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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
5章 悪党は仇なす者に容赦はしない
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第8話

海は広いな大きな。

……良く考えたらこの後の歌詞を僕は知らない。


まあいいや。

とにかくいくら全力で泳いでもぶつからないぐらい広い。


残念ながら僕が全力で泳ぐと使用人達を驚かす事になるから適度に泳ぐ。


リリーナが来る前にひと泳ぎする。

プライベートビーチって言うだけあって誰もいないのもポイント高い。


そうだ。

今度ナイトメア・ルミナスのみんなを海に連れて行ってあげよう。


いつも貰ってばっかりだからね。

たまには恩返ししないと。


ヒナタ達も別で連れて行ってあげよう。

アンヌの水着は是非見てみたい。


そういやヒナタは泳いだ事無いんじゃないかな?


「ダーリンお待たせー」


少し海を満喫して浜辺に戻ったタイミングでリリーナが着替え終わっようだ。


声のトーン、走る仕草とスピード、太陽の当たる角度まで完全に計算されている。


男が喜びそうなシチュエーションを見事に演出しきっている。


この技術には感服するね。


「ダーリンって呼ぶな」


でも中身は腹黒女だ。


「いいじゃない。

二人っきりなんだし」


「お前の目はどうなってるんだ?

お前の使用人が山ほど……ってあれ?

いない」


さっきまで大量にいた使用人が全員いなくなっている。

僕が気配を感じないって事は本当にいなくなっているって事だ。


「みんな気を使ってくれたのね」


「よく言うよ。

君が素でいれないから命令したんだろ?」


僕は周りをもう一度見渡した。


「エミリーは?」


答えの代わりにボディブローが入る。


「なんで?」


「あんたエミリーの水着姿が見たいって言ったからよ」


「言ってない」


「なら、なんでエミリーがいるか気になるのよ」


「エミリーは君の護衛込みだろ。

いくらプライベートビーチでもいないのは問題じゃないかと思っただけだよ」


「そうなの?

ごめんね」


「心にも思って無いだろ」


「ニャー」


可愛いネコのポーズで誤魔化された。

こいつ都合が悪くなるとこれで誤魔化せると思っているな。


あながち間違いでも無いけど。


「それで感想は?」


「君は何着ても――」


「それ以外って言ったでしょ?

殴られたいの?」


「珍しいね。

先に言うなんて」


「さっき間違った分はこれでチャラね」


「そうだね、とはならないよ」


「それよりも感想は?」


「君の美しさは衣装如きで変わらない程完成されてるよ」


「そんな事はわかってるの。

でもダーリンの好みかどうか聞きたいの」


「とにかくダーリンって呼ぶのはやめろ」


「そんな事より感想を言いなさい」


僕はいつも最上級の褒め言葉を言っているのに……


僕は仕方なしにリリーナの全身を見る。


こいつ僕の視線に合わせてポーズを決めてやがる。


淡い紫色の上品なビキニ。


リリーナは腹立たし事に自分のポテンシャルをしっかり理解して水着を選んでる。

自分がどの角度で見せると美しく、そして可愛く見えるかまでわかっている。


「とても良く似合ってる。

君の美しさが一層際立っている。

それだけでなく、美しさの中に可愛いさも兼ね備えているよ。

色も丁度いい。

君の透き通る肌に――」


「ちょ、ちょっと待って待って。

いきなりどうしたの?」


僕が感想を言っているとリリーナが止める。

何故か顔が真っ赤になっている。


「感想言えって言ったのはそっちじゃないか」


「言ったけど、まさかそんなにスラスラ出てくると思わないでしょ」


「僕は思った事を全部言ってただけだよ」


リリーナはまだ顔が赤いまま僕の顔をじっと見つめる。

なんか怒ってるような、嬉しいような、恥ずかしいような、なんとも言えない顔だ。


「もしかしてだけど、いつもそんな事思ってたの?」


「そうだよ。

だから君は何着ても美人だろっていつも言ってるだろ?」


「そんなのわからないわよ!

でも……ウフフ。

そうなんだ。

いつもそんな風に思ってくれてたんだ……

ふーん」


なんかニヤニヤしながら小声でゴニョゴニョ言い出した。


なんか変な物でも食べたのかな?

