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クズから始める高校生活  作者: ≠シロ≠”
第一章 恋愛戦争編
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第二十話 「悪女の本気」





「はぁー……」


「おーおー、霧嶋君。どしたのさ、柄にもなくため息なんか吐いちゃって?」



 放課後、一人机に項垂れる俺に対して、前の席の椅子を勝手に拝借して逆向きに座った鳴上が聞いてくる。



「想定外だ……物事が全然上手く運ばない」



 今日は五月三十一日の月曜日。

 神様に課された特別試練によってタイムリープをし、水瀬桃瀬と恋人(仮)契約を結んでからようやく二十日弱の時が経っていた。


 途中までは俺の計画は順調に進んでいた。


 まず水瀬と一緒にいる時には視線の動き、言動、仕草、持ち物から彼女の素の姿を出来るだけ探り、

 それ以外の場面では鳴上や田野七海を始めとする手駒の確保、これから起こり得る展開に対する対策と予防線を張るなどして準備に労力を費やした。


 そして、約二週間で最低限の成果をあげることは出来ていた。

 まぁ、色々と計算違いがあったが概ね問題はなく対水瀬攻略作戦は仕上がっていた……つもりだった。



「そうなの? わりと順調そうに見えてたんだけど?」


「俺もそう思ってた。けど俺は水瀬の本性の本当の恐ろしさを理解していなかったようだ」


「え、なにそれ、怖っ! どゆことどゆこと?」



 鳴上は「私、気になります!」とでも言いそうな勢いで顔を近づけて興味深々に覗き込んでくる。


 たしかに今回は鳴上の顔の広さを利用して水瀬の事をかなり効率よく知ることが出来たし、そのお返しはしなければと思っていた。


 だから俺は至って真面目に拳をギュッと握りしめ、俺が身をもって知った奴の恐ろしさを教えた。



















「本気の水瀬がかわいすぎる」



 ………………



 沈黙の後、鳴上は目をまん丸にして首を捻った。



「……え、どこが恐ろしいんだよ、最高じゃん」


「お前は何にも分かってないっ!」


「うん、全然分かんない。どういうこと!?」



 そうだ、俺もこいつも何にも分かってなかった。

 

 あの宣言された日以来、本気で俺を惚れさせようとする水瀬のアピールが冗談抜きでヤバい。


 ただでさえ美少女のあいつがガチで男を落としにくる破壊力を俺は知らなかったのだ。


 故にここ数日間、俺はある感情に苛まれている。



「俺だって水瀬とイチャイチャしたい」



 逆ギレ宣言から約十日ほど経った今日だが、彼女(仮)の猛攻のせいで肉体的に若返っている俺の男子高校生としての理性もそろそろ限界を超えてきている。


 品のない話だが、左手だけじゃ物足りないのだ。



「いや、すればいいじゃん。君って馬鹿なの?」


「俺とて男だが、今でも性欲があった事に驚きだ」


「いや、むしろ男子高校生とか性欲の絶頂期でしょ」



 確かにそうなのだが、精神的には三十を超えてる上に詐欺師として他人は愚か己自身も欺いてきた俺がたかがクソガキの誘惑にぐらつくとは思ってはいなかった。


 男子高校生の三大欲求とは恐ろしいものである。



「普通に考えて出来ないだろっ!」


「なんで? 君って僧侶出身なの!?」


「そうじゃない! お前も忘れたのか? 俺が惚れたら今までの作戦は全てパーになる」



 それはつまり水瀬が再び増長し、男漁りを再開することになりその結果、悲惨な運命は変わらず、その先に待つのは俺の地獄行きという運びになるということだ。


 なにより、過去と今の二回もあの悪女にたぶらかされるというのも癇に障る。



「いやいや、それでも我慢は体に毒だぞ? 別に惚れたっていいじゃないか、それはそれとして仕方ない事なんだし。それともそんなにプライドが大事なのか?」


「三股でチャラ男のクズには分かんねぇよー」


「唐突のディスり!? というか本当に何で知ってんだよ!」


「俺は何でも知ってんだよ! 三股男!」


「キャラ崩壊しすぎやろっ! おもろいけど、お前の方が水瀬ちゃんよりよっぽど怖いわっ!!」



 ふっ、なんてったって未来から来たからな。


 半年後の鳴上に起こる壮大な修羅場についてはあの頃の俺でも知ってるくらい騒がれてたからな。


 と、いつの間にかに話が盛大に逸れていった。


 兎にも角にも俺の考えた作戦は現在とても良くない方向に向かっているという事だ。



「とりあえず今は水瀬とは距離を置かなければ」



 唸りながら頭を抱える俺の肩を鳴上はポンと叩く。

 嫌な雰囲気を感じながら顔を挙げると奴は腹立つほどの爽やかな顔をニッタニタにしていた。



「とりあえずさ、話しなよ。……惚気話を」


「やだよ」


「いやいや、霧嶋君。これは約束だよ。言っただろ。協力する代わりに進捗をちゃんと聞かせてねって」


「……」



 ……確かにそんなこと言ってたっけな。

 

