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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
6章 悪党は世界の全ての敵となる
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第2話

すっかり喫茶店に長居してしまった。


だって次から次へと食べ物と飲み物が出て来るんだもん。

しかも全部サービス。


新メニューの試食らしい。

サラの料理上手には驚いたね。

どれも美味しかった。

これからはちょこちょこ通うとしよう。


さてお腹もいっぱいになったし、あとは風呂入って寝るだけ。


僕は部屋のドアに伸ばした手を止める。


まただ。

またリリーナがいる。


本当に毎日のように来るよな。

エミリーがいなくなって寂しいのは分かるけど、毎晩男の部屋に来るのは良く無いと思うんだよね。


僕の精神健康的にも。


仕方ない。

少し散歩をしよう。

久しぶりにお金稼ぎにでもいくかな?


僕は飲み屋街を無防備に歩く。


さあスリは釣れるかな?

僕の財布を奪ったら最後、有金全部奪ってやる。


「お兄さん!

ちょっと遊んでいかない?

可愛い子揃ってるよ」


スリじゃなくて風俗の客引きが釣れた。

でも良く考えたら女の子を買うのもありかもしれない。


「可愛い子いるの?

僕の周りには美人も可愛いも揃ってるから目が肥えてるよ」


「うちは値は張るけどそれだけの価値はあるよ」


「そこまで言うなら――」


「やめとけやめとけ。

いくら可愛い子が揃ってたってアンヌ程じゃないさ」


客引きに付いて行こうとした僕の肩を突然掴まれた。


僕に気づかれずに背後を取れる人は限られている。


「やあ、ツバキ。

夏休みぶりだね」


「少年はすごいね。

普通こんな場面見られた慌てない?」


「なんで?

別に悪い事してないよ」


「確かに悪い事はしてないね」


ツバキは良く分からないけど苦笑している。


僕何かおかしな事言ったかな?

見られて困る事はしてないんだけどな。

見られて困る事は見られないようにしてるし。


気がつけば客引きは他の客の所に行っていた。


「なんで王都に?」


「呼ばれたんだ。

可愛い子ちゃんにね。

そうだ、せっかくだし少年も飲もう。

私が奢ってあげるよ」


ツバキは僕の返事を聞く前に肩を抱いて飲み屋街の奥に進む。


まあ、いっか。

どうせまだ帰れないしね。


「可愛い子ちゃんって誰?」


「可愛い子ちゃんは可愛い子ちゃんだよ。

ほら」


ツバキは前方に向かって手を大きく振る。

飲み屋のテラスに座っていた女性が立ち上がって頭を下げた。


それは王国騎士団第二部隊長のレイナだっだ。



乾杯をしたと同時にツバキのコップは空になる。

そして早くも二杯目が運ばれて来た。


「可愛い子ちゃんは本当に飲まないの?」


「はい。

公務中ですので」


「ちょっとぐらい大丈夫だよ〜」


「いいえ。

そういうわけには」


「ちぇ〜」


ツバキは口を尖らせながら二杯目を飲み干した。

すかさず三杯目がテーブルの置かれる。


レイナは持っていたジュースを机に置いて本題に入った。


「ツバキさん。

この度はわざわざお越し頂きありがとうございます」


「いいよいいよ。

どうせあても無くブラブラしてるだけだから」


そう言ってツバキは自分のコップとレイナのコップを超高速で入れ替えた。

僕じゃないと気づかないスピード。

それでいて一滴たりともこぼしていない。


正に達人。

だけど技術の無駄遣い。

なんて悪い人だ。


当然レイナは気付いていない。


「ツバキさんにはしばらく王都に滞在して頂きたいのです」


「別にいいよ。

ちなみに大体いつまで?」


「満月の夜まで」


「ほう?

