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後輩シリーズ

ふぁいなるあたっく後輩

作者: ニコ

・「りーさるうぇぽん後輩」を読んでいない方への前書き

 このお話は極めて短時間で書かれた適当極まりないラブコメのようなそうでないような謎のお話であり、統合性や話の流れよりその場のノリとノリと、あと変態を重視しております。よって、肌に合わない方も沢山いらっしゃると思いますので、読んでいる最中に気分が悪くなった方などは慌てず無理せず眼を背けて「作者キモッ」と一言呟いて画面を閉じてください。

 また、これは「りーさるうぇぽん後輩」の続編となります。そちらを読んでいない方にも理解できるよう配慮しようとしたのは最初の数文字であとはテンションの彼方にぶっ飛びました。よって、そちらを先に読むか画面を閉じる事をお勧めします。


・「りーさるうぇぽん後輩」を読んだ方への前書き

 またやっちまいましたぜ!

「せんぱいせんぱいせんぱーい」


「朝っぱらから犯罪はやめてくれないかな葉山ちゃん」


 爽やかな朝の目覚め、まず視界に入ったのは女の顔。可愛らしい小顔で童顔、ぽっちゃりしてるわけでもないのに丸みを感じさせる柔らかい輪郭。我が後輩、葉山だ。

 ちなみに彼女は家族でなければ同居人でもご近所さんでもなく、平たく言えばこの状況は不法侵入なのだけど、最近慣れ親しんだ自分が怖い。目覚まし代わりである。

 だが、あまりにも時間が早すぎるのでは無いか。爽やかな朝ではあるのだが、お天道様が昇っていない。爽やか過ぎて欠伸が出そうだ。二度寝決定。


「あれー、せんぱーい? 二度寝ですかー? 無視すると泣いちゃいますよー?」


 うるせぇ馬鹿俺は低血圧だ。

 しばらく布団を被りこんでいると、頬に感じるのは水的な感覚。なにぃ、まさか本当に泣いているのか! と、跳ねおきたはいいものの……


「……」


 よだれであった。なんかもう、口をすぼめてよだれ落下させているのだった。あれ、ちょっと待って、何がどうなったらこんな展開になるの。

 とりあえず布団でそのよだれを拭いながら上半身を起こす。もう寝てられねぇ、目が覚めた、何やってくれてるんだマイ後輩。


「あ、起きてくれましたか。まぁ私はドMですのでその程度の放置など朝飯前ですが、今はそんな状況じゃないんです!」


 確かにそんな状況じゃない、よだれ垂らして起こすって新しすぎるわ。もうちょっと他の努力をしろよド変態さんが。

 とりあえず布団から起き上がる、自分じゃ意識してないけど多分のっそりと。


「せ、せーんぱぁい! そんな場合じゃないんですってば!」


「あぁ、今すぐ顔を洗わなきゃな」


「舐めときゃ治りますって!」


 舐めとってどうする。無限ループ怖い。


「そんな問題じゃなくて……先輩、狙われてるんですよ!」


「そんな、お前が俺を狙うのなんていつもの事だろ」


「ソッチ方面の発想しかないんですかもぅ先輩のおませさんっ」


 いやだって、いつもここから「追い出して着替え始める→窓の外でハァハァ言ってる」というのが葉山のパターンだし。銃弾すら通さない強化ガラスにしておいた自分を褒めてやりたい、バイトの給料がほとんど吹っ飛んだけど。

 まさか今日は直接押し倒しに来たか、と臨戦態勢になっておく。ちょっと行動が変態じみてるだけで見た目も性格もわりとドストライクなこの子に迫られたら拒みきれるか怪しい。もし溺れてしまえばそこにあるのは破滅だけだ、こいつの変態趣味に付き合ってお縄を頂戴するなんて御免である。


「だからぁ、先輩……忘れないでくださいよ? 私、先輩の特殊な血を守るために全日本守護者教会から派遣されてきた忍者の血を引くエージェントなんですからね? 今回はあまりにも敵が強大なので事前に言っておきましたが、こう人知れず始末するのも大変なんですから……」


「初めて聞いたよその設定!?」


 葉山の説明台詞に思わず全力で目が冴えた。いや、知るかよそんな事! 


