第7話 装備を整えよう
「それじゃあタクトの装備を選ぼうか」
場所は変わって白銀商会。タクトの返事を待たぬままツカサは皆を連れ白金商会にやってきていた。
「おいツカサ、俺はまだダンジョンに入るとは言ってないぞ」
「そんなに心配することはないよ。僕やネコ君も付いているから安全だよ。それにほら、あれを見てご覧よ」
タクトが見た先にはシルビアが店内に並ぶ武器を一つ一つ手に取り真剣に吟味していた。どうやらシルビアはダンジョンに入る気満々のようだ。
「…わかったよ。言っとくけど俺は初心者だから何も分からないぞ」
観念したタクトは自分の装備を選ぶことにした。
「ツカサ、この人形に攻撃すればいいのか?」
まず武器を一通り試すことになったタクトは店の地下にある闘技場のような場所にいた。正面には藁人形が一体立っていた。
ここは販売されている装備やアイテムを試すことができるスペースでダンジョンと同じ環境が人工的に再現されている。
「うん、ただの藁人形だから思い切りやっちゃっていいよ」
「わかった、いくぞ」
タクトは剣を構え、藁人形に斬りかかる。
「あれ?」
剣は藁人形の途中で止まってしまう。どうやら筋力が足りなかったようだ。
「ドンマイですにゃタクトさん。さ、他のも試してみましょうにゃ」
「ああ、わかった」
その後も槍や斧など色々試してみるもどうやら物理で殴る武器はタクトには合わなかったようだ。
「まぁ今まで武器なんて使ったことなんかないしこんなもんだよな」
「タクト、今度は魔法を試してみようか」
「魔法?使い方なんて全然わからないぞ」
「大丈夫、これを使えば魔法を発動できるはずだよ」
ツカサが用意したのは先端に丸い玉のついた杖。いかにも魔法使いが持っていそうな武器だ。
「その杖に魔力を込めて敵に向ければ魔法が発動するんだ」
「なぁツカサ、魔力ってどうやって込めればいいんだ?」
「普段シルビアちゃんにやっているようにすればいいよ」
「シルビアにやってるみたいにか。こうか?」
言われたように杖に魔力を集めるタクト。
すると杖の先端の玉は物凄い勢いで輝き出す。
「おいツカサ、これって大丈夫なのか?」
明らかに異常だとわかる状態に焦るタクト。
「タクト、今すぐ魔力を込めるのをやめるんだ!」
「無理だ止められない」
「ネコに任せるにゃ」
ネコは駆け出しタクトから杖を奪い取ると藁人形に向かって投げた。
藁人形に刺さった杖は光が収まるどころか更に輝きを増していく。
「皆、急いで僕の後ろに!」
いつの間にか大きな盾を構えたツカサの後ろに避難するタクトたち。
藁人形に刺さった杖は強い光と共に衝撃波を放った。盾を構えたツカサの後ろ越しでも強い衝撃が伝わる。
「皆、もう大丈夫だよ」
ツカサの呼びかけで閉じていた目を開くタクト。藁人形があった場所を見ると地面はえぐれ藁人形と杖は跡形もなく消え去っていた。
「なぁツカサ、あの杖って何か特別な武器だったのか?」
「いいや、ただの市販品だよ」
どうやら原因は武器ではないらしい。となるとタクトに原因があるようだ。
「タクト、魔力検査は行なったことあるかい?」
「ああ、魔力の有無を確認するやつだろ。それならスキル鑑定の時にやったことがあるぞ」
「その様子だと細かい検査は行なっていないようだね」
「ああ、簡単なやつだけだな。ダンジョンに入るつもりもなかったし」
「…これは僕のミスだね、タクト申し訳ない。まず先にダンジョン適性検査から始めるべきだった」
頭を下げるツカサ。
「まぁ皆無事だったいいよ。それより検査って何するんだ?」
「そんな大げさなものじゃないさ。健康診断みたいなものだと思ってくれればいいよ。ここでも検査は受けることができるから移動しようか」
タクトたちが向かった先はダンジョン適性検査を受けることができる部屋。白銀商会では商品の販売以外にも探索者が必要とすることは一通り行えるようになっていた。
