第二十一章 僕の周りの彼女たち
ウィッシャと自由に遊べる家での日々は、あっという間に終わりを告げた。
けどそれは、寒休みが終わったからではない。両親が仕事で外出することが多く、家には僕とウィッシャだけが残されるのだ。それで、両親は僕がウィッシャに何か過ちを犯すのではないかと心配し、家のあちこちに監視カメラを設置した。
「泥棒が入ってくるのを防ぐため」という理由で僕たちに説明してくれたが、そのカメラが本当に警戒しているのは僕のことだと、僕には明らかだった。
妹はそれを信じて疑わなかった。それは不思議ではない、だってウィッシャはそんな無邪気な少女だからさ。ただ、これから彼女が遊びに来るときは、カメラが何か良くない映像を捉えて、両親が僕が妹に何か悪いことをしたと疑うことがないよう、常に注意しなければならない。
そして今の僕は、また先輩に会いに行く準備をしている。その時、ウィッシャが駆け寄ってきて、僕がどこに行くのか尋ねた。
僕は彼女に、恋人に会いに行くと答えた。
ウィッシャは恋人が何かを尋ねた。僕は少し考えてから、恋人とは自分が「一番好き」な人だと妹に教えた。
「じゃあ、わたしはお兄ちゃんが一番好きだから、お兄ちゃんもわたしの恋人になれる?」
予感はしていたが、妹の直接的な質問に僕は驚かされた。両親が設置した監視カメラに録音機能があるのかどうかはわからない。もしあれば、さっき妹が言ったことは両親に聞かれてしまうだろう。
「シーッ、ウィッシャ!そんな大きな声で言わないで、それは……近所迷惑になるかもしれないから……」
「あ、ごめんなさい……」
ウィッシャはすぐに声を低くして、僕は彼女に説明を始めた。しかし、声を小さくしたため、お互いの声を聞くには近づかなければならなかった。
でも、両親に僕たちの話を聞かれないようにするために、僕たちが近づいている様子を両親に見られるのは、それは逆になんか……
「ねえ、ウィッシャ。恋人は唯一の存在で、1 人の人には1 人だけの恋人がいるんだ。そして、一度誰かの恋人になったら、他の人の恋人にはなれないんだよ。だから、ウィッシャ、わかる?お兄ちゃんはもう先輩の恋人なんだ。だから、お兄ちゃんはウィッシャの恋人にはなれないんだよ。」
「え?どうして唯一でなくちゃいけないの?」
「だって、恋人っていうのは『一番好き』な人のことだから、一番好きな人は一人しかいないんだよ。」
「それって、お兄ちゃんの先輩がお兄ちゃんの一番好きな人ってこと?お兄ちゃんの一番好きなのはウィッシャじゃないの?」
「うーん……」
それが自己意識過剰に聞こえるかもしれないが、自分が妹の一番好きな人だと知っているのは認めるしかない。妹は純粋で、彼女は自分の究極の愛を他人に与えたら、その人も同じように究極の愛を彼女に返すと思っているかもしれない。だが、僕は現実がそうではないことを知っている。現実では、たとえ自分のすべての心を相手に捧げても、相手が自分を一目見ることさえないかもしれない。
だけど、僕は妹との間にこのような不均衡な関係を望んでいない。妹が彼女の究極の愛を僕に与えているのに、僕が普通の感情でそれを受け流すわけにはいかない。
「兄さんももちろん、ウィッシャのことも一番好きだよ……」
「でもお兄ちゃん、一番好きな人は1 人だけって言ってたよね。」
「うん……そうだね、ウィッシャ。恋人は確かに一番好きな人だけど、恋人以外にも他に一番好きな人がいてもいいんだよ。つまり、同じ一番好きな人としても、その『好き』の中身は違うんだ。」
「『好き』の中身?」
「そう、具体的な気持ちは違うんだ。僕は先輩のことが好きというのは、僕が先輩と結婚したい、彼女と子どもを持ちたい、一緒に家庭を築きたいということだ。で、僕はウィッシャのことが好きというのは、ウィッシャが健康で、幸せで、楽しく成長してほしい、そしてこれからもずっと幸せな生活を送ってほしいということだよ。」
「え?そうなの?」
「うん、そうだよ。」
ウィッシャがやっと理解したような顔を見て、僕の心は本当に喜びでいっぱいだ。これまで何度も試みたけど、失敗ばかりだった。もしかして、今日はついに成功するのかな?
