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第二章 幼馴染以上恋人未満

近日(数分後)です。

最後まで投稿しますのでお楽しみください。

 時は夏休み。気温も三八度を超える日が増えた八月の一五日。僕たちは茨槻市中心街から四五分バスで揺られたのち、山中の忍成寺(にんせいじ)バス停に降り立った。都市部から離れたこともあり、心なしか吹き抜ける風も涼し気だ。

が、僕の内心は全く涼しげではなかった。


「あー! おしりがごわごわになっちゃうかと思った!」

「でも涼しいな。きもちいー……」

「ん、陽太水飲みな? 熱中症なったら怖いよ。病院まで遠いし」

「ん、ありがと美音。助かる」

「おー? 間接キスか?」

「そんなこと気にする間柄じゃねえだろ。バカ」


 薄手のチェックシャツとクリームのチノパンを履き、足元もニューバランスの運動靴で固めた真鈴の隣では、髪色を明るく染めた少女がくりくりの目を笑顔の形にして飛び跳ねている。いた。

 ……ちょっと待て、何で居るんだお前。


「部長、バイトもう一人いるって言ってたけど、お前だったのかよ」

「まあね~。いろいろなご縁とその他もろもろのしがらみってやつ?」


 完全に想定外だった。この少女がもう一人のアルバイトメンバーだということは僕にも読めていなかった。


「お前そんなカッコで平気なのか? 山だぞ」

「だいじょーぶ! 荷物の中に着替え全部入ってるから!」

「じゃあなんでそんなフリフリした格好してんだよ……山の危険性分かってんだろうな」


 少女は山に対する完全防備な真鈴と違い、黒の装飾が各所にあしらわれたライトピンクのブラウスと、暗色フリルスカートという服装に、底の分厚いパンプスを履いていた。近年参拝者の中にも増え始めた「地雷系」というらしい。


「ヤレヤレ、陽太は相変わらず流行に疎いんだねぇ。今のトレンドだぞぉ?」

「しゃーねえだろ。同年代の女子で私服知ってるのお前くらいだぞ」

「……一応聞いておくけど、かわいい?」

「あん? なんで俺に聞くんだよ」

「陽太、一応高校男子だし? 参考にはならないけど統計上そういうものも集めたほうがいいし?」

「まあかわいいんじゃねえか? 女子のファッションはわからん」

「……そっか」


 な に い ち ゃ つ い て ん だ !

 真鈴お前ヘタレ男子のはずだろ! なんで同級生の女子とそんな自然に会話出来てんの!


 ……すまない、取り乱した。真鈴の隣でテレテレしているこの少女は鳴宮美音(なるみやみおん)。真鈴や東雲と同じ高校に通う高校二年生で、真鈴とは幼稚園のころからの幼馴染。


 真鈴が意識せず自然に会話が出来ているのもそのためかもしれないが、実は彼女が最後の障害になっているのだ。真鈴の言葉にでれでれもじもじしている姿から察するに、恐らく鳴宮は真鈴に幼馴染以上の感情を抱いている。真鈴のほうはどうかわからないが、真鈴と鳴宮が仮に恋仲になったら……。と突然の計画の崩れに僕は汗を垂らす。キーホルダーに発汗機能はないけど。


「で、こっからどう行くの?」

「部長は「私が迎えに行くからバス停で待っててね」って言ってたけど……」

「待つしかないのかー。じゃあ膝借りるね~」


 真鈴がスマホを確認している隙に、鳴宮は真鈴の膝に倒れ込んだ。すうっとした汗が彼女の首筋を流れて真鈴のチノパンにしみこむ。真鈴は彼女の行動には目もくれず、座ったままスマホをあちこちに向けていた。


「明後日の一八日に祭りがあるんだって、どう? ……おい、こっち見ろ」

「いやここ電波入らなくてさ。部長と連絡取れないんだよな……」


 ちらっと見えた画面にはアンテナの横に小さいバツマークが見えた。チャット画面には「つきました!」というメッセージが未送信のまま浮いている。不機嫌そうな鳴宮と、不安そうな真鈴。そして不穏な予感を感じ取った僕。その予感は的中する。


「なにしてるの?」

「ひゅっ」


 聞き覚えのある涼やかな声が待合室に響く。日傘をさして麻のカゴを持った東雲が待合室の外に立っていた。真鈴がびくんと硬直してスマホを放り投げる中、鳴宮は寝ころんだ体勢で東雲に手を振っている。


「おお? あなたが部長さん? わたし鳴宮美音。陽太がいつもお世話になってま~す」

「……真鈴くん。この方は?」

「あえっと、あの、えっとその、友達というか、幼馴染……です」


 先ほどまでの自然体は消し飛び、カタカタと震える真鈴。まったく東雲の方面に視線を向けられていない。正直僕もめっちゃ怖い。なんで人間の少女が三大怨霊のブチギレた時みたいな圧を発しているのかがわからない。追加でそれにひらひらと手を振って会話できる鳴宮の肝の太さもわからない。何この子。人間ってこんなに強かったっけ?


