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虚像回想  作者: あるぱす
1章 暁の約束
8/13

記録8全盲の少年

それはあの日までの二週間、その最中の出来事であった。

その日は鉄線さんからの頼みで猫探しの依頼を受けていた。


「うわぁっー!?」


猫を見つけ出して二人で酢束へと帰る道中、公園で遊んでいた少年がボールを追って道路から飛び出し、横から向かっていたトラックに轢かれかけたのだ。


「鬼灯さん荷物持っといて!」


鳥花は突然の事に困惑する鬼灯に荷物を投げ、子供の後を追って道路に飛び出し、トラックに轢かれる前に少年を胸の中に受け止め、前転する形でトラックの進行方向から脱出し、少年を助け出したのだ。

その後トラックの運転手に二人で謝った後、鳥花は少年と手を繋いで公園の入り口まで戻った。


「ケガはなかったかい?」


轢かれかけた恐怖に泣きだしてしまった少年を慰める鳥花は鬼灯から見て頼りがいのあるお兄さんと言った感じだった。

奇しくも、その優しい振る舞いは彼女の記憶の中の瑠璃菊飛燕とよく似ていた。


「今度からは道に飛び出しちゃダメだよ」


鳥花はしばらくしてから泣き止んだ少年の肩を優しく叩き、友達の所に戻るよう促した。

少年は礼を述べ、仲間たちの元へ走り去っていった。

その道中も鳥花に手を振り続け、鳥花もまたそれに笑って手を振り返していた。


「鳥花くんってさ、皆のお兄ちゃんみたいだよね」


「お兄ちゃん?俺が?残念だけど、それは無いね」


その時の鳥花は鬼灯の言葉に手を振って否定し、笑って流した。

それからも、共に授業を受けたり、日々の生活を過ごす中で誰にでも優しくする鳥花に鬼灯は自分の中に封じ込めていたウリエルと鳥花の会話を無視できなくなっていった。

彼が笑う度に、あの時一度だけ見せた憎悪にまみれた鳥花の顔が脳裏を過る。

どれだけ鳥花が取り繕うとも、鬼灯にはこの男は必ず兄に会えば殺すであろうという確信があった。

それ程までに鳥花が見せた憎悪が深く、鬼灯の心に刻まれていたのだ。


「鳥花くんは、お願いとかないの?」


「願い、か」


それはある日酢束の中で二人で余ったジュースを啜りながら交わした他愛の無い会話だった。


「うん、私が人間に戻りたいって願ってるみたいに、君も何かお願いとか、無いの?」


「俺は......特にないかな。今が一番幸せだから」


そのような事を言う鳥花の笑顔はどこか空虚で、力が無かった。

鳥花の反応に、違和感を覚えた鬼灯の中で鳥花に対する思いは確実に変化を起こしていた。

このままウリエルと鳥花の会話を忘れ、日常を過ごすべきなのかもしれないという考えから


”彼の様な善人に実の兄を手にかけて欲しくない”


といった物へ変わって行き、鬼灯はそんな思いを鳥花の優しい一面に触れれば触れるほど大きくさせ、その内、鳥花の笑顔を直視できなくなってしまった。


=====================



















======================


「クソ兄貴はさ、親が居ない中、俺を一人で育ててくれたんだ」


脳に攻撃を喰らった影響で動けない鬼灯に鳥花は一方的に語り続ける。


「きっとアンタが見たのは俺が5歳くらいの記憶だろう、丁度兄貴が俺を殺す直前ぐらいだ」


「飛燕兄が君を殺すって....どういうこと?君は今生きてるじゃない!?」


「まぁ話すより見た方が早いか......」


鳥花はため息を吐くと真実を告げる剣(スロウド)消すと、両手を自らの目に突っ込み、まさぐり始めた。

しばらくすると、軽く「よっと」と言い、鬼灯に漆黒の眼球を差し出した。


「義眼だったの.....?」


「そ、目の色夢の中の俺と今のおれは違っただろ?」


鳥花は義眼をポケットにしまい、手を空けると再び真実を告げる剣(スロウド)を取り出した。


「クソ兄貴は俺を騙した。あの日暁を見る約束を交わした後、急に俺に迫って来たんだ。自分に付いていくか、孤児院に入るか、ってな。勿論俺はクソ兄貴に付いていくことを選んだ。今思えばそれが間違いだったんだがな」


