第18話
王都ギルド協会本部に震撼が走った。
王国4大ギルドの一つ『ユニコーンハート』のギルドマスターが秘書と共に変死体で発見されたからだ。
協会長のソフィアは頭を抱えていた。
「どういう事?
暗殺者ギルド狩りが起きているこんな時に。
まさか同じ犯人?
暗殺者ギルドがほぼ全て壊滅したから次は冒険者ギルドをって事?
冗談じゃない!
なんとしても解決の糸口を見つけないと……」
独り言を呟きながら必死になって調査資料を見直していく。
殆ど何も手掛かり無しと書かれている資料を穴が開くほど見るが、結果は変わらない。
「ソフィア会長。
お客様です」
職員の一人が会長室に入ってくる。
「今それどころじゃないの。
申し訳無いけど、要件だけ聞いて来てくれるかしら?」
「しかし……」
「ガハハハハ!
もう来ちまった!」
豪快な笑い声と共にネズカンが会長室へずかずかと入って来る。
ソフィアはその顔を見て深い溜息を吐いた。
「もう下がっていいぞ。
案内ありがとな」
「勝手にうちの職員に命令しないでくれる?
ごめんなさいね。
もう下がっていいわ。
あとお茶も何も出さなくていいから」
職員は一礼してから部屋の外へ出て行った。
「おいおい。
お茶ぐらい出してくれてもいいではないか」
「追い出されないだけマシと思ってくれるかしら?
今私はこの通り忙しいのよ」
ソフィアは資料から目を離さずあしらう。
「そんなにカリカリしているとせっかくの美貌が台無しだぞ。
しかしエルフはいいな。
出会った時から全く変わらず美しい」
「昔話するならまた今度にしてくれない」
「そうだな、では今度デートでもしないか?」
「今はあなたの冗談に付き合ってる暇なんて微塵も無いの」
ネズカンはソファーに座ってから柔らかさを確かめる。
「なかなか上質で柔らかいソファーだな。
いい物を置いてるじゃないか」
「それはどうも」
「だけど君とヤるには手狭だ。
もっと大きな物を置いといてくれ」
「はぁ!!
ふざけた事言わないで!
そんな機会一生無いわよ!
今は本当に忙しいの!
あんたを叩き出す時間が惜しいぐらいに!
さっさと出て行ってくれる!」
資料から一切目を離さないまま矢継ぎ早に怒鳴るソフィアが、ネズカンには一切響いていない。
「何をそんなに忙しい事があるのだ?」
「あなたの事だから耳に入ってるでしょ?
暗殺者ギルドがほぼ全て壊滅されたの。
しかも、依頼に出てたメンバーも漏れなく全滅。
しかもそこにギルドがあったという全ての痕跡すら完全に消し去るっていう徹底ぶりよ。
そして今度は冒険者ギルドのユニコーンハートのギルドマスターとその秘書の変死体よ」
「大丈夫だ。
もう襲撃は終わりだ」
「なんですって?」
ソフィアは動きを止めてネズカンの顔を見る。
ネズカンはいつも通りのヘラヘラした顔をしている。
「今なんて言ったの?」
「もう心配ない。
一連の襲撃は終わったと言ったのだよ」
「何か知ってるのね」
「何かと言うか……
全て知っている」
「犯人は何者?」
「言えないな」
「何人?」
「言えないな」
「目的は何?」
「言えないな」
「何なら言えるわけ?」
「そうだな……」
ネズカンは立派な顎髭をさすって考えるそぶりをみせる。
「王国の裏ギルドが殆ど壊滅した事は?」
「ええ、知ってるわ。
私達が目を付けていた裏ギルドは殆ど壊滅したって報告を受けているわ」
「カメレオンも壊滅した」
「嘘でしょ!?
