記録1 再生開始
どこか、木材を基調としたロジカルな部屋に、二人の少年少女が居た。
一人の少年は、ソファーに座り、リモコンを恐る恐る部屋の中央にあるテレビに向けた。
もう一人の少女も、その隣に座って固唾を飲んでそれを見守っていた。
そうして、呼吸を整えた少年は一言呟き、リモコンのボタンを押した
─────よし...再生開始
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日本の首都から少し外れた開発中の都市、第二高田市、その中心から少し離れた道路、見上げても頭の見えないビル群にくぼみの様に位置した小さな一軒家、その一階にそこだけ時代の止まった様なレンガ造りのカフェがあった。
中には二人、一人は隣にカバンを座らせた黒髪の少年。
向かいにはエプロンを着て、メガネを欠けた茶髪が特徴的な長身の青年が丸皿を拭いていた。
一見すると客とカフェのオーナーと言ったような関係性に見える二人は、少し特殊な間柄だった
「鉄線さん、今日の依頼はありますか?」
少年....はカウンターの奥、厨房に立っていた長身の男、目を開けているのか閉じているのか分からない糸目が特徴的な灰髪の男に訪ねた。
尋ねられた男は皿を拭く手を一旦止め、引き出しから資料を取り出し、目を通した
「今日は....お、珍しい。一つも無いや」
「じゃあ、今日も研究に励めますね!」
その一言に灰髪の男、曲入 鉄線はため息を吐くと顔をしかめ、鳥花に言った。
「....偶には友達でも女の子でも連れてきたらどうだい?」
「すみません鉄線さん、今日は俺完成させなきゃいけない物があって時間がないんです。ごめんなさい!」
その一言聞いた鉄線は更に大きなため息を吐いて肘を付き、いつの間にか荷物を持ってカフェから出て行く少年の背を悲しそうに見つめ、誰にも聞こえない声で呟いた。
「もっと高校生らしい事すればいいのに」
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カフェから一歩出たらそこは建設中のビルに囲まれた大通り、今日も頭の上で大きなクレーンが動き続けている。
作業員や、会社員、街行く大人たちの声が集まり雑音として存在するその情景はこの町が静かな郊外から新たな大都市へと成長して行っている証拠だった。
その人混みを避けながら駅へと向かう少年は周りと同じように手元の端末と睨めっこし続けていた。
─────新世代ゲーム機登場!
────────吸血鬼撲滅週間、通報は平和維持局まで
──────────北極にて竜人の物と思われる化石が発掘
鳥花は一つ一つ記事を開けて読んでいると、目の前にポケットティッシュが差し出された。
差し出されたポケットティッシュに入っていたのは典型的な広告だった。
今回は水道修理業者の物らしい。
しかしそれより目を引くのは、緑色の鱗に包まれた手だった。
「水道修理、いつでも受け付けてオリマス!」
どこか拙い日本語をしゃべるティッシュ配りの頭は人間のものでは無く、トカゲだった。
「ありがとうございます!」
今となっては慣れきったその光景を流し、ポケットにテッシュを突っ込んで歩き去った。
ふと上を見上げると、ビルに貼り付けられた電光掲示板は変わった広告を流していた。
──獣人種向けエステ、60分5000円
最初の広告は屈強なゴリラの獣人が腕をまくり、その何か空気袋でも手術で入れているのではないかと疑いたくなるような力こぶをこれでもかと見せつけていた。
あんなのにマッサージでもされたら冗談抜きに無事では済まないだろう。そんな事を考えながら歩いていると、視界の奥に佇んでいた駅が気づけば大きくなっていた。
突き抜けて晴れ、雲ひとつ無い青い空を遮るように佇む駅に足を踏み込もうとした時、後ろから誰かに肩を掴まれた。
「誰?」
一切気配を感じさせず、自分の肩まで触れてきた誰かに警戒しながら、鳥花は後ろを振り向いた
「おはよう、鳥花君」
そこに佇んでいたのは、人参高校にて”席が近い”という事で仲良くなった、学校で唯一の友達である
”元美 還”であった。
鳥花と同じ漆黒の頭髪に、少し珍しい瑠璃色の瞳を持った青年だった。
「なんだ還か、ビックリするじゃん」
「あはは、ゴメンネ。君の後ろ姿を見たら驚かせたくなったんだ」
歩きながらケラケラ笑う隣の彼は浅く狭く人と付き合いたい鳥花にとって最適な友人だ。
過去友人の事情に深入りしようとして火傷した鳥花にとって適度な距離感を取ってくれる彼とは気を使う必要が無く、自然体で居られるのだ。
「それにしてもあのトカゲの獣人に神妙な面持ちを向けてたけど、どうかしたのかい?」
「いや.....最近はこの町にも獣人が増えたなって、そう思っただけだよ」
「成程、そう言えば君も今や数少ない純人間だったね」
「そう言えばって....君は気楽で良いな流〜石は半鳥人間ってところ?」
純人間....普通の人間がそんな風に呼ばれるようになったのはいつからだろう?