鳥花は奥歯を噛み締め、キリキリと鳴らし、拳を強く握りしめた。

表情は逆光に隠れて見えなかったが、どのような顔をしているかは想像に容易かった。


「クソ兄貴はその後俺を眠らせて、手術室に連れて行った。そして俺から視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感を奪ったんだ。そして何もなくなった俺を一人残して、姿を消した」


「...........え?でも、そんなところ君は、一度も─────」


鳥花は片手に持った真実を告げる剣(スロウド)でもう片方の手の甲をグサリと大きく貫いた。


「何してるのっ!?」


鳥花はしつこく突き刺した剣を、淡々と傷をほじくる様に、血を噴出させ、蒼い刀身を赤く染め上げていく。


「こんだけしても、痛くないんだ」


鳥花は顔を俯き、ポツリと呟いた。


「何を食べてもガムと変わらないし、匂いもしないから何も分からない。本当は貴方の声も、顔も、常に潜ませてる鳥が読み取った情報を(ファルス)を使って脳に直接流し込んでるだけで、全て0と1の集合体にしか見えないし、聞こえないんだ」


その時、鳥花は口角だけ挙げて、瞳の無い顔で、笑っていた。

いつもと変わらない、空虚な笑いだが、いつもと違い、唇の端が少しだけ震えていることに鬼灯は気付いていた。


「奪ったって言っても、(ファルス)を使ったりとかじゃない。一つ一つ、手術室で、メスを使って俺から摘出していったんだ。目玉を取り出して、俺の頭を開いて、丁寧に、丁寧にひとつづつ取り出していった。そしてそれを色んなものに加工していった」


鳥花は真実を告げる剣(スロウド)を再び消し、ポケットから取り出した眼球を付けなおすとしゃがみ込み、鬼灯のリボンを指さした。


「それが”メモリアルシリーズ”、俺の体の器官を加工して作り出した呪物だよ。そんでもってアンタの着けてるそのリボンは俺の触覚を司る神経で編まれた物だ」


「そんな...........あの人が、そんな事」


鬼灯は同時に襲い掛かって来た二つの真実に言葉が出なかった。

一つは自分が愛用し、着けていた物が元は鳥花の体の一部を作って作られたという物だったという事。

二つ目はそんな呪物を作り、鳥花本人から奪い去ったのは、自分が探し求め、尊敬していた瑠璃菊飛燕だったという事。

ショックは大きく、そんなおぞましい真実がやって来ることなど予想できていなかった少女の口を塞ぐには十分だった。


「想像したことはあるか?匂いも、味も、痛みも、音も、光も何もない、永遠の闇が広がる世界を、そしてそんな世界を死ぬまで生き続けなければいけないと理解した少年の心を」


「だから……殺すの?」


「そうだ、俺はあの日殺されたんだ。だから殺し返す、俺を裏切って、全てを奪った兄を!」


鳥花はそう高らかに宣言すると、いつの間にか爪が食い込み、血が流れていた拳を握りしめ、紅蓮の空に掲げた。

その様子は大志を抱いた少年が偉大なる一歩を踏み出す、そんな瞬間の様に鬼灯は感じた。

奇しくも、抱いていたのは大志ではなく、殺意のみだったが。


「恐らく残りのメモリアルシリーズもクソ兄貴が持ってるだろう、それを装着じゃなくて取り込めば多分アンタの中の吸血鬼の力は完全に眠りにつくだろうから安心しな.....だから、いらないアンタの善意を俺に押し付けようとすんのは辞めろ」