「え、言ってませんでしたっけ?」


「確かに忍者がどうとか、この前言ってた気がするけども!」


  はぁ、と葉山は生返事。そして考え込むように顎に手を当てて……


「――あれから、三ヶ月」


「時間経過で誤魔化すな! そんな事してもその間には何もなかったことぐらい俺には分かる!」


「――二人は遊園地に行ったり、学校帰りに買い食いしたり、首輪をつけて「ご主人様」と呼ばせたり、イチャイチャして過ごしていた」


「もろもろ置いといて言わせてもらうけど、最後のそれはお前的にはラブなのか!?」


「やってくれるんですか!?」


「生き生きすんな、やらねぇよ!」


 まったく、いつも通り疲れる……でもこれが葉山の良さでもあるんだよな。明け透けな好意自体はバッチコイだし。

 ……ハッ! 今、俺はとても恐ろしい事を考えて……?


「と、ととととりあえず下に降りようか!」


「はぇ? 先輩、なんか声が裏返ってません?」


「へ、っへへ変声期なんだ! 男には声を変えなくちゃいけない時期がある!」


「はぁ」


 なんか不思議そうに呟く葉山ちゃんを抑え、とりあえず階段を下りてダイニングに向かった。



 というわけで階段を下りた。ちなみに葉山ちゃんは僕の家族の前ではあんまり喋らないという暗黙の了解があったりする。やっぱり彼女でも緊張したりするんだろうか。

 家族、とはいっても妹が一人だけだ。叔父が保護者となって夜逃げした父と母の代わりに身元を引き受けてくれているが、その彼は滅多に家に帰ってこない。

 とりあえず、今日もやっぱりその妹が一人だった。俺に背を向ける形で料理をしている……というか、だし巻切ってる。もう出来上がったのか。


「よ、奈緒」


 声をかけると、妹はゆっくり振り返った。まるでホラー映画のスロー演出のような振り向きだが、可愛い妹のする事だ。まったくもって他意はないのだろう。


「お兄ちゃん……また、その女……!」


 歯軋りの音と共に地獄の底から響くような憎悪の声が耳に届く。どうやら妹はちょっぴりご立腹のようだ。兄として御機嫌をとってあげないといけないなぁ。


「どうしたんだ、奈緒? 何か気に入らない事でもあるのか?」


「お兄ちゃんには私だけ居ればいいの……お兄ちゃんに他の女は要らないの……お兄ちゃんが一番大好きなのは私なんだから……」


 頭を垂れながらふらふらと千鳥足で近寄ってくる(貧血なのかなぁ大丈夫かなぁ)妹を見て納得する。あぁそうか、最近相手してなかったから寂しがってるんだな。

 まだまだ子供な妹を抱きかかえる、うわぁビックリするぐらい軽い。流石、まだ成長期がきていないだけの事はある。


「よしよし、ごめんな奈緒。どこか行きたい所とかあるか? お兄ちゃんが連れて行ってあげよう」


「お兄ちゃんはどこにも行かないよね……? パパやママとは違うよね……? ずっとずっと、私の傍に居てくれるよね!?」


 うーん、そうか。家の中で遊びたいのか。困ったなぁ、妹はテレビゲームやらないし、久しぶりにトランプでも引っ張り出すかなぁ。

 トランプの場所を考えながら、とりあえず妹を下ろして背を向けた。


「じゃあ奈緒、とりあえず朝ご飯食べよう。今日は放課後ちゃんと付き合ってやるからさ」


「今日もあの女と学校行くの……? どうして私じゃ駄目なの、どうしてあいつなの、あんな女に! あんな馬鹿女に頼る兄ちゃんなんかぁ!」


 後ろから妹が凄い勢いでけつまづいて包丁の刃をこっちに向けて倒れこんできたが、間一髪で避けることが出来た。危ない危ない、まるで殺意があるかのように的確な突きだったから、たまたま振り返っていなかったら死んでいたかもしれない。また今度、あそこの床を点検しなくちゃ。

