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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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3/21

3.推しをこの目に焼き付けたい!①

急に始まった推しとの生活は、彼女の想像していたようなバラ色の日々ではなかった。

推しと生活、といえども彼女のおもてなし担当はサミュエル。

彼女の推しであるヴォイドではなかったのである。

2日前の集会でヴォイドのみ捕虜を連れていなかった。

本家乙女ゲームのシナリオ通り、今後本来のヒロインを攫うのがヴォイドの役目だったためであろう。

1人の魔族に対して、1人の捕虜、ヒロインを除外するとみんな一般人。

魔王様は一体何を考えているのだろう。


食べて寝て食べて寝てを繰り返してはいるものの、特にこれといった指示はなく、彼女は暇を持て余していた。


───サミュエルも一般人には興味ないのか。


彼は目の前の研究に集中していて、華はずーっと放置されている。

てっきりこれ幸いと色々な実験に付き合わされるのかと思っていたのだが……。

一般市民については、もうとっくに色々調べ尽くしたあとなのだろうか。


元々アクティブなオタクだった彼女にとって、この退屈な日々はかなりきついものだった。

魔王城を探索したい、あわよくば推しに会いたい!とサミュエルに外出許可を求めたものの、許してくれる気配は無い。

勝手に出て行こうにも、魔王城はゲームだと魔物が徘徊していて危険な場所であったため、ひとり外に飛び出す勇気は彼女になかった。


そんな彼女に朗報が飛び込んできたのは、連れ去られて一週間経ったある日のことだった。


「うたた寝してるところちょーっとごめんね、我らが魔王様が招集をかけたみたいだから、着いてきて。」


机の謎の模様を数えていて、うとうとしているところに声がかかる。

彼女はやったー!待ってました!と叫びたいのを堪えて、しおらしいフリをしてサミュエルの後ろを着いていく。

廊下に魔物は1匹もおらず、彼女は拍子抜けした。

これなら1人で散歩してても大丈夫かもと淡い期待を抱く。

それと同時に、何故こんなにも城内が寂しいのかも気になってくる。


初日に集まった会議室の手前の部屋で、サミュエルに「君はここまで」と言われた。

サミュエルはろくな説明もしてくれず、会議室へと入って行ってしまった。

しばらくして、1人また1人と私と同じように魔族と共に捕虜が部屋に集まってくる。

ドアが開く度に次はヴォイドが来るのではないかと、彼女はずっとソワソワしていた。


───きた!今日もきっちり衣装着こなしてる!


裾をたなびかせながら姿勢よく歩く推しに、彼女は今日もテンションが上がっていた。

1週間お預けされたあとの推しはより一層心に染みたのだった。

ヴォイドの後に何人かの魔族が部屋を通り、暫くするとくぐもった討論の声が聞こえてきた。

対してこちらはかなり重苦しい空気で、皆が無言を貫いていた。

そんな沈黙を、1人の女の子の声が破る。


「……あの、私たちが何のためにこの部屋に集められたのか、聞いてる人っていますか?」


沈黙。


華も声を出す勇気はなく、心の中で首を横に振った。

声のした方に視線を移す。


───え、あの時の子だ!


勇気ある女の子の正体は、初日に目が合ったあの女の子。

恐らく()()の子だった。

気がついた時には足がその子の元へ向かっていた。


「あの、私、鈴木華って言います!もしかして、なんですけど……」


多くの人の視線が2人に集中しているのを感じ、顔の中心に熱が集まるのを感じながら、華は自己紹介から始めた。

その次に何を話したか、華はほとんど覚えていないらしい。

2人の様子を暫く見つめていた周りは、ぽつりぽつりと近くの人と言葉を交わすようになり、気がついた時には休日昼間のカフェぐらいの心地よい騒めきになっていった。


周りからの視線が外れ、段々と落ち着いてきた華は、やっと自分の話すスピードに脳が追いついてきていた。

まるでアルコール酔いから覚めたような感覚だ。


勇気ある女の子の名前は、佐藤恵。

彼女は東京の女子高に通っていたようで、華と同じく、気がついたら攫われてここに来ていたらしい。

そして、


「じゃあやっぱり、華ちゃんもこの世界のことわかるってこと!?」


恵の言葉に華は強く頷いた。


「「乙女ゲーム、何度だって君に恋をする」」


綺麗に揃った声に、2人はキャーっと高い声を上げその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「やっぱりそうだよね、そのまんますぎてびっくりした!」

「ね、私たち目線では実写のはずなのに、ちゃんと乙女ゲームの2次元感が残ったままのいい具合のリアルさで。」

「ほんとそれ。魔王のソル様とかまんまCV○○で変な声出そうになったもん。」

「うんうん。聞いた瞬間に中学の思い出が蘇ったよ。」


話はどんどん盛り上がり、久々に役目を貰った口は饒舌に動いた。


「そうだ、恵ちゃんって推しは」


誰?と続くはずだった言葉は、唇から発されることはなく喉の奥へと戻っていく。

会議室の扉が開き、先程まで飛び交っていた会話はすぐに止んでしまった。


魔族が出てきて、担当の捕虜を連れて部屋を立ち去っていく。

大人しく着いていく捕虜もいれば、魔族と楽しそうに談笑しながら出ていく人、担当魔族を見つけた途端に身体を震わせる者もいた。


1人の男が、恵の背後に近づく。

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