「いや.....!そんな、私はキミにそんなの押し付けてるつもりじゃ......!」


涙を流し、困惑する鬼灯に鳥花は、冷たく、言い放つ。

鬼灯はそんな虚空を見つめる鳥花の瞳を、じっと見つめるが、作り物のそれには何も届かない。


「貴方はこの話を忘れて、俺は明日ウリエルと会ってクソ兄貴を殺して残りの部位を取り戻す。そうすれば貴方は人間に戻れて、俺は復讐を果たせてwinwinだろ?」


「ダメだよそんなの.....!君はお兄さんを殺した後.....”君は”どうするつもり、なの!?」


冷たい顔つきから一転、再びいつもの様な貼り付けた様な笑顔に戻った鳥花に鬼灯は猛抗議する。

鬼灯が心配していたのは、鳥花が自分の手で兄を殺すことは勿論、本当に気にしていたのは殺した後鳥花が何をしようとしているかだった。


「後か、後なんて......無いよ。兄貴を殺して、そこで俺の物語は終わりだ」


「やっぱり.....それって、君!」


最期の力を振り絞り、鳥花に掴みかかろうとしたが、鬼灯の努力虚しく限界を迎え、視界が歪み、体に力が入らなくなり、地面に倒れ込む。


「おやすみ鬼灯さん。俺が死んだらその後は人間として、幸せに生きてくれ」


そんな子供を寝かしつけるような、優しい鳥花の語りかけるような言葉を最後に鬼灯の意識は深淵へと沈んでいく。

きっと、この後自分は虚構の記憶を植え付けられ、何にも気づくことが出来ず、鳥花が飛燕を殺すところを見届けることになるのだろう。

その事実を痛いほど理解した鬼灯は悔しさに悶えながら、鬼灯は不可抗力によって意識を虚像の海に手放した。


========================



















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「頭が痛い.........」


学校から帰って来てというもの、正体不明の頭痛に襲われ、酢束のカウンター席で頭を抱える鬼灯に鳥花は何か振舞おうと冷蔵庫を開けたが中には何も残っておらず、買い出しに出て行った。

一人残された鬼灯は客席に誰も居ない事を良い事に、ソファーで眠っていた。


「失礼」


そんな鬼灯一人の酢束に、入店のチャイムが鳴り響いた。


「.............ぅ、誰?」


店に入ってきた男は黒いボロボロの布を羽織り、顔を隠した20代程の不審者だった。


「あ、僕はご飯食べに来たわけじゃないので安心してください」


客の対応をしようと頭痛に苦しみながら体を持ち上げようとした鬼灯を制止した。

不審者は周囲を確認した後、ソファに眠る鬼灯に近づき、ポケットから何かを取り出した。


「コレは酷いですね......直ぐに直すのでじっとしておいてください」


男がポケットから取り出したのは鳥花の持つメモリーチップによく似た四角いチップだった。

しかし鳥花の持つ者とは確かに異なり、その最たる違いは中央に刻まれたカエルのマークだった。


「なるほどなるほど、ここが改竄されてるんですね、じゃあ、ここを、こうして......こうすれば、大丈夫ですかね」


不審者は苦しむ鬼灯の額に触れ、しばらく目を瞑って何かを確かめると、チップを少し操作し、彼女の額に埋め込んだ。


「.............あれ、楽になってきた?」


すると鬼灯の頭痛はみるみるうちに収まって行き、頭にかかっていた靄は晴れ、歪んでいた視界は元に戻っていた。


「あ、誰か分からないけど、ありがとうございます!」


「礼には及びませんよ。代わりと言っては何ですが、僕とここで会った事を他の人に黙っていただければ、それで十分です」


黒いフードの隙間から一瞬覗いた青い瞳と笑顔に鬼灯はどこか見覚えがあった気がしたが、何かを思い出す前に瞳は隠れてしまい、想起させた物の正体を突き止めることは出来なかった。