少なくとも思い出せる限りでは分からない。
それもこれも獣人....広く言えば亜人のお陰だ。
「嫌いなのかい?亜人が」
「別に...そんな訳じゃない。ただ、この町も変わったと思っただけだよ」
「亜人」とは基本的に純人間を除いた上で人の形をしなが、異形の部位を持つ者達の事で5種存在することが世界的に定義されている、が、内二種類は絶滅済みだ。
多い順番に「魚人種」、「獣人種」、「長耳種」「竜人」「天使」。
絶滅した二種はこの中でも異彩を放っている「竜人」と「天使」、竜人は化石が見つかったり、痕跡等が遺跡にて発見されているが、天使に関しては昔のおとぎ話に出ていた程度で、生体に関係するものが未だにどこの国でも出土していないのに存在が定義されているというあまりにも謎な人種なことで一部のカルト宗教なんかが信仰している。
それ以外の長耳種を除いた2種が今の世界に基本的に存在する種族だ。
「魚人種」は魚やタコ、主に海の生き物がエラや球盤、鱗などの特徴を残し、人の形へと進化した物。
「獣人種」は魚人種とは異なり陸の生き物が期間を残したまま人の形へと進化した物だ、例えばライオンの獣人は爪や牙、鬣はそのままに二足歩行している、結構シュールだがそのほかも大体そんな感じだ。
最後に一応「人間種」、”昔”最も多かった種族であり、全ての亜人はこの種族から派生したというのが今の通説だ。
特徴は他種族に比べ地味で、獣人種や魚人種と比べ能力は普遍的であり、かつて存在したと言われる竜人の様に火を吹いたり、長耳族の様に妖しげな術も使うなどのコレと言った特徴のない種族。
そして、蕪野 鳥花は正にそんな、地味と言われる人間種の少年であった
「疎外感、かい?」
「まぁね、少なくとも俺がが小さい頃はトカゲにティッシュ渡される事は無かったかな……でも、悪い事じゃないよ!俺、色んな人に会えるの退屈しなくて好きだし!」
ただの駄々に過ぎない。
蕪野 鳥花もそんな事を自分で自覚している。
しかしその一方でどういう形であれ昔から自分が馴染んできた物が違う形に変わるのはどこか寂しい物なのだ。
「でも最近の亜人なんて皆ハーフってだけで殆ど君ら純人間と変わらないじゃないか」
「意外と違うもんだよ、文化とか、価値観とか……あ、特に身体能力」
先程も出た言葉、純人間とは、文字通り、多種族の血が一切混じっていない純粋な人間種との人間種との間に生まれた人間を指す。
いくつもの戦争を経て最終的に様々な種族が交錯する時代となった現代において他より能力の劣る人間種はその繁殖力を活かした多種族との交配という形で血を残す道を選んだ。
そのお陰で街にはパッと見て人間種ばかりだが実際は羽が生えてたり、爪が凶器だったり、触ってみたら肌色の鱗だったという事がザラにある。
だからこそ本当に多種族の特徴を一切持たない鳥花は現代において本当に珍しい人間種なのだ。
「確かに、鳥花君いつも体育の成績ドベだね」
「しょうがないだろ…昔野生の大地にて狩人として猛威を振るった獣人達に温室育ちの"お人間様"がが勝てる訳無いって…」
「そう悲観するなよ、鳥花君」
還は項垂れる鳥花の肩に手を置き、言葉を続ける
「人間種は手先が器用という種族的特徴があるじゃないか」
「それ30年くらい前の話、今じゃ鼠族とのハーフにその地位殆ど奪われてるよ……」