部屋には医療機器のようなものが並んでいる。先程のツカサの言葉通りこれから人間ドックを受けるような気分にさせられる。
「早速タクトの検査を始めようか。それとシルビアちゃんも一緒に検査しようか。そっちはネコ君、頼めるかな?」
「任せるにゃ」
シルビアもタクトと一緒に検査をすることになった。
「ん?シルビアも検査する必要あるのか?」
「さっきの件もあるし念の為、かな」
タクトのスキルから生まれたシルビアも普通のゴーレムではない可能性がある。
ツカサは先程の失敗から気になる事は後回しにしないことにしたようだ。
「うん、これで検査は終わりかな。タクトお疲れ様。ネコ君、そっちはどうかな?」
「こっちも終わったにゃ。師匠お疲れ様ですにゃ」
1時間程で一通りの検査を終えたタクトとシルビア。
「それで結果ってすぐにわかるのか?」
「少しお時間がかかるから休憩して待とうか」
結果が出るまで以前ツカサと出会った衣装の並ぶ場所に移動し休憩するタクトたち。
「あっ、結果が出たようだね」
どうやらツカサの持つタブレットに検査結果が届いたようだ。ツカサからタブレットを受け取るタクト。
「なぁツカサ、これってどう見たらいいんだ?」
ダンジョン関連の知識がないタクトには記載された数値を見てもさっぱりの様子。ツカサにタブレットを戻す。
「…なるほど。タクト、さっきの事故の原因がわかったよ」
「やっぱり俺が原因なのか。それってヤバいやつか?」
「危険ではないよ。原因は単純でタクトの持っている魔力が多すぎて武器が耐えられなかっただけだよ」
どうやらタクトの魔力量は一般的な探索者よりもかなり多いらしい。
「ネコにも見せて下さいにゃ。ホントだ魔力量だけあり得ない数値してるにゃ。あ、でも他は一般探索者以下だから安心して下さいにゃ」
タブレットを見たネコがフォローなのか分からないコメントをする。
「これだとタクトがダンジョンに入るのは難しいかもしれないね」
「いや俺はそこまでダンジョンに入りたい訳じゃないからいいんだけど…」
「そもそもゴーレムマスターなのに自分で戦おうとしてる人の方がおかしいにゃ。タクトさんは気にする必要ないですにゃ」
「そういえばツカサの前のスキルは何だったんだ?」
「僕のスキルかい?『剣聖』だよ」
「戦闘スキルの中でも最上位のスキルなのにゴーレムの為にあっさり変えるなんてあり得ないですにゃ」
「理想のゴーレムを作るのが僕の夢だったからね。それにスキルを上書きしても今まで通りに戦えるから問題ないよ」
どうやらスキルによっては別のスキルに変更しても元のスキルの技能などは引き継がれたままになるらしい。
残念ながらタクトのスキルはそのタイプではなかったようだ。
「そういえばシルビアの結果も出てるんだよな?そっちはどうなんだ?」
「今画面を切り替えるね」
シルビアの検査結果を確認する一同。
「うん、ある程度予想はしていたけど凄いね」
「何が凄いんだ?」
「師匠は最強のメイドゴーレムってことですにゃ」
今まであらゆるゴーレムを見てきたツカサですらシルビア以上のゴーレムは知らないと言う位の性能をシルビアは持っていると言う。
タクトの膝の上に乗るシルビアは褒められて上機嫌だ。
「じゃあさ、シルビアがいれば俺は戦わなくてもいいってことだよな」
「普通のゴーレムマスターはそうですにゃ」
ツカサにジト目を送るネコ。
「はは…、今回の件は全て僕に非があるね。本当に申し訳ない」
謝罪するツカサ。どうやらゴーレム関連の事になると暴走してしまうのが今回判明した。
「それじゃあシルビアがいれば俺は戦う必要ながないってことだな。使える武器もなさそうだし」
「そのことなんだけど…、実はタクトに試して欲しいものがあるんだ」
「…今度は危険じゃないんだろうな?」
先程の件もあり警戒するタクト。
「はは、それは保証するよ」
「反省しているようだし大丈夫か、それで何を試すんだ?」
「うん、ゴーレム技術を応用した試作品でね…」
こうしてタクトはツカサの用意した試作品を試すことになった。