「な、名前だけでも、教えてもらえませんか!?」


突然現れ、鬼灯の頭痛を治した正体不明の男はそそくさと荷物をまとめ、出て行こうとしていた。


「申し訳ありませんが、今は出来ません。もし、次があったらその時は名乗るかもしれません」


フードを再び深くかぶりなおした男は気付けば出口のドアの前に移動しており、退店のチャイムを鳴らして店から出て行った。


「ちょ、待ってくださいって.....あれ?」


男を追って扉の外に飛び出した鬼灯は道行く人々を目を凝らして観察したが、先程店に来た男は何処にもいなかった。

急いで街道を走って探しに行こうとしたが、鬼灯を正体不明の眩暈が突然襲い、苦しさに思わずその場に座り込むと再び意識を手放してしまった。


「貴女がこの世界で笑えることを、祈っておきましょうか...........」


遥か遠く、高層ビルの屋上に立ち、黒ずくめの不審者は感慨深そうにその光景を眺め、一人呟いていた。


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皆が寝静まり、普段は光り輝くビルたちもその灯を手放した事で終わらぬ静寂と夜闇に一色に包まれた高田市、その中に位置する酢束も勿論例外ではなく、一階では鉄線が会計を終わらせぬままパソコンの前に顔を突っ伏して眠りこけており、鬼灯も河川敷生活の寝袋生活が体から未だ抜けないのか布団にくるまって眠っていた。

しかしその中に一人、寝巻を脱いで季節に合わない黒いコートに身を包んだ少年が、窓から身を乗り出し、誰にも気づかれないよう音一つ立てず抜け出そうとしていた。


「いよいよ、か」


鳥花はポケットからスマホを取り出し、日付と時刻を確認する。

勿論そこに表示されたの日付は4月28日、時刻は10時半。

ウリエルが飛燕と高田コンビナートにて会わせると言った30分前だった。


「俺を邪魔しようとしてた鬼灯さんの記憶は消したし、鉄線さんへの遺書は書いた.......何も心残りは無いな」


鳥花は右手に兄を殺す為の装備品を詰め込んだメモリーチップを握りしめ、窓から飛び降りる。

春の夜風が顔を撫でる中誰も居ない街道を鳥花は歩き、コンビナートへ向かう。

その途中、不意に目前に振って落ちた桜の花びらと、奥の横断歩道に、過去の情景を重ねる。


─────兄ちゃんばっかり早く行って、ずるいよ!


重ねた情景と一緒に聞こえてきた声はいつかの幼き日、愚かな自分が兄に向かって放った一言だった。


「あぁ、本当ずるいよ兄貴。アンタだけのうのうと生きてさ.....だから今日俺と地獄に落ちよう」


鳥花はかつて兄と手を繋ぎ、共に待った横断歩道の信号を待たず、車が一つも通らないのを良い事に赤色のまま堂々と信号無視し、歩みを進める。

鳥花ははしゃいでいる幼子の様に、握る相手のいない両手をおもむろに振り、満面の笑みで歩いていたがその瞳は薄く開いて力がこもっておらず、口角も引きつったように上げた物で、誰から見てもそれが狂気で満たされていることは明確だった。

そうして市街地を抜け、住宅や店が少なくなり、仰々しい雰囲気の建物が増え目的地に近づいたころ、鳥花の耳を聞いたことのある声が刺した。


「おや?予定時間より早くの到着とは....律儀だねぇ」


とうとう高田コンビナートまで着いた鳥花を待ち構えていたのはそこまでと鳥花を招き入れた張本人のウリエルだった。

そうして相対する鳥花は今からとうとう自らの悲願が果たせることに心を躍らせ胸の鼓動を大きくさせるが、対照的にウリエルは酷く落ち着いており、いつもの片目から花が生え、もう片方にはかっぴらいた三白眼と言う到底人間とは言い難い容姿で検問所の屋根の上に月を背にして立っていた。


