第4話 増える入居者とメイド
白銀商会で買い物をしてからしばらく経ったある日の休日。
タクトとシルビアは買い物からの帰宅中。
シルビアはメイド服ではなくワンピースを着ており髪も下ろしている。この前購入した服は外出用として着ることにしたらしい。
外出といってもただの買い出しなのだが、タクトと出かける時はわざわざ着替える位気に入っているようだ。
アパート近くまで来ると数台の大型トラックがタクトとシルビアの横を通り過ぎる。大型トラックはアパートのある方向からやって来た。
新しい入居者でも来たのだろうか?そんな話は聞いてないと思いながら敷地内に入ると、
「やぁおかえりタクト、シルビアちゃん」
アパートの前でツカサとマリーがタクトとシルビアを出迎えた。
「白銀ツカサとマリー、今日からこのアパートに越してきました。以後よろしく」
挨拶するツカサとペコリとお辞儀するマリー。
「…はぁ、色々聞きたいことがあるけどとりあえず俺の部屋に行こうか」
ひとまずタクトの部屋に集まり話をすることにした。
「ほぅ、ここでシルビアちゃんが生まれたのか」
「狭いけど我慢してくれ」
あまり物を置いていないとはいえワンルームなので客をもてなすには少々手狭だ。
「そういえばツカサの部屋も同じくらいだよな?狭くないか?」
「問題ないよ。広げたから」
「広げた?」
アパートは二階建てで各階三部屋となっている。一階の角部屋は大家のミコトが住み、タクトの部屋はその上の二階の角部屋にある。
ツカサは二階の残りの二部屋を借り、その壁をぶち抜いて一部屋にしたそうだ。他にも敷地周りのセキュリティ強化に白銀商会謹製のアイテムをふんだんに使用したという。
改装諸々の費用及び、維持費は全てツカサ持ちということでミコトからの許可はあっさり降りたとのこと。
「あと空間拡張アイテムも使ったから特に不便はないかな?そうだ、タクトも良かったら使うかい?」
「いや、これ位の広さがちょうどいいから必要ないかな。シルビアありがとう」
メイド服に着替えたシルビアがお茶を出す。
「それでツカサ、なんでここに越してきたんだ?」
タクトが本題を切り出す。
「うん、あの後マリーから初めてお願いされてね。それでここに引っ越すことになったんだ。ちょうど部屋も空いてたしね」
「うん、さっぱりわかん」
「つまりマリーもシルビアちゃんと一緒にここで働くってことさ」
今日のマリーの服装はメイド服で髪もシニヨンヘアとなっている。シルビアとお揃いにしたのかと思っていたが違ったようだ。
「良かったなシルビア。マリーちゃんも一緒に働くってさ」
シルビアはマリーの手を取りクルクルと回り出す。
こうしてアパートに新たな住人とメイドが増えた。
ツカサとマリーが入居した翌日。
タクトはいつも通り大学へ。シルビアはマリーと共にアパートの清掃などミコトの手伝いへと向かう。
午後、タクトが大学から帰宅する。
「ただいまシルビア」
シルビアが駆け寄ってくる。続いてツカサとマリーがやってくる。
「うんうん、今日も頑張ったんだな偉い偉い」
腰に抱きつくシルビアの頭を撫でる。
「マリーちゃんもお疲れ様。大変だったかな?」
マリーはタクトの元に近づくとシルビアの反対側から抱きついてきた。
「マリー⁉︎」
マリーの行動に驚くツカサ。マリーはタクトの顔をじっと見つめる。
「うん、マリーちゃんも頑張ったんだね。偉い偉い」
タクトはシルビアと同じようにマリーの頭を撫でる。マリーが嬉しそうにしているのが伝わる。
「タクト、それ僕がやるやつ…」
「ツカサもマリーちゃんの頭撫でたいって。どうする?」
タクトがマリーに尋ねるとマリーはプイッと顔を横に振る。
「ダメだってさ」
「そんなぁ」
ガックリ項垂れるツカサ。
「ツカサ、何か心当たりはないのか?」
「うーん、今日はずっとマリーを見守っていただけだけど…」
「それだな」
「どういう事だい?」
「きっとマリーちゃんは自分一人の力でやってみたかったんじゃないかな。ツカサ、ただ見守るだけじゃなくて横から口出ししてたんじゃないのか?」
タクトの言葉にマリーが同意するように頷く。
「ツカサだって好きな事してる時に横から口出しされるの嫌だろ?」
「…そうか、僕は無粋な事をしてたんだね。すまないマリー、次から気をつけるよ」
マリーに頭を下げるツカサ。マリーはツカサの頭を撫でる。どうやら仲直り出来たようだ。
「そういえばツカサって普段何の仕事してるんだ?」
「うーん、前は色々やってたけど今は店のオーナーだけかな」
マリーをお迎えする前までのツカサは探索者の他、白銀商会の製品開発など精力的に活動していたとのこと。
その理由は理想のゴーレムを生み出す為だ。
マリーをお迎えして以降は最小限の仕事だけに絞り、それ以外の時間をマリーと過ごす為に費やしていた。
「いい機会だし何か仕事を再開させてもいいんじゃないか?」
「そうだね、考えてみるよ」
翌日。タクトが大学から帰ってくると、
「僕、動画投稿を始めることにしたよ」