 そんなわけで、家族の食事タイムだ。



「こ、こわかった~」


 妹が一心不乱にこちらを眺めてくるという和やかな朝食を終え、俺と後輩は現在登校中。その時に後輩が呟いた。


「怖いって何だよ? 確かに料理が終わったのに包丁が三回も飛んできたのにはビックリしたけど、ウチの妹はちょっとドジなんだから許してやってくれよ」


 振り向いて声をかけるが、葉山は恨みがましい目を向けてくるだけである。意味わかんねぇ。

 吐く溜め息は同時、葉山の溜め息の理由は分からないが、俺の溜め息の理由といえば一つだ。


「俺が狙われてるって……本当の本当に?」


 葉山は表情を引き締めて頷く。

 やっぱり本当なのか……こいつ、変態だけど冗談は言わないもんな。忍者っていう事については分かってた事だし、疑う余地がない。もし忍者ではなかったとしても、俺が目にしたこいつの身体能力は別の何かスゲェものだ。

 

「えっと……確か、特殊な血が何とか」


「えぇ、貴方の血の中には大魔王の魂が内包されています」


「あぁ!?」


 これは予想外だ! 和風から洋風ファンタジーに飛んだ!

 

「彼の者の魂が目覚めれば、魔界よりその本性を引き出し、七日で地上を火の海に変えるといいます……」


 しかもスケールでけぇ!


「奴こそは大魔王、ゴルゴンゾーラ!」


 大魔王はチーズなのか!


「え、えっと……葉山ちゃん?」


「信じられないかもしれませんが、これが真実です……」


 葉山は顔を伏せ、痛ましげに呟いた。今さらシリアスぶってんじゃんねーよ。

 しかし、本当だとすると大変だ。なんで大魔王がそんな事になってるかとか聞きたい事はたくさんあるが、これ以上エセシリアスやられると心がもたないのでよしておこう。

 

「というわけで、先輩、話したんだから撫で撫でしてくださいよぅ体のどこの部分でもいいですよぅ?」


「お前のそのいつも通りの態度が、今は救いだ……」


「ほらほらぁ、眼球とか口の中とか足の指の間とか触ってもいいですよ?」


「ごめんやっぱ黙れ」


 マゾヒストなだけではなく、根本的におかしいぞ、こいつ……。

 

「あぁ! でもキツく縛り上げられるのもそれはそれで……ハッ! ソフトタッチとの緩急攻撃!?」


 後ろで身体をクネクネさせている後輩を放って、とりあえず足を速める。これと一緒に居る所を見られたくないのもそうだが、そもそも学校に遅刻しそうだ。急がなければ。

 と、そろそろ人が少なくなってきた通学路に、向こうからやってくる同い年ぐらいの女の子が見えた。おかしいな、俺達が来た方向にある学校は今からじゃとても間に合わない。それなのに落ち着いた足取りで――というか、それ以前に制服着てない。ロングコートだ。

 ぶっちゃけ美人な子だった、可愛いって言うより美人って言葉が似合う大人っぽい子。人通りが多ければ、ちょっとは注目されていたかもしれないけど、今は人が少なくて幸いだ。

 何気なく観察しながら女の子の脇を通り過ぎようとすると、女の子の呟きが聞こえた。


「大魔王の魂、どこだ……」


 刺客キターーー!

 本当、人通りがなくて幸いだ! なんで至極普通に道端歩いてるんだよ刺客!

 えぇい、もしかしたら魔王の血がなんやらかんやらで危ないかもしれない。ここは葉山ちゃんに助けを……


「うふふっ……駄目ですよぅ、先輩……こんな所でそんな事……あ、うそごめんなさいもっとしてぇ……」


 妄想の世界にトリップしていた。肝心な時に使えねぇなぁエージェント!