「瑠璃菊飛燕は何処だ、さっさと案内しろ」


「そう焦るなよ、瑠璃菊鳥花。せっかくの殺意(デザート)も直ぐに頂いたら、趣に欠けるだろう?」


嫌らしくニタァと笑い、鳥花に不快感を植え付けるウリエルだったが、約束はしっかり守るようで、時間になると検問所の屋根から飛び降り、鳥花に付いてくるよう言って案内し始めた。


「それにしても彼らは君を止めなかったのかい?」


徐々にパイプが増え、複雑化していくコンビナートの中で、突然ウリエルが口を開いた。


「...........お前に関係あるか?」


「いや、満に一つ、君が誘いに乗ったふりをして、僕をみんなで一網打尽にする考えだったらどうしようって思ってさ」


「アイツらは.....幸福の為に生きてられる人間だ。復讐の泥の中でしか生きられない俺とは違うから、ここに連れてくるつもりなんて毛頭無い」


鳥花の答えにウリエルは満足したように笑うとひたすら数を増やしていくパイプの行き先である重厚な鉄扉の前で立ち止まり、鳥花に言った。


「瑠璃菊飛燕はこの扉の先に居る。覚悟を決めたのなら、開けると良い」


「覚悟、か。そんなもん.......とっくにし終わってるよ」


鳥花は案内されるがまま扉の前まで歩いていき、ドアノブに手をかけ、回そうとしたその時だった。


─────『円環の海(シー・シェイル)


「.....おや?」


何処からともなく飛んできた水弾が鳥花とウリエルを扉から遠ざけた。


「鬼灯ちゃんに聞いて来てみたら、本当に居るじゃない」


「君の事情は既に聴いている。だから観念するんだ、鳥花部員」


その日、鳥花とウリエル二人だけだと思われた夜の高田コンビナートには、もう3人の来客が居た。


「鳥花君?彼らは呼んで無いんじゃなかったのかい?」


「その筈だ!記憶も消した.......!なのに、何故貴方がここにいる!?」


鳥花が視線を向けた先、水仙が水弾を飛ばしてきた場所よりも上、自分たちの居るパイプの海から上がった何にも囚われない黒天の空、その中に浮かぶ満月を背にして記憶を消された筈の少女が立っていた。


「君を、止めに来たからに決まってるじゃない」


火器女鬼灯は後ろ結びにした黒髪を夜風に揺らし、その燃えるような紅玉(ルビー)の瞳から放たれる鋭い視線を鳥花に向けた。


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記憶を消された筈の鬼灯が一体何故オカルト研究部を連れ、高田コンビナートに現れたのか、それは4月28日から2日前、鬼灯が鳥花に記憶を消され、その後不審者に頭痛を治してもらった日の夜の事まで遡る。


「大丈夫?鬼灯ちゃん?」


鬼灯が目を開けるとそこには心配そうに顔を覗き込む鉄線が居た。


「............あれ?私寝ちゃってました?」


「うん、鳥花くんからは疲れて眠ってるからそっとしておいてやれって言われたんだけど.....」


鬼灯は学校から帰って来た時とは違い、完全に頭痛がなくなり、クリアになった頭で何があったか一つ一つ思い出す。

そうして脳裏に浮かんだのは、校舎裏での出来事、そして、消された筈の鳥花に関する記憶......


「あれ?なんで、私覚えてるんだろ.....?」


鬼灯は必死に記憶の中を巡り、探すが、鳥花に記憶を消されて酢束に帰って来てからの記憶がすっぽり抜け落ちている。

誰かに会った気がするが、もともと何もなかったかのように記憶が黒塗りになっており、何も思い出せなかった。

しかし、今の鬼灯にとってそれはさほど重要な事ではなかった。


「鉄線さん!鳥花くんの目って実は義眼だったりします!?」


「.......え、そうだけど何で君が知ってるの?」


鬼灯が知るはずのない情報を知っていることに唖然とする鉄線を余所に鬼灯は先程の校舎裏での出来事が現実だと確信し、あの時の鳥花の態度や豹変した様子が現実であることを理解すると、体をびくりと震わせた。


