第3話 白銀商会
週末。連休明けから初めての休日。タクトとシルビアはダンジョンショップの前にいた。
きっかけはミコトからの一言だった。
「えっ、シルビアちゃんの服それしかないの?」
シルビアの装備は元々着ていたメイド服一式のみ。それ以外の持ち物はなかった。
不潔かと思われるがゴーレムには自身を浄化する機能があり洗濯や風呂に入る必要がない。更に食事の必要もなく手間が掛からない。細かいメンテナンスを必要としない。これがゴーレムの利点だ。
一度シルビアに必要なものがないか聞いたが特に要望がなかったのでそういうものかと思っていたがどうやら違ったようだ。
タクトはミコトから女の子は色々入用なのだと説明される。ボサボサ頭のジャージ姿の人に女子力についてとやかく言われるのは納得いかないと感じながらもアドバイスはしっかりと聞くことにした。
ゴーレム用の商品を扱っている場所を調べてみるとどうやらダンジョンショップにて取り扱いがあるとわかる。
ダンジョンショップ。その名の通りダンジョンに関するものを専門に取り扱う店で、装備や武器アイテムの他に従魔関連の品も取り揃えている。
この辺で一番近くにあるダンジョンショップは白銀商会。ダンジョン関連のことに疎いタクトでも聞いたことがある位有名な大手だ。
ゴーレム関連の商品の取り扱いもあるらしいのでここに行くことにした。
自転車で三十分弱、目的地の白銀商会に着く。
建物の見た目は普通の店と変わらない佇まいだ。中に入る。店内はホームセンターのようなレイアウトで棚には様々な武器や道具が並んでいる。
タクトとシルビアはゴーレム関連の商品がある場所を探す。入口にあるフロアガイドを見るとどうやらゴーレム関連のものは二階にあるようだ。
エスカレーターで二階に移動する。二階に上がると先程とは景色が一変する。タクトの目に入ったのはアパレルショップのようにずらっと並ぶ衣装の数々。
先程のホームセンターとはコンセプトが真逆で店を間違えたのかと勘違いする位店内の様相が変わっていた。
タクトがあっけに取られていると奥から誰かやってくる。
「ようこそ白銀商会へ、僕の名前は白銀ツカサ。君達が来るのを楽しみに待っていたよ」
タクトとシルビアの前に現れたのは真っ白なスーツ姿の銀髪の男性。整った顔立ちに八頭身のスタイル、映画やアニメからそのまま出てきたかのようなイケメンがそこにいた。
「さ、マリーも挨拶しようか」
ツカサの後ろからチラチラと顔を出していた少女が姿を見せる。真っ白なフリルのロリータファッションに身を包んだ白い髪の少女。その雰囲気はどこかシルビアに似ている。
マリーと呼ばれた少女はおずおずとツカサの前に出るとペコリと頭を下げる。
ツカサに奥のスペースに案内されるとそこにはテーブルと椅子がありテーブルの上にはお茶とお菓子が用意されていた。
「改めて自己紹介を。僕は白銀ツカサ、この店のオーナーであと探索者もやってるよ」
白銀ツカサ。国内大手のダンジョン商会、白銀商会社長の息子でAランク探索者。タクトでも名前は知っている有名人だ。
「そして隣にいる可愛い女の子はマリー。そこのお嬢さんと同じゴーレムだよ」
紹介されたマリーはペコリと頭を下げるとそのまま俯いてしまった。
続いてタクトも自己紹介する。
「自分は灰原タクトです。この子はゴーレムのシルビア…、ちゃんと挨拶しなさい」
ダブルピースするシルビアを嗜める。
「ははっ、シルビアちゃんはお茶目さんなんだね」
「すみません」
「そう畏まらなくていいよ。それと言葉を崩してくれて構わないよ。僕たちはもう友達じゃないか」
「友達?…わかったよツカサ」
初対面のはずなのにもう友人認定され戸惑いながらもとりあえず受け入れることにしたタクト。
