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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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7.無垢な虚飾

一面の銀世界。

汚れなきその一面に、一筋の跡がつけられていく。

降りしきる牡丹雪のなかを、1人の男が歩いていた。

全身真っ黒の男は周りの白の中で一際目立っていたが、それを見ているものは誰もいない。

それもそのはず、男の他に生き物の気配が全く感じられない空間だったのである。


魔王に仕える幹部たちは、一部例外を除きそれぞれ1人1区画、魔界の地を治めるよう命じられている。

ここは、魔界の中でヴォイドが統治する区画。

一般住民はほぼいない。

なぜならこの地区は罪人の収容場所、所謂刑務所がある場所だからだ。

その刑務所にいる魔物や魔族たちこそが、この地の住民だった。

一般人の居住を禁止している訳では無いが、わざわざ危険で不便な場所に住もうという好色な人は中々いないのであろう。


広大な土地の中で、中央にそびえ立つ監獄の中にしか、生き物は存在しない。

あとはただただ周りに深い森が広がるのみ。

犯罪を犯したものは目隠しをされ、睡眠薬を飲まされてここに運ばれてくる。

どの道が森の外へと通じるのか知っているものは極わずか。

監獄の警備は極めて高いという訳では無いのだが、かつて脱獄したものも、誰一人として成功せずに終わっている。

森でさまよいそのまま命尽きるよりかはと、ほとんどの囚人は大人しく囚われの身となっているのだ。

そんな森を迷うことなく歩いていく男は、かなり異質な存在だった。


森は冬である今は葉をつけておらず、まるで枯れ木のように見えるさまで、まるで生命を感じられない。

この寂しい風景の中に、男、ここを統治するヴォイドは静かに存在していた。


裸木に囲まれながら、ヴォイドは息を吐く。

白いそれはすぐに周りに溶け込んでいった。

目を閉じ、ここ最近の出来事を思い返す。


───ああ、やっと静かになった。


彼なりに平穏な日々を過ごしていたのだが、暫くの間騒がしい日々が続いていた。

捕虜を連れてこいという命令のせいで、幹部の数だけ魔王城に増えた人。

元々同僚からも様々な感情を伴って見られていたのだが、人が増えたことでその視線はさらに増えた。

先程までも捕虜の1人と偶然出くわして、話しかけられた。

こちらが必要最低限の返事しかしていないのにも関わらず、そんなのお構い無しにと投げかけられる言葉。

彼自身がどう思おうと、勝手に聞こえてくる他人の声。

そしてやはり視線。

これまでの生活では有り得なかったこと。


魔王様もここ最近思うように事が進んでいないらしい。

自身で回りきらなくなった仕事を、ヴォイドに任せることが多くなった。

彼は魔王様の右腕と言っても差し支えなく、魔王様からのかなりの信頼を得ていたためだ。

個性的な魔人たちの中で、唯一魔王様の言葉を素直に聞いて、期待に応える働きぶりを見せていたからでもある。


先日魔王様から命じられた、一般人の捕獲並びに観察、交流。

ほとんどのものが命じられたそれについて、ヴォイドは対象外とされた。

その理由は、魔王様が雑務を頼める相手を一人は確保しておきたかったからだ。

ヴォイドは、たかが人間1人を抱えたところでほかの業務に支障はないと進言したが、魔王様の命令が変わることはなかった。


ヴォイドは疲れを感じていた。

ここには魔王様から命じられた雑務のために訪問したのだが、少しならばいいだろうとついでに一息入れさせてもらう。

雪が降っていると、なぜいつも以上に静かに感じるのだろうか。

この静けさがとても好ましい。

音をはじめ、全てを吸収してくれるような、不思議な魅力を雪には感じる。

煩わしいもの、記憶も、思いも全てを白の中に溶かしていく。


しばらくそうしてじっとしたあと、彼は魔王直々に命令のあった仕事を実行する。

袂から、隠していた袋を取り出す。

中には袋いっぱいの、大小様々な宝石のようなものが入っていた。

一見するとサファイヤのようなそれは、その一つ一つが禍々しいオーラを放っている。

その青い粒たちを、ヴォイドは真っ白な雪の上にばらまいた。

見た目に反してかなりの重みのあるそれらは、ゆっくりと雪の中へと沈んでいった。

次から次へと降りしきる白が、その跡を埋めて消していく。

しばらくして、一瞬雪の中で青が弾けた。

こもったその光は、ほんの一瞬だけ外へと漏れる。

それが任務完了の合図だった。


ここ最近頻度が多くなっているため、手順などはもうとっくに頭に入っていて、大した時間はかからなかった。

ひと仕事終えたあと、ヴォイドは上を向いた。


眼前に広がる、満点の夜空。

空気が澄んだ冬の夜は、より一層星が輝きを増す。

木に緑が生い茂っていないため、視界を妨げるものはあまりない。

くわえて今日は新月。

星々の瞬きがいつも以上にはっきりと感じられた。

普通の人であればその夜空に、感動的、息を飲む美しさ、壮観、綺麗などの感想を思い浮かべる。

それらの言葉を本当の意味で理解できていないヴォイド。

胸の内に広がる感情を言葉に出来ずに、ただただ目の前の絶景を見つめることしか出来なかった。

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