「あァー、えぇっとですね.........」


鬼灯は一瞬鉄線に校舎裏での出来事を話そうか迷ったが、ここで仮に鉄線から鳥花に鬼灯が記憶がある事が間接的にバレた場合、再び記憶を消される危険を考慮し、咄嗟の嘘を付くことにした。


「えっと、昨日の夜に鳥花くんが目を外すところ見ちゃって.....」


「はいはいはい、成程ね。アレ始めて見たらビックリするよね....それで、もしかして説明欲しかったりする?」


「あ、じゃあ一応、一緒に生活するうえで困ったりしたら大変なのでお願いします!」



この後また気を見計らって鳥花を説得するつもりだった鬼灯にとって、鳥花の過去に関する情報ならどんな小さなものも欲しかった為食い気味に鉄線に聞いた。


「あれはね、10年くらい前だったかな.......」


鉄線曰く、鳥花の目や触覚は出会った時には既に無くなっていたらしく、その出会いは当時原因不明の大火災によって炎に包まれた高田市に一人全身から血を流しながら歩く少年が居たらしく、あまりに痛々しい姿だった故、鉄線が介抱したという形だった。


「最初会った時から彼は虚力(ブレイズ)をある程度操れてね。だから使い方を僕が教えて本物の瞳無くして世界と触れ合う方法を教え込んだ」


どうやら鳥花の投影した鳥から周囲の情報を読み取り、脳内に流し込む技能は鉄線が教え込んだものらしく、当時初めて成功した時は鳥花は大変喜び、当時は長きに渡ってお礼を言ってきたそうだ。


「昔はあんな可愛かったのに、今じゃいつも僕の頭をフライパンや皿で叩くようになっちゃってさ...」


鉄線は流れていない涙を大げさに拭うそぶりをした。

鬼灯はそんな鉄線を無視していたが、頭の中で鉄線は鳥花が兄を殺そうとしている事実を知らないのではないかと言う結論を付けていた。

これまでの様子から見るに鉄線は基本的に鳥花ファーストであり、仮に彼も鳥花の目的を知っているのなら性格的にも急いで止めにかかるだろう。

しかし鉄線はそのような素振りを一切見せず、鳥花の過去を語る時も重々しい様子ではなく、まるで尊い過去を振り返るような、そんな思い出話のつもりに鬼灯の目には映ったのだった。


「まぁそんなわけで彼、たまに有り得ない見間違いとかするけど、大目に見てあげてね」


「はい、分かりました!.....ってこれ勝手に話して良かったんですか?」


こちらから聞いておいてどの口が言っているんだと言ったという事は鬼灯自身も分かっていたが、鳥花に自分が記憶を保っていることは悟られるわけには行かなかったので必要な会話だった。


「.............げ、確かにバレたらまた叩かれそうだな。よし、僕がこのことを鬼灯ちゃんに話したことは秘密って事で!」


鉄線は口元に人差し指を立てる仕草をして鬼灯に頼み込み、それに彼女は快諾する形で会話を終え、自らの部屋に戻った鬼灯は鳥花の兄殺しを今度こそ止める為、考え、動き出した。

再び鳥花に正面から行っても再び争いとなって、説得などできない事は目に見えており、何か策を考える必要があった。

そこで鬼灯は考えた末に、飛燕に鳥花に何故そんな事をしたのかを問いただし、その理由を鳥花が知れば、和解の一歩になるのではないかという結論に辿り着いた。

そもそも鳥花の話に鬼灯は違和感を覚えていた。

それは飛燕が直前まで仲良くしていた鳥花を突然傷つけ、五感を奪い去り、彼の前から姿を消した点。

この行動には一貫性が無く、飛燕の思惑が全くと言っていいほど理解できないのだ。

まずそれまで普通の兄弟の様に仲睦まじく過ごしていたのに急に思い出したように鳥花から五感を奪った理由が分からない、仮に彼の五感を奪う事だけが目的だったとしても、仲を深める必要はなく、親のいない彼を若い青年一人の手で5歳まで世話を焼く必要が無いのだ。