「わかったよ、全部『好き』だけど、『好き』の中身は違うんだよね!」
「そうだよ!その通りだよ。」
「じゃあ、お兄ちゃんがわたしと結婚したいと思ったら、わたしもお兄ちゃんの恋人になれるってこと?」
「そうだよ……あ、いや、そういうわけじゃない!」
確かにそういう意味だが、どうして自分の妹と結婚したいと思うだろうか?
「あ、もう時間がない、急いで出かけなきゃ!ウィッシャ、またね!」
僕は靴を急いで履いて、ドアを開けて外に出た。ウィッシャに手を振って別れを告げようと振り返ったその時、こんな光景が目に入った。
曇り空で、家の中は薄暗い。妹の小さな姿が、空っぽの部屋にぽつんと立っている。しかし、その抑圧的な雰囲気とは対照的に、彼女の顔には無理やり作り笑いが浮かんでいる。彼女は、僕が彼女を置いて家に一人でいさせるつもりだと知っている。それでも彼女は笑顔で僕に別れを告げ、心の中の孤独と寂しさをすべて隠していた。
その瞬間、僕はかつてないほどの重さを感じた。足が勝手に止まり、心には言い表せない罪悪感が湧き上がってきた。
僕は自分勝手すぎるのではないか?自分のデートばかり気にして、妹の孤独な姿を見過ごしていた。僕は彼女の兄として、彼女が楽しく成長するために一緒にいるべきだ。
「ウィッシャ!」
「お兄ちゃん?」
「一緒に、外で遊びに行かない?」
僕はウィッシャに手を差し伸べた。その瞬間、彼女の目が大きく見開かれ、涙がきらめいているのが見えた。彼女はすぐに僕のそばに駆け寄り、再び僕を強く抱きしめ、喜びに満ちた声で大きな声で答えた。
「うん!ウィッシャ、お兄ちゃんと一緒に行きたい!」
「まだパジャマ着てるよ、ウィッシャ!早く中に入って着替えて、外はとても寒いから!」
僕は急いでウィッシャを抱き上げ、家に連れ戻し、ドアを閉めた。外の冷たい風がウィッシャを風邪で倒れさせないように心配だったから。ウィッシャは素直に自分の部屋に戻り、すぐに服を着替え、またすぐに僕のそばに戻ってきた。
「それじゃあ、出発しよう。」
「うん!」
ドアを出たばかりで、ウィッシャは僕の手を自ら握ってくれた。普通の兄妹が手を握ることができるかどうかを素早く考えたが、すぐにウィッシャはまだ8 歳の子供で、避けるべきことはあまりないと思い、彼女の手をしっかりと握り返った。
そういえば、ウィッシャと一緒に外出するのは久しぶりだね。
僕は急いで携帯を取り出し、先輩に電話をかけた。電話がつながると、僕は妹を連れて行くつもりだと先輩に伝え、返事を待たずにすぐに謝った。
「え?妹を連れてデートに来るなんて、シスコンじゃないって言ってたじゃない?」
「もちろんシスコンじゃないよ!でも……ごめんね、午後のデートの予定を変更してもらえませんか?妹を連れて行くのは久しぶりで、彼女はとても楽しみにしているみたいですから.....」
意外にも、先輩はあっさりと承諾してくれた。
「いいよ。それなら、モーノちゃんも一緒に呼んで、4 人でどこかで遊ぼうよ。」
「あ、いいね!それじゃあ、モノボリに連絡して、時間があるか聞いてみるよ。」
「じゃあ、急いで聞いてね。ここで待ってるから。でも、早くしてね。待たせすぎたら、罰するからね〜」
「はいはい!」
先輩の罰か。なぜか、逆にちょっと期待してしまうような気がするんだな……
僕はすぐにモノボリさんの電話をかけたが、彼女もすぐに電話に出た。僕とリビダ先輩と僕の妹のウィッシャと一緒に遊びに行く時間があるかどうかを尋ねたところ、彼女もすぐに承諾した。
「じゃあ、妹を連れて行くから、そこで待ってるよ」
そう言って、僕は電話を切った。そばにいたウィッシャは、さっき誰に電話していたのかと、今になって僕に聞いた。
僕は彼女に、さっき兄ちゃんはクラスメートそして親友である人と電話をしていたのを答えた。彼女はそれを聞いて、嬉しそうな笑顔を見せた。
「お兄ちゃんは学校に友達がいたのね。それはよかった!」
