記録14 天才少女と梟男
「ウリエルが敗れました、ミカエル様」
それはどこかの施設だった。
そこは限りなく閉鎖的で、窓一つ無い一面灰色、縦に伸びた空間の壁は牢獄になっており、刑務所を思わせる場所だった。
そんな空間の最奥に作られた玉座に、男は行儀悪そうに足を組み、偉そうにふんぞり返っていた。
「毎度の如くご苦労様だね、ガブリエルちゃんも」
男にガブリエルと呼ばれたのは短い茶髪の女性だった。
鋭く、白い釣り目が特徴的でいつかのウリエルの様に全身を黒い布で包んでいた。
「労いの言葉、感謝します。しかし、熾天使の一人がやられましたが楽園創造に支障は出ていないのですか?」
「まぁそっちは安心しなよ。優秀な純人間は順調に集まってるし、ウリエルちゃんは正直お役御免って感じだったしね~」
たった4人しかいない幹部がやられたというのにミカエルと呼ばれた男はあっけらかんとしていた、それどころか暇そうに頬をポリポリと掻いた。
「記録者の少年の仕業と聞きましたが、報復は?」
「わざわざ君がやらなくとも、新・ラファエル君がとっくの昔に行ってるよーん」
ミカエルは椅子の前のボタンを押すと空中に大きなホログラムの映像が映し出された。
ホログラムには今や欠番だったラファエルの穴埋めとして熾天使となった金髪翠眼の長耳族の少年が大きく映し出されていた。
「良いのですか?あのような新入りに重要な仕事を任せてしまって。裏切る可能性などは無いのですか?」
「良いんだよ、何より彼は憎しみで動いているからね。亡くした物への執着から生まれた復讐心は、そうそうなくならないし、仮になくなったら処分すれば良いだけだもーん」
ミカエルは調子よく説明するが、それでも不満げなガブリエルにミカエルは焦り、急いで付け加えた。
「分かってるだろうけど、そもそも彼を迎え入れたのは戦力強化の為じゃない。本命は"これ"だったしね~」
そういってミカエルがガブリエルに投げたのは何かが入った重厚なスーツケースだった。
ニヤニヤ笑うミカエルに相変わらず怪訝な顔つきだったガブリエルはスーツケースの中身を見ると表情が一変する。
「コレの量産体制.....もう出来たのですか!?」
「僕は仕事速いもんね~。ってかなんならそれあげるよ、ガブリエルちゃん」
「あげる」その一言を聞いた瞬間、ガブリエルの耳がピクリと動き、直ぐに目の前のスーツケースを閉め、手に取ったがミカエルの思惑を察し、手を止めた。
「............何が目的です?」
「アハハ、お見通しか。なぁに、ちょっくら竜人の”お世話”を頼みたいだけさ」
─────竜人
歴史上で絶滅されたとしていたが、ついこの前このヴァルキリアで復元に成功した物だ。
南極で冷凍されていた個体を盗み出し、その後蘇生させたがすぐに基地を脱走し、その強さ故に誰の手にも負えず、組織もどうした物かと頭を悩ませていた存在。
対処できないわけでは無いが、竜人は高速飛行できるうえ、戦闘能力が高いため捕獲が難しいのに貴重なサンプル故殺すことが禁じられており、厄介事としてエージェント達がこぞって避けていた一件だったのだ。
それの”お世話”となれば、どんな碌な事をさせられるかは想像に難くなかった。
「面倒ですが、良いですよ。これにはそれほどの価値がある」
「ハハハ、気に入ってもらえて結構だ。じゃ、竜人のお世話は任せたよ。僕はちょっくら仕事に戻るから」
「仕事......曲入 鉄線の捜索ですか?」
「うん。アレさえやれれば面倒な記録者も一網打尽に出来るからね」
ミカエルは手元の端末を操作すると、紫色の瞳の男をでかでかとスクリーンに映し出し、睨んだ。
「15年前、僕らを裏切った愚か者を許せないだけさ」
ミカエルは至極期限が悪そうにスクリーン端末の電源を切ると玉座を立った。
「どこへ行かれるのですか?」
ガブリエルの問いにミカエルは「フフ」と怪しげに笑うと、窓から見える地球を眺め言った。
「なぁに、少し友達の所へ遊びに行くだけさ」
