第12話
翌朝。
惰眠を貪る僕の部屋の前に人が立っている。
僕が起きるのを待っているのか、廊下の反対側で立ち続けている。
一体なんのようだろうか?
僕は仕方ないから部屋の扉を開けた。
「おはようございます、ヒカゲ様。
朝早くに申し訳ありません」
部屋の前で待っていたガイアが片膝をついて仰々しく挨拶をする。
「おはよう。
あの、誰かに見られたら気まずいから立ってくれる?」
「いえ、このまま言わせてください」
「えー、じゃあ手短にね」
「昨晩はありがとうございました」
「……なにが?」
僕なにかお礼言われるような事したっけ?
「ヒカゲ様のおかげでレインお嬢様が生きる道を選んでくださいました」
「ああ、あれね」
「今、これからの事についてマークム男爵とお話しされています」
「へえ〜、そうなんだ」
どうでもいいから寝かせてくれないかな?
「本日の昼食後に出発になると思います」
「それは良かったね」
なら見送りは昼食後だな。
よし、昼までは寝れるや。
「はい。
せめてその前に一言お礼をと思いまして。
改めまして、ありがとうございました」
「わかったから。
僕は二度寝するから。
ガイアも戻りな」
「はい」
僕が扉を閉めるとガイアはやっと立ち上がって自室へと帰って行った。
さて、早く二度寝をしよう。
いや、それどころじゃないぞ。
ベットにダイブしようと思ったタイミングで扉がノックされた。
「ヒカゲ君