僕はウィッシャの頭を揉み、彼女にも尋ねた。
「ウィッシャは?ウィッシャは学校で友達ができたのか?」
「もちろん!ウィッシャは学校でとても人気があるよ!始業初日からたくさんの人がわたしに話しかけてきて、わたしを真ん中に囲んでくれたの!」
ウィッシャの説明を聞いていると、僕は思わずモノボリさんが最初に教室に来たときのシーンを思い出した。妹の言ったことは、モノボリさんの境遇にそっくりな気がする。
「じゃあどうして、ウィッシャは休暇中に友達と遊びに行かないの?」
「だって、ウィッシャはお兄ちゃんと遊びたいの。ウィッシャにはお兄ちゃんがいれば十分だよ~」
「兄ちゃんにはそんな腕があるものかよ、あなたの友達全員の代わりになれるって……」
「なれると思う!お兄ちゃんのことが一番好きだから!」
妹がそんなにシンプルでストレートに、僕への気持ちを言葉にして笑ってくれたのを聞いて、僕もつい彼女の手を少し強く握った。
もし僕とウィッシャが普通の兄妹であったらいいなあ。
僕とウィッシャはすぐにリビダ先輩に会った。ウィッシャは礼儀正しく、先輩に会ってから自分から挨拶をし、先輩もとても優しい返事をしてくれた。それは僕も見たことのない優しさで、先輩はウィッシャのことがとても好きなようだった。
「シャックル、あなたにはこんなかわいい妹がいるなんて、うらやましいことだね。」
「へへ……でも、僕はあなたにウィッシャを譲ってはしないよ?」
「うん?安心して、もちろんあなたの妹を奪うつもりはないよ。だって……」
先輩は一瞬にして僕の耳元に口を寄せ、小声で僕に言った:
「彼女のようなかわいい女の子は、あたしたち一緒に産めばいいのに~」
僕は彼女の言葉に瞬時に驚き、顔が真っ赤になって、思わず数歩後ろに下がり、彼女から逃げ出した。ウィッシャは僕の様子を見て、疑問そうに何が起こったのか尋ねてきたが、僕はすぐに何も起こっていないと伝えた。
その一方で、先輩は僕の窮地を見て、思わず大声で笑い出した。
「一緒に立って見せてくれない?」
僕とウィッシャは先輩の要請に応じて一緒に立った。先輩はよく観察した後、結論を出した。
「やっぱり兄妹だね。本当に似てる!」
それは言うまでのないことだよ!僕たちはもちろん正真正銘の兄妹なのよ!
間もなく、モノボリさんも来た。しかし、僕たちとは違って、彼女は乗用車で来た。
モノボリさんは車から降りて、僕たちに挨拶をしながら僕たちに向かって歩いてきた。同時に、モノボリさんの家のバトラー、アンナイさんも、乗用車の運転室から出て、モノボリさんの後ろについて歩いてきた。
ウィッシャは僕たちに向かって歩いてきたモノボリさんを見て、僕の服の裾を引っ張った:
「お兄ちゃん、前に電話したのは、あのお姉さんだったの?」
「うん?そうだね。彼女はモノボリと言って、兄さんのクラスメートなんだ。前に兄さんの補習を手伝ってくれたこともあるんだよ。とても優しい人だ。」
「おおーー」
ウィッシャの目からは崇拝の光が輝いている。モノボリさんが初めて彼女の前に現れた瞬間、彼女に非常に良い印象を与えたようだ。
この時のモノボリさんは、華美ではなく、女性らしい普通の服装をしている。しかし、そのスタイリングは彼女の天然の美しさを引き立てている。彼女の仕草や立ち居振る舞いからは、上品で気品ある雰囲気が漂っている。やはり、モノボリさんを形容するなら、「プリンセス」という言葉が最も適しているだろう。
一方、アンナイさんは前回会ったときと同じスーツを着ている。清潔で整った服装は彼女の職業的な風格を示しており、表情は相変わらず厳格で真剣だ。
モノボリさんが僕たちの近くに来ると、まず僕の妹に挨拶を交わした。
「あなたはシャークさんの妹、ウィッシャですよね?」
彼女はウィッシャの前にしゃがんで、ウィッシャの肩と同じ高さに位置させ、そして優しい声でウィッシャに尋ねた。
