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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
4章 悪党は自分の都合しか考えない
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第13話

昼食後、親善大使出発の時。


僕達はお出迎えの為に外の馬車の前に集まっていた。

次の訪問先はリリーナのいるコドラ公爵邸になったらしい。


と言うか、両親は最初からそのつもりで話を通していたそうだ。

お気楽主義だが、やはり抜け目が無い。


「レインさん。

絶対また遊びに来てね」


「はい必ず。

ヒナタさんも我が国の情勢が良くなったら招待しますので、遊びに来てください」


「うん!絶対行く!」


未来を自ら閉ざそうとしていたレインにとってはとても意味のある約束。


この約束が実現できるかどうかはわからない。


でもこの約束がレインの原動力になればいいな。


悪党の僕にはそう思う事しか出来ない。


「エリアさん達も護衛任務が終わったら戻って来てね」


「はい。

ヒナタさん達を王都に届ける任務がありますので」


エリア達はレインの護衛の為に一旦離れる。

夏休み終わる頃には戻って来るハードスケジュールらしい。


でも……


「ヒカゲさん。

あなたにお会い出来たのがここでの一番の縁でした」


エリア達と話込でいるヒナタ達を他所にレインが僕に話かけてくる。


「僕に会う程の悪縁になる事なんてそうそうないよ」


「ウフフ。

全くです。

ヒカゲさんのせいで私は死ねなくなってしまいました。

これから生きて辛く大変な闘いをしなくてはなりません。

本当に踏んだり蹴ったりです」


「僕は悪い子だからね」


「そうですね。

私の国の悪い子を矯正したら、今度はヒカゲさんの番ですからね。

招待しますから必ず私の家に来てくださいね」


「その時気が向いたらね」


「では絶対に気が向く呪いをかけますね」


ふいにレインのポニーテールが僕の視線を横切る。

そして、レインの唇が僕の右頬にはっきりと当たる。


「第三夫人の件。

両国の友好の為に前向きに考えてみますね」


「そんな重たい責任はいらない」


「ウフフ。

ではまたお会い出来る日を楽しみにしています」


レインはガイアにエスコートされて馬車に乗る。

彼女達を乗せた馬車が屋敷を離れて行くのを僕達は見送った。


「お兄ちゃん。

見てたよ」


「何が?」


「惚けても無駄だよ。

私はほっぺにキスされるのバッチリ見ちゃったから。

これで第三夫人も決まりだね」


なんてめざとい子なんだ。

エリア達と話をしていてこっちを見ていないと思ったのに。


「あれはきっと向こうの挨拶みたいな物だよ」


「そんな事ありませーん」


それがね。

実はあるんだよ。


前世ではそんな国があったんだ。


言ってもわからないだろうけどね。


「さあ、エリアさん達と話してたら私ももっと強くなりたくなって来た。

私、剣の練習してくるね」


ヒナタは元気に屋敷へ走っていく。


元気で何よりだ。


「この女たらし」


もう一人の妹がなぜか冷たい口調を僕に浴びせる。

その視線なんて、夏なのに凍ってしまいそうな程冷たい。


「女たらしって僕のこと?」


「それ以外誰がいるの?」


怖い怖い怖い。

なんでそんなに怒ってるわけ?


「なんか今無性にあんたをボコボコにしたいから、剣術に付き合いなさい」


「今から?」


「そうよ」


「僕、今から用事が……」


「早く準備して来ないとボコボコにするからね」


「それ結局ボコボコに……って行っちゃった」


はぁ〜なんであんなに機嫌悪いの?

昼食に嫌いな物でも入ってたのかな?


よし、ブッチしよう。


「ヒカゲ君はモテモテね」


「僕が?

変な事言うね。

それよりアンヌはいつまでいてくれるの?」


「そうね。

次の予定も決まって無いの。

でも行きたい所があるのだけど、いつ行くかはまだ決めて無いの。

だからそれまではゆっくりするつもりよ。

またヒカゲ君が怪我したら手当してあげるわね」


「なら、僕も剣術頑張ろうかな?」


「いつでも言ってくれたらいいからね」


そう言ってアンヌも屋敷の方へ歩いて行く。


さて僕もやる事やるかな。

と思った僕の頭に父が手を置いた。


「どうしたの?」


「よくやったヒカゲ」


父が突然僕を褒める。


「え?何が?」


「初めにこの話があった時にお前達三人を同席させる気は無かった」


突然何の話だろう?

珍しくデフォルメで見えない真剣な顔をして。


「お前も聞いたんだろ?

この訪問は悲しい物になる事が決まっていた。

お前達にそんな想いはさせたく無かった。

でもレイン嬢から何故かお前達三人の同席をお願いされた。

特にヒカゲ。

お前だけは必ずと名指しまでされて」


「だから僕に隣国に行った事があるかって聞いたんだ」


「そう言う事だ。

もしかしたら顔見知りなのかもと思った。

だけどアンヌが一緒に帰って来ると聞いて全て合点がいった。

ヒカゲなら悲しい結末を変えてくれる。

そのアンヌの賭けに俺も乗ろうと思った」


父は僕の頭をガシガシと豪快に撫でる。


「ヒカゲに賭けて良かった。

お前は俺の自慢の息子だよ」


「別に僕は大した事は何もしてないよ」


僕はされるがままに首を振られながら答える。


「こっちが勝手に期待してるだけだ。

ヒカゲは勝手にその期待を超えてくれる」


「なんか僕の事を過大評価してない?」


「そんな事ないわよ」


ずっとニコニコしていた母が会話に入ってくる。


「あのね。

周りの誰がなんて言おうと私達はヒカゲの事をヒナタより劣ってるなんて思った事は一度も無いわ。

あなたも私達の自慢の子供」


「ヒナタは元気で明るくみんなを照らすような子になるように名付けた。

ヒカゲは優しくみんなの安らぎの場を与えられるような子なるように名付けた。

二人共俺達の期待以上に育ってくれたよ」


両親は嬉しそうに僕を見た後、屋敷の中に帰って行った。


だけど僕はそんないい子には育っていない。

ごめんね、僕みたいな悪党が生まれて。


せめて悪党らしく人知れずこの手を血で染めるよ。


僕は屋敷に戻らず馬車の行った方向を見続ける。


「ルリ」


「はい。

ルリはここにいます」


僕の呼びかけにルリがすかさず応える。


「どうだった?」


「マスターの仰っていた通りです。

いかがなさいますか?」


「もちろん行くよ。

ギルドマスターとして、たまには働かないといけないからね」


それに今回の訪問が悲しい物にならないために。


「私もお供します」


「ああ」


僕とルリは忽然と屋敷の前から姿を消した。

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