それはまたなんで?」


「ツバキさんはナイトメア・ルミナスをご存知ですか?」


今日は良く聞くな。

いよいよ有名になって来たった事だな。


ツバキは自分のすり替えたジュースのコップを飲み干して四杯目を注文した。


「知ってるよ。

つい先日剣を交えた所だ」


「そうなんですね。

それで結果は?」


「スミレと名乗る構成員とやり合ったが、互角だったと言いたい所だね。

正直相手が本気だったかどうかもわからない。

少なくてもタイマンがやっとだね」


「そうですか……」


レイナは少し残念そうに声を漏らした。


「私はギルドマスターと思われるナイトメアに遭遇しました。

生捕りにしようとグラハム総長と挑みましたが、完敗でした」


「それは相当ヤバそうだね」


「はい。

総長からはナイトメアに関しては生捕りの必要無いと通達が出ている程です」


なるほど、これからは本気で僕を殺しに来るわけだな。

そこまでしないと僕には届かないからね。


それでも僕は逃げ切ってみせるよ。


「しかしツバキさんの話を聞くに、構成員の方も侮れ無いですね。

実は満月の日に王立美術館の展示期間が終了します。

その時ナイトメア・ルミナスがロビンコレクションを狙って来ると思われます」


ちゃんと僕の予告状覚えていてくれたんだ。

嬉しいな。

これは全力を持って奪いに行かないと。


「なるほどね。

それで私にも警備にも参加して欲しいと」


「本当はそうして貰いたいのですが……」


レイナは言い淀んだ。

ツバキはその理由を察知して笑いだす。


「仕方ないさ。

私は勇者の称号を貰ったけど平民には変わり無いからね。

私がでしゃばると面白く無い貴族は少なくないよ」


「申し訳ありません。

大変勝手ですが、ツバキさんは有事の時に助けていただきたいのです」


「構わないよ。

ただ、もしスミレよりもナイトメアが強いなら、私ではどうする事も出来ないかもしれないけどね」


「ありがとうございます。

ここのお支払いは騎士団に行くようにしていますので、ゆっくりしていってください」


「ちょい待ち」


店を後にしようとしたレイナをツバキが引き留めた。

そしてレイナの前に置いてあったコップを指差す。


「残ってるよ」


「大丈夫です」


「大丈夫じゃないよ。

お残しは良くない。

店の人に失礼だよ」


「そうですね」


「そうさ。

グイッと一気に飲んじゃえ」


レイナは何も考えずに一気に飲み干す。

それは当然ツバキがすり替えたお酒だ。


ツバキはニヤニヤして見ている。

なんて悪い大人なんだろう。


「え?あれ?

これってお酒?」


レイナは相当お酒に弱いのか、それとも予想外のアルコールに体がびっくりしたのか、もう目がトロンとしている。


「それはおかしいね。

いつの間にか入れ替わちゃったかな?」


ツバキは白々しく首を傾げる。

レイナは力が抜けたように椅子に座り直す。


「これは大変だ。

はい、水飲んで」


そう言ってお酒の入ったコップを渡す。

レイナはなんの疑いもせずに一気に飲み干す。


「おかしいな?

これもお酒の味がする」


「お酒と水に違いなんかないからね」


ダメだこの人。


レイナはやっぱりお酒に弱いみたいだ。

もうふらふらしている。


「えげつない事するね」


「いいのいいの。

ちょっとはハメ外さないと疲れちゃうさ」


ツバキは悪びれずに笑っている。


可哀想に。

まあ、すり替えたの知ってて黙ってた僕も大概だけどね。


「すみません。

お水頂けますか?」


レイナが注文して店員が持って来た水をツバキが素早くお酒とすり替えた。

そしてそのままレイナが飲む。


「これもお酒の味がする〜」


「この子ちょろい。

面白いぐらいちょろい」


もう完全に出来上がったレイナを見てツバキは大爆笑する。


確かに心配になるほどお酒に弱い。

自覚してないと悪い大人にやられそうだ。

今みたいに。


「そうだ少年。

可愛い子ちゃんをお持ち帰りしたらどうだい?」


「騎士団部隊長をお持ち帰りするほど怖い物知らずじゃないです」


「いいじゃないか。

今夜は騎士団の奢りらしいし」


「飲み代だけだよ」


「風俗代浮くよ」


「あのね〜」


「そんなに若い時から風俗なんてダメですよ!」


突然レイナが大きな声で叫んだ。

僕とツバキは思わず黙ってレイナを見る。


「まだ16歳でしょ!

