第1話 石も積もればゴーレムができる
ダンジョンやスキルが当たり前のようにある世界。15歳になるとスキルが一つ手に入る。
灰原タクトが手に入れたスキルは『ガチャ』、1日1回ガチャを回すことが出来て一つアイテムが得られるというものだ。
このスキルは俗にいうハズレスキルと言われている。その理由はアイテムの排出率だ。
出てくるアイテムの9割は何の使い道のないただの石。たまに他のアイテムペンや水などの日用品が出てくれば御の字、ポーションが出れば大当たりと言われる程の渋さだった。
この『ガチャ』スキルの発現者はそれなりにいるが一部の物好きを除いてほとんどの人は高い金を支払いスキル変更していた。
その代金も探索者になればすぐにチャラになる位稼げるので『ガチャ』スキルに限らず役に立たないスキルを持ち続けている者は少ない。
不要なスキルを抱え続けるより役に立つスキルに変えたほうがいいに決まっているからだ。
灰原タクトはそんな一部の物好き側の人間でこのスキルを変更することなく毎日欠かさずガチャを回していた。しかし出てくるのはただの石だけ。
この石は何か使い道や意味があるのではと研究されているが、有用な活用方法は現在も見つかっていない。
『ガチャ』スキルを得てから三年、タクトは大学生となっていた。
日課のガチャは未だに続けているが出てくるのはただの石のみ。部屋の一角には山のように石が積み上がっている。
この石は研究機関に持っていけば二束三文ではあるが買い取って貰える。だがタクトは今まで出た石を全て手元に残していた。特に理由はなくただなんとなくもったいないというだけ。
タクトにはダンジョンに入って一攫千金を狙ったり人気者になりたいという気持ちはない。
別にダンジョンに入らなくても凄いスキルがなくても生きていける。実際ダンジョンだけで生計を立てている者はごく一部。大半の人は小遣い稼ぎや趣味程度で探索者をしている。
タクトがスキルを変えないのは必要がないから。そもそもダンジョンに入らないのならわざわざ高いお金を支払いスキルを変える必要もない。
ガチャを回すのはなんとなく日課になっているから。課金したスマホゲーを勿体ないからと惰性で続けるのと同じ感じだ。
大学に入って一ヶ月、大型連休に入る。
同級生たちがこぞってダンジョンに入る中、タクトは自宅でのんびり過ごしていた。
大学入学を機に一人暮らしを始め、現在はアパートで暮らしているタクト。部屋の一角には石の山が積み上がっている。実家に置いて置くと勝手に捨てられそうな気がしたので全て持ってきていた。
今日も日課のガチャを回す。出たのはいつも通りただの石。普段ならそのまま置き場に積んで終わりだが今日は何と無く観察してみることにした。
改めて石を観察してみるが何の変哲もないただの石。気になることと言えば全て真っ白なことぐらいだ。
タクトは石の山を崩し床一面に広げてみる。そして石を一つ一つ確認し始める。三年間ガチャを回して出たハズレ石は大体千個近くになる。
ハズレ石は全て真っ白で大きさは小指サイズから拳大まで様々。この石は何の効果もなくただの石ということはわかっている。
なんでも魔石など違うアイテムが出るとガチャ演出があるらしい。
広げた石を手に取りジャラジャラさせる。こうしてるだけでも童心に戻った気がして意外と楽しい。
広げた石をぼーっと眺めていると隣り合った石がくっついているように見えるものを発見した。それを手にとってみると少し欠けてはいるがパズルのピースのように上手く組み合わさっていた。
他にも似たようなものはないかと根気よく探してみる。すると同じようなものがいくつか発見できた。
複数見つかったということはただの偶然ではないだろう。
使い道がないと言われていたハズレ石で何かできるかもしれない。そう思ったらなんだかワクワクしてきた。
それからタクトは石の選別作業を寝る間を惜しんで続けた。最初は点々としていた小さな塊もだんだん形状がわかるようになってきた。一つ一つ慎重に接着剤で固定していく。
やがて人型の頭、胴体、腕、足のようなものが組み上がっていった。
そして連休最終日、全ての石を使い組み上がったのは50cm程のひび割れた少女の像。その雰囲気は彫刻というよりかはドールに近い感じだ。
服は着ておらず生まれたままの姿だ。作り物とはいえ目のやり場に困るのでタオルで身体を隠しておく。
少女の像はただ組み上げただけの状態で所々欠けた部分やひび割れが目立つが補強はしていない。パーツを接着するだけに留めている。その理由は胸にぽっかり空いた穴。
明らかにここに何か入りますと言わんばかりのスペース。ここに埋まるものがわかるまでは下手に手を加えない方が良いと判断した。
しかし今日のガチャを回せば完成するはず。
作業中の期間にも回して出たハズレ石。これらも組み立てに必要だった。
だとしたらきっと今日出るものが最後のピースになるに違いないとタクトは確信していた。
いつも通りガチャを回す。
普段ならハズレ石が目の前に現れて終わる。しかし今日は違った。
タクトの頭上が虹色に光る。これが噂に聞いたレア演出なのだろうか。虹色の光はタクトの頭上を回転する。
やがて光が消えると赤い石が現れた。いつもの白いただの石ではない。それだけでも嬉しい。初めて手にするハズレ石以外のアイテムにタクトの気持ちは昂ぶる。
タクトは早速ネットでこの赤い石について調べる。外見が一致するものはゴーレムの核というアイテムだった。
ゴーレムの核。
このアイテムの特徴は誰でも簡単にゴーレムを作成でき使役できることだ。
通常モンスターを使役するにはテイムスキルが必要で、ダンジョンに入りモンスターを自らテイムしなければならない。
しかしゴーレムの核の場合その必要はない。ゴーレムの核さえあれば危険を冒すことなく簡単にゴーレムを手に入れることができる。
ただゴーレムの核がドロップする確率は非常に低い。
その為ゴーレムの核は人気があり高額で取引されている。使用せずこのまま売ってしまってもいい位のアイテムだ。
しかしタクトは換金するつもりはなかった。お金に興味がないわけではないが、それよりも目の前の少女の像の完成させたい気持ちの方が強かった。
タクトはゴーレムの核を少女の像に嵌め込む。予想通りゴーレムの核は胸の空いた穴にぴったり嵌まる。
ゴーレムの核が光ったと思えば少女の像全体が光に包まれる。
しばらくして光が収まるとひび割れた少女の像はメイド服を着た少女の姿に変化していた。