加えてどのような目的であれメモリアルシリーズを作り出した後、鳥花を直接傷つけた自分が恨まれ、それこそ殺されそうになることなど飛燕は分かっていた筈だ、しかし彼は鳥花を手術台の上で生かし、自分だけ姿を消した。

本当に彼が鳥花を傷つけたり、メモリアルシリーズを作る事だけが目的だったのなら、鳥花を生かす理由が存在しない。

間違いなくメモリアルシリーズを作った上で鳥花を生かしたことには意味があり、理由なく鳥花を裏切って傷つけたのは少なくとも他の目的があったからであると鬼灯は考えていた、というか彼女の知る飛燕ならばそうするという確信があった。

加えて鬼灯は鳥花に対しても、一つ思うところがあった。

しかしそれらを伝えようにも、鳥花が聞く耳を持たないの分かっている。

だからこそ鬼灯は記憶を消されたふりをして盗み聞きしていた4月28日まで待ち、飛燕、鳥花、自分の三人が揃う場面を作り出そうとしたのだ。


====================



















====================


「貴方の考えは理解した、鬼灯さん。でもそれだけが目的ならそのオカルト研究部の二人はこの場に必要無い筈だ」


鳥花が偽物の瞳でギロリとオカルト研究部の二人を睨みつける。

そんな鳥花の反応に苺は面倒くさそうに頭を掻きむしりながら口を開いた。


「入りたてとはいえ、ウチの部員が殺人しようとしてるなんて聞いたら飛んで止めに入るのが部長にして先輩の役目だ!それに因縁の相手が来ると、鬼灯部員に聞いていたからな」


「苺の言う通りよ、鳥花。アンタ先輩の私を差し置いて輝血先輩の敵討ちなんて一年の分際で贅沢が過ぎるんじゃないかしら?」


二人はニヤリと笑うとパイプで出来た足場から飛び降り、鳥花とウリエルと向き合う。


「あーもうせっかくの舞台が台無しなんだけど?鳥花君、どうすんの.....ってあら?」


深いため息を吐いたウリエルが隣を見るとそこには一緒に飛び退いた鳥花の姿はなく、後から聞こえてきたのは鉄扉へと既に走り出していた鳥花の足音だった。


「『虚像回想』.....『情光武装(ホログライド)』!」


走りながら鳥花はメモリーチップを投げ上げ、それを慣れた手つきで真実を告げる剣(スロウド)で叩き切り、全身への武装を終えると、扉を開けるのが面倒だと判断したのか、そのまま剣を構え、奥に瑠璃菊飛燕が居るはずの扉に斬りかかった。


「.........だからさせないって、言ってるじゃん!」


扉に剣が接触するよりも寸前、鋭い音と共に剣は鬼灯の手に弾き飛ばされる。


「待て、その姿、人間体の筈なのに、その力、一体どこから出てる?」


鳥花の違和感の通り今の鬼灯はいつもの日中と変わらない黒髪後ろ結びの姿であり、この姿では吸血鬼としての馬鹿力は使用できないはずだ。

しかし鬼灯は出会ったその日校舎の中で相対した時の凄まじい身体能力を発揮している。


「髪染めスプレー結構高かったんだからっ!」


鬼灯はそう言うと挑発的に後頭部の頭髪を結んでいるリボンを鳥花に見せつける。


「そのリボン.....いつものじゃないな」


鬼灯が着けていたリボンはいつもの純白ではなく灰色の物で、勿論飛燕が作ったものでは無いそれに吸血鬼の力を封じ込める機構は付いておらず、今の鬼灯は吸血鬼としての自分を曝け出していることになる。


