が痛い。

恵がこちらへ歩き出すと、周りの人達がササッと道を開ける。

さながらモーゼのようだった。


「1週間ぶりだね。また会えて嬉しい。」

「あ、うん、そうだね。」

「最近はどうだった?華ちゃんってあまり外で見かけないよね。お部屋で過ごしてるのかな?」

「外?私はサミュエルから外出許可出てなくて……。え?他のみんなは自由に外歩き回ってるの?」

「私はほぼ毎日散歩してるよ!部屋の中でも特にすることないから。ノアも体鍛えてばっかりだしね。」

恵の周りの子達も、恵の言葉に同意して、本がいっぱい置いてあるところに行ったとか、空室ばかりだけどたまに面白い部屋がある。などと言っている。

───そんな……前に部屋から抜け出した時、誰とも出会わなかったのに?

「それでこの前はヴォイドに会ってね。ヴォイドの部屋の近くまで行ったから一瞬でも姿見れるかなぁとは思ってたんだけど、まさかほんとに会えるなんて!」

「恵ちゃんの推しって……」

「そう!ヴォイドなの。この目で見られるなんてほんとに幸せ。それで、この間会った時思い切って話しかけたら返事してくれて……」

自分があの時見た時の話だ。

耳が音をシャットダウンして、恵の声が遠くなる。

「……はどうかな?」

「え!?あ、ごめんちょっと聞いてなかった。」

「全然!華ちゃんの推しは誰かなって。」

「あー、えっと……」

言いづらい。この話を聞いたあとでは……。

それに恵が同担拒否だったらどうなってしまうのか。

「わたし……も、ヴォイドが好きで……」

語尾が小さくなる。

いっその事聞こえない方がいいのかもしれない?

恵が目を見開く。

恵の周りの取り巻き達が片眉をあげているような気がした。

「えー、まじ?」「被ってんじゃん。」「あえて言う?」「普通なら気を使って別の人にするでしょ。」とかの小声が聞こえてきた気がした。

恵にガシッと手を握られる。

「嬉しい〜〜〜。私たち、推しまで一緒なんだね。どんなところが、どんなところが好き!?1番好きなスチルは!?」

今度は私が目を見開く番だった。


ゲームのどのシーンが良かっただとか、このセリフが好きだなどと2人は語り合う。

華は周りが気になった。


───ゲームのことを知らない人達に、これから起こる?出来事を伝えてもいいのだろうか。


そんな不安を抱いていた。

しかし恵は既に仲良くなった人達に、ゲームのことについて話していたのだ。

最初はみんな驚き、信じてくれなかったものの、恵の人柄に触れた人達はすぐに恵の言うことを信じてくれるようになった。

2人の会話に周りの人達も混ざる。

華以外の人達は捕虜たちの間、魔族の人たちとも交流していたらしく、既に好き嫌いができているようだった。


しばらく大勢での会話が続いていたが、不意に恵が華にアイコンタクトをする。


「皆ちょっとごめん、席外すね。」


そう言って恵は華の手を取り駆け出す。

恵は人がいない部屋の隅に華を連れてきて、耳打ちする。

「ね、勘違いだったら申し訳ないんだけど、もしかして華ちゃんも、推しというより恋愛的な意味で好きだったりする?ヴォイドのこと。」

核心をつく質問に、心臓が止まりかける。

拳をぎゅっと握りしめながら華は答えた。

恵の耳元に唇を寄せる。

「えっと、どう、かな。今はまだ恋愛って感じじゃないけど、これから先、そんな気持ちになる可能性も、ある、かも。」


───予防線張っちゃった……


「りょうかい!じゃあ私たち友達だけどライバルになるかもだね。負けないからね!けど、華ちゃんもその時は遠慮しないで。」


正々堂々勝負しよう。と恵は花のような明るく綺麗な笑みで手をぎゅっと握ってきた。

華もそれに応えるように弱々しく手を握り返す。


「うん……」


恵と違い、華の心の中は曇天だった。


───勝てっこない。どうして好きな人が被ってしまったんだろう。

───今からでも別の人を好きになってくれたらいいのに。恵ちゃんなら他に好きになってくれそうな人が、沢山いる。


ここでようやく華は気づいた。

この世界でのヒロインは恵であると。

自分はただのモブ、良くて道化なのだと。

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