第1話
月日は流れて16歳になった。
そうヒナタとシンシアが王立魔法剣士学園に入学する歳になった。
特待生クラスへの最終確認試験も簡単にパスして二人して無事に入学となった。
本当におめでたい事だ。
二人が王都へ向かう前の日には両親が盛大にお祭りを開き。
出発の日には今生の別れかと思うぐらい泣いていた。
そして僕は王都に向かう馬車の中にいた。
向かいの席には鬱陶しいぐらい絡んでいるヒナタと、嫌がる素振りを見せながらも何処か楽しそうに相手しているシンシア。
二人がじゃれあっている光景は凄く尊い。
それはいい。
だけど悲しい。
結局僕も同じ学園に一般入試に合格して、クラスが違うながらも晴れて一緒に入学する事に決まった。
男爵家のポンコツ息子が入試に合格した。
アークム領最大のミステリーとまで言われている。
両親は合格通知を見て世界が滅ぶとか言い出すしまつ。
エルザなんか、在校生の知り合いに学園で何か大変な事が起こって無いか聞き回っていた。
もちろん僕だって合格するつもりなど無かった。
その為にエルザの特訓にも上手くポンコツを貫き通したんだ。
だけど入試の直前にヒナタが
「お兄ちゃんが合格しなかったら、私はグレて学園に行かない!」
とか言い出したから、それはもう大変な騒ぎだ。
あのお気楽主義の両親が珍しく慌てふためいてヒナタの説得するのに必死だし、ヒナタと一緒に学園行くの楽しみにしていたシンシアはキレて、僕に合格しないと殺すとか言い出すし。
僕は僕でヒナタの輝かしいキャリアを奪うのは美学に反する。
僕は仕方なく合格するしか無かった。
これもヒナタの嫌がらせだ。
きっと自分だけ学園に縛られて、僕だけのほほんと実家で暮らすのが気に食わなかったのだろう。
もしかしたら、不合格になって実家から追い出す作戦だったかもしれない。
どちらにせよ、僕は相当嫌われている。
そこまで嫌われる事をした覚えは無いが、年頃の女の子は兄を毛嫌いする物だ。
仕方ない。
素直に褒めて喜んでくれたのはアンヌぐらいだったな。
そのアンヌは今や王国一の鉄工細工職人として名を馳せている。
その芸術性は世界にも認められていて、すごい高価な価値がついている。
体が弱かったのも少しマシになって、今は世界中に出向いてはその腕を披露していてなかなか帰って来ない。
活躍は喜ばしい事だけど、癒しが無いのは凄く辛い。
「はあー」
思わずため息を吐いてしまった。
ふと2人を見るとジトーっとした目でこっちを見ている。
「え?何?」
「ため息吐かれるなんて心外だよ。
こんなに美人で可愛い妹二人と同じ馬車に乗ってて何の不満があるわけ?」
確かに二人共すっかり大人の身体になって、強さと美しさを兼ね備えた立派なレディになっている。
だけど、それはそれ。
馬車の移動なんてめんどくさいだけだ。
僕なら王都まで10分かからずに行ける。
「あー!
今、めんどくさいって思ったでしょ!」
頬を膨らませながらヒナタが僕に迫る。
時々ヒナタは僕の心を読んでくる。
これが双子のシンパシーって奴なのかもしれない。
だけど、残念ながら僕はヒナタの心が全然わからない。
「いつも剣術の稽古を付き合って貰ってるお兄ちゃんにお礼しようと思って一緒の馬車に乗せてあげたのに。
ねえ、シンシア」
「いや、私は別に……」
ほらね、全くヒナタの話が理解できない。
「えー!
シンシアもいつも感謝してるって言ってたじゃん」
「ちょっとヒナタ!
それは内緒だって!」
「そうだったっけ?」
ペロッとしたを出してヒナタにシンシアが掴みかかってじゃれあう。
まさかこの可愛い光景がお礼?
エルザなら見たら涎を垂らして喜びそうだけど……
「あの……
結局なんで僕を連れて来たわけ?」
「お兄ちゃん鈍いね。
私達は観光するつもりで一週間早く出発したでしょ」
「そうだね」
この馬車は学生寮に入れるようになるより一週間も早く出発している。
寮の門限が無いうちに王都で遊びたいと言う二人の希望の結果だ。
そんなわがままにポンッとお金を出す両親。
本当に娘達にはとことん甘い。
そして僕はそれに付き合わされる可哀想な息子。
僕は入学ギリギリで良かったのに……
きっと妹達の荷物持ちになるに違いない。
「そこで最初の二日間はお兄ちゃん自由にしていいよ」
「え?マジで?」
「大マジだよ」
ヤッター。
そうとなれば話は別だ。
王都に来ようと思えばすぐに来れる。
だけどそれは非合法でだから、堂々と散策は出来ない。
「さて、お兄ちゃん。
私達に言う事ないの?」
「連れて来てくれてありがとう」
「ほかには?」
「2人共自慢の妹だよ」
「もう一声」
「2人共愛してる」
「やったねシンシア。
お兄ちゃん私達の事愛してるって!」
「私は別に……」
「そうなの?