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「えぇっ!?鳥花くんの妹!?」
目の前の深緑髪の少女に鬼灯は驚愕の声を上げ、そのまま固まってしまった。
「貴方の事は鉄線と鳥花から聞いていますわ。火器女 鬼灯様、ですわね?」
「あ、えと、うん。そうなんだけど....」
衝撃の新情報に固まったままの自分にはお構いなしに大荷物を手際よく解き、整理していく少女に鬼灯の脳内は数えきれないほどの質問の濁流に押しつぶされていた。
「えぇっと、な、菜依、さん?ひ、一つだけ質問しても、いい....ですか、ね?」
余りのテンパり具合に思わず口調がおかしくなり、動きがロボットの様に固くなってしまった鬼灯に菜依はクスクスと笑いながら、手を止め、言った。
「そんなにお堅くならなくても大丈夫ですわ、鬼灯様。それに名前も『菜依』と呼び捨てで構いませんわ」
「じゃ、じゃあ菜依、ちゃん?貴女が鳥花くんの妹って事は、飛燕兄の妹でもあるって事よね?」
「.............飛燕、兄?はて、誰の事でしょうか?わたくしの兄は鳥花一人ですが.....」
眉を八の字に曲げ、顎に手をつき、唸る菜依の姿に鬼灯の困惑は更に加速する。
頭の中で様々な説が浮かんでは消えを繰り返し、脳みそがパンクしそうになったその時、菜依が再び口を開いた。
「もしや鬼灯様はわたくしと鳥花が血のつながった兄妹だと思われておりますか?」
「え?逆に違うの?」
菜依はニコリと笑うと深くかぶり込んだベレー帽を脱ぎ、その下に隠していた二つの白い耳を露わにした。
「その耳………菜依ちゃん兎の獣人だったの!?」
「えぇ、正確には半亜人ですがこの通りわたくしと鳥花は血が繋がっておりませんの」
笑顔で可愛らしく耳をピョコピョコ動かす菜依の姿に鬼灯は目の前の少女が間違いなくあの嘯いた笑みと無愛想が売りの鳥花とちの繋がった妹では無いことを確信した。
しかしその一方で、新たな疑問が湧いて出てきた。
「鳥花くんの義理の妹って事は分かったけど、それならどうしてこれまで酢束に居なかったの?」
鬼灯の当然の質問に先程まで耳を動かして遊んでいた菜依が答えようと口を開こうとした時、再び来店ベルが鳴った。
「─────それについては、僕が説明するよ」
聞きなれたどこか軽く、優しい声の主は他の誰でもない鉄線だった。
「あ、鉄線さんも鳥花くんもおかえり………ってそのお方は?」
鉄線と鳥花、その後ろに立っていたのは全身が羽毛に包まれた屈強ななフクロウの獣人だった。
「この方は高田市の殆どの建物の建設に関わってる建設界のレジェンド、前畑建設から来た『積重 梟説』さんだ」
「........そんな凄い人がどうして突然ここに?」
「ただの依頼人だよ。ほら、その......」
鬼灯の問いに答えようとした鳥花の言葉が途中でごもり始め、次第に表情が気まずそうになり、途絶えてしまった。
その様子を見た鉄線は呆れたような視線で鳥花を見つめた後、白々しく鬼灯に説明した。
「 梟説さんは先月なぜか、塵と化した高田コンビナートの修復工事をしてらっしゃってね。その途中に入ったと”邪魔”について相談があってここに来たんだよ」
”なぜか、塵と化した”
この言葉を経て鬼灯は鳥花がなぜ気まずそうにしているかを理解する。
そんなの簡単である。
なぜかも何も、高田コンビナートを塵に還したのは、他の誰でもない彼なのだから。
「それは分かりましたけど、もしかして酢束に来るって事は、コロド関係の事ですか?」
「察しが良くて助かるよ。まぁ詳しくは菜依も一緒に腰を据えて話したい、という訳だから鳥花君と鬼灯ちゃんは一旦お茶の準備をしてくれるかな。菜依は荷解きは後にして今は例の資料を少し用意しててくれ」
3人が鉄線の指示に返事をし、それぞれが動き出す。
鬼灯も早速鉄線に言われた通り、お茶を用意しにカウンターから厨房に回り、お湯を沸かし始めた。