悲しいかな、どう足掻こうと人間種は他の種に比べ明らかに劣っている、その根拠は先程述べた全ての亜人は人間種から「派生した」という話にある。
これを捉え方を少し変えると人間は亜人へと"進化"したと捉えられる。
見方によっては今現代もしぶとく生き残る純粋な人間種は進化の波に抗う旧世代とも受け取れる。
その中でも少年は必死に生きていた。
そうしてふと鳥花が見上げた空は昔と変わらぬただただ青い空だった、雲一つない、素晴らしい空。
そうこうしていると還は思い出した様に、時計を確認して
「ごめん鳥花君、ここで一旦お別れだ。実は僕先輩に買い出し頼まれてるんだ」
「そうか、じゃあね」
再び1人で歩く事となった鳥花は、亜人の波を掻き分け駅へと足を進める。
今日の時間割はなんだったか、そんな他愛のない事を頭の中で思い出していた鳥花の耳にそれは突然飛び込んで来た。
────キャーッ!
突然の悲鳴に鳥花は周りを見回すが、誰も聞こえていない様子を見て、一つの事実を確信する。
「……嫌な予感がするな」
ため息を吐いた鳥花は目の色を変え、悲鳴が聞こえた路地裏へ走り出す。
駆け付けるとそこには誰も居らず、不自然に黒い傘が一つ落ちていた。
先程の状況から考えるに悲鳴の主の物で間違いない。
鳥花はそれを拾い上げ、じっと見つめると何かに気づいた。
「これは……遅刻確定だ」
黒い傘の周りを舞う瑠璃色の粒子を見た鳥花は荷物を地面に置き、右手で手印を作り前に突き出し、言葉を唱え始めた
「我らは願う、久遠の故郷を。照らせ、虚の炎よ」
唱え終わったその時、目の前の空間が歪み、ガラスの様に破片を飛び散らせながら"割れた"
割れた空間の隙間から覗く景色は黒い影に包まれており、そこが異常な空間である事を本能的に訴えている。
しかし鳥花は一切の躊躇なく、その空間に足を踏み入れる。
足を踏み入れた先の世界は狂気という言葉が似合う異界だった。
存在する物こそ元の世界と同じだ。
路地裏のゴミ箱も、ビルの壁に蛇の様に張り付いている配管も全てが全く同じだ……ただし、色を除いて。
隙間から除いた通り全てが黒く、鮮やかさを失っている。
紫色の空のも相まってそこが人の訪れるべき場所でないのは誰が見ても明白だった。
そんな異常な空間の路地裏から出た通りに、彼らは居た
「…分かった、ボス」
「ちょっ!良い加減離しなさいよ!普通にセクハラで訴え─────」
「いい加減大人しくしやがれっ!オラッ!」
どうやら丁度悲鳴の主と思われる人間種の少女が気絶させられた現場に遭遇したらしい。
推定誘拐犯の構成はハイエナの獣人が2人、雰囲気的にリーダーと思われる1人の3人だった。
普通にやり合っても歯が立たないと確信し"力"の発動の用意をし、手遅れになる前に路地裏から出る
「そこの獣人方、少しいいかな?」
「人間……?ガキ、言っておくがここお前みたいな奴が来るところじゃねぇぞ」
電話を切った獅子の獣人がギロリとこちらを睨む。
あまりの迫力に肩がすくみそうになるが、それを悟られない様に怯まず言葉を紡ぐ
「その女の子、どうするつもりですか?」
「見てわからねぇのか?売るんだよ、物好き金持ち共に」
グダグダ言われるとめんどくさかったがこの獅子の獣人が無駄に素直で助かった。
悲しい事に今の日本……特に開発中のこの都市では治安が良くない。
具体的に言うと人攫いが絶えないのだ。
タイプは様々だが健康体の多い日本人に目を付けた臓器売買が殆どだが、そういう需要で奴隷として購入しようとする者も少なくない。