 い、いやいや、だが俺がここで大魔王の魂持ってるとバレなければいいだけの事……! 流石にすぐ分かるようなものでもないだろう、と信じよう。そう、一歩二歩……いいぞ、女の子とすれ違ってこのままゆっくり……


「どこだ、大魔王ペペロンチーノの魂……」


「大魔王はチーズではなくパスタだったのか!?」


 いきなりの新事実に思いっきり叫んでしまった。女の子の顔がぐるんとこちらを向く。


「見つけた」


「しまったぁ! 何であんな馬鹿馬鹿しい事を……ッ!」


「ふ、魔法使いを舐めない方がいい」


 切れ長の美貌を無表情のままに、女の子はそれなりに豊満な胸を反らした。ていうか、忍者の次は魔法使いなのか。


「私の周囲1キロ圏内に『大魔王ペペロンチーノ』という言葉に反応し、大魔王の魂を持つものが激しく反応してしまう術式を組んでいた」


 あ、良かった俺が間抜けなんじゃなかったのか。でも……


「すげぇ無駄だなそれ。普通に分かるように出来ないのかお前は」


「趣味だ」


「そうか」


 そう言われると押し切られるしかない。あと、大魔王はペペロンチーノなのかゴルゴンゾーラなのかどっちなんだろう。

 女の子は無表情のまま、指をびしっと突きつけてきた。


「というわけで、お前の中の大魔王、頂くぞ」


 そうだそうだそうだ、危険だったんだ。危険が危ない。葉山は未だに身体をクネクネさせながら道路に寝転がって芋虫みたいな事になっているので、自分の力で切り抜けなければ。


「よぅしお嬢さん、ちょっと待ってみよう。まず、大魔王の魂とやらを俺から引っぺがすとどうなんの?」


「……? ちょっと献血に協力してもらう、みたいな?」


 みたいな? って。軽いな、大魔王。これなら素直に渡しても……って、あぁいやだめだ。世界が七日で滅ぶ。

 かといって、何か凄そうなこの子と事を構えるのはよろしくない。こうなれば、最後の手段。


「じゃあ、ちょっと交換条件だ。俺に出来る事なら何かしてやるから、大魔王の魂は一旦保留にしてくれないか?」


 世界の為に自分を犠牲にするという英雄的行為しか選べなかった。多分、今を切り抜ければ葉山に助けてもらえる筈!


「え、眼球とか口の中とか足の指の間とか触ってもいいのか?」


「お前も変態かよ!」


 予想外の展開だった。


「むぅ、だが大魔王の魂の保全は我が一族の悲願。確かに君を縛って吊るして数時間放置した後、情けない懇願の声を聞けるという提案は魅力的だが、屈するわけにはいかない」


「そんな提案はしてねぇよ」


 どうやら葉山と正反対の性質を持つようだ、どうせならもっと別の正反対が良かった。

 と、そんな事を考えている場合ではなかった。女の子はどこから取り出したのか、注射器片手にゆっくりと歩み寄ってくる。その無表情っぷりが今は怖い。


「大丈夫、痛くするから」


「するのかよ!」


「じきに快感に変わる」


 採血が快感って随分とレベルの高いお方だな、ドチクショウ!

 だが、もし快感であったとしても世界滅亡と同じ天秤には載らない。背を向けて全力ダッシュ!


「無駄だ」


 だが、女の子がまるで瞬間移動のように目の前に現れる! 予想通りだコノヤロウ!

 そして女の子の手が胸に触れた次の瞬間には、俺は地面に転がっていた。痛ぇ。


「ぐ、今度は『触るだけで柔道技が決まる魔法』とか言うんじゃないだろうな……」


「よくわかったものだ」


 正解したくなかった。

 とまぁそんなわけで、女の子は今、俺の目の前に仁王立ちなわけでとてつもなく絶体絶命だ。さて、どうしよう……流石に世界が滅ぶのは嫌だぞ、俺。

 どうにかして逃れようともがいてみるが、その時横っ腹に衝撃が走った。


「ぐぇ……!」


 女の子の足が踏み下ろされたのだ、勝手に声が漏れる。マジで痛ぇ、手加減なしで踏みやがった。いや、敵(?)だからそんなもんなのかもしれないけど、この女に限っては性癖の都合な気がする。