次に茶葉を用意しようとしたが、どの茶葉を使っていいか分からず、鳥人用のかぎ爪入れ付き湯飲みを取りに行っていた鳥花に尋ようとした際、ついでと思い気になっていたとある事を尋ねた。
「そう言えば鳥花くん、どうして今まで妹ちゃんの事黙ってたの?」
”妹”その言葉が鬼灯の口から出た瞬間、鳥花が固まった。
「え?あ、ごめん、もしかしてなんか悪いこと聞いちゃった!?」
「.............いや、何でもない、けど菜依は、俺の妹なんかじゃない。それと探してる茶葉は棚の二段目だ」
その重く、冷たい声はどこか聞き覚えのあるものだった。
想起させるのは、兄に体をバラバラにされたときの事を話す鳥花の様な、そんな、悲しみと怒りのはざまで揺れているような、そんな様だった。
「あ、うん.....茶葉、ありがとう」
以前の様に変に地雷を踏んではどうなるか分からないと考えた鬼灯はやんわりと礼を言い、追及するのは後でにしようと考え、言われた通り二段目の茶葉を取り、鳥花が取って来た湯呑みに茶を注ぎ、先にシートに腰をかけていた依頼人と鉄線の前に置いた。
「あ、鬼灯ちゃんも話聞いといてね。この依頼君と鳥花君、菜依に調査してもらう予定だから」
「………あ、はい!任してください!」
鳥花の先程の態度に心あらずだった鬼灯だったが、鉄線の口から突然自らの名前が出たことで、話の内容もよく確認しないまま勢いだけで返事をしてしまった。
しかしそんな事を知らない鉄線は鬼灯の反応に好感触を示したようで、笑顔で「やっぱり君を引き入れて正解だったねと」ウンウン頷いていた。
「それではお待たせしました梟設さん、話して頂けますか?例の"竜人"について」
鬼灯と共に茶を用意していた鳥花もこちらに戻ってきて鉄線の隣に座り、その更に隣に鬼灯が座ると後から更に大量の資料を抱えた菜依が鬼灯の隣に座ったのを確認すると、梟設は満を持して依頼に関して話し始めた。
「あぁ、アレはつい先週の事だった………」
梟設曰く、コンビナートの修復作業は順調に進んでおり、最近入った狼の獣人の働きようのお陰でもうひと月あれば完全に元通りといった調子だったらしい。
しかし、その最中、突然それら現れたらしい。
「信じられねえだろうが海の向こうからよ、竜が飛んできて、空を掠めて行ったんだ。そんでもってその風圧だけで俺たちの現場を滅茶苦茶にした挙句、部下を一人病院送りにしやがったんだ!」
────"竜"
その言葉に鬼灯は目を見開く。
あまり学のない鬼灯でも、その種族はとうの昔に絶滅し今では化石しか見つかっていない事をよく知るほど有名な種族だ。
それが現代になって現れ、その上この街に現れ工事現場を荒らして行ったなど、到底信じられる話ではなかった。
「竜の外見は何か覚えていたりしないですか?写真などあれば良いのですが………」
突然の衝撃の情報に置いていかれる鬼灯を他所に鉄線は深刻な表情で梟設に尋ねる。
「速すぎて写真は撮れなかったが、うろ覚えの記憶を辿って絵を描いてきた。コレだ」
そう言って梟設がカバンから取り出した絵には全身が黒光りした鱗で覆われた巨大な竜が描かれており、その体には白い稲妻の紋様がかけ走るように刻まれていた。
そしてその絵を菜依の瞳に入った途端、彼女の眉がピクリと動いた。
「……本当にこの雷の紋様が翼に刻まれていたんですね?」
「あ、あぁ。そうだが………」
その言葉を聞いた菜依は急いで自分が持ってきた資料の山を漁り始め、何かの写真を見つけるとそれを机の中央に叩きつけた。
「恐らく、梟設様が見られたのはこの写真に写っている竜は南極基地から盗まれた竜人が変化した物で間違いないですわ」
写真に写っていたのは氷の中で眠る全身が鱗で覆われた子供だった。
その姿は虚を発動し、完全なトカゲの獣人となった苺の姿を彷彿とさせたが、頭からは2本の角が生えているかつ体の所々に青い稲妻の紋様が走っており、その正体が菜依と梟設の言う通り、絶滅したとされる竜人である事を証明していた。
