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第三章 約束以上トラウマ未満

三度目の正直。いよいよ佳境です。コンの命運やいかに。

 ゆらゆらと蚊取り線香の煙が外へと抜けていく。


 とっぷりと日が暮れたバイト一日目。僕はだだっぴろい客間の片隅に転がされていた。室内のふすまをすべて取っ払い、風通しがよくなっている。持ち主は今日一日たっぷりこき使われた後の入浴に向かった。到着時に一通り案内された際に見た浴場は銭湯並みの湯舟だったので、真鈴は瞳を輝かせていた。


 余談だが、真鈴が東雲宅を案内されるたびに素直に驚いたり喜んだりしていたおかげか、東雲は徐々に機嫌をもちなおしていた。ちょろい。

 と、噂をすればなんとやら。ラフな格好をして三本の瓶を持った東雲が、廊下側のふすまを滑らかに開けて室内を覗き込んだ。


「真鈴くんは……お風呂ですか」

「そだよ~」

「ひゃっ」


 独り言に思わぬ返事があったからか東雲はその場で三十㎝ほど飛び上がった。声の主、縁側に寝ころんでいた鳴宮はけらけらと笑い声を上げる。


「凛ちゃんかわいい声出すじゃん。いがーい」

「……居るなら居るって言ってください」


 東雲は鳴宮に苦手意識があるのかすすすとふすまを閉め始めたが、鳴宮がその動きを制止した。


「ああ待って待って凛ちゃん」

「なんですか?」


 露骨に嫌そうな表情を隠さない東雲。だが結局ちょいちょいと手招く鳴宮に、深く深くため息を吐いて鳴宮の隣に一人分の隙間を開けて座った。


「で、なんですか?」

「いやね、凛ちゃんと話してみたくて。陽太からよく話は聞いてたし」

「……鳴宮、さんは、真鈴くんと幼馴染なんですよね」

「タメなんだから鳴宮でいいよ。陽太が洟垂れだった幼稚園から知ってるよ」

「そ、そうなんだ……幼稚園……」

「お? 気になる?」

「いえ別にそんなことは」

「聞きたくないの? 陽太の事好きなんでしょ?」


 言ったーーーーーーーーーーーーーー!

 ド直球火の玉ストレートで内心を突かれた東雲は、どんがたがっしゃんと座った体勢から前に倒れる。


「なんなっ、なんなななななな」

「慌ててる慌ててる。やっぱそうなんだ」

「カマかけたんですかっ」

「でも事実でしょ?」


 ぐっ、っと言葉を詰まらせる東雲。鳴宮はいつのまにか持っていたボトルコーヒーを東雲に向ける。


「何で分かったと思う?」

「……鳴宮さんも、そうだから、ですよね」


 それに対し、東雲はノータイムで答えを返した。鳴宮はぱっちりと目を見開く。


「驚いた。気づいてたんだね。凛ちゃん意外と観察者?」

「いや鳴宮さんのはだいぶわかりやすかったですけど……」

「そ、そう……」

「あとこれ、お風呂上りにコーヒーはあまり良くないですよ」

「お、ありがと凛ちゃん」


 先ほどの意趣返しみたいに動揺した鳴宮に、東雲が持って来た三本あるミネラルウォーターを一本手渡す。内容量の三分の一を飲み干してからこほん、と鳴宮は咳払いをして続けた。


「そうよ。私も陽太が好き。だからこそ、私はあなたに言わなきゃならないことがあるの」

「それはいったい……」


 ……いや、君たちすごいね。ほんわかした空気のままシリアスに戻るんじゃないよ。


「真鈴に、告白しないでほしいの」

「え……?」

「真鈴、中学の時に告白してきた相手に振られたんだよ。だから恋愛することに苦手意識があるみたいで」

「……」

「だからこそ、もう一度彼に怖い思いをさせたくない。だから、凛ちゃんには今彼に、告白しないでほしい。これは真鈴のためでもあるから」

「鳴宮、さん」


 深々と頭を下げる鳴宮に、東雲は神妙な表情でボトルを胸元で握り込む。


「……わかりました。真鈴くんにそんな過去があったなんて教えてくれてありがとうございます」

「ごめん。私のエゴに付き合わせちゃって。だからって言うのはアレなんだけど、このバイト一八日で終わりだよね」

「そうですね。それがなにか?」

「その翌々日に、茨槻フェスティバルあるよね? そこに陽太と行ってきなよ」

「えっ、鳴宮さん!?」

「このバイト中に陽太にそれとなく凛ちゃんのコト吹き込んどくから、そこで告白しちゃいな!」

「いやいやいや、でも、え、鳴宮さんも、真鈴くんのこと好き、なんですよね?」

「まあね。でも幼馴染の私よりも、真鈴は凛ちゃんの方がいいでしょ。大丈夫だって! それに……」

「それに?」

「うん、多分私より大きいし」

「何言ってるんですか?!」


 鳴宮は一度自分の胸元に視線を落とした後、そこにあるふくらみとラフなシャツを押し上げる東雲のふくらみを見比べてため息を吐いた。東雲は顔を真っ赤にしながら胸元を隠し、鳴宮の頭をボコボコと叩き始める。


「真鈴くんがそんなことで決めるわけないじゃないですか!」

「痛い! 痛いって! というか凛ちゃん意外と力強いね!?」

「もう! もう!」

「じゃ、じゃあとりあえず約束! 明後日のお祭りはちょっと二人で回らせてね!」


 ゆびきりをしてなんだか少し空気がほぐれ、夏の夜はふけていく。それを見て僕は恐ろしさに震えていた。

 だってどう見ても目の前の一連の流れが「東雲より先に告白する、そのために東雲の告白する気を削ごう」としている図にしか見えなかったから。

 その証拠に鳴宮の首筋あたりにはじっとりとした汗がにじんでいる。

 体温調整の発汗ではなく、焦りや緊張から来る汗は、ドロッとした汗になりやすいと奉納された人体科学の論文で読んだ。


 あんなに無邪気な表情をして恋敵をさらっと出し抜こうとした姿は、さすがにドン引きだった。地雷系服装の伏線をここで回収してくるとは思わなかった。

 まあいいか。僕が青少年の色恋に口を出すわけじゃない。真鈴の恋路が遅くなったって……遅く……。


 いや待て。遅くなったらダメじゃないか。というかそれ以前に、真鈴と鳴宮が恋人になるのはまずい。非常にまずい。


 「部長と恋仲になれますように」という願いで、僕はここにいる。ということは、鳴宮が選ばれた場合……


 ……僕、一生このまま?

女の闘いを傍から見る神様……シュールですね

次回、クライマックスです。

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