特にか弱い人間種は攫いやすく、需要が高い為標的にされやすい。
恐らくあの女の子も無意識にふらりも路地裏に入った所を彼らに捕まったのだろう
「じゃあ....懲らしめても誰にも文句言われないですよね」
「……純人間の雑魚が、何言ってんだ?」
「お頭!?こいつ純人間なんですか!?」
「あぁ、今匂いで確信した。獣の匂いがしねぇ生けすかねえ純粋な人の匂いだ」
その言葉を聞き終えた2人のハイエナの獣人の笑みが一層深くなり、腰のマチェーテに手をかけ、口から溢れんばかりの涎を地面に垂らす
「お頭お頭、俺アイツ食っていいですか?」
「純人間なんぞどうやっても罰は当たらん、殺した後は好きにしろ」
現代において、これは見慣れた光景である
前述したが、純人間は特徴が無く、弱い、そんな種族は現代社会において活躍が非常に乏しく、一部の過激派の亜人達からは無能、雑魚などと罵られ、迫害される傾向にある。
特に今回の様な獅子の獣人など、種族的に強い亜人は自らにプライドを持っている傾向にある為、差別をして来るのは珍しい事じゃ無い。
そんな事は頭で分かりつつも、腹の立った鳥花はタイミングを見極め、力を発動しようとする
「行くぞ」
獅子の獣人の低く、重みのある声を皮切りにハイエナの獣人達がこちらに走り出す。
このまま棒立ちしていれば、一刀両断待ったなしだ。
純人間なら尚更....と言いたいところだが、ここまでの話で一つだけ訂正がある。
純人間には、”特徴が無い”と言ったが、それは間違いである。
他の亜人には許されず、人間にのみ許された力。
─────名を虚。
想いをエネルギーとして操り、具現化する想像の力。
『虚造回想』
鳥花が小さく唱えた直後、一瞬瞳が青く光り、どこからとも無く青い鳥が一羽出現し、そのまま2人で向かって来るハイエナの獣人の片方の腹に突っ込んだ
「グエッ….」
あまりの勢いに吐瀉物を撒き散らしながらハイエナの獣人は吹っ飛び、道路に倒れ伏した。
その様子を見た獅子の獣人は唖然とし、向かってきていたもう片方のハイエナの獣人がその瞳を怒りに染め上げ、再びこちらに向かってきた
「アンタらの言う通り純人間は弱い」
目と鼻の先まで辿り着いたハイエナの獣人は鳥花の脳天を叩き潰す為、飛び上がりながらマチェーテを振りかぶる
「だけどそれは、コロドの外だけだ!」
丁度頭上に当たる位置まで来た瞬間能力を再び発動し、手の中から再び青い鳥を出す。
「その怖い口、開けたままだと大変だろ」
先程の凄まじい勢いを持った鳥は鋭い嘴でハイエナの獣人の頭を顎から鼻まで貫く。
ハイエナ獣人が何か言う暇もなく鳥花の操作により地面に叩きつけられ気を失った
「………なんだ、それは?」
「少なくとも、人間の弱さしか見れないアンタらには分からない物だ」
鳥花の返に腹を立てたのか、獅子の獣人は言葉は要らないと言わんばかりに地面のコンクリートが砕け散るほど踏み込んだ直後、鳥を出す暇も無いスピードめ鳥花の懐まで潜り込んできた
「これで終わりだ!」
先程のハイエナとは異なり、飛び上がらず必ず腹に一撃を入れる為、包丁よりも恐ろしい鋭い爪という自然の凶器を携え、しっかり踏み込んで手刀を繰り出す。
恐らく戦い慣れている、先ほどまでのチンピラ2人とは訳が違う。
しかし、それでも鳥花には届かない
「来い、”真実を告げる剣”」