「ご友人さんには申し訳ないけど、真鈴くんは今からお仕事があるの。だから――」


 東雲が日傘を畳みながら鳴宮に何かを言おうとした時、彼女の後ろから一人の老婆が現れた。


「やっと来たねミオン。……アンタなんて格好してるんだい!」


 老婆は外見にに使わぬ俊敏さで歩み寄り、鳴宮の頭をパコーンと平手打ちした。


「いっだぁ!! なにすんのさシノばあ!」

「そんなカッコで来るのが悪いんだよ。ったく。発情期の鳥じゃあるまいし」

「なにおう!」

「あの、おばあさま……?」


 ぎゃんぎゃんと言いあう二人の姿に言葉が出ない。暗い圧力を放っていた東雲さえも困惑の表情でおずおずと老婆に声を掛けていた。


「なんだいリンちゃん」

「おばあさまの、ご知り合いですか……?」

「そうだよ」「そうだよ~」

「というわけで私もお世話になりまぁす。部長ちゃん!」

「……東雲凛です。こちらこそよろしくお願いします」

「よーろーしーくー!」


 鳴宮は俊敏な動きで東雲の右手をブンブンと振り回す。と、老婆がおいてけぼりになっている真鈴を見ていることに気づいた。というより、厳密には、僕がぶら下がっている鞄を……。


 パチリ。


 ……今、僕に向かってウィンクしたよな? 気のせいか?


 物理的にも疑念にも揺れる僕を尻目に、老婆はパンパンと手を叩いた。


「さて、今日から働いてもらうからね。ミオンは田んぼの場所分かるかい?」

「田んぼは手伝ったことないからわかんないや……」

「じゃあミオンは私が案内するさね。ついでに着替えさせないとダメだしねぇ……」

「げえっ……」


 じろりと横目を向けられて鳴宮は顔をゆがめる。老婆は鳴宮の首根っこを掴んで北の山奥に向かう道を帰っていく。だが途中で振り返り、東雲にも指示を飛ばす。


「リンちゃんはその子……誰だっけ」

「あっ、俺真鈴陽太っていいます! 東雲さんの所属している写真部の部員で……」

「ヨウタね。私も東雲だから、シノばあって呼びな。じゃ、リンちゃんあとは任せたよ」

「えっ、あっ、おばあ様!」


 それだけ言い残し、老婆――シノばあは鳴宮を引きずっていった。

 ……またウィンクしていったな。なんか上手に鳴宮引っ張って行ってくれたし。そこの読めないばあ様だ。


「……」

「……」

「じゃあ行きますよ。ついてきてください」


 やや荒々しい歩調で先導を始めた東雲に、慌てて追いすがる真鈴。地獄のような無言が横たわり、真鈴がおずおずと声を掛ける。


「えっと部長……」

「なんですか」

「いや、任されたってことなんで……できたら仕事内容とか教えてほしいなって……」

「私が全部知ってるわけじゃないんですけどっ」

「はいスイマセン!」


 けんもほろろに突き放される姿に、僕は完全に白目を剥いた。鳴宮というイレギュラーの介入で二人の関係が完全に悪化している。これではただでさえヘタレな真鈴は歩み寄れないし、東雲だって余計に不機嫌さを隠さない……。


 うん? 不機嫌さを隠さない? あの内心を表に出さない東雲が、不機嫌さを隠していない……?

 これは、もしかすると、もしかするかもしれないな。鳴宮という障害は生まれてしまったが、この状況だと東雲の素を真鈴が知ることが出来るかもしれない。首の皮一枚繋がった、かも。


 真鈴の方を一度も見ずに、東雲はかごからお茶を取り出してあおった。ラベルには「ど~いお茶」の文字が。


「えっと、とりあえず部長なんで怒ってるのか……俺もお茶ほしいなーって……」

「怒ってないです!」

「怒ってるじゃない!? 何で!?」

「自分で考えてください!」


 ……前途は多難だ。

半分ですね。

ここまでの地名でモデルの場所が分かった貴方は私の地元に住んでいる方かもしれませんね。今度お茶行きましょう。

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