こんなに暑いと食べ物も傷み易いから気をつけないと。


「さあ、せっかくだし遊ばないと損よ。

でもその前に日焼け止め塗らないと」


「魔力で紫外線カットしたらいいだろ?」


「そう言う事じゃないの。

はい」


リリーナは高そうな日焼け止めクリームを僕に渡してパラソルの下にうつ伏せに寝転がろがる。


「優しく塗ってね」


「自分で塗りなよ」


「背中は届かないでしょ」


「それもそうか」


「なんなら水着の中も塗っていいわよ」


リリーナがイタズラっ子のような顔で笑いながら僕を見る。


何を変な事言っているんだろう?


「水着の中は自分で届くだろ?」


「それ本気?それともわざと?

……いや、あなたなら本気で言ってるわね」


何故かリリーナは呆れたような顔で僕を見ていた。



それなりに海を満喫している内にすっかり夕暮れ時になっていた。


赤い夕焼けが海の向こうに沈もうとしている。


リリーナは僕の隣に座って夕日を眺めていた。


「海はどうだった?」


「楽しかったよ」


リリーナの問いに僕は素直に答える。


「また一緒に来てくれる?」


「そうだね。

でも今度はヒナタ達も一緒がいいな」


「まさか妹の水着姿が見たいわけ?」


リリーナは心底軽蔑したような目で僕を睨む。


「全くもって心外だ。

妹を変な目で見るわけないだろ。

ヒナタは海に行った事無いから連れて来たいの」


可愛いヒナタの水着姿を見たい事は見たいけどね。


「あなたって他人の事どうでもいいでしょ?」


「いきなり酷い事言うね。

まあ間違って無いけど」


「でも妹には優しいよね」


「そうかな?

普通だと思うけど」


リリーナはその答えに黙って首を横に振る。


「私と初めて会った日の事覚えてる?」


「覚えてるよ。

君に切り殺されそうになった日だ」


「あの日、私の言う事聞いてくれたのって私の為じゃなくてヒナタちゃんの為でしょ?」


「うーん……そうだったかな?

あんまり覚えてないんだよね。

僕はどうでもいい事は忘れるから。

でも君の為ではないのは確実だね」


ふとボディブローがくるかもと思い身構える。

でもボディブローの代わりにリリーナは、僕腕に抱きつき肩に頭を乗せた。


「あの時羨ましかった。

同じ兄でもこんなに違うんだって。

私の場合は義理の兄だけどね。

でも、シンシアちゃん見てたらわかる。

あなたは義理だろうと関係無いって」


なんかリリーナがしおらしい。

夕日のせいでセンチメンタルになっているのかもしれない。


「ねえ、私の何が不満?」


「言っていいの?」


「うん、言って」


「腹黒、わがまま、話を聞かない、すぐ殴る、すぐに自分の都合のいいように話を改変する、僕を騙す……」


「スラスラ出て来るのね」


リリーナが苦笑いをする。

その表情は夕日に当てられて凄く悲しそうに見える。


「でもね。

それも全部含めて私なの。

私だってお母様みたいに素直で優しい性格に生まれたかった。

だけど、どうしようも無いの。

こんな私じゃイヤ?

許容してくれない?」


「別に僕は君の事は嫌いではないよ。

むしろ君が猫被ってる時のような性格だった方が嫌だね」


「でも私との婚約は嫌なんでしょ?」


「嫌だよ」


僕の腕に抱きつく力が強くなる。

少し震えている気がしないでもない。


でも僕は嘘は言わない。

ここで吐く嘘に何の意味も無いから。


「それでも私はあなたとの婚約を解消しない。

私はあなたが欲しい。

誰にも渡したくない」


夕日は完全に沈み夜がやってきた。


リリーナは僕から離れて立ち上がる。


「帰りましょヒカゲ君。

夕食も美味しい物を用意しているわ。

そして明日もデートをしましょう。

いえ、明日だけじゃないわ。

明後日も明々後日も。

あなたがここに滞在してる間は毎日デートをしましょう。

この夏休みで私を好きにさせる。

あなたは絶対に私の物よ。

あなたに拒否権は無いわよ。

だって私は腹黒でわがままだから」


そう言ってリリーナは更衣場へと歩いていく。


それを見送ってから僕も更衣場へと向かう。


残念だけど僕がリリーナと一緒になる事は無い。

悪党の僕と一緒になっても不幸になるだけだ。


僕はリリーナが不幸になる選択は絶対にしない。


『美学その9

他人の不幸は蜜の味

身内の不幸は排除する』


だってリリーナは僕の身内だから。

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