鳥花は”無”から青い剣を取り出し、手刀が入るよりも速く獅子の獣人の顔面を斬りつけ、怯んだ一瞬の隙を突き、2m近くある巨体を蹴り飛ばした。
「ガハッ....この俺が、人間に....?ましてや、純人間如きに....!?」
獅子の獣人が地面に伏しながら困惑と怒りを含んだ声を漏らす。
鳥花はその様子を見て一瞥し、蹴り飛ばしたところまで歩いていくと、その首に剣をかけた
「アンタらどうやってここに来たの?」
「そうおずおずと教えるわけ─────」
鳥花は無言で吠える獅子の獣人の首にかけた剣を押し込み、再び問答する
「次答えなければ君の首を刎ねる」
剣を押し込んだことで肉が少し斬れ、蒼い刀身に鮮血が滴った。
言葉を失った獅子の獣人は状況を理解したのか、慎重にぽつりぽつりと話し始めた
「ボス....俺らに人攫いの指示を出してるやつから、良いモンくれてやるって、”チップ”みたいなもん渡されて─────」
「出して、そのチップ、今すぐ」
すっかり怯え切った獅子の獣人は首に剣をかけられた状態で震える手で懐から黒い3㎝ほどの長方形のカードを取り出し、鳥花に見せた。
「....それは俺の物だ、返してもらうよ」
鳥花の一切情を含まぬ冷たい声に獅子の獣人は素直に従い、鳥花に黒いカードを取り出した。
鳥花は一瞬それを確認した後ポケットに突っ込み、再び獅子の獣人に問いただした
「ところで君達のボスは誰?正直に言えば、命だけは見逃してあげる」
「そ、それは─────」
獅子の獣人が何かを言いかけた瞬間、獣人は胸を押さえ、倒れ込んだ
「え?」
尋常ではない獣人の様子に驚いた鳥花は正面から倒れ込んだ獣人を急いで起こそうとし、その巨体に手を付けるが、その瞬間、一つの事実に気づく
「嘘だろ…脈が無い。死んでる」
すぐに他の二人の獣人も確認したが、同じように脈が無く、死んでいた。
ここまで散々現代日本は治安が良くないと話してきたが、流石にこうも簡単に人が死ぬことは無い。
しかも外的要因も見つからず、不自然に、いきなり死んだ。
流石に異常と言わざる負えない。
事態は自分の思っているより深刻であることを悟った鳥花は少女を連れて急いで異界を抜ける判断を下す
「....おい、君!起きて!起きるんだ!」
ハイエナの獣人に手刀を叩き込まれ、地面に倒れ伏して気を失う少女の頬をぺちぺち叩いて覚醒を促すが、一向に起きない。
このままでは不味いと判断した鳥花は再び鳥を出現させ、荒療治に移る事を決意する
「ごめん、チョーッとだけピリッとするよ....」
鳥に少女の頬を咥えさせ、その状態で鳥花が指をパチリと鳴らすと鳥が電撃を帯び、少女に突然の目覚まし電撃マッサージを食らわせる
「....ぅ.....って!痛い痛い痛い痛い!!!ってあれ?さっきの人たちは?」
少女は目を見開き飛び起きた。
「.......貴方、何かの種族のハーフか?」
先程は遠くからだったいで気づかなかったが近くで見ると少女の瞳は赤く、その輝きはまるで紅玉の様であり、鳥花は思わず驚きの声を漏らした。
「いや、普通に純人間だけど....」
その言葉に鳥花は胸を撫でおろす。
現代世界において赤い瞳は”あの”種族の象徴である。
一瞬喋った際に口元も確認したが普通の人間と同じ歯に加え、別に髪もそこまで長くなく、ただの後ろ結びで、髪色も白ではないただの黒色....それが意味することはこの少女はただの世にも珍しい赤い瞳を持った少女という事になる。