そんな事してたらトレインみたいになるよ!」


レイナがふらふらしながらも僕に注意する。


「トレインも16歳の時から行ってたのよ。

本当に騎士団学校の時から女をコロコロコロコロ変えて。

今だって……」


なんかトレインの文句ばっかり言ってる。

相当溜まってるみたい。


一体トレインのやつ何をしたんだ?


「それなのに、私には指一本触れようとしないし……

そんなに私に魅力が無いか?

トレインのアホー!!」


「もっと言ってやれー!」


ツバキが囃し立てて楽しんでいる。

もうレイナの酒を飲む手は止まらない。


これは潰れるまで飲むな。


「ツバキ。

責任持って送ってあげなよ」


「可愛い子の言うアホに迎えに来てもらおう」


「それは名案だ」



「それで俺が呼ばれたのか?」


しばらく飲んで、レイナがすっかり寝てしまった頃にトレインが現れた。

ちなみにツバキは店内に入って他の客とドンチャン騒ぎをしている。


「そういう事。

じゃあトレイン、あとはよろしくね」


「いや、それは……」


トレインは困ったように苦笑する。


「どうしたの?

おぶって帰ったらいいじゃん」


「それはそうなんだけど……」


「送り狼になっても僕は気にしないよ」


「そういう問題でも無いんだよな……」


変なトレイン。

さっさと連れて帰ったらいいのに。

こう言うシチュエーション好きそうなのに。


「なあ、道案内するから君がおぶってあげてくれないか?」


「えー、嫌だよ。

面倒くさい」


「そこをなんとか頼むよ」


トレインがグダグダ言っているうちに、レイナが目を覚ましてトレインを見る。


「おぉ?トレイン?

迎えに来たの?

よーし、もう私は動けないぞ。

早くおぶって帰れ」


「レイナ。

しっかりしろよ」


「うるさい!

ずべこべ言わずに……

早く……」


レイナが再び眠りに入る。

トレインは本当に困った様子でレイナを見ている。


「ほら、ご指名だよ」


「いつもはダイナの役目なんだ。

でも今あいつはリハビリ中だし……」


「だからトレインが連れて帰ればいいじゃん」


「それはそうなんだけど……

な、頼むよ」


トレインが両手を合わせて僕にお願いして来る。


「理由は?」


「理由は……」


トレインは僕に両手を見せる。


あぁ、なるほどね。

そういう事ね。


「知らないんだ」


「むしろ知ってるのは君ぐらいだ」


「トレインって案外奥手なんだね」


「そんなんじゃ無いさ。

レイナは俺の恩人なんだよ」


トレインは愛おしそうにレイナを見る。


きっとトレインの言う恩人は、僕の言う身内と似たような物なんだろう。


「わかったよ。

じゃあ僕がおぶって行ってあげるよ」


「恩に着るよ」


「そのかわり、どこ触っちゃっても文句言うの無しだよ」


「おい、それはダメだろ」


「不可抗力だよ。

さて、胸とお尻は外せないよね」


僕は両手をワキワキと動かしながらレイナに近いていく。


「おい!エロガキ!

どこが不可抗力だ!」


「不可抗力不可抗力。

どこを揉んでも不可抗力」


「不可抗力って言えばいいって物じゃないぞ!」


「いいじゃないか。

どうせ寝てるし」


「そういう問題じゃない!」


「そこまで言うなら止めてみなよ」


僕は更に近いて寝ているレイナに手を伸ばす。


「わかったわかった!

もう、俺がおぶって帰るからいいよ!」


トレインが僕とレイナの間に無理矢理割り込む。

そして恐る恐るレイナを背中におぶった。


「エロガキはもう遅いんだから真っ直ぐ帰って寝ろよ」


「トレインはこれからいい時間だから送り狼になるかもね」


「ならねぇよ」


「やっちゃたら、抱き心地良かったか教えてね」


「黙れ!エロガキ!」


トレインはそう言って夜の街に消えていった。


よし、これで良しと。

面倒な事も無くなったし、ツバキはほっといても大丈夫そうだから僕も帰ろうかな。


さすがにリリーナも帰ってるでしょ。

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1つでも構いません。


ブックマークも頂けたら幸いです。


よろしくお願いします。

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