07
2ヶ月経った頃、若干の違和感を感じ始めた。
なぜかアナイス付きのメイドや下働きが少しずつ替わっていくのだ。それに、注意深く観察していると、新しく付いた女性達は総じてアナイスに対して敵対心があるように感じた。
(何かがおかしい…??)
(こんな事、前世ではなかった…?いや、急にアナイスが侍女として来た…あの時からメイド達がどんどん替わっていったような気がする…。結婚してからも反抗的な侍女が多くなったような…)
何か胸騒ぎを覚え始めた。アナイスに注意するように伝えた。
「私もおかしいと思っていたの。ルイーズも気を付けてね。」
「ええ。アナイス様には指一本触れさせません。」
「いやいや、違うわよ!!そういう意味じゃなくて、ルイーズだって王太子妃候補なんだから気を付けてって事よ?」
「え…?」
(何で私が候補の1人だってアナイス様が知っているの?)
血の気が引いていく。
「知ってるに決まってるでしょ!私を舐めてもらっちゃ困るわ!!」
「わたくしは、王太子妃候補だと思った事は1度たりともありません。愚父のせいでこうなってしまっただけで…申し訳ございません。アナイス様は、唯一の王太子妃候補です。」
「…何を言ってるの?王太子様の決定を侮辱するの?」
「滅相もございません。わたくしの王太子妃候補は父が無理やり候補にさせたようなもの。きっと王太子様もさぞお困りになったと思います。本当にお恥ずかしい限りです…わたくしは、ただただアナイス様と一緒に居たくて。側で支えたくてここに居るだけなんです。」
「!…そ、あ、…ありがとう。でも、…あなたも正式な王太子妃候補なのよ。私のライバルよ!…(そんな風に言ったら王太子様がお悲しみになるわ…)」
最後の言葉はルイーズには聞こえなかった。
アナイスは更に何か言いかけたけれど、やめた。ルイーズが何かを考え込んでいるようだったからだ。
(アナイスは私を今でもライバルだと思ってる。もしかしたら、前世と同じ結末になる??)
夜、自分の部屋に戻って考えた。
(ずっと死にたいと思ってた。今でも、いつ死んでもいいと思ってる。
…でも、アナイスが、今のアナイスが私を殺すかな…?
…これは、私の勝手な希望。ライバルであっても殺すまでは…いかない…よね…?
ただ、分からない。私が万が一でも王太子妃になってしまったら??態度が変わるかも…
でも、王太子妃になる事なんてありえない。そう、絶対にありえない。だからきっと大丈夫。…。
…今気になってるこの変な違和感が何事もなければ、すぐに修道院に入ろう。修道院なら父も追いかけて来れないはず。このままここに居たくない。早く死にたかったけど…嫌だな…アナイスに殺されるのは、何だか…本当に辛いもの… そんな事、無いって思いたいけど…怖い。)
それからというもの、注意深く周囲を観察していると、あからさまに前世のアナイスのような(顔と身体だけが取り柄で頭空っぽ)女性が侍女として入ってきた。
(これは絶対におかしい。)
侯爵家の令嬢みたいだが、確かにライバルの中にいたような気がする。ただ、自分もアナイスも全然相手にしてなかったような子だ。
(誰が裏にいるのか。まず、この替わっていく現状をどうにかしないと。この侍女は黒幕を探る為に泳がそう。)
まずは、替わった人達を元に戻す事と、今後一切アナイスを通さずに侍女や召使い等を勝手に替えない事をアナイス名義で申請した。申請先は王太子だ。この申請が通るのかを注視しながら、彼女がどうやって侍女として入れたかを探ると、宰相が浮上した。更に調べると、宰相の親族からの申請を宰相が受けて侍女として王宮に入れたみたいだった。宰相は強い権力を持っているが、親族の貴族は弱い。更に、その貴族はけっこうな遠方に住んでいる。彼女との接点もあまり見えてこない。
ただ、この国は小さく、他の大国には見向きもされない為、王族は結婚相手を国内の貴族から探さないといけない現状にある。貴族で、ある程度年齢が近ければ誰でも王太子妃候補になる。そこに王太子本人の意向が反映される。つまり、権力が強い貴族が推薦したら一応は候補になるし、王太子妃候補者の侍女にもなれる。その為、正式な候補から外れても最後のチャンスとして侍女を送り込む事は当たり前にある。
ただ、こんな風に周りを変えていく事が前世と同じ現象だった為警戒した。
すると、すぐに申請が通りメイドや召使いが元に戻った。思ったより早くて驚いていると、ルイーズ達よりも早くにアナイスの兄であるアシェル様が同じような内容の申請を出していたからだった。違ったのは、メイドや召使いの変更がある際はアナイスとアシェル様の許可が必要とする。という点だった。
(アナイスがお願いしたのだろうか?でもそんな事言って無かったと思うけど…)
アシェル様とは毎日のように顔を合わせていた。
まず午前中の合同礼拝と王太子のアナイスへの訪問と、午後のティータイムだ。
一番に会えたのが午後のティータイムだったので、王太子とアナイスから少し離れてお礼を伝える事が出来た。
「メイド変更の件、ありがとうございます。アナイス様からお聞きになったんですか?」
そう言うと、
「いえ、何も聞いておりません。ただ、何だか嫌な気配がするので…。」
「アシェル様もですか??わたくしもなんです。ただの気のせいで終わればいいんですが…。」
「今回の申請でも侍女は変えられません。新しく来られた方はどんな方ですか?」
「ええ。正直に申しますと、頭はあまり良くおありではなさそうです。ただ…」
「ただ?」
「王太子様に対しての想いが強く、アナイス様に対して攻撃的な印象を受けております。」
「そうですか。…、気を付けておきます。」
ルイーズはアシェルのこの一言で確信した。
(アシェル様はアナイスの味方だ。前世でもそうだったけど、妹の為ならきっと何でもやってくれるだろうし、ある程度王太子様と近いから、とても強力な協力者になってくれる。)
(前世では、確かアシェルの推薦でアナイスが私の侍女になった。きっと彼女を助けていたと思う。邪魔な私に対して会う度に冷たいような固い表情だった。)
ある程度の会話が終わったので王太子とアナイスの元に戻った。
「アシェル、ルイーズの妹であるエミリー嬢との婚約は上手くまとまりそうなのか?」
王太子がアシェルに問いかけると、
「ええ、一応。ただ、まだ本決まりでは無いので…。」
「そうか。お前が彼女を選んだと聞いた時は驚いたが、まぁ、本人達の気持ちが大事だからね。」
アナイスとルイーズはまったく知らなかったので驚いた。
「お兄様?いつからそんな話しになっていたんですか?」
「ん?いや、前からだ。」
「アナイスには大事な時期だったし、言う必要も無いかと思って。」
「わたくしの義理の妹になる方なんですよね?わたくしにも重要な事だと思いますわ。それにっ…」
アナイスは少しムッとした後不思議そうな顔をしながら何かを言いかけた。
「まぁ、まだ本決まりではないからな。」
「アシェルからの婚約要請だと聞いている。エミリー嬢も好意的だと聞いてるよ。きっとまとまるだろう。」
「そうですね…。」
「わたくしの妹と…それは、大変光栄な事です。おめでとうございます。未来の義兄様ですね。」
「あ、ああ、そうなりますね…」
(そんな事になってるなんて全然知らなかった。そう、アシェル様はエミリーがお好きだったのか。)
アナイスが兄と話したいとの事だったので王太子と2人で歩く事になった。
「申請を通して頂き、ありがとうございました。」
「ああ、あれくらい大丈夫ですよ。ただ、なぜあんなに替わっていたんでしょうね。妙な配置換えだったので私も注意しておきます。」
「そんな、勿体ないお言葉です。ですが、ありがとうございます。」
「そう言えば、ルイーズは夜会に参加していませんよね?夜会は嫌いですか?」
「申し訳ございません。そうですね、あまり得意じゃありません。」
「でも、王太子妃になったら絶対に参加してもらわないといけないので、慣れてもらわないといけないですね。」
「え?」
「少しずつでいいので参加して下さいね。」
「…、失礼を承知でお聞きしますが、わたくしの王太子妃候補は父が無理矢理通した事だと承知しております。本当に申し訳ございません。わたくしは一切、正式な王太子妃候補になっていると自惚れてはおりません。」
「…。確かに、ライムズ公爵はけっこう強引な方だけれど、王太子妃候補を決めるのは私だからね。ライムズ公爵に何を言われても従うつもりはないよ。だから、正式な王太子妃候補だと自惚れてもらって構わないよ。」
「…??」
そこから、お互いの部屋へ別れた。
(どういう事??王太子様が決められたって事??……やっぱり私には殺される未来が待ってる!!?どんなに足掻いても変えられないの!?アナイスが私を殺すの…??)