 あまりの痛みに動けずにその場で倒れたままになって……そして、おかしい事に気づく。女の子の追撃なり採血なりあってもよさそうなのに、足が振り下ろされたまままったく動いていない。どうしてだろう、正々堂々勝負じゃあーみたいなタイプでもなさそうだしそもそも勝負ですらなかったし。

 痛みが治まってきた腹をさすりながら、恐る恐る見上げる。


「はふぅ……」


 なんだか熱い吐息をもらしていた。頬を高潮させて、潤んだ瞳でこちらを見つめながら。なんだこれ。理解したくない、理解したくないと理性とか良心とかが叫んでる。


「私たち、体の相性がピッタリだね」


 体の相性とは主に踏み心地の事を言うらしい。いかがわしい事言っているようで、実は見た目はいかがわしい事なくても内容はいかがわしいといういかがわしさだ。さて俺は何回いかがわしいと言ったでしょうかドチクショウ。

 女の子は目がうるうるだけど、口は笑っていなかった。逆パターンはよく「実は怒ってるんだぞ」表現だが、この場合どうなのだろうか。実はこれすらも策略……とかだったらむしろありがたいんだけど。


「一踏み惚れ、付き合ってください」


 どうやら俺は奇抜な告白を受ける運命にあるようだ。どうすればいいんだろう、これ。大魔王ナポリタンだかなんだかを狙ってきた敵で、しかもわりと痛めつけられてるのに。印象がマイナスしかねぇよ。でも、普通に断るのも怖いよなぁ。


「俺、君の事何にも知らないし」


「名前は八雲京みやこ。魔王の魂捕獲の指令を受けやってきた魔法使い」


 何ィ、個人情報を語りだしただと!


「……スリーサイズは上から90、58、85」


 いきなり個人情報が行き詰りすぎだろうこいつ! そして他の部分は良く分からないが、バストが90ってのは絶対嘘だ!


「趣味は……とても、ここでは」


 頬を赤らめるな、とっくに分かってるから。

 えぇい、女の子改め八雲京を説得するのは骨が折れるようだ。だが諦めない、さっきの世界の危機よりこっちの方が俺にとっては重要だ! 葉山よりさらに嫌だわ、だって好きでもなんでもないもん!


「お互い、知り合ってから時間経ってないし……」


「大丈夫、よく知らない相手に理不尽な扱いを受けて困惑する顔はとても興奮する」


 お前の都合マキシマムじゃねぇか。

 

「お友達から始めましょう!」


「分かった、体だけの関係だな」


 スゲェ! 葉山以上に話が通じない!


「お、俺はそんな爛れた関係お断りだからな! 大体、何でそんな……俺、まだ純潔なのに!」


「……そう。なら、後ろだけにするから」


「後ろって何だー!?」


 ひいいいぃぃぃ! 人生最大のピンチ! 良い子は理解も真似もしないでねぎゃあああぁぁぁ!

 

「――まったく、私を無視しないでくださいよ」


 ……と、いきなり葉山の声が聞こえた。そして次の瞬間には、八雲京が吹っ飛ばされていた。

 あぁ、今頃妄想から醒めたのか葉山。出来ればもっと早く来て欲しかった。


「大丈夫ですか先輩! 何にもされてませんか!?」


「え、うん……そんなに心配するんならもっと早く来て欲しかったけど」


「心配もしますよ! あいつはこちらの業界では有名人、殺人業務では右に並ぶものなしと言われた女なんですから!」


「そんな大層な人だったんだ、八雲京ちゃん……」


 とりあえずそんな話をしていると、なんかいつの間にそんな事になっていたのか崩れたブロック塀があって、それが吹っ飛んだ。土煙がもうもうと立ち込め、そこに立っていたのは八雲京。お前らどこのバトル漫画だ。


