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侍女やメイドから話しを聞き出し、得た情報は、例の侍女は両親から溺愛されていて我儘放題で社交デビューも既にしており、着飾って舞踏会に出る事だけが人生にとって1番重要だと考えているような頭が弱そうな印象だった。両親以外には好かれていないらしい。親しい友人もそんなにいないようだった。
(なるほど?)
父に面会を申し出て、舞踏会に参加したいと申し出た。
不機嫌な父に、新しい義母と仲良くなりたいし、その為に自分のドレスを決めて欲しい事と、王太子と早くから顔見知りになり、好みを知っておきたいのだと伝えた。
もちろん義母と仲良くなりたいなんて微塵も思わなかったけれど、手段は選ばない。
父は上機嫌になり許してくれた。
それに伴い、長男の社交デビューも決まった。
義母は喜び、弟と私の服を揃えてくれた。
案外上品で綺麗だった。
「今回の事、本当に嬉しかったんです。ありがとうございます。ライムズ公爵様と一緒になれて嬉しい上に、ルイーズ様からも仲良くなりたいって思って頂けるなんて…わたくしは幸せ者です。」
義母が笑顔で髪を結ってくれながら、何度もお礼を言ってきた。
(あんな父のどこがいいのか。苦労しかしないだろうに。)
そんな事しか考えられなかったが、笑顔で応じた。
義母は父が結婚する以前からの恋人だったらしい事が分かった。実の母とは政略結婚なので愛は無かったのだろう。
家族に興味が無い自分は、何も問うことはなかった。
社交界デビューでガッチガチに緊張している弟に、大丈夫よと声を掛けながら、リードされてる風でしっかりリードした。
例の元侍女は彼女の兄と一緒に来ていて、挨拶は済ませた。
元侍女の名前はアナイス・ディラソン。そして一緒にいるディラソン公爵の息子は王太子の側近として日頃は王宮に住んでいるそうだ。
この兄も私を陥れた時の彼女の協力者だったはずだ。必要最低限の会話のみで終わらせた。
社交界のルールで、王族に対して貴族から話しかけたり挨拶する事はご法度だったので、弟を上手く操って王太子の視界に入らないようにした。優しい王太子は見かけたら誰にでも声をかけてくるだろう。
ただ、まだ王太子の顔を見たく無かった。
そして、弟としては、姉も初めての舞踏会なのに何でこんなに落ち着いてられるんだ!?人を覚えてるんだ!?と若干恐怖心が芽生えてるようだったが、自分の事でいっぱいいっぱいでそれ所じゃなさそうだった。
(弟って可愛いかも…?)
とか思いながらも、自由になれるタイミングで、早速元侍女を探し当てた。
(いた!彼女だ!!)
服装は下品で、所作も良くなかった。顔だけが取り柄です!って言って回ってるような感じだった。
さっと子供用のワインを2つ持ち、すぐに近付いた。
挨拶は先ほど終わらせているので、ワインを差し出し、一緒に飲みませんか?と声をかけた。
服装や髪型、お化粧を褒めたら、彼女は上機嫌になってすぐに心を開いたようだった。
(ちょろいな。)
若干心配になるぐらいだけれど、伊達に王太子妃経験してないし、こういう女性のご機嫌取りは簡単だった。
信用させてから、ワインをひっかけたり、心配してハンカチを差し出すけど、薔薇の棘を忍ばせていたり、足をひっかけて転ばせたり、助けるふりをして髪飾り取ってみたりした。
彼女は驚いて逃げようとするけれど、絶対に離れなかった。
そうこうしてるうちに、弟と彼女のお兄さんが迎えに来た。
私と離れられて明らかにホッとしている様子の彼女を横目に、弟が彼女に見惚れている事に気付いた。
(やはり男というものは…利用させてもらおう。)
満足で家路に着いた。
次の日、弟に頼み込んで隣の屋敷に訪れる事に成功した。
未婚の女子が1人で屋敷から出る事は世間のルール的に出来なかったからだ。ましてや仲良くもない人の屋敷に訪れるなんて絶対に出来ない。
弟は嫡男であり、社交デビューを果たしたので一応成人男性として扱われるので、父は無理でも弟に頼めば何とか!と思ったのだ。
彼女に興味のある弟は、父が留守でバレないなら…という条件で渋々感を出しながら応じてくれたが、嬉しそうな顔は隠せていなかった。
応接間に通されて、待っていると、恐怖心で覆われた顔の彼女が侍女に連れられて現れた。
弟はすぐに立ち上がり礼をした。
「何であなた達…」
彼女は困惑もしていた。
(あれ?恐怖心??私は嫌われたかったし怒って欲しかったんだけど??)
「ごきげんよう。」
笑顔で挨拶をして、お庭を見せて欲しいと伝えると、彼女は後ずさった。
構わず彼女の傍に行き、弟が彼女が手を入れやすいように体制を整えた。
半ば強引に彼女と一緒にお庭散策をした。
頃合いをみて、弟に彼女と2人で女性のだけの会話がしたいと伝えて、2人っきりにさせてもらった。
彼女は全力で逃げようとしたが、許さなかった。
無理矢理隣に座らせて、謝りに来たのだと伝えた。
「あなた、何なの??頭大丈夫??何が目的なの!?」
そう彼女に言われて、笑ってしまった。
彼女と仲良くなりたかっただけで、悪気は無く、たまたま偶然ああなってしまったのだと涼しい顔で弁明した。
これ、と仲直りの贈り物として自分で刺繍したハンカチを差し出した。受け取る事をためらっていた彼女だが、安全だと分かると、渋々受け取ってくれた。
そこから、彼女とお話しが出来た。
お別れの時、また来ますと伝えたらちょっと顔が引きつりながらも、お待ちしています。と言ってくれた。まだ警戒心があるようだった。
帰宅後、彼女が話してくれた内容で得た情報を整理した。
彼女には家庭教師すらおらず、本当に自由にしている。所々、彼女の兄への劣等感を感じる話しがあった。自分達の子供なので基礎知識も備えているだろうという御両親の考え方。とにかく可愛くて何でも許して貰える。
そして、必死に隠そうとしていたけれど、王太子様の事を幼少期から好きだという事。
(すごい。自分の環境とは真逆すぎて理解出来ない所が多い。)
自分には家庭教師が最低でも5人は付けられているし、マナー講師は別にいた。ただ、最近父と義母は妹と一緒に別邸にいる事が増えているので、少し緩くなっているが、これが公爵令嬢にとって当たり前だと思っていたので本当に衝撃だった。
(よし、嫌いな事をさせたら私の事嫌いになるかも。負けず嫌いっぽいし、上手くいくでしょ。)
(仲良くなってから、彼女の悪い噂でも流してみようかな。今は自分の社交界での地位も低いし、もっと上になってから流さないと広まらないし…。)
そんな作戦を考えた。




