第13話 世界を変えるものたち
「マスター、どうぞ」
「ありがとうシルビア」
船のデッキのベンチでくつろぐタクトにドリンクを持ってきたシルビア。
タクトとシルビアは船でクルージング中のようだ。
あれから月日は流れ、四年後。
メイド喫茶『キャットテイル』はその後店舗を増やし、全国各地に多くの姉妹店を持つほどになった。
全ての店舗を束ねる大メイド長となったネコは忙しくも楽しそうに日々を過ごしている。
「ツカサも一緒に来れればよかったのになぁ」
ツカサは現在、従魔たちの地位向上のために探索者協会などの関係各所を駆け回っていた。
従魔たちには様々な種族がおり、動物系の種族は見た目が可愛らしいものはペットのようなものとして扱われていた。
そしてゴーレムなどの非生物系の従魔に関しては、機械的な見た目と自我をあまり表に出さないことからロボットのようなイメージが強く、生物としてではなく道具扱いされていた。
従魔は人類と対等なパートナーであるべきだ。
現状の従魔の扱いを変えるべくツカサは探索者協会をはじめ、関係各所に全ての従魔たちのために駆けまわっていた。
「まぁ動機がマリーちゃんと結婚したいからっていうのがツカサらしいけど、やっていることは凄いことだよな」
「はい、ツカサには一日でも早く世界を変えて欲しいものです」
「世界を変えるだなんて大げさだな。でもネコさんもツカサも実際凄いことしてるからあながち間違いじゃないのかもな」
ネコやツカサのことをまるで他人事のように言うタクトだが、世間の認識ではタクトもその内の一人に含まれていることにタクト自身は気付いていない。
タクトとシルビアが乗っている船はクルーザー船だが、海ではなく空を飛んでいる。
試作型魔導船。
ファンタジーゲームでよく見る空飛ぶ船だ。
現在、自動車や鉄道、船などの既存の乗り物は動力源が魔力を使うものに置き換わっているが、陸上水上の乗り物だけに留まっていた。
魔力が飛行機の動力源に利用されていないのは消費する魔力量が他よりも多い上に、何故か空中では魔力の出力が不安定になるからだ。
原因については判明しておらず今日までその研究は難航していたのだが、最近になり進展があった。
そのきっかけとなったのはタクトの存在だ。
元々タクトの持つ魔力量は人並外れたものだったがその後も増え続けていた。
『キャットテイル』から解放され手の空いたタクトはその莫大な魔力を様々な研究機関の実験のために提供していた。
そうして完成したのが現在二人が乗っているこの試作型魔船だ。
タクトとシルビアは現在、試作型魔導船の最終テストとして国内の空を回っている。
タクト本人は知らないことだが、このことは国内外で大きなニュースとなった。
「うん、この調子なら最後まで問題なさそうだな。でもこの船多分俺しか使えないと思うんだけど大丈夫なのかな?」
「マスターがそれを気にする必要はありません。それより見てください。ほらあそこにクジラがいますよ」
シルビアが指差すほうを見ると大きなクジラが潮吹きをしており、その頭上には大きな虹がかかっていた。
「おおー、きれいだな」
「マスター、この旅行が終わったら次はどうしますか?」
「旅行って一応これは仕事なんだけどな。うーんそうだな、しばらくはゆっくりしたいかな」
「ではミコトが最近買った別荘に行きましょう。そこなら誰の邪魔も入りません」
「そうなのか。じゃあ帰ったらミコトさんに許可もらうとするか」
その後空の旅を無事終えたタクトとシルビアは人里離れたミコトの別荘へと向かい平穏な日常を過ごす。
世界が変わってもタクトの日常は変わらない。
これからも仲間たち、そしてシルビアと共にあり続けることだろう。
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