「流石、雷光と呼ばれし忍者、あの距離からここまで……」


「え、葉山ちゃんまでそんな大層なんだ……」


 しかも二つ名っぽいのあるし。

 二人からなんか『ドドドドドドドド!』って効果音が立ち昇り、なんかオーラみたいなのが見えてきた。そういうのは漫画でやってください頼むから。


「私は……私は負けられないんです! これに勝たねばあなたに先輩が奪われてしまう! 逆に、勝てばきっと首輪を付けて散歩してくれるぐらいに距離が縮まるはず!」


「私だって……。勝ったらきっと、私に全てを委ねて全ての愛を受け入れてくれるはず」


「決着を……」


「つけよう」


「「愛の為に!」」


 えー、どうしようこれ俺一人じゃさばききれない。



 そんなこんなで一日後である。

 昨日は二人の超音速で息も付かせぬ大スペクトラルなバトルを見学もとい巻き込まれて三秒で気絶、次に起きた時には夕焼け小焼けでカラスが鳴いていました。学校はサボりになるわ妹に泣かれるわ散々だった。

 で、今朝も遅刻である。どうやら手が滑ったらしく両手両足を妹の手錠に捕らえられそのまま荒縄で縛られていたので脱出に時間がかかってしまった。そんな些細な失敗をしてしまった事が恥ずかしかったのか、今朝も今朝とて斧を振り回す妹をなんとかなだめている内にこの時間というわけだ。


「はぁ……はぁ……待って、待ってください先輩ぃ……」


 で、昨日の激戦を潜り抜けた葉山と言えば、バテバテだった。結局は引き分けのような状況に終わったらしいが、疲労が蓄積しているようで、いつものように走ったり跳んだり瞬間移動したりいつの間にか先回りしたり、そういう事は出来ないらしい。葉山を引き離せるのなんて普通なら絶対出来ないので、満喫中。風が気持ちよすぎる。


「はぁはぁはぁはぁ……あぁ、首輪を付けてもらう夢はどこに……ハッ! 追いついても追いついても追いつけないこのジレンマ……無間地獄プレイと名付けましょう……はぁはぁはぁはぁ」


 葉山の荒い息が何か別の質のものにシフトした気がするので、大人しく立ち止まった。怖い、怖いよ。

 で、止まったとはいえ葉山の教室は目と鼻の先、後門で遅刻を咎められたから早く教室に行かないといけないんだけど、やっぱ葉山をまってあげないと目覚めが悪い。

 そうこう考えている内に、葉山は俺のすぐ後ろに居た。やっぱり体力を失ってるとはいえ、決して遅くは無い。


「もう! ドMなのは私であるからして、先輩を放置プレイしてしてしまうのはあんまり気持ちよくありませんよ!?」


「はいはい、分かったよ葉山ちゃん」


 むくれる葉山の頭を撫でて、彼女の教室へ向かう。

 まぁ、魔王だのなんだのと訳がわからない事情が絡んできたが、訳の分からない事情なので気にする方が阿呆だろう。ていうか阿呆共の都合に付き合って一緒に頭おかしくなるのはごめんだ。

 とりあえず分かったのは、俺は告白されれば誰でもいいって訳じゃないって事。八雲京は俺のこと好きで、しかも美人だけど全然ときめかなかったし……という事は、葉山に感じるこの感情はありふれたものというわけじゃなかったりという訳であって……あー、なんかもう認めたくない。

 俺はやっぱり、葉山が好きみたいだ。面倒臭い。


「先輩ー? どうしたんですかー? 放置プレイ返しですかー?」


「……あー、うん、考え事してた」


 でもやっぱり、こんな変態を相手にいいお返事なんかくれてやるもんか。決意を新たにしつつ、心拍数を上げつつ、とりあえずは心を落ち着けるために葉山の教室を覗く。

 そして信じられないものをみた。


「――八雲京といいます。今日から皆さんと一緒に学ばせて頂きます、よろしくおねがいします……」


 えー。

そんなこんなで、何が始まって何が終わったのか作者にすら分からないお話でした。あれ、魔王って初めは冗談にする予定だったのに……?


第三弾はあるかどうか未定です。でもやるなら、折角なので妹メインはるかも。

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