あれだけの組織がそんな簡単に壊滅するわけないわ。
私達でさえ全体を把握出来ていないのよ」
「カメレオンのギルドマスターはユニコーンハート所属のS級冒険者のエリアだ。
そしてそれを裏でコントロールしていたのが……」
ネズカンがソフィアの持つ資料の名前を指差した。
その名前を見てソフィアは目を疑った。
「そんなまさか……
私達はずっとだし抜かれていたって言うの……」
「むしろそれだけの立場だからこそだな」
ソフィアは頭を押さえて椅子に崩れ落ちた。
「ならこの変死体は……」
「それだけじゃない。
その内報告が上がってくる事だが、エリアを始めユニコーンハートのカメレオンに関わっていたメンバーの死亡又は行方不明の報告が来るはずだ」
「その行方不明ってのも……」
「漏れなくこの世にはいない」
ソフィアは両手で頭を抱え込み唸った。
「それはユニコーンハート内のどれぐらいの割合?」
「7割程度。
ギルド中心メンバーだけなら9割以上だ」
「もはやギルドとしての機能を維持出来ないじゃない!」
「この件を公表するかどうかは任せる」
「出来る訳無いじゃない!
四大冒険者ギルドの一つが裏ギルドと繋がっていたなんて!
それを自分達で粛清するならまだしも、どこの誰かもわからない者達に壊滅させられて初めて知るなんて……
今まで積み上げて来たギルド協会の信用が一瞬で崩壊するわ」
「しかし、ユニコーンハート崩壊はすぐに分かる事だぞ」
「それぐらいわかってる。
わかってるわよ。
でもどうしよう……」
ソフィアは弱々しく言葉を漏らして、更に頭を抱えて悩み込む。
しばらく悩んだあげく、なんとか考えをまとめていく。
「ねえ、あなたはその例の組織とコンタクト取れるの?」
「ノーコメント」
「ならあなたの私観でいいわ。
その組織が今回の一件で声明を出すと思う?」
「無いだろうな」
「それを信じるわよ」
決断をしたソフィアはシナリオを組み立てる。
「この機会に膿を出し切るわ。
今回裏ギルドの一斉摘発を行った。
その際に情報が漏れていて、先陣を切った暗殺者ギルドは全滅。
情報を漏らしていたのはユニコーンハートのギルドマスターを始めとした主要メンバー。
そのメンバーを全て粛正して裏ギルドの一斉摘発には辛くも成功」
「ユニコーンハートは解体か?」
「いえ。
残ったメンバーがカメレオンとの関わりが本当に無かったかどうか確認してからだけど、内部告発により裏切りが発覚。
その後の粛正にも一役買った功績を讃えてユニコーンハートは大幅縮小しつつも存続させる」
「なるほど。
残ったメンバーを英雄に祭り上げるつもりか」
ネズカンは頷いてから大きな拍手をする。
「多少強引だがいいシナリオだ」
「強引で悪かったわね。
言っとくけど各所の根回しはあなたの仕事よ。
今度一杯ぐらい奢るわ」
「その前のディナーは?」
「……わかったわよ」
「ガハハハハ。
楽しみにしておるぞ」
豪快に笑うネズカンを見てソフィアは頭痛を感じる。
「ソフィアよ」
「なによ」
「愛人として――」
「誰が愛人ですって?」
「おっと失礼、間違えた。
友人として忠告しておく」
「二度と間違うんじゃ無いわよ。
で、何?」
「この件に深入りはするな」
「深入りってどこまでの話?」
「君の考えたシナリオ以上の事だ」
急に見せる真剣な顔にソフィアの心臓がドキッと大きく跳ねた。
それを悟られないように一瞬で元の鼓動に戻す。
「例の相手に触れるなって言いたいの?」
「言えない。
儂は何も言えない。
それが答えだ」
ネズカンはソファーから立ち上がってから出口の方へ向かう。
「そんなにヤバイ組織なの!?
ちょっとヴァン!
待ちなさい!」
「ヴァン?
儂はネズカンじゃよ」
そう言ったネズカンの顔はいつものヘラヘラとした顔だ。
「そんな組織と関わって、あんたは大丈夫なのよね?」
「ガハハハハ!
美女に心配されるなんて、儂もまだまだ捨てたもんじゃないの」
片手をヒラヒラとさせながらネズカンは部屋から出て行った。
残されたソフィアの心配な顔はすぐには消えなかった。
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