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虚像回想  作者: あるぱす
1章 暁の約束
9/14

記録9 リザルト

苺と水仙は鬼灯が鳥花を無力化し、瑠璃菊飛燕を確保するまでの間、ウリエルを抑え込む役を買って出ていた。

当初は反対した二人だったが、鬼灯が一度鳥花と共にウリエルと戦い、生き残ったことを伝え、しぶしぶ了承を貰ったことでこの作戦が実現した。


「苺!8時の方向よ!」


パイプの間と間を様々な色の蔦が通り抜ける戦場の中、水仙の呼びかけに苺は自らの(ファルス)で身体をケラチンで出来た鱗で覆われた完全な蜥蜴の獣人の物へと変化させ、筋力の増加した手で迫る蔦を握り、引きちぎった。


「君達どっかで見た頃あるかと思ったらこの前輝血とかいう虚使いの隣にいた雑草二人か」


ウリエルは必死にあがく二人を見て軽く笑うと両手を地面につけ、唱えた。


「『豊穣の光(ハーベストヘッズ)』、飲み込め、私の子供達」


おぞましい量の植物の茎が地面のコンクリートを突き破り、生き物のようにうねりながら二人に迫る。


「この程度.....『円環の海(シー・シェイル)』、『全弾装填(フル・バレット)』!」


水仙は素早くスカートの中に手を突っ込んで義足のロックを解くと操舌を倒した時と同じ体勢を取り、水弾の嵐でこちらに向かってくる茎をウリエルごと吹き飛ばした。


─────(前よりも全然戦えてる....だけど!)


水弾が通り過ぎた直線状は綺麗に何もなくなっており、大量に切断されたパイプから何らかの液体が漏れ出ていた。

一見すればウリエルは倒され、水仙たちの勝利に見えるその光景はあっさり覆る事となる。


「まったく、最近の虚使いは血気盛んで困るな。やっと面白いものが見れるのに、さ」


何処からともなく聞こえた声と共に地面から新しく出てきた根は消し飛ばされたウリエルの形を取り、何事も無かったかのように話し始めると一旦攻撃をやめ、鬼灯の方を指さした。


「どうせ君ら後で死ぬんだからさ、今のうちに目に焼き付けときなよ。人の憎悪が反転する瞬間を!」


そう言われ、二人が視線を移した場所には事前の打ち合わせ通り鳥花を無力化し、先に瑠璃菊飛燕を保護する為にドアノブに手をかける鬼灯が居た。


==========================



















=========================


「開けてもらうわよ!飛燕兄!」


威勢よく鬼灯が扉を開くと、中は切れかけの蛍光灯が一つだけ付いた薄暗い部屋が広がっており、奥には砂嵐の走っている古いブラウン管のテレビがポツンと置いてあるだけであり、そこに居るはずの瑠璃菊飛燕の姿形はどこにも存在しなかった。


「..........まさか、逃げた?」


鬼灯は眉を八の字に曲げ、小さく呟いたが、すぐに飛燕はそんな事をするような人物ではないと思い出し、次にウリエルが鳥花をおびき出す為に嘘を付いているのではないかと思い、ウリエルの方を見ると彼女は鳥花に向かって拍手していた。


「おめでとう!鳥花君、念願のお兄さんとの再会だよ!」


ウリエルの困惑する言葉を余所に鳥花は息絶え絶えに地面を這いつくばりながら、部屋の中に入る。


「は?どこに飛燕兄がいるって?」


鬼灯が笑顔で拍手するウリエルに問いかけるが、ウリエルはその様子を見てこらえられない笑いに首をひくつかせながら、ブラウン管テレビを指さす。


「いるじゃないか、そこに」


ウリエルの言葉にその場の空気が凍り付く。

先程まで熱を持っていた頭の奥がすぅっと冷えて行き、首筋を嫌な汗が伝う。

先程まで聞こえなかった心臓の音が急に大きくなって、パイプの中の液体が通る音やコンビナートを通り抜ける風の環境音が耳を支配する。


─────鳥花


聞き覚えのある声が、どこからか、した。

否、鳥花、鬼灯の二人はその声がどこから出たモノか、分かっていた。

しかし、それを心の中で認めたくなかった。

その肉声にしか聞こえないその声が、砂嵐の音に交じって、ブラウン管テレビからした事に。


「...................は、嘘だ」


鳥花が今まで見せた事の無いような目を見開き、粗い呼吸で肩を上下させる様子は鬼灯にも伝播しており、二人は兄の声がする目の前のブラウン管テレビにひたすら激しい嫌悪感を示していた。


