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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
6章 悪党は世界の全ての敵となる
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第3話

満月まであと5日。

今日はあいにくの大雨。

僕は美術館の向かいのカフェで雨の音を聞きながら下見をしていた。


大雨にも関わらず大盛況だ。

警備も厳重にされていて、騎士達も常に気を張ってる状態だ。


そのせいもあって、若干疲れも見えている。


やっぱり改めて予告状を出しておこう。

これじゃあ僕が奪いに来る日までに疲れてしまうよ。


「今回の大仕事は私達の助けはいりそう?」


向かいの席にスミレが座る。


「そうだね……

少しだけお願いするかも」


「わかったわ。

いつでも言ってね」


「君達も最近忙しいみたいだね。

ギルドに行っても殆ど出払っているし。

もしかして、僕がお願いした事が負担になってる?」


スミレは小さく首を横に振って否定した。


「あなたのお願いが負担になる事なんてありえない。

あれは大方片付いてる。

近々まとめてあなたに報告するわ」


「ありがとう」


「私達はみんな別々の依頼で動いているわ」


「そんなに依頼があるの?」


「ええ、正直私も驚いているわ。

世の中に悪党と契約してまで叶えたい望みがある人がこんなにいるなんて」


「それこそ愛すべき人の業だよ」


誰しもがわかっている。

悪党との契約なんて碌な事が無い。

それでも魔が差す時があるんだ。


「ナイトメア・ルミナスの名前もかなり知れ渡るようになってきたわ。

あなたがロビンコレクションを奪えば、それこそ世界中に知れ渡るわ」


「そうだろうね」


「あなたはそれでいいの?

世界中が敵になるのよ」


「僕はいいよ。

むしろその方が分かりやすくていい。

どうせ僕はこの生き方を変えられない。

なら僕は世界中の敵に変わりない。

それより君達はいいの?

今からなら、正規ギルドとして上手くやっていく方法もあるよ」


「その先にあなたはいないでしょ?

私達はあなたさえ居れば他の全てが敵でも構わない」


「そうか。

まあ、いつでも抜けたくなったら抜けたらいいからね」


「フフッ。

そんな事ありえないけど、一応覚えておくわ」


スミレは微笑んでから消えた。

また雨音だけに耳を傾ける。


どうせなら、最後にもう一回ぐらい入って見たかったな〜


「おや?ヒカゲ君じゃないか。

久しぶりだね。

元気にしてたかい?」


「やあエルザ。

久しぶりだね」


若き剣聖エルザ・ノワールが僕の前に現れた。

世界中を旅している彼女と偶然会うなんて珍しい事だ。


「誰かと待ち合わせかい?」


「いいや。

一人で雨宿りしてるだけ」


「なら向かいの席いいかな?」


「もちろん」


エルザは席に着くと紅茶を注文した。

僕もおかわりのクリームソーダを注文する。


「それにしても久しぶりだね。

制服着てるって事はしっかり学園生活送れてるみたいだね」


「おかげ様でね」


「すっかり男前になったね」


「そういうエルザも大人っぽくなったよ」


「嬉しい事言ってくれるね」


エルザは嬉しそうに笑う。

エルフである彼女は見た目こそ大きなの違いは無いが、雰囲気はかなり大人っぽくなっている。


「それでエルザはどうして王都に?