「スプレーごときでっ!誤魔化せるならリボンいらないんじゃないのか!」


「そうはっ、行かないのっ!このままだったら日の光に焼かれちゃうし、吸血鬼の超代謝のせいで10分で色抜けしちゃうからっ!」


会話を交わしながら二人は互いに剣と手刀を交わし、少しづつ扉から距離を取る。


「そこまでしてっ!俺の復讐をわざわざ邪魔する理由がっ、分からんなっ!」


鬼灯は鳥花が切り合いの最中背後から飛ばした鳥も華麗な回し蹴りで打ち落とし、何の武器も持ち合わせていないながら自身の肉体のみで一進一退の攻防を繰り広げていた。


「んなもんっ!あの日助けてくれた君への恩返しに決まってるでしょうがぁっ!」


鬼灯は脳天に向かって振り下ろされた剣を真剣白刃取りの要領で止め、刀身を横にずらし持ち手を握りしめた鳥花ごと隣に投げ飛ばした。


「一旦眠ってもらうわよ!鳥花くん!」


投げ飛ばされつつ受け身を取り、いそいで立ち上がった鳥花に鬼灯は一直線に走って行く。


「貴方をあれ以上は傷つけたくなかったが....この際覚悟してもらう!」


そんな鬼灯に対し鳥花は鳥を自らの刀身に宿らせ、両足をその場に重く踏み込み、全身に電撃を纏い始めると一直線に向かってくる少女を迎え撃とうとする。

互いの距離が加速度的に縮まり、剣のリーチにより鬼灯より僅かに早く間合いに入った鳥花は電撃を纏った剣を水平に振るう。

動き出した剣は鬼灯が爪で攻撃するよりも早く胴体に直撃するかと思われた。

しかし、剣が命中する直前、間一髪で鬼灯が小柄な体を活かして身をかがめ、真実を告げる剣(スロウド)の攻撃範囲から微かに逃れた。


「これはしたないから昔ママにやるなって言われたけど、事態が事態だからやらせてもらうわ!」


身体をかがめ、視線を鳥花の腹を中心に合わせた鬼灯はその体制のまま踏み込み鳥花の腰から両手を回しこむように抱きしめ、吸血鬼の馬鹿力でガッチリとホールドすると、右足を前にコンクリートの地面にひびを入る程の力で踏み込んだ。


「─────ッ!まさか!」


一瞬鬼灯の行動が読めず、動きが止まった鳥花だったが、最後の動作でこれから鬼灯が使用としている事に感づき、急いで飛び退いて逃れようとするが、少女に抱きしめられている腰から下はまるで巨大な岩を括りつけられているように動かず、これからの攻撃を回避できない事を悟ると顔が青く染まる。


「でりゃぁぁぁぁあああああああ!!!!!」


鳥花の覚悟を待つことなく鬼灯は渾身の叫びと共にホールドした腰を縦に持ち上げるとそのまま自らの体をのけ反らせ、鳥花の頭を地面に打ち付ける形でスープレックスをお見舞いした。


「───かはぁっ!」


突然の衝撃に肺の中の空気が無理やり外に出され、少量の胃液を吐いた鳥花は脳に直接攻撃を受けたことで虚力(ブレイズ)のコントロールが不安定になり、視覚確保に使用している鳥を思わず解除してしまいそのせいで視界が暗転し、世界の音も途切れ途切れになったことで、地面に伏し行動不能になってしまった。


「君はきっと痛みじゃ止まらないだろうから....これしか思いつかなかった。ゴメンネ」


鬼灯はめくれたスカートを整えながら手に付いた小石を払い、地面に伏す鳥花の手を血で作った手錠で拘束すると、鋼鉄の扉の前まで歩き、ドアノブに手をかけた。


「問答無用で殺すんじゃなくて、一旦飛燕兄と話そうよ鳥花くん。君をそんな風にしたのも、何か理由があるかもしれないし」


「うるさい!俺はクソ兄貴を殺す!俺が.....殺さなきゃいけないんだ............!」


鬼灯は身動きが取れないながら必死にもがいて手錠を外そうとする鳥花にこれ以上の会話は不可だと判断し、瑠璃菊飛燕を鳥花に殺される前に保護する為、鳥花にしたことの理由を聞きだす為、ドアノブを捻り、前に引いた。

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