シルビアがマリーの手を引き店内を見て回っている。気になるものを見つけてはマリーに質問しているようだ。
「うんうん、やっぱり絵になるね。僕の見立て通りだ」
「なぁマリーちゃんは嫌がってない?大丈夫か?」
「問題ないよ。ほら見てごらんよ、マリーもお友達ができて嬉しそうだ」
「そうなのか?それならいいけど」
マリーもシルビア同様ゴーレムの為表情が変わらない。今どういう気持ちなのかぱっと見わからないがツカサが大丈夫というなら問題ないのだろう。
店内を回り終わったのかタクトとツカサの元にシルビアとマリーがやってくる。
「シルビア、もういいのか」
コクコク頷くシルビア。
「マリーちゃんお疲れ様。シルビアに付き合ってくれてありがとう」
マリーにお礼を言うとマリーはペコリと一礼する。
「ははっ、お友達ができてよかったねマリー。あんなにはしゃいでいるの久し振りに見たよ」
マリーはツカサの足をげしげし蹴る。
「ん、どうしたシルビア?」
シルビアがタクトの腕を引く。
シルビアに連れられ向かった場所はワンピースが並んだコーナーだった。
「えーと、シルビアの服を俺が決めればいいの?」
コクコクと頷くシルビア。どうやらシルビアはタクトに服を選んで欲しいようだ。タクトはシルビアからいくつかのデザインのワンピースを見せられる。
「うーん、シルビアに似合うのはこれかなぁ」
タクトが選んだのはシンプルなデザインの白のワンピース。あまりファッションに詳しくないのもあるが、余計な装飾がない方がシルビアには映えると思ったからだ。
「決まったかい?せっかくだから試着してみようか」
ツカサに案内され試着室に向かうとシルビアはタクトが選んだワンピースを試着する。
「うん、よく似合ってるよシルビア」
タクトの選んだワンピースはシルビアの魅力を十二分に引き立てていた。シルビアも満足げな様子だ。
「それじゃあ支払いしようか。ツカサいくら?」
「代金は不要だよ。それはプレゼントするよ」
ツカサは友人となった記念にプレゼントしてくれると言うがシルビアはそれを拒否した。
「そうだな、せっかくお給料もらったんだし自分で買いたいよな」
「…その話詳しく聞いてもいいかい?」
タクトの不在時にシルビアのことをミコトに預けその間シルビアはミコトの手伝いをしていた。
当初ミコトは軽い気持ちでシルビアに手伝いを頼んだらしいがシルビアのプロレベルの仕事を目の当たりにし、正式に仕事として報酬を支払うこととなった。
ちなみにまだ数日しか働いていないので今回の買い物の為に幾分か前借りしている。
「なるほど、そういうことなら僕の提案は無粋だね。有り難く代金を頂戴するよ。シルビアちゃんは凄いね。もうお仕事しているなんて」
ツカサに褒められ上機嫌のシルビア。その場で小躍りを始める。
いざ支払いとなったのだが予算オーバーで手持ちが足りなった。今まで利用することがなかったので失念していたがダンジョン関連の品は通常のものよりお高い。
先程のハイテンションから一変、シルビアは頭を垂れ落ち込んでいた。
タクトがどうするか思案しているとツカサから助け舟があり、割引してもらうことで予算内ギリギリでなんとか購入することができた。
最後は格好つかない形にはなったがシルビアの買い物は無事完了した。
「今日はありがとうツカサ、マリーちゃん」
二人にお礼を言うタクト。シルビアもペコリと頭を下げる。
「お礼を言うのはこっちもだよ。今日は楽しかったよ。ね、マリー?」
ツカサに尋ねられコクンと頷くマリー。
店を出るタクトとシルビアを見送るツカサとマリー。
「ん、マリーどうかしたかい?」
マリーがツカサに何かを伝える。
「うん、わかった。マリーからのお願いなんて初めてだしね。早速連絡してみようか」