第11話
牢屋の鉄格子の間から差し込む早朝の日差しが僕の顔に当たった。
まるで朝ゆっくりと寝かさない様に設計されてるみたいだ。
「おい!起きろ!」
昨日僕を牢屋にぶち込んだ二人が中に入って来て、僕を無理矢理ベットかり引きずり出す。
「早く来い!」
そのまま支部の入り口の方まで乱暴に連れてこられた。
そこにはあのいい加減な騎士がいた。
「おいおい。
何の罪も無いのに牢屋で夜を明かすなよ。
ここはホテルじゃ無いんだよ」
そう言っていい加減な騎士は僕を支部の外に蹴り飛ばした。
僕はそのままの勢いで地面に倒れる。
「俺達は忙しいんだ。
手間かけさせるんじゃねえぞ」
それだけ言って支部の扉は固く閉ざされた。
とりあえず帰っていいらしい。
全くもって意味不明である。
僕は立ち上がって服についた砂埃を払う。
そんな僕に待っていたであろうリリーナが声をかけて来た。
「おはようヒカゲ君」
「おはようリリーナ。
迎えに来てくれたの?」
今日は薄手のカーディガンを着ている。
でも下は昨日と同じミニスカートだ。
「ええ、そうよ。
災難だったわね」
なんかリリーナが優しい。
てっきり怒り出すかと思ったのに。
「一体何だったのかな?」
「そんな事どうでもいいじゃない。
それより今日はデートをしましょう」
「嫌だ」
「そんな事言わずにお願い」
やっぱりリリーナがおかしい。
今のは間違い無くボディブローコースだった。
「せっかくだから西区最大の都市西都を案内したいの。
ダメかしら?」
「確かに観光するのも悪くないかも」
「じゃあ案内するわ」
リリーナは僕と腕を組んで歩き出した。
西都は漁業が盛んだが、工芸も盛んだ。
アンヌには劣るがいろんな工芸品が取引されている。
ホロン王国の伝統工芸品もほとんど西区で生産された物だ。
街並みもどっかオシャレな雰囲気を醸し出している。
それを見て街中を歩くだけでも結構楽しい。
それにリリーナの解説が加わる。
美術館でもそうだったが、リリーナは博識な上に解説も上手い。
テンプレ解説だけで無く、今この瞬間にあったガイドをしてくれる。
何より本人が楽しいそうに話すから、聞いているこっちも楽しくなってくる。
朝食を食べて無かった僕はリリーナがオススメしてくれたパンを食べながら街並みを楽しんでいた。
昼食は屋台街を食べ歩きしていく。
「リリーナ様こんにちは」
屋台のお姉さんがリリーナに声をかける。
「こんにちは」
「デートですか?」
「そうなの」
リリーナは見せつける様に僕の腕にしがみつく。
それを見たお姉さんは微笑んでいる。
「いいですね。
今日はおまけしますね」
「ありがとう」
お姉さんは魚の串焼きを二本くれた。
二人で一緒に齧り付く。
程よく油が乗ってとても美味しい。
やっぱりここは海鮮がうまい。
「海鮮だけじゃないわよ」
そう言ってリリーナに案内されるがままに屋台街をお腹いっぱいになるまで食べ歩いた。
どの店でもリリーナは人気者で、僕はリリーナの見せ物と化していた。
「リリーナは人気者だね」
「ウフフ。
いいでしょ。
みんなオマケしてくれるのよ」
「お金持ちなんだから払いなよ」
「払っても受け取ってくれないのよ。
美人って得よね」
「そうだね。
君の猫被りは完璧だからね」
「そうね。
伊達に長年被って無いからね」
うーん……
やっぱりなんか反応がおかしい。
街中で誰が見ているかわからないからだろうか?
そうなると後が怖いな。
「でも、時々疲れちゃうの。
だから、あなたといる時が一番楽」
「ストレス解消にもなるからね」
「そうね。
あなたはストレスフリーだわ。
何の気も使わなくていい。
素の私でいられる唯一の場所。
大好きよ」
「それはどうも」
腹ごしらえが終わった後は工芸市場へと出向いた。
色とりどりの工芸品が軒を連ねる。
種類も千差万別。
どれも職人の技が光る逸品ものばかりだ。
ここでもリリーナは人気者だった。
楽しく職人達と喋りながら工芸品を見て周る。
「あなたこういうの好きでしょ?」
「うん、大好き。
美術館とはまた違った良さがあるね」
「そうでしょ。
受け継がれて来た技術の集大成なのよ」
「素晴らしいよ。
その技を継承する若者達も揃ってる」
「そうよ。
お父様はこの技術を残す事にも尽力しているの。
お父様も大好きなのよ」
リリーナも好きなのが見てて分かる。
一件一件時間をかけて見て行く。
ふとリリーナの視線がピンクのペンダントに釘付けになった。
「リリーナ。
それが気にいったの?」
「え?
ええ、よく分かったわね」
「視線がそこで止まったから」
「ヒカゲ君って、私の事を案外よく見ててくれるよね」
「そうかな?」
「そういうさり気ない所も好きよ」
なんだか嬉しそうに微笑んでいる。
「そこのイケメン、妬けるね〜
リリーナ様にそんな事言って貰えるなんて羨ましい限りだよ」
店員のお兄さんが調子の良い事を言って囃し立てる。
多分買ってあげろって言いたいんだろう。
「これ一つちょうだい」
「別にいいわよ」
リリーナが慌てて拒否しようとするけど、さっさとお金を渡してしまう。
「あいよ。
兄ちゃんまけといてやるよ」
「ありがとう」
ぴったり渡したのにお釣りをくれた。
このお兄さんの方がイケメンだと思う。
「はいどうぞ。
君ならもっといい物貰い慣れてると思うけど」
「そんな事無いわ。
とても嬉しい。
一つわがまま言ってもいい?」
「君はいつもわがまま言ってるよ」
「あなたが首にかけてくれない?」
「僕が?
別にいいけど」
僕は正面からペンダントを首にかけてあげる。
リリーナはそれをとても嬉しそうに見つめた。
「ありがとう。
一生大事にするわ」
「そんな大層な物じゃないよ」
「ううん。
そんな事ない」
もっと高価な物を持っているだろうに。
不思議だ。
まあ、嬉しそうにしているからいいか。
「最後はあなたを連れて行きたい所があるの」
長い夏の日が傾いて来たリリーナが言い出す。
ここまで来たのだから最後まで付き合う事にした。
しばらく無言で歩き続ける。
やがて街を見渡せる丘の上へと到着した。
すっかり日は沈み、西都にやわらかい光が灯る。
それはもう美しい夜景だった。
「どう?
あなたこういうの好きでしょ?」
「うん、凄くいい夜景だ。
街並みと明るすぎない灯りがよくマッチしている」
僕は美しい夜景に見惚れていた。
リリーナも隣で夜景を楽しんでいる。
しばらくしてリリーナが口を開いた。
「今日はデートしてくれてありがとう。
素敵なプレゼントまでくれて」
「僕の方こそありがとう。
とても楽しい一日だった。
そんな物でお礼にならないぐらいだ」
リリーナはこっちを真っ直ぐに見つめて微笑む。
その微笑みはどこか寂しそうだ。
そしてリリーナは小さいながらも震える声ではっきりと言った。
「ヒカゲ君。
婚約を解消しましょう」
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