顔真っ赤になってるよ」
「なってない」
またじゃれあう2人を横目に僕は王都で何をしようか考えた。
二日って言ったらあっという間だ。
とにかくあれは逃せない。
「そのかわり次の二日は私とデート、次の二日はシンシアとデート、最後の一日は私達2人とWデートだよ」
Wデートの意味間違ってるよって言う指摘は野暮なのでやめておこう。
◇
王国の中心に位置する王都は王国中のありとあらゆる物が揃う大都市だ。
食べ物や嗜好品はもちろん、施設なんかも充実している。
僕は王都に来たら真っ先に行こうと思っていた場所がある。
それはギルド協会だ。
もちろんアークム領にもギルド協会支部はある。
だけど、この国では領主とギルド協会と騎士団で三権分立している為、領主の子である僕は冒険者としてギルドに加入出来ない。
しかし領土が変わればバレるリスクが一気に下がる。
特に一番大きいギルド支部があるこの王都では更に低い。
このチャンス逃す手は無い。
バレなきゃ何をしても許される。
それが僕の考えだ。
ちなみにバレても逃げ切れば大丈夫だとも思っている。
冒険者と言えば、己の力のみが全ての世界。
誰にも縛られる事なく世界中を自由に冒険出来る職業。
異世界の人気職業No. 1だ。
前世ではそういう職業無かったからね。
怪盗は怪盗で楽しい職業だったよ。
自由だし。
だけど、せっかく自由な職業があるんだから、今回は冒険者になろうと思ってたんだ。
だって悪党でもなれるんでしょ?
「冒険者への登録ですね」
早速ギルドの受付嬢の所に登録に行った。
いかにも受付嬢ですって感じの優しそうな女性が説明してくれる。
「冒険者ランクと言うものがFからSまであって――」
はいはい、わかってますよ。
いかにもって感じですね。
とりあえず依頼をこなしていけばいいんでしょ?
僕は説明を簡単に聞き流していく。
「お願いです。
これでどうか村を助けてください」
ふと、違う受付の方から女の子の声が聞こえて来た。
どうやら依頼の受付に来たらしい。
僕より少し年下っぽい女の子は、旅をして来た様な格好をしていて、ブーツやローブはかなり汚れて傷んでいる。
どうやら王都に着いてすぐにここに駆け込んだようだ。
息を必死に整えている。
「ごめんなさい。
その報酬でこの依頼内容はお受け出来ないんです」
「そんな……」
依頼内容と報酬が釣り合わず、受理して貰えないみたい。
出している金貨の袋の膨らみからは、そこそこの金額が入っていそうだけど無理みたい。
相当ややこしい依頼なんだろう。
「騎士団に相談してみたらどうでしょうか?」
「ダメなんです。
騎士団は信用出来ない」
女の子は落胆して項垂れていたが、ふと思い出したようにポケットから何か取り出した。
「そうだ!
これも報酬に出します。
だからお願いします」
女の子が出したのは手のひらサイズに鉄工細工。
大切な物なんだろう、綺麗に磨かれていてピカピカしている。
「これはなんですか?」
「御守りです」
「ごめんなさい。
金貨以外の報酬は認められて無いんです」
「でも、これはかなり高価な物だと思います。
だから――」
「なら、何処かで換金して来てくれませんか?」
「でも……」
渋るのも無理は無い。
女の子は良くわかっている。
彼女の見た目だと足元を見られて二足三文で買い叩かれるのがオチだろう。
「あと、ギルド所属に――」
「ねえお姉さん」
僕は説明をしてくれていた受付嬢の話を遮った。
「どうかしました?
何かわからない事でも?」
「いえ、お姉さんの説明はわかり易いよ。
そうじゃなくてあれなんだけどね」
僕はまだなんとか食い下がろうとしている女の子を指差す。
「あれは、依頼と報酬が釣り合って無いみたいです」
「報酬が金貨のみってなんで?」
「依頼受理から達成までの間に価値が変動する可能性があるからです。
依頼ランクによって価格帯が決まっているので、大きな価格の差が出なくする為の処置です」
「もし、冒険者本人が受けると言っても?」
「協会に所属している以上直接交渉は禁止です。
指名制度もありますが、その場合指名料別途かかります。
それらの依頼報酬の価格帯はギルド協会の協議によって決まっています。
私達も心苦しいのですが、これもルールですのでどうしようも無いんです」
「なるほどね」
結局女の子は依頼を受けてもらえず項垂れながら帰って行った。
その背中から絶望感がヒシヒシと感じられる。
「では、説明の続きを」
「やっぱりいいです」
「え?」
「冒険者なるの辞めます」
僕はお姉さんにお礼を言ってギルドを後にする。
なんか冒険者って思ってたよりも自由じゃなかった。
あんなのに登録したら窮屈で仕方ない。
まあ、良く考えたらギルドの運営と所属冒険者を守る為には仕方ない事なんだけどね。
僕には無理だ。
今日一つ学んだよ。
悪党は冒険者になれない。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「これからどうなるの?」
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