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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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13/21

13.アンチ偽善

「あれ?そういえばこの部屋って冷蔵庫ないね?」


晩御飯の準備をしようとして、華はサミュエルの部屋との違いに気づき、恵に問いかける。

サミュエルの部屋には実験で使っているらしい冷蔵庫と華が使う食料が入っている冷蔵庫合わせて2つが部屋に置かれていた。

もちろん、実験で使う方は中を確認する気は全くない為、開けたことはない。

中に何が入っているのか、想像するだけで恐ろしい。


「冷蔵庫?確かにないけど、なにか使うことある?」

「え、だって食材はちゃんと冷蔵庫に入れとかないと痛むでしょ?」

「食材?」

「?魔王様が用意してくれてるんでしょ?私たち捕虜が食べ物に困らないように。」

「あー!もしかして華ちゃんのところは自炊派?食堂が便利すぎて私は全然料理してないなぁ。」

「食堂!?」


初めて聞く情報に、華は驚きの声を上げた。

恵からしてみれば当たり前の事だったので、逆に華の言葉に驚く。

現実世界で言う社員食堂のようなものが、この魔王城にはあった。

お金は要らず、料理担当のものに食べたいものを言えばほぼなんでも作ってくれる。

恵はその食堂でも色んな人と交流をして、関係性を築いていた。


「そんなのあるんだね……知らなかった。ちゃんと人間が食べられるもの出てくるの……?」

「当たり前じゃん!魔族だって人間だって食べるものは同じだし。」


え?だってサミュエルは……と華が続けようとしたところで、ノアが盛大に運んでいた飲み物をぶちまけてそれどころではなくなってしまった。

慌てて3人で掃除をして、片付いた時には違う話題に移っていた。






日が昇って暫くして、ようやく眠りから目覚めた恵は、隣にいるはずであろう友達に声をかける。


「んーっ、……華ちゃん、おはよぅ、よく眠れ……た……?」


眠りについた時に比べて、随分部屋が寒く感じる。

まだぼやける視界で恵は傍らを確認した。

直後、驚きで一気に視界がクリアになった。

その目に映ったのは乱れたシーツのみ。

華の姿はどこにもなかった。

恵は嫌な考えで頭がいっぱいになり、飛び起きて部屋の中を探し回った。






「ノア!……ノア!!ノア!」


日課である筋トレをこなしていたノアの元に嵐が訪れる。

ノアはダンベルを持ち上げていた腕を止め、ドアの方に目を向ける。


「なんだぁうちのお嬢さんは朝から騒がしいねぇ。」


大きな音を立ててドアが激しく開く。

異常事態に気が付かずのほほんとしているノアに、恵は血気迫る顔で近づいた。


「華ちゃんが、華ちゃんがどこにもいないの!ノア見てない?」


それを聞いて、ノアが目を見開く。

ようやく恵の焦りが伝わったようだ。


「俺は見てない。」

「なんでちゃんと見てないの!……ううん。ノアを怒るのは違うね、ごめん。私一緒に寝てたのにっ。どうしよう、華ちゃんに何かあったら!」


取り乱す恵。

ノアは恵の肩に手を置き、いつもの笑顔と違い珍しく真面目な顔をする。


「落ち着け。俺は昨晩、いつも通りソファで寝てた。侵入者がいたり華が外へ出ようとしたらさすがに気づく。普通ならな。」


ノアはもともと自分が使っていたベッドを恵に貸しており、自分はリビングのソファで寝ていた。

寝室から外へ続く扉へはリビングを通らないといけない。


魔族は人間に比べて睡眠の必要性がそこまで高くない。

そのため、ノアは目を閉じているだけで意識はしっかりとあり、万が一の事態にきちんと備えていた。

華を預かると決めた時点で、ノアはきちんと華の事も恵と同様に守ってあげるつもりだったのだ。


こちらはきちんと警戒していたのにも関わらず、何かの絡繰で、恐らく華はサミュエルに攫われた。

サミュエルがあんなあっさりと捕虜を手放すはずがないと分かっていたのに、このような事態を未然に防げなかったことに、ノアは自身を恥じた。


「くそっやられた。サミュエルのとこに行ってくる。お前は待ってろ。……いや、何かあったら怖いな。ソフィアのところにでも……」


がちゃり。

急に鳴った扉の開く音が、ノアの言葉を遮る。


「やぁ2人とも。ご機嫌よう。」

「……探す手間が省けたな。」


話題の人物が目の前に現れ、ノアが恵を後ろ手に庇いつつ腰の剣を抜いた。

目線はずっとサミュエルから離さない。

流れるような動作で剣を構えて、いつでも戦える姿勢をとる。


「おっと怖いなぁ。別に争いに来たわけじゃないんだ。2人にお願いがあってね。」


ノアと恵、2人から睨みつけられて、サミュエルはやれやれといった風に話す。


「お前さんの要求は呑めない。華を返してもらおうか。」

「まだ内容を言っていないのに、そんな頭ごなしに回答しない方がいいよ。」


ほらと言って、サミュエルは手にしていたタブレット端末の画面を2人に向ける。

そこに映されたものにふたりは絶句した。


「……止めろ。」


ノアがタブレットから視線を逸らして、サミュエルを睨みつける。

恵は口元に手を当てて、わなわなと震えている。


「ん?なんだい?」

「止めろっていっている。……話は聞いてやる。だから二度とそんなものを見せるな。」


こめかみに青筋をたてて、それでも構えた剣をサミュエルに振り下ろさず、冷静に喋ろうとするノア。

サミュエルは口角を吊り上げた。

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