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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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20/21

20.推しとパンケーキ②

「パンケーキなんて久々に食べるなぁ。作るのなんてもっともっと久しぶり!」


恵はそう言いながら卵を割っていく。


「私も久しぶり。なんか食べたくなったんだよね。夢で昔の思い出を見ちゃって。」

「元いた世界の?」

「そう!」

「元いた……世界?」


キーワードに引っかかった杏が聞き返す。


「そういえば、杏さんは最近この城に来たから、知らないですよね。実は……。」


華と恵は、自分たちも攫われてここにいるということ。

恐らくここは自分たちがいた世界とは異なるということ。

自分たちがいた世界では、とあるゲームが発売されていて、そのゲームの内容がこの世界と酷似していることを杏に伝えた。


「私たちのこの世界がゲームの世界?……信じられない。じゃあ私はゲームの中の登場人物ってこと?」

「そうです!しかも杏さんはヒロインですよ!」


あっさりと肯定してしまった恵だが、杏が衝撃を受けているのを見て、しまったと額に手を当てた。

恵はでも、と付け足す。


「世界線が違うだけで、この世界もちゃんと実在するものかもしれないですし。逆に私たちが小説の中の登場人物!とかもあるかもですし……。」


少しだけ暗い雰囲気になってしまったけれど、パンケーキが焼き上がるにつれて、その匂いで3人は幸福な気持ちに包まれる。

出来上がったふかふかの生地に何を乗せるか、ワイワイと相談した。


───みんなでパンケーキパーティ。めちゃくちゃ楽しい。


華は久々に嬉し涙を流しそうになった。

恩人と、友達と、ちょっと離れたところに好きな人。

五体満足な体に、目の前には美味しそうなスイーツ。

まるで夢のようだった。

さらに幸福度を上げるには……。


華はヴォイドの方を向いた。

『一緒に食べませんか?』

『甘いもの得意じゃないですか?もし食べれそうなら……』

『パンケーキ沢山焼きすぎちゃったので、ヴォイドさんも手伝ってください!』

どの言葉で誘おうか、華はたくさんの選択肢を浮かべた。

だがまず第一に、話しかける勇気を出さなくてはいけない。


「ヴォイドさん、一緒に食べましょう!パンケーキ!とっても美味しそうにできたんですよ!自信作なので食べて欲しいです。」


素直な恵の声が、ヴォイドに届く。

ヴォイドはちらりとこちらを見たが、興味無さそうに目を逸らした。


───ダメだったかぁ。恵ちゃんのあの誘い方、可愛かったのにな。


華はすぐに諦めてしまったが、恵は粘り強かった。

ささっとヴォイドの前へ行き、その両手を掴む。


「はい、こっちですよ!」


そのまま手を引きヴォイドをこちらまで連れてきてしまった。

座っていた椅子からされるがままに立ち上がったということは、ヴォイドも満更でもなかったのか。

コミュ力高い、というか行動力すごい?押しの強い恵に、華は感嘆した。


華は少しだけ悔しかったが、それでも推しの食事シーンを共にできるというお零れをいただける。

せめて準備だけでもしようと立ち上がったが、杏が裏で準備してくれていて、華の出番は完全になかった。


ヴォイドが仕方ないと言った風に、目の前に出されたパンケーキにナイフを入れた。

フォークでパンケーキと生クリームをいい具合にとって口に運ぶ。

その所作に華は釘漬けになった。

細く骨ばった指が丁寧にパンケーキを切り分ける。

食事をしているだけで、なんでこんなにも色気が出るのか。


恵も華と同じ気持ちなのか、ヴォイドに見とれていて手が止まっていた。

杏は既に口いっぱいにパンケーキを頬張っている。

美味しい〜〜〜という幸せそうな声が聞こえた。

華と恵はヴォイドの様子を伺う、それに気がついたのかヴォイドが口を開いてくれた。


「悪くない。」


───やったー!もはや誰が作ったパンケーキか分からなかったが、ヴォイドから褒め言葉(だと勝手に思っている)を貰えた!


華が恵の方を見ると、恵も華の方を見ていた。

バチりと視線が交わって、二人でうんうんと頷く。

ひとしきり満足したあと、華と恵もパンケーキに手を付け始めた。

華は粉砂糖をたっぷりかけたパンケーキを、いちごと共に口に運ぶ。

自身の手がもう震えていないことに、華は気づいていなかった。


───美味しい!胃が喜んでる!!


1口、また1口と、華は手が止まらなくなった。


「ん〜、美味しいー!!」


恵の声に、華と杏が顔をあげる。

それは魅力的な笑顔だった。

今にもほっぺが落ちそうなほど、恵の顔は緩んでいる。

頬に手を当て、口角が上がり、目もにっこりと半円を描く。

女性である華や杏にとっても、目が離せなくなるような。


「とっても素敵な笑顔だね。美味しそうに食べてくれるし、なんか食べ物作りがいがあるよ。また今度美味しいもの作ってあげるね。」


杏がそう言うと、恵はさらに嬉しそうに微笑み、ありがとうございますと言った。


そんな恵をヴォイドが見つめている気がした。

幸せな気持ちの中に、少しだけの胸の痛みが加わった。

華は美味しいと思っても顔に出ず、淡々と食べてしまうタイプだ。

母親にも「あんたの反応見ても、いいのか悪いのかちっとも分からない。」と言われていた。


───恵ちゃんみたいになりたいな。


楽しいパンケーキパーティはたくさんの幸福と、少しの苦味を残して閉幕した。

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