21.推しの好きな食べ物①
「華ちゃん、どう?食べられそう?」
杏が華の顔色を伺う。
その手には温かいうどんがあった。
素うどんに温泉卵とかまぼこが乗っていて、ネギが散らしてある。
だしのいい香りが華の食欲をそそった。
「いけそうな、気がします……!!」
華は杏の手からお盆ごとうどんを受け取った。
「私と杏さんで作ったんだよ!味には自信あります!!」
杏の背中から恵がひょっこりと顔を出す。
杏も恵もエプロンを着ていて、袖を捲っていた。
リビングの隅の方では、ヴォイドが腕を組んでこちらを遠巻きに見ている。
───パンケーキも食べられたし、信頼する2人が作ってくれたものだから食べられる。大丈夫。
見た目はすっかり元通りになった華だったが、食事にはやはりまだ警戒していた。
普段はパッケージに包まれて未開封の既製品を買ってきてもらって食べている。
先日のパンケーキパーティでは、誰がどのパンケーキを作ったからなんて分からない状態で、それを問題なく華は食べられていた。
今回、あえて華が見ていないところで2人に食事を作ってもらい、それを華が食べるということにチャレンジしてみるのだった。
「いただきます。」
「「召し上がれ!」」
手を合わせて挨拶をする華。
杏と恵がニコニコしながら嬉しそうに見守ってくれている。
「あの、さ……」
「どうしたの?駄目そうなら無理しなくていいからね……!」
「いや、無理なんじゃなくて。……えと、ひとりだと寂しいし、ちょっと緊張しちゃうから、2人も1緒に食べて欲しいなって、……あと、ヴォイド、さん……も……」
華は自身の心臓の音が大きくなっていくのを感じた。
顔が少しだけ熱い。
けれども、ちゃんと言いたかったことを最後まで言えて、ほっとした。
「もちろん!食べる食べる。ね、恵ちゃん。……あの!華ちゃんもこういってくれてるし、ヴォイドさんの分も用意しますね。」
恵と杏はキッチンに入り、3人分のうどんを持ってリビングに戻ってきた。
意外にも、ヴォイドも席につく。
パンケーキの時と、今回。
なんだかんだ4人でテーブルを囲むのもこれで2回目だった。
華はなんとも言えない不思議な気持ちになる。
杏と恵、2人の幸運のおこぼれを貰っている気がした。
「よし、じゃあ食べよう〜。いただきます!」
「いただきまーす!」
「いただきます。」
推しがいる緊張なのか、他人が作ったご飯だからか、華は少し震える手でうどんを口に運んだ。
柔らかすぎず、硬すぎず、弾力のあるいいコシ。
うどんのスープがしっかりとめんに絡んでいて。
お腹がすいていた華はあっという間にお椀を空にした。
「2人とも美味しいよ!ありがとう!!」
「うんうん、食べられてよかった!」
「またなんでも作るから、リクエストあったら言ってね!!」
───食べたいものかぁ。
華は顎に手を当て、考える。
華はスイーツが大好きだった。
3食全部ケーキなんて日もあるぐらいで、友達からはちゃんとご飯食べなさいとよく怒られていた。
杏と恵にも怒られてしまうのだろうか。
だとしたら何を頼むべきか。
「うーん……。っあ!それじゃあみんなの好物を順番に食べていくのはどうかな?みんな何が好き?」
「いいアイデアだね!私はオムライスが好き!杏さんは?」
「オムライス美味しいよね〜。そうだね、私はカレーかな。2日目のカレー!」
分かる!と華と恵が、杏の意見に同意する。
「ヴォイドさんは?」
杏のナイスパスに、華と恵がヴォイドを見つめる。
ゲームの中でも好きな食べ物が紹介されたことはない。
「……特にない。食事はどれも同じだ。腹が満たされればそれでいい。」
ヴォイドはそう答えると、食べ終えた食器を流しに置きに行ってしまう。
「つれないなぁ。」
「好きってことに気づいてないだけで、無意識に多く食べてるとかありそうだけどなぁ。」
「確かに。まぁ色んなメニュー出してみて、感想聞いてみよう。」
とりあえず今日の晩御飯はオムライスということで決定した。
杏は料理がとても上手で、杏が作ったフワトロのオムライスは大変美味だった。
ヴォイドは特に変わった様子もなく、黙々と食べている。
恵は今日もこぼれ落ちそうな輝く笑みで、オムライスを口に運んでいた。
次の日はカレー一日目。
大きいお鍋3つを用意して、3種類の味のカレーを作る。
1人1つの鍋を担当して、それぞれの家庭の味を再現した。
ナンは既製品のものを買ってきてもらって、少しずつ食べ比べをする。
「杏ちゃんのとこは甘口なんだね。すごく食べやすい〜。」
「恵ちゃんは独特な味だね。美味しいけど、これ隠し味何入ってるの……?」
「企業秘密(笑)」
「華ちゃんのとこはThe王道って感じ。中辛と辛口の間ぐらいで、ナンにつけて食べたらちょうどいい!」
ワイワイ盛り上がりながらカレーを食べた。
その時のヴォイドの表情が、うどんやオムライスの時とは違うことに、華は気づいた。
───もしかしてヴォイドさんの好物って……
「ヴォイドさんって、コーヒー好きですよね。」
───コーヒー!?
杏の推理に、華は心の中で驚いた。
華はヴォイドの好物がカレーだと思ったのだ。