「うん、こんにちは、モノボリ姉ちゃん!この前兄の補習を手伝ってくれたことに、ウィッシャは感謝したい!」
「どういたしまして。お兄さんが先に助けてくれたので、恩返しをするためにやったのですよ。」
僕はモノボリさんを助けたことがあるか?考えてみると、その雨の夜に彼女に傘を渡したことを覚えているだけで、それ以外には自分が彼女を助けたことは何も思い出せない。
まさか、モノボリさんは本当にその傘のために、僕にこんなにたくさんしてくれるのか。彼女はもう携帯電話をプレゼントしてくれて、その価値は僕が以前彼女にした親切の何倍にもなっている。
「美しくて可愛い子ですね。抱いてもいいですか?」
モノボリさんは突然ウィッシャにそう言った。しかし、ウィッシャは彼女に返事をしなかった。
なぜなら、ウィッシャはすでに自分から抱きついていたからだ。
モノボリさんがウィッシャを抱きしめている姿を見て、僕もほんのりと温かさを感じた。その瞬間、先輩が僕のそばに近づき、こっそりと僕の手を握り、小声でこう言った:
「いいなあ。あたしも彼女を抱っこしてほしいなあ~」
「僕は、ウィッシャが先輩に抱かれることを喜んでいるだろうと思います。」
「そうなの?でもあたしも、あなたを抱きしめたいよ、どうしたらいい?」
「はあ?でも、みんなここにいるよ……」
特にウィッシャ、彼女の今の年齢は、僕と先輩のラブラブな様子を見るのはまだ早いと思う。
それでも、僕はやはり先輩の手を強く握りしめ、彼女に対する愛情を示した。
しかしその時、先輩は突然小声で僕に尋ねた:
「シャックル、もしかして、あたしよりも良い選択肢があると思ったことはないか?」
「は?」
僕は先輩に向き直り、彼女の顔に微かな笑みが浮かんでいるのを見た。彼女の心の中が今何を考えているのか、僕にはわからなかった。
「もっと良い選択肢って……どういう意味ですか、僕にはわかりませんよ、先輩……」
「つまり、あたしと一緒にいるよりも、もっと優れた人と.....」
「いやだ!」
僕はうっかり叫んで、すぐに他の人の目を引いた。僕は急いで先輩と繋いだ手を後ろに隠し、そしてさっき何もなかったかのように他の人に微笑んでいた。
「ならわかったわ……」
その時、僕の後ろから先輩の小さな声が聞こえてきた。僕は先輩が僕の気持ちを分かってくれたと思って、他の人が気づかないうちに、急速に先輩の唇にキスをして、すぐに顔をそらした。
「え?」
先輩はまだ反応していないかのように、少し驚いた表情で僕を見ていた。
「どうしたの、そんな目で僕を見て?」
「ああ、ただあんたがこんなことを自分からやるなんて、思わなかったよ。」
「なめるなよ!僕だって時々は勇気があるんだから……初めてキスしたときも、僕からだったろ?」
僕はもちろん、前に先輩と一緒にパスポートを申請に行ったとき、市政登記所で、僕が自分から顔を上げて先輩の唇とぶつかったことを指している。
「フフ、あたしから見れば、ただ色欲に頭を奪われたんだろうな~」
「うむ……」
先輩の言うことも間違ってない。普段の僕なら、こんな大胆なことは絶対にできないだろう。でも、強烈な欲望に駆られて、僕のような人間でも十分な勇気を持てたんだ。
「あたしがあげられるのは、これだけだね……」
先輩はこの時、独り言のようにつぶやいた。
そこで僕たちは具体的な遊びの計画を相談し始め、すぐに隣の町の遊園地に一緒に遊びに行くことにした。小学生のウィッシャがいるので、僕たち全員の目標は一致して「ウィッシャを楽しませる」ことになった。
要するに、今日の午後はウィッシャが中心で、僕たちはみんなウィッシャの周りを囲む存在になったのだ。
こうして、僕たちはモノボリさんの乗用車に乗り、一緒に遊園地に向かった。僕にとって、今日は人生の中で最も特別な日なんだ。僕の人生の中で僕にとって最も大切な女の子たちは今僕のそばにいるからだ。
「こんな日々がずっと続ければいいな…」
僕は思わずそう思った。




