第5話
トランプはハートの3。
つまりはローだ。
「私の勝ちですね」
従業員が僕達のチップに手を伸ばす。
僕もカナリアもその手を押さえて止める。
「イカサマはいけませんよ」
僕はそう言ってチャラ男からトランプを1枚取る。
それはハートの3だった。
「良く出来てるよね」
カナリアがテーブルのハートの3を取って魔力を流す。
するとトランプの柄がコロコロ変わる。
流す魔力の強さによって変わるようになっている。
カナリアの言う通り良く作ったよね。
「これでも私達の負けだと言い張りますか?」
トリニーは唇をプルプル振るわせている。
チャラ男がテーブルの下にゆっくりと手を伸ばす。
その手目掛けてカナリアがトランプを投げた。
「うぁ!」
トランプが手の甲に刺さりチャラ男の手から短筒が落ちる。
それを拾ったカナリアがトリニーに銃口を向ける。
「これも偽物?
違うよね。
これでどうするつもりだったの?」
トリニーはゆっくりと両手をあげて口を開く。
「その引金を引けば、御二方も蜂の巣ですよ。
ここはお金で解決しませんか?」
「ここまでしといて都合が良過ぎない」
「100倍でお支払いします」
「足りないね。
なんたって僕達は殺される所たったんだ」
「いくらなら満足ですか?」
カナリアがニンマリと笑う。
とても悪い顔だ。
「全部だよ全部」
「全部?」
「そうだよ、ぜーんぶ。
今ここにある全部の金。
客から預かってる分も含めて全部」
カナリアの横暴な要求にトリニーの顔が青ざめる。
「お客様の分に手を出すなんて――」
「そのお客様の命を狙っておいてよく言うね」
「しかし――」
「グダグダ言って無いでさっさと持って来いよ!」
「やれ!」
物陰に隠れていたボーイが一斉にカナリア目掛けて発泡する。
カナリアの体を魔力が包んだと思ったらベストとハーフパンツ姿に変わる。
これが彼女の戦闘スタイルだ。
そのお尻から普段は隠している9本の尻尾が伸びて全ての銃弾を叩き落とした。
しなやかで綺麗な毛並みの尻尾。
カナリアは化狐。
その中でも珍しい九尾の狐。
まあ、この世界では一括りに獣人と呼ばれている。
「その仮面はまさか!?」
「そうだよ。
ナイトメア・ルミナス第五色、勤勉のカナリア。
覚えておかなくてもいいよ」
カナリアはトリニーにウインクしてから僕の方を見る。
「お姉さんは危ないからそこで大人しくしててね。
すぐに終わるから」
そう言ってカナリアは尻尾の先に魔力で青紫色の狐火を出す。
それぞれの尻尾が独立した動きで狐火を投げていく。
あれだけバラバラの動きをしてるのに、よく絡まらないよね。
狐火が当たったボーイは悲鳴をあげる間もなくで狐火に包まれて蒸発した。
トリニーが隠し持っていた短筒を出すが、カナリアの短筒が撃ち落とす。
トリニーの手から血が流れる。
「次はそのお顔に穴が開くかもよ」
カナリアはトリニーの額に銃口を向けた。
「待て!そこまでだ!」
チャラ男が座っていた僕の後ろから首筋にナイフを押し当てて怒鳴る。
「その短筒を捨てろ。
さもないとこの女の命は無いぞ!」
それを見たカナリアは不思議そうに首を傾げた。
「何で僕が短筒を捨てないといけないの?」
「はあ?
お前、この女の命がどうなっても――」
「いいよ。
別に知らないお姉さんだし」
「え?は?はぁ!?」
どうやらチャラ男は分かっていないらしい。
仕方ないな〜
僕が教えてあげよう。
「馬鹿だね君は。
悪党に人質なんてなんの意味も無いよ」
僕は突きつけられた手を持って投げ、テーブルに叩きつける。
その顔の真横に刀を突き刺した。
「死にたくない?」
僕の問いにチャラ男を首を何度も縦に振る。
「なら金貨を全部集めてね」
またしてもチャラ男は首を何度も縦に振る。
「え!?ボス!?」
カナリアは僕の刀を見てようやく気が付いたようだ。
僕は一瞬で元の姿に戻る。
「やっぱり気付いて無かったんだね」
「うわー!どうしよう!
僕、ボスに大人しくしといてとか言っちゃった!
あのドヤ顔恥ずかしい」
トリニーがゆっくりと逃げようとした所をノールックでカナリアが撃った弾が太ももを掠める。
トリニーは痛みでその場で蹲る。
「逃がさないよ」
「カナリア、このチャラ男を連れて金貨の回収お願い出来る?」
「この女はどうするの?
逃す?」
「いや殺すよ。
でも、その前にちょっと使おうかなって」
「使う?」
「まあ、とりあえずこっちはお願いしたいな」
「わかった」
カナリアはチャラ男を引っ張って部屋を出て行く。
僕な鼻歌混じりにトリニーに近づいていく。
「こんな事してお館様が黙っていないわ!」
「お館様?」
「お館様のカジノだと知らずにこんな事したのね。
それはご愁傷様ね。
今なら黙っといてあげるわ。
さっさと金貨を置いて出て行きなさい!」
なんか急に元気になったね。
そんなにお館様ってのがすごい人なのかな?
まあ、そんな事気にしないけどね。
「出ていかないよ」
「あなた達お館様が怖くないの!?」
「どうでもいいよ。
今の僕が興味あるのは、このカジノにある金貨と君の体」
「私のって……まさか!?」
「僕はね。
僕を殺そうとして奴には容赦しないんだ」
トリニーは躙り寄る僕に合わせて、体を引き摺りながら下がっていく。
その必死な表情もそそるね。
これが楽しく感じてしまう所が僕が悪党なんだと思う。
まさかギャンブルに来て、こんな特典がついて来るとは思わなかったよ。
夏休みでいろいろあって溜まってるしね。
年頃の男の子の体は何かと溜まり易いんだ。
丁度良かったよ。
殺す前にしっかり楽しんでおこう。
「イヤ、来ないで、来ないで!」
「はいはい、逃げたらダメだよ」
僕はトリニーの上に乗って地面に押さえつける。
必死に踠くトリニーを見下ろして舌舐めずりをした。
「やめろ!
今すぐ放せ!
そうしないとお館様が――」
「お館様が君が生きてるうちに助けに来るといいね」
「イヤーー!!」
「いただきまーす」
これだから悪党はやめられないよ。
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