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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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6/21

6.推しと同担拒否

チクタクチクタク


部屋に小さな機械音が鳴り響く。

それが示す時刻は午前5時。

華が起きるのにはまだ早い。

もう少しだけ寝るかと再び目を閉じてみるものの、一度覚醒した体は言うことを聞いてくれなかった。

諦めて目を開けて、白い天井を見つめる。


───こんな時こそ、魔王城探検しなきゃ!


なぜ今まで忘れてしまっていたのか。

だらだらとした毎日を送ることに、慣れすぎてしまっていた。

前回部屋の外に出た時、魔物は1匹たりとも徘徊していなかった。

戦う術を持たない華であっても、比較的安全に探検できるはずだ。

問題はいかにサミュエルにバレないよう抜け出すかだった。

寝室の扉を少しだけ開けて、リビングにいる男を観察する。

どうやらサミュエルは、今日もタブレットで何かを熱心に見ているらしい。

この状態のサミュエルは、目の前のことにどこまで集中しているだろうか。


「サミュエルさーん」


小声で呼んでみる。

反応はない。

続いて普通に部屋から出てみる。

扉はゆっくりと音を立てないように開けた。

1歩1歩、静かに歩く。

サミュエルとの距離3m。

まだ彼は気付かない。

1m。もう目の前。

やはり彼はタブレットから目を離さない。

華は緊張から喉をゴクリと鳴らし、サミュエルの真横を通り抜ける。

大丈夫だ。

そのままキッチンの真横を通り過ぎる。

振り返って彼を見るが、微動だにしていない。


───もしかして案外簡単に行けるのでは?


外へ通じる扉の前に立つ。

小さく息を吐き、呼吸を整えてから、意を決してドアノブに手をかけた。

そおっと回す。

ガチャリという音に少しビビり、恐る恐る後ろを見た。

彼が動く気配はない。

息を殺して、扉をあけくぐった。

後ろ手にドアを閉める。

パタンと扉が閉まる音がする。


1秒、2秒、3秒。

彼が追ってくる気配は感じられない。

止めていた息を戻す。

小さくガッツポーズをした。


───脱出成功!


乙女ゲームでの記憶を呼び起こしながら、足は自然とヴォイドの部屋の方へと向かっていった。



そして30分後。

どうも見覚えのある通路。

乙女ゲームでの記憶ではない。

ほんの数十分前に見たような。

彼女は左右を見渡す。

己が今来た道は右だったか、左だったか。


───迷子だ。どこここ?


彼女は方向音痴だった。

乙女ゲームでもマップを覚えられないせいで、クリアまでに普通の人の何倍ものプレイ時間を要した。

現実世界でも、友達と待ち合わせをしようものなら、必ず時間通りに落ち合うことができない。

もちろん華のせいである。

彼女は集合場所にいつもたどり着くことができなくて、友達に泣きの電話を入れるのだった。


華はどこかで聞いた、迷子になった時の対処法を試してみることにした。

常に右手で壁に触れながら、まっすぐ前に進むというものである。

この方法で必ず元の場所にもどることができるらしい。


───それにしても誰とも出会わないな……。魔物が居ないのは分かったけど、魔族もこんな出歩いてないことある?


───お腹空いた……。


広大な魔王城をほぼ1日歩き回った彼女の体力は限界に近かった。

1度休憩を入れるか悩んでいた時、前方から人の話し声が聞こえる。


「……ですか?……!……えー!……。……?」


女の人の声のように聞こえる。

彼女にとって、それは希望だった。

この声の主に道を教えてもらえば、きっとサミュエルの部屋に戻れるはず。

疲れた足に鞭を打って、小走りで声の元へと向かった。


「そうなんですね。確かにおかしいなぁって思ってました。他の人たちは連れてたのに。」


聞き覚えのある声に、華は足を止めた。

壁から片目を出して、様子を伺う。


目に入ってきたのは恵の姿だった。

そして隣にいるのは


「じゃあヴォイドは今日もこれからその仕事をしに?」

「ああ。」


ヴォイドだった。

恵とヴォイドが並んで廊下を歩いていた。


華は少しモヤモヤする気持ちでそれを見つめる。

見ない方がいいようなものほど、どうして気になって目をそらすことができないのだろうか。


───恵ちゃん、ヴォイドと仲良かったのかな?


前に話した時は、自分と同じく置かれた状況に戸惑っていたのに。

今の恵からは自然にこの場に馴染んでいるような、どこか余裕な雰囲気を感じた。

この世界が乙女ゲームだと知っていて、一緒に盛り上がった仲間として感じていたのに。

1歩先へ行かれた気がして、華は勝手に焦りや悔しさを感じてしまっていた。


そして気づいてしまった。

ヴォイドと話す時の、恵のどこか高揚した頬、上目遣い、甘い雰囲気。

前回聞きそびれてしまったが、恵の推しはきっとヴォイドだ。

華自身がヴォイドを好きだからこそ、分かってしまった。

心強い仲間だと思っていた子が、ライバルだった。

現実世界では同担拒否なんかじゃなかったのに。

何故か華の心は醜く澱んでしまった。


───恵ちゃんとは、推しの好きなところを語れる自信がない。


なぜそう思ってしまったのか、華自信にもわからなかった。

こんな気持ちになる自分が嫌で、これ以上2人を見たくなくて、華は元来た道を走って戻った。

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