第9話
今週もつまらない授業が終わった。
明日から休み。
美術館の最終日は明後日だから、決行日まで後二日だ。
僕は帰る支度をしてすぐに下校する。
最近リリーナが絡んで来ない平和な日々が続いている。
常に三人娘といるみたいだ。
いい事だ。
せっかくの学園生活。
友達と過ごす方が僕といるよりもよっぽどいい。
そして僕も自由になれる。
みんなが幸せになる事だ。
僕は素早く学校を飛び出し、速攻で自分の寮まで帰る。
今回も奪うまでの道筋は決めている。
あとはぶっつけ本番。
イレギュラーやトラブルも楽しむ要素の一つ。
僕のアドリブ力が試されるわけだ。
そんな訳で今日はギルドの秘密基地でのんびり過ごすんだ。
何もしない贅沢を堪能しないとね。
自分の部屋の前に着くと手紙が届いていた。
どうやら直接郵便受けに掘り込まれたみたいだ。
表に招待状とだけ書いてある。
その文字を一目見て差出人がわかった。
ヒナタだ。
なんでも直接言ってくるヒナタが珍しいな。
僕は部屋でソファーに座ってから手紙を広げる。
『お兄ちゃんへ
今エルザさんが王都に来てるよ。
お兄ちゃんはもう知ってるよね。
今日は私の部屋でシンシアとエルザさんと女子会をします。
パジャマパーティーだよ。
やったね。
夜の9時からだよ。
お兄ちゃんもパジャマで来てね。
待ってるよ。
可愛い妹 ヒナタ』
……女子会にお兄ちゃん呼ぶなよ。
お兄ちゃんは男だよ。
一体何を考えているのやら。
よし、無視しよう。
これはあれだ。
きっと間違えたんだ。
だってどう考えても呼ぶ相手を間違えている。
ピンポーン
不意に僕の部屋のチャイムがなる。
「はいはーい」
僕は嫌だけど玄関の扉を開ける。
「ご機嫌よう。
お久しぶりですねヒカゲ君」
そこにはルナが立っていた。
「久しぶりだね。
どうしたの?」
「リリーナの部屋を訪ねたのですが、不在だったのでこちらかと」
「残念ながらリリーナはいないよ。
今頃学校の友達とお茶してるんじゃないかな」
「リリーナにお友達ですか!」
ルナが目を丸くして驚いている。
なんて失礼な奴だ。
気持ちはわからんでもないけど。
「最近ずっと一緒にいるんだ」
「なるほど、リリーナの言ってた事は本当だったのですね。
リリーナにそんな友達が出来るなんて不思議な事が起きるものですね」
ルナが小声で何か失礼な事を言っている。
けど、若干羨ましそうだ。
「それであなたはどうなのですか?」
「なにが?」
「リリーナがずっとお友達ばっかりにかまけているのでしょ?
なにか思う所は無いのですか?」
「やっぱり学園生活は友達と過ごすのがいいよね」
僕は前世と合わせて友達は一人もいないからね。
友達と過ごせる人は過ごすに限るよ。
「その……寂しいとかは無いのですか?」
「え?僕が?
なんで?」
「なんだかリリーナが不憫に感じて来ました」
なんか良くわからないけど、残念な人を見るような目で見られた。
「せっかくのチャンスですし、私とデートしましょう」
「嫌だ」
「馬車は待たせておりま……え?」
ルナは目を丸くしてキョトンとしている。
僕はその隙に扉を閉めようとしたが、もう少しの所でルナに扉を抑えられた。
「ヒカゲ君。
一応私は王女ですけど」
笑顔だけど、とても怖い笑顔。
でもそんなので僕は屈しない。
「今は宣教師学園通ってるよね」
「それがなにか?」
「今は身分関係無いよね?」
「なにか勘違いしているみたいですけど、身分を剥奪するのはお兄様達が婚約相手を探す時に色眼鏡を無くす為です。
だから王族である私には関係ありません」
「え?そうなの?」
「そうですよ。
でないとお兄様方が婚約者を探せないじゃありませんか」
なんてこった。
それだと僕は断る事が出来ないじゃないか。
「……」
「……」
「……あっ、UFO」
「えっ!?」
ルナが僕の指差している方を見た瞬間に扉を閉めて鍵も閉める。
これでよし。
さあ、のんびり過ごそう。
ピンポーン
聞こえない聞こえない。
「こんな乱暴な扱いなんてされた事無いですよ」
扉の前で何か言ってるけど、気にしない。
「仕方ありませんね。
今日は帰ります」
そうだ、帰れ帰れ。
「でも、このまま帰ったらヒカゲ君に乱暴されたって言ってしまいそうです」
ん?なんか不穏な事言ってるぞ。
「誰に言ってしまうかしら?
リリーナには言ってしまいそうね」
「……」
「学園ではお兄様に言ってしまうかも」
「……」
「でもまずはお父様に――」
「そういう脅しは良く無いと思うよ」
僕は諦めて扉を開けた。
「脅し?
私はただ独り言を言ってただけですよ」
「王女なら発言には気をつけた方がいいと思うよ。
君の発言で人は簡単に死ぬんだよ」
「それは気をつけた方がいいですね」
「そうだよ」
「ヒカゲ君が」
「え?」
「だって私の機嫌を損ねたら失言してしまいますよ」
そうだった。
こいつは性悪女だった。
リリーナは殴って思い通りにしようとするけど、ルナは脅して思い通りにしようとするわけだ。
類は友を呼ぶとはこの事だ。
「それで僕は何処にお供したらいいわけ?」
「そうですね。
リリーナがお茶してるお店にでも行きますか?」
「そんなんだから性悪って言われるんだよ」
「発言には気をつけた方がいいと言ったばかりですよ」
「僕の発言が気になるなら僕と関わらない方がいいよ」
ルナはとても愉快そうに笑い出す。
「あなたとの会話は面白いですね。
リリーナがあなたに惹かれる理由がわかりますわ」
「物珍しく感じるだけだよ。
悪い男に引っかかる典型的なパターンだ。
気をつけた方がいいよ」
「本当にリリーナが不憫ね。
あまりに可哀想だから別の所にしましょう。
私クレープが食べたいわ」
そう言ってルナは歩いていった。
僕はそっと扉を閉める。
すると、閉めた扉に剣が突き刺さった。
危うく僕も刺さる所だった。
「ヒカゲ君。
なんで扉を閉めたか聞いていいかしら?」
「えーと……出掛ける準備をしようと思って」
「レディを待たすなんて良く無いですよ。
私は制服でも気にしませんわ」
「アハハ……
そうですよね〜」
「では早く行きましょう」
「僕は扉の修理しないと」
「そんなのこちらでやっておきますから、お気になさらずに」
渋々だけど行くしかないみたい。
「そんなに嫌な顔しなくてもよくありません?」
「だって嫌だから」
「まったく……
本当にリリーナが可哀想」
なんでだよ。
どう考えても可哀想なのは僕だろ。
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