一応本人にも確認しようか考えたが失礼だろうと考え辞めることにした。
─────しかし、後にこの判断が間違いであったことを鳥花は後悔することとなる
「....ねぇ、もしかしてあの獣人たち、君が倒したの!?」
鳥花が長考している間に少女は自分で周りを見て状況を察したのか、興奮しながら鳥花にたずねてきた。
無駄に説明する必要はないと考えた鳥花は無言でコクリとうなづいた
「凄い!君純人間だよね!?どういう事!?」
「ごめん.....詳しい説明は後だ、今は俺について来て!」
これ以上会話を長引かせるわけにもいかない鳥花は分が悪そうに頭を掻きむしりながら少女に続けて言った
「俺達は今から急いでコロドから出なければらない、ほら、立つんだ」
少女は自分の質問が切り捨てられてしまったことにしょんぼりしつつも、鳥花が差し伸べた手を取り、立ち上がった。
鳥花はそのまま無理やり少女の手を引き、元の路地裏へ向かう。
「ご、ごめん!」
出口に向かっていた鳥花は少女の声に思わず足を止め、後ろを振り返った
「そ、その、助けてもらって図々しいんだけど、頼みがあるの」
「頼み?ごめんけど後でも良いかな?今は時間が─────」
鳥花にとって現状は非常によろしくない。
先程突然死を遂げた獣人たち....それが意味する事、それは恐らく獅子の獣人がボスと言っていた誰か....それこそ、殺人に対して一切躊躇の無いイカれた野郎がここに来る可能性が高いと踏んでいたのだ。
鳥花は別に戦闘狂ではない、というか本音を言えば戦うのはあまり好きじゃない、そんな彼からすればそんなのを相手にするのは面倒どころでは無い、逃げる以外選択肢は無いのだ。
しかし、そんな固い決心をした鳥花を少女は突き動かした
「私の友達が、見てない?」
「.......もしかして、その子も攫われたのか?」
少女の答えは”YES”、それに鳥花は頭を抱えそうになるが少女に不安を与えてはならないと思い、寸前で踏みとどまる。
話をさらに聞くと、その友達は少女よりも先に誘拐され、少女はそれを追ってしまったせいで捕まってしまったらしい。
「....君と一緒に攫われたならそう遠くには行ってないはずだ」
鳥花は頭の中でプランを組み立てなおし、赤目の少女の友人救出に向けて動き出す
「君の攫われた友人の特徴を教えてくれ、出来るだけ簡潔に、早く頼む」
「探してくれるの!?ありがとう!あ、特徴よね、特徴は.....」
少女から聞いたその人物の特徴は以下の通りだった。
・純人間の少女
・黒髪のおかっぱ
・人参高校の制服
これらの情報をもとに鳥花は再び力を発動し、鳥にカメラを付けて空に放った
「その鳥、どこから出したの?」
「俺の虚っていうんだけど……あ、見つかった」
「見つかった?え、早!?」
鳥花はカメラの画面を宙に投影し、それが友人かどうか少女に確認を促す
「あ、間違いない!この女の子、私の友達....だけど」
「何か、隣に変な奴がいるけど、アレも知り合い?」
言われた特徴と一致する少女の隣には、狼の獣人が歩いていた。
恐らく、というか間違いなくあの獅子の獣人たちの仲間だろう
「早く助けに行かなきゃ!」
衝動的に走り出そうとする少女の襟根っこを掴み、制止する。
「待って!こっちから行かなくとも、あっちから来てくれる。それに、君が行くのは危ないからココで隠れてて」