「……話の途中でごめん菜依ちゃん。これって、本当にあの竜人、なの?私骨格とかは昔本で見た事あるけど、こんな肉体があるのは初めて見るんだけど」
竜人は神代と呼ばれる西暦100年頃に生息していたとされる種族であり、その手がかりの殆どは太古に描かれた絵画だったり、化石となった骨の欠片だったりと曖昧な物が多く、解析技術が進歩した現代でも正確な情報は明らかになっていない。
しかし菜依が叩きつけた写真に写り込んでいるのは研究の過程で明らかになった竜人の特徴をとらえている物であり、周りの氷の繊細さや、画質的にただのフェイクでもない事が鬼灯にも分かる。
本来この世に存在しないものが映り込んでいる写真をまるで本当の資料のように扱う菜依に困惑を示していると菜依はニヤリと笑って口を開いた。
「この写真を鬼灯様が見て驚くのも無理はありませんわ。だってこれはまだ世界でも公開されていない南極研究基地の極秘情報の一つですもの」
「─────────え?」
「わたくし少しやんちゃさせてもらいましたの。国にバレたらこの場の全員豚箱行きですから皆さん口外しないようお願いしますわ!」
屈託の無い笑顔でダブルピースする菜依に対し、その場は凍り付く。
鬼灯は口をあんぐり開けたまま虚空を見つめ、梟説は飲みかけの湯飲みをその場に落とし、口から茶を零していた。
鳥花は気まずそうに目を逸らし、鉄線だけが菜依と同じようににこにこと笑っていた。
「鬼灯ちゃんには説明し忘れてたけど、菜依は亜人研究の方面では名の通った学者でね、7歳で大学飛び級で卒業した後、研究機関のお声がかかって去年の今頃から昨日まで南極の基地で亜人研究してたんだ」
ものすごい情報が一気に告げられた気がする。
確かに見た目に反して大人っぽいとは思っていたが、しっかりしているなどの次元ではなく大学を飛び級で卒業しているとは、自分よりもずっと頭がいいではないか。
「わたくしが担当していたのは南極の永久凍土の奥地で眠っていた竜人に関する研究だったのです。研究の目的としては最終的に竜人を目覚めさせ、神代についての情報や亜人の起源に関する研究を推し進める狙いがあったのですが......」
途中まで嬉々として話していた菜依だったが、後半になるにつれてその顔は曇り、口がごもった。
「もしかして、その竜人に何かあったの?」
「はい、ある晩何者かによって竜人の体が盗まれたのです。それも音もたてず、カメラにも一切映らずに綺麗さっぱり、忘れずにわたくしたちの研究資料と一緒にです。幸い研究内容についてはバックアップがあったのですが.....」
そう言って菜依が取り出した何枚かの写真に写っていたのは一つ前の写真では竜人が眠っていた場所が綺麗に繰り抜かれ、肝心の竜人が跡形も無く消え去っていた氷河と一部が破壊された研究基地だった。
「もうわざわざ言わなくてもお判りでしょうがヴァルキリアの仕業です。カメラに映らなかったのもコロドを使って盗み出したからに違いありません。そうなればもう公的機関はアテになりませんし、だからと言って黙る訳にもいきませんでしたから、基地の皆を黙らせた後資料を盗み出し、竜人を独断で取り返しに来たんです」
どうやらそれが長らく酢束に居なかった理由らしい。
それにしても目の前の年相応に笑う少女が親元を離れ、一人南極の基地で最先端の研究をしているとは改めて聞いても信じがたい事実だった。
「説明ありがとう、菜依ちゃん。でもさ、この写真に写ってる竜人と梟説さんが描いた絵の竜人、色が違くない?」
鬼灯が気にかかったところ、それは梟説の絵と菜依の写真に写っている竜の差異だった。
菜依の写真と梟説の絵に描いてある竜の鱗の色は同じだが、それぞれの竜の全身に迸るように刻まれている稲妻の紋様の色が異なっていたのだ。
「─────流石鬼灯様!素晴らしい目の付け所ですわ!」
その言葉を聞いた途端、菜依の頭にすっぽりはまっていたベレー帽が宙に飛び、中からピンと立った白いウサギの耳が現れた。
「え、あ、ありが─────「紋様の色が違うのになぜがこの二体の竜を同一存在だと確信できるのか、説明しますわ!」
興奮気味に漆黒の瞳を輝かせる菜依に驚きつつ、鬼灯は礼を述べるが、それに被せるように菜依は嬉々として話し始めた。
一度走り出した暴走列車を止められる者はその場には居なかったのだ。
「鬼灯様は、梟の獣人には昼間の世界がどのように見えているかご存じですか?」
「.........昼間、ねぇ」
梟の獣人は夜とても目が利くというのは聞いたことがある、しかし昼間どう見えるかなどはほとんど聞いたことが無い。
そう思い返答に困りつつ、視線を菜依の方に向けると耳を左右に動かしながら黒い目をキラキラ輝かせる少女が目に入り、これ以上待たせるのも気が悪くなって答えた。
「夜はよく見えるって聞いたことがあるし.....逆に日中は全然見えないとか!」
「良い着眼点です、鬼灯様。ですが、実際は少し異なるのです」
「少し、異なる?」
「はい、暗闇を見通せる瞳、それは裏を返せば光の中をよく見れない。直感的にそう感じるも無理はありませんが、実態はその逆、光の中もほとんど見えているのです。そうでしょう?梟説様?」
突然自分に会話のボールが飛んできて驚きつつもその言葉を梟説は首を上下に振る形で肯定した。
「しかし鬼灯様、ただ見えるだけではありませんわ。では梟説様、こちら二つのペンの内、白い方をお取りください」
そう言って突然菜依はカバンから二本の蛍光ペン取り出した。
しかしそのペンはそれぞれ青色と赤色であり、白色の物などなかった。
しかし梟説はその事を指摘せずにしばらく悩んだ後、呆れたように口を開いた。
「お嬢ちゃん....悪いがこのペンは両方白色だぜ?」
あろうことか梟説はそう言って両方のペンを取ったのだ。
「鬼灯様、もうお気づきになられましたか?この通り、梟の獣人は昼も夜もくっきり見ることが出来ますが、代わりに色の識別が大変苦手なのです」
菜依曰く、梟の獣人は元々天敵の少ない夜間に狩りをするために夜闇を見通せる瞳を持つように進化したそうなのだが、その過程で獲物を見分けるうえで色を識別する力は不要だと判断し、無くなってしまったそうなのだ。
「....じゃあ菜依ちゃんが紋様の色が違うのに梟説さんが見た竜が南極の物と同一個体って判断したのは、元々梟説さんには世界が白黒で見えてることを知ってたからって事なのね」
「その通りでございますわ!鬼灯様。それと梟説様、試すようなことをしてしまって申し訳ございませんわ」
ペコリと頭を下げる菜依に梟説は優しく笑いかけ、言った。
「別に良いって事よ、こんぐらい。なんせ、嬢ちゃんらがこの竜をどうにかしてくれるんだろ?」
......嬢ちゃんら?
笑って自分の方を見つめる梟説に鬼灯は嫌な予感を覚え、助けを求めるようにニコニコ笑っている鉄線の方を見る。
「あれ?鬼灯ちゃん言わなかったっけ?今回の依頼、鬼灯ちゃんと鳥花君、菜依の三人でどうにかしてもらうって」
「.........その、一応確認なんですけど、”どうにかする”というのは?」
嫌な汗がうなじを伝う中、満面の笑みを一切崩さない鉄線が、口を開いた。
「そりゃ鬼灯ちゃん、君らが捕まえるんだよ。竜を、その手で」
目の前の男は何を言っているのだろう?
以前見た書物に竜人は竜状態では軽くビル一本を超える巨体だと記してあった。
それを、人の手で?
しかもたった三人で捕まえろと言っているのだ。
納得が行かないと鳥花の方を見ると、死んだ瞳でこちらに諦めろと訴えていた。
「頑張りましょうね!鬼灯様!」
目の前の自分よりずっと幼い少女は元気に意気込む姿を見て鬼灯も怖がっていてもしょうがないと結論付け、項垂れるように首を縦に振った。
魂が抜けたようになってしまった鬼灯を憐れむように見つめる鳥花だったがふとした瞬間に目を向けた時計の針は既に夕食の時間を刺しており、まだ支度を一切していなかったことを思い出すと、深い溜息を一つ吐いて一人厨房に入ってエプロンを腰に巻いた。