「鳥花........?」


最早、否定はできない。

聞き覚え、どころでは無い。

記憶の中のそのままの声が、テレビから放たれ、鳥花が無意識的に画面に触れたのを皮切りに、それは中に眠っていた物を爆発させた。


─────鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花鳥花─────


絶えず呪詛のように弟の名前を呼ぶそれに、鬼灯は思わず腰を抜かし、本能的な恐怖に後ずさりする。

そんな鬼灯に追い打ちをかけるようにウリエルが口を開いた。


「じゃじゃーん!”久しぶりにあったお兄ちゃんがテレビに!?”ドッキリ大成功~!」


「どういうこと!?これの、どこが..........飛燕兄っていうのよ!?」


鬼灯が瞳に涙を浮かべ、怒号に近い声で問うが、ウリエルは聞いて貰えたのが嬉しかったのか、食いつくように満面の笑みで答えた。


「説明しよう!鳥花君が探していた瑠璃菊飛燕は、君より先に私たちヴァルキリアが8年前に見つけ出して”処分”したのだ!体は私たちがしーっかり利用した後、残りカスの脳髄の欠片を培養液に漬け込んで、更にサービスで意思を言葉に出来る機械に接続して、出力媒体としてテレビにつなげたのが、それ!」


それが何も悪い事でないような、自らのしている外道、いやそれすら生ぬるいと言えるような悪行に一切の罪の意識を感じておらず、笑って両手でピースをするウリエルに対し鬼灯は怒りよりも先に恐怖を覚えた。


「俺のブレイズが........欲しかったんじゃないのか!」


いつの間にか立ち上がってウリエルの胸倉に掴みかかる鳥花は怒鳴りかかるが、ウリエルはそんな鳥花をあざける様に淡々と続けた。


「うん、欲しかったよ。果たせると思った復讐が永遠に果たせないものになったと悟った時、今までため込んでくすぶらせ続けた憎悪が反転して消えない絶望となった瞬間に生まれるブレイズが、だけどね!」


その言葉を聞いた鳥花はウリエルの胸倉を掴んでいた手を離し、その場に膝を付いた。


「そんじゃあそういうことだから、いただきまーす.......」


ウリエルが操舌を飲み込んだときの様な蕾を地面から生やし、その場に跪く鳥花を飲み込むためにバックリと開いた。


「『紅彗星(レッドライン)』!」


しかし、蕾は横から飛んできた紅の閃光によって破壊され叶うことは無かった。


「へぇ....ここに来て邪魔かい?もしかして、死にたい?」


怪訝な顔つきで鬼灯を睨むウリエルは両手から毒々しい棘の付いた茎を生やし、鬼灯を脅す。

しかし当の彼女は恐れるどころか、血で出来た槍を手に構えその紅い瞳に燦燦と闘志を燃やしていた。


「死にたい....?ふざけんじゃないわ!アンタみたいなクズ野郎....この状況でぶん殴らない方がどうかしてるわよ!」


「せっかくの場面だってのにうるさいなぁ.....あ、そうだいいこと考えた」


口角を上げ、ニタリと笑ったウリエルが指をパチリと鳴らすとコンビナート全体が地響き始めた。


「君、鬼灯だっけか?まぁいいや、あの蛸とトカゲも含めて君らの首を鳥花君の前に並べて叩き落せる所まで叩き落してから飲み込むとしよう」


ウリエルがそう言い終えると、再び空いた地面から大量の植物の根が次々にウリエルの形を取って行き、一人だったウリエルが二人、三人と増えて行った。


「正直君ら勘違いしてるようだからあえて言ってあげるけど.....もう生きて帰れないよ?」


最終的に五人になったウリエルは一斉に(ファルス)を発動し、戦場を伸縮自在の植物の根で埋めつくそうとする。

鬼灯はやむを得ないと判断し、背中の翼を広げ未だ地面に膝を付き、ぼそぼそと何かを呟き続ける鳥花を回収し、二人が居た場所より少し離れた所で先程の光景を眺めていた水仙たちと合流する。


「鬼灯ちゃん、貴方鳥人族だったの?」


「すみません、黙ってました!でも、今はそれどころじゃないです。全力走ってください!」


さらっと嘘を付いた鬼灯は後ろからパイプとパイプの間を器用に縫ってこちらに迫りくる大量の根から鳥花を抱えたまま飛翔し、逃走する。

空を飛べない上、蛸足状態だと機動力の低い水仙は苺にお姫様抱っこしてもらいながらコンビナート内を鬼灯と並走し、ここからの作戦を話していた。


「─────つまるところッ!瑠璃菊飛燕は死んでいて、保護云々以前の話だったという事か!?」


元々の作戦ではウリエルの目的からして鳥花が飛燕を殺すまでこちらに手は出してこないと予想していた。

しかしそれ自体が嘘であり、堂々と皆殺し宣言をした今ではこれより前に建てた作戦は意味をなさない事が確定しており、新たな動きを練る必要があった。


(ここから私と水仙先輩と苺先輩でウリエルを倒す?.....でも鳥花くんを持ったままで?だからって置いていくことも出来ないし,、逃げられる見込みもあるわけじゃない.....どうすれば良いの!?)


ウリエルが飛ばした植物たちは鬼灯に思考を許さず、凄まじいスピードで四方八方から迫り、気を抜けばすぐにでも貫いて取り込もうとしつこく追いかけ続ける。

そんな緊迫した状況では作戦という作戦も思いつかず、死角への注意も逸れてしまった。


「─────鬼灯ちゃん!」


思考に詰まった鬼灯の羽を地上から引っ張り、間一髪迫っていた植物から助け出したのは水仙だった。


「っ!ありがとうございます!水仙先輩!」


「礼はいいわ!それよりもここからの動きを考えたから伝えるわ!」


水仙は苺に抱えられながら(ファルス)を発動し、根を少しづつ打ち落としながら続けた。


「────ウリエル(あいつ)は私と苺で食い止めるわ!だから貴方達二人は先に行きなさい!」


「はぁっ!?いくら先輩達でも無茶ですよ!」


突拍子もなく出てきた殿を務めるにも近い宣言に鬼灯は鬼灯は声を荒上げ、抗議する。

そんな鬼灯を見てクスリと笑うと水仙は続けた。


「そうね、無茶かもしれないわ。でもこれは元々私たちオカルト研究部の、輝血さんを助けるための戦い.....あの人を助けられなかった私たちの贖罪でもあるのよ。だからそれに部外者である貴方達を巻き込むわけには行かない」


「そんな..........それを言ったら私と鳥花くんだって入ったばかりだけどオカルト研究部ですよ!」


「ありがとうね、鬼灯ちゃん。でも私たちは先輩として後輩を守る義務がある....それに貴女にはそこの鳥花(ヘタレ)を起こす役割が残ってるでしょう?」


「だけど.........いや、分かりました。苺先輩、水仙先輩、ここは任せます!」


鬼灯は覚悟を決め、鳥花を抱えたまま高度を上げてパイプの海からの脱出を図る。

しかしそれを易々とウリエルが許すはずも無く、直線に伸び続けていた根が鬼灯が上昇を始めた場所で90度きっちり角度を曲げ上を見上げるとそれが本来の植物の動きであるように空に向かってグングンと伸び始めた。


「苺、降ろして頂戴!」


「あい分かった!」


「『円環の海(シー・シェイル)』!」


二人は鬼灯が空に飛びあがって離脱したことを確認すると逃走を辞め、水仙は苺に地面に降ろしてもらうと(ファルス)で鬼灯を追っていた植物を撃ち抜き、その場に互いの背中を付け、構えた。


「へぇ....8本脚、か。君の頭を中心にして花びら代わりにしたら映えそうだね」


追跡していた根が集まり、人の形を成すと中から出てきたのは勿論ウリエルだった。


「.........苺!この戦い終わったら輝血さんと一緒に寿司行くわよ。回らないヤツね」


「待て水仙、それ俺のおごりでは無いだろうな!?」


「そうね、それでよろしく頼むわっ!」


軽い笑い交じりに『全弾装填(フル・バレット)』を発動させ、分身体の胴体を豪快に吹き飛ばす水仙にウリエルは苛立ちを覚えつつ、本気を出そうと(ファルス)の出力を上げる。


「この期に及んで冗談言えるなんて.....ずいぶん舐められたものだな!」


地面、左右含め、夜空を覆いつくすほどの果てしない量の根や茎、蔦で構成された悪魔の手が二人に迫った。


=========================




















=========================


「っはぁ、はぁっ.........」


鬼灯は水仙と苺達の声が聞こえないコンビナートから外れた海岸沿いで不時着する形で鳥花と共に地面に倒れ込んだ。


「.................そんなになってまで、どうして俺を助けたんだ」


それまで黙っていた鳥花が仰向けに寝たまま星空すら映っていない虚ろな瞳で口を開き、吐き捨てるように言った。


「なんでって、そんなの......」


「もう、俺は俺の”役目”を果たすことが永遠に出来なくなってしまった。そんな俺には、生きる理由も、価値も、もう無い」


その時、鳥花は泣く訳でも、拳を握りしめるわけでも、歯を食いしばる訳でも無く、ただ、力の抜けた人形の様に、黒い空をその偽物の瞳に移しながら淡々と言った。


「でも、君は─────!」


鳥花の言葉に、鬼灯は思わず倒れていた体を持ち上げ、鳥花に駆け寄った。


「兄貴を殺すことだけが、俺のこの10年間の全てだったんだ。その為だけに、味も何も分からない食事を毎日取って、大きな志も、大義も持たず、差し伸べられた親友の手も振り払って、前に突き進んできた。だけど、それに意味は無かった」


鬼灯が駆け寄ろうとも鳥花はその態度を変えず、淡々と続け、言葉が見つからなくなると、「はぁ」と、疲れたようにため息を吐き、言った。


「そんな俺がこの世界に生きる資格なんて無い。だからもう、いっそのこと.....ここで、貴方のその爪で俺を、殺してくれよ」


鳥花の言葉を聞いた鬼灯は一度強く歯を食いしばり、キリキリと音を鳴らすとしばらくした後力を抜き、覚悟を決め、手刀を作り、鳥花に向けた。

鳥花が鬼灯に差し伸べた手が、彼にとっての救いとして返って来ることは、無かった。

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