少女は鳥花にカメラ映像を見せられた後一瞬考え、鳥花の言葉に納得したのか、素直に従い、路地裏に隠れ、鳥花と共に捕まったもう一人と狼の獣人を待った。
「.......来たか」
鳥に付けたカメラ映像を確認するとそこには先程倒した獣人たちの安否を確認する狼の獣人の姿があった。
そして件の少女の友達は下を俯きながら、狼の獣人に付き添っていた。
─────何かが変だ
根拠のない一抹の不安が鳥花の心を支配する
「”回想”」
しかし今が好機だと判断した鳥花は先制攻撃を仕掛ける為、一抹の不安を無視し青い鳥に電撃を纏わせる。
「ライオ....どうしてこんな事に.....!」
狼の獣人が息絶えた獅子の獣人の前で悔しそうにつぶやく。
恐らく、チンピラとは言えども、一定以上の絆はあったのだろう
一瞬心が痛みそうになるが、殺したのは俺では無いと切り捨て、鳥花は技を発動する
「”スタンバード!”」
電撃を纏った鳥が、狼の獣人のうなじに嘴を突き刺し、そこから微量の電気を流し込むこ形でスタンガンの要領で相手の意識を奪う技。
それが見事にヒットし、狼の獣人は白目を剥きながら音も無く倒れる。
カメラから完全に意識が消えたことを確認した鳥花は少女に合図を送って、路地裏から困惑と恐怖に駆られている彼女の友人の方へ向かう。
「実葛ちゃん!大丈夫!?」
友人の元へ駆けつける少女は、これまでの恐怖からか、はたまた友人を安心させるためか、その場にへ垂れ込んでいた友人を抱き留めようとしていた。
鳥花が彼女らの感動の再開を邪魔するわけには行かないと思い、遠くから傍観しておくことを決めようとした時だった。
彼が不意に見た、少女の友人が伸ばした手には、紫色の靄がかかっていた。
それが意味するのは、鳥花が使う”力”と同質の、誰かを、攻撃するための物
「その女から離れろッ!」
「え───?」
鳥花は急いで飛び出し、少女の友人の手を取り払いながら、少女を突き飛ばす
「お前....今何しようとしてた?」
地面にへたり込んでいた少女の友人は、不敵に笑いながら立ち上がる
「なんだ、君だったのか、蕪野鳥花」
「どうして俺の名前を知ってるんだい?というか、君...ヴァルキリアだな?」
「ご名答!本当は今ので鬼灯ちゃんを気絶させて持って帰る予定だったけど....プラン変更、君もお土産リストに追加だ!」
「え?実葛ちゃん?急に、何?私を気絶させるって...それに、なんで彼の名前を?」
一人置いてけぼりの少女は突然出てきた謎の単語と、友人の襲撃計画を聞かされ頭の中は疑問と混乱に支配されてしまい、その場に崩れ落ちる。
その様子を見かねた鳥花は少女に再び指示を出す。
「おい君!今すぐこっから逃げろ!出来るだけ遠くに!」
「なん─────」
「なんでじゃない!早く逃げなきゃ君も殺されるぞ!」
先程までとは剣幕の違う鳥花の勢いに少女も怯み、数瞬考えた後、鳥花の顔を見てその場から走り出した
「それで良い.....で、結局亜人共の親分は君って事で間違いないよね?」
「話が早くて助かるよ、鳥花君。君の言う通りだ」
一切笑みを崩さない目の前の女は着用していたブレザーを脱ぎ捨て、林檎と蛇の紋様が刻まれた腕を露わにし、高らかに叫ぶ
「改めて名乗ろう!私はヴァルキリア、”墜落の魔女”『春野 実葛』だ!」
「.....それなら俺は....記録者、”記憶の賢者”『蕪野 鳥花』君達から、罪なき人々を守る者だ」