 そう言われてしまっては仕方ないので俺は逆ギレ宣言の日からの水瀬との日々を掻い摘んで話した。




***




 五月二十五日、火曜日。


 前日より水瀬からの音沙汰がないまま、今日も比較的平和な一日が続くと思っていた朝。


 家の門を開こうとすると何かにぶつかった。



「あ、痛ぁっ! っぅぅぅぅ……」



 その何かが後頭部を押さえながら苦痛に悶えている。

 とりあえず事情を聴取してみることに。



「なにしてんの?」



 そう問い掛ける俺の視線の先にはしゃがみ込んで頭を抑えながら悶える水瀬の姿が。



「先輩っっっ、すっごく痛かったですっ! 謝って!」



 不可抗力であった為、俺はその要求を無言で拒否した。



「で、なにしてんの?」



 少し経って痛みがようやくおさまったようなので再度問い掛けると、珍しくポニーテール姿の水瀬は無邪気に笑って答えた。



「えへへ、先輩に会いにきたんですよっ! これまでどおり一緒に登校しましょう!」


「なんで?」


「なんでって、この前宣言したじゃないですか!」


「昨日来なかったから諦めたのかと」


「ふふん、昨日は情報収集に時間を費やしましてね」


「情報収集?」


「はいっ! 先輩がドヤ顔で言ったんじゃないですか。『俺を知る努力をしろ』って! だからです」



 小癪にも俺のモノマネをしながら小柄の癖に豊満な胸を張ってえへんとした表情をする水瀬。

 なるほど、クオリティの低いモノマネって他人にやられると凄く不快なんだな。



「また懲りずに無駄なことに時間を費やしてんのかよ」


「えー、でも先輩言ってましたよね? 『お前が本当に好きな人が出来た時の為に若い貴重な時間を使え』って。だからこそ時間を費やしたんですよ?」



 そう言ってポニーテールをふりふりさせながら、再度似てなさすぎて伝わらないモノマネが披露される。


 どうやら素を晒したことで変なプライドが無くなったので、なりふり構わず俺を惚れさせに来てるようだ。

 ちなみにかなり直球できわどい台詞を吐いていたが、とりあえずそこはスルーしておいた。



「……煽りのスキルはあがったみたいだな」


「えへへ、褒められちゃったっ」


「褒めてねーんだわ」


「桃が褒められたと思ったらそれでいいんです! 先輩の言う通り、周りの反応なんか気にしないで生きるようにしたんですから」


「……」



 この前のやりとりが彼女には相当効いたようで、喫茶店での俺の発言を使って悉く俺を煽り返してくる。


 まさにブーメラン。

 上手くハマってるのがまた腹立つ。


 とはいえ、生意気な小娘が少しでも他人の目ばかりを気にせず生きるように成長したということは喜ばしい。


 ひとまずここは静観して登校しよう。



「あ、先輩、先輩っ」


「ん?」



 振り返るとちょこんと右手を差し出してくる水瀬。



「あぁ、ちょっと待ってろ」



 察して自販機に向かおうとしたが、



「ちがうちがう」


 

 袖を引かれて歩みを止められる。



「桃は手を繋ぎたいです」


「そかそか、俺は繋ぎたくない」


「むぅぅ」


「いいから行くぞ」



 むくれる彼女をスルーして先へ進む。

 残念ながらその手には乗らない。


 どうせ女性週刊誌でも読んで"ボディタッチは男子に効果的!"みたいな記事でも読んだんだろう。


 そんなことしてないでまともに勉強とか社会経験としてアルバイトでもしてなさいよ、と心の中でお説教をしながら歩みを進める。



「むぅぅぅ……隙ありっ!」


「おいっ!?」



 しかし、水瀬は後ろから強引に俺の手を攫ってきた。



「ふふんっ、先輩の手、おっきぃ! それにあったかいー! えへへーっ!」



 強奪した俺の左手をニギニギしながら水瀬はいつもの貼り付けた笑顔ではない純粋な笑顔で頬を綻ばせた。


 いくら中身が枯れかけの俺でも水瀬のような美少女に手を握られ微笑まれてみると悪い気はしなかった。



「……じゃあ、少しだけな」


「うん」



 それにしても顔を合わせなかった、昨日一日で一体何があったのか。


 俺でも油断したら勘違いしてしまいそうなほどの真に迫ったような演技力が末恐ろしくなってきた。


 これがこの女の本気なのか。

 

 ちょっと気を引き締めないといけなくなった。





***





「やーだー」


「だーめーだー、くそぉー、手を離せ」



 学校の校門まであと五分程で着くタイミングで俺は手を離そうとしたのだが水瀬は駄々を捏ねながらがっちりと俺の手をホールドしてきた。


 しかも意外と力が強くて一向に離れない。


 そういえば田野の話では小学生時代は男子を一蹴するほどの腕白なクソガキだったんだっけ。


 どうりでさっきから手がジンジンするわけだ。



「どうしたお前。焦ってキャラ変わりすぎだろ」


「先輩がそうさせたんですから責任取ってください」


「お前がそうさせるようにさせたんだから責任は取らん」


「屁理屈星人! 朴念仁! 童貞!」


「なんとでも言え! お前の自己承認欲求の為の犠牲には絶対にならん! いい加減離せぇぇえ!」



 その台詞で握る手が緩んだ。

 ふぅ。

 と、安堵するも束の間に水瀬は次は上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。



「じゃあ先輩っ! 承認欲求が満たされないところでならしてても良いんですか?」


「あ? あー……まぁ、そうそう」


「じゃあ、今日はお弁当作ったんで昼休みに屋上で一緒に食べましょうね?」


「屋上?」


「はい! 天気も良いし、風も気持ちいいので!」


「分かったから、その手を離せ」



 とりあえずこのりんごでも潰せそうな握力を持った手を離して欲しいが為に俺はそれを承認。


 嬉しそうな顔して俺の周りを子犬みたいにチョロチョロと動き回る水瀬を出来るだけ視界に入れないようにして先を急いだ。


 そして昼休み。


 鳴上が昨日に引き続き学食へ行こうと誘ってきたが水瀬の誘いが先だったので、今日はそれを断って俺は教室で待っていた。


 するとメールが届く。



『わたし、桃! 今あなたの後ろにいるの( ◠‿◠ )』



 いや、お前はメリーさんかよ。

 と脳内で突っ込みながら振り返ると本当にいた。

 ポーカーファイスを保っていたが、心臓が止まりそうだった。



「やっほー、先輩! 行きましょ!」



 対する水瀬はニコニコしながら、嬉しそうに俺の手を掴んでくる。


 うーん、今日はどうも調子を狂わされる。

 人間の本気ってやっぱり怖いなと思わせられる。


 そして約束通り二人で階段から屋上へ向かう。



「…………あれ!? 開かない……」


「あぁ、鍵かかってんのね」



 よく考えてみたらそりゃそうだ。

 大昔なら兎も角この頃にはもう安全性の面で生徒の屋上への出入りは禁止になっているだろうしな。


 漫画のようには行かなくて残念だったな。



「とりあえず学食にでも行く? 鳴上もいるし」


「……いえ、時間もなくなっちゃうので、もうここで食べませんか?」



 指さしたのは屋上前の踊り場。



「地べただけど良いの?」


「桃は気にしませんよ。人も来ないだろうし」



 まぁ、別に水瀬がいいならいいかと納得して階段の段差に腰掛けると、隣に座った水瀬は当然のように左手を差し出した。



「なに?」


「約束しましたよね?」



 約束とは承認欲求が満たされないところでは手を握っても良いということに対してだろう。



「いや、飯食えなくなるじゃん」


「安心してください。空いてますんでっ!」



 そう言ったとにかく明るい水瀬は広げた弁当箱から空いている右手を使いおかずを器用に箸で掴んで持ち上げると「ほら」と言って見せてくる。



「俺が食えねぇだろ」


「大丈夫ですよ。こうすればいいんですからっ」



 するとニコリと笑う水瀬によって宙に浮いていたウィンナーが俺の口元へ運ばれる。


 所謂、あーん! ってやつだ。


 来てしまった物は仕方ないのでとりあえず口を開けてそのタコの形の精製物を迎え入れた。  



「ふふっ、隙ありっ」



 そうしてる間に空いていた俺の右手が冷たくて小さな手に攫われる。


 今の状況をおさらいする。


 彼女(仮)の美少女に右手をホールドされながら、あーんをして食べさせてもらっている。


 完全にバカップルじゃねぇか!



「うふふ、先ー輩っ? 美味しいですか?」



 妖艶な笑みを溢しながら聞いてくる。



「うんうん、美味いよ。というか既製品のウィンナーを不味くは出来ないだろ」


「もうっ、普通に褒めてくださいよーっ! ほらほら、次はこのたまご焼き。お砂糖いっぱい入れたの」



 その言葉の割には満足そうな表情の水瀬。


 待て待て待て、こいつどこまでが計算なんだ?


 あまりの変わりように訝しむ視線を向ける俺に気付いた水瀬は満面の笑みを浮かべる。



「先輩っ! 明日からもここで食べよっ?」


「……お、おう」


「絶対ねっ! もう予約したから、キャンセルの場合はキャンセル料をいただきますからねっ!」


「分かったよ……ちなみにキャンセル料はいくら?」


「ふふふ、一回一億円ね♡」


「キャンセルさせる気ねーだろ」



 俺はもしかしたらやばい奴を覚醒させてしまったんじゃないんだろうか? 


 そう感じざるを得ない。


 そして久々に感じた女子高生の体の柔らかさに生命の感動を覚えてしまう俺だった。








ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


正直に言うと、こういう物語をまともに書くのが初めてのまま勢いで書いてきたのですが、ここまでは書きたいという自我が先行してしまい、いつの間にかにキャラクターの軸が自分の思い描くものとだいぶズレてきてしまっていました。


ここまでの展開も急すぎるし、過程をだいぶ飛ばしてしまっているのですがとりあえず第一章まではこのまま書いていってみたいと思います。

(あとあとここまでの内容を結構書き換えるかも)


そんなですが、良ければお付き合いください。

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