探し人は見つかったの?」


エルザは家庭教師の期間を終えると人探しの旅に出た。

元々その資金集めの為に家庭教師を受けたらしい。


「それが全然でさ。

まあ、気長に探すさ。

今日は剣聖として依頼を受けてね」


「依頼?」


「そう、美術館の館長からね。

用件はわかっているけどね」


十中八九ナイトメア・ルミナスについてだろう。


「時間だから私はそろそろ向かうよ」


しばらく世間話してたらあっと言う間に時間ぎ過ぎていた。


「いってらっしゃい」


「しばらくは王都にいると思うから、またヒナタとシンシアも一緒にお茶でもしようね」


そう言ってエルザは美術館へと消えて行った。


騎士団が動き、勇者が呼ばれ、剣聖も現れた。

その全てが僕の敵になる。


今度の満月は楽しくなりそうじゃないか。


その日は綺麗に晴れるといいな。


僕はカフェを後にしてナイトメアスタイルに変身する。


だけど誰も気配を完全に消した僕の姿を捉える事は出来ない。

すぐ隣をすれ違っても気付かない。


そのまま美術館へと入る。

受付も素通り。


今の僕はみんなの認識の外側。

見えているはずなのに、誰も気にしない。


美術館の中を真っ直ぐと目的地に向かう。

そして一番の目玉であるロビンコレクションの元に到着した。


僕が貸してあげたマトリョシカも置いてある。


人はどのブースよりも多い。

騎士達も警戒している。


それでも僕は気付かれずに進んでいる。


魔力で予告状を生成してガラスケースに貼り付けた。


『予告状


お貸ししたロビンコレクションは楽しんでくれたかな?

次回満月の夜。

そう展示期間最終日の閉館の1時間後。

回収に来させてもらう。

ついでに他のロビンコレクションも頂いていく。

では、残りの期間を存分にお楽しみあれ。


ナイトメア・ルミナス

ギルドマスター ナイトメア』


こんな感じでいいかな。

これで騎士の人達も少しは余裕が出来るといいな。


僕は来た道を戻っていく。

僕が離れて少ししてからロビンコレクションのブースに悲鳴が上がり、一気に騒がしくなった。


誰が予告状を見つけたのだろう。


騒がしくすれ違う騎士達の横を通って美術館を出る。


予告状を出すのは大成功だ。


「待つんだ」


僕を呼び止める声がして振り返る。

エルザが真っ直ぐと僕を見据えていた。

その目には魔力が集中している。


そうか、魔眼か。

流石と言うべきだな。


「これは若き剣聖エルザ・ノワール」


「よかった。

私だけに見えてる幻だったらどうしようかと思ったよ。

君はナイトメア・ルミナスの仲間かい?」


「いかにも。

俺の名はナイトメア」


「なるほど君が親分ってわけだ。

つまり君を切れば全て解決するんだね」


エルザは剣の柄を持つと同時に消える。

次の瞬間には剣が僕の首直近まで迫っていた。

それを刀で受け止める。


その衝撃で僕達の周りの雨粒が弾け飛ぶ。

そこでやっと周囲の人達が僕の存在に気付いて騒然となった。


そんな事は気にせずエルザは剣を振るう。

そのしなやかな体から繰り出される剣は鋭く美しい。


それに僕は刀を合わせていく。


嬉しいよ。

嬉しいよエルザ。


君の本気の剣と交わりたいとずっと思っていたんだ。

でもあの時はそれが出来なかった。


君の剣はあの時よりも更に磨きがかかっている。

刀と剣がぶつかる音はまるで音楽を奏でてるようだ。

その音色にいつまでも酔いしれていたい。


でも、そうはいかない。

今はまだその時では無い。


「剣聖よ、素晴らしい剣だ。

出来ればいつまでもこうしていたい」


「私はごめんだね。

今すぐ君を切り捨ててしまいたいよ」


「熱烈な言葉をありがとう。

だけど、今日は舞台が整っていない。

予告状に書いた通り満月の夜。

君と交われるのを楽しみにしているよ」


「黙れ変態。

今すぐその仮面を剥ぎ取ってやる!」


エルザの剣が僕の仮面目掛けて伸びる。

僕はあえてそれを仮面で受ける。


真上に弾き飛ばされる仮面に合わせて、大きく宙返りをする。

そのまま空中で大雨に溶けるように消える。


宙を舞う仮面が回転して地面に落ちると同時に砕け散った。


その破片は大雨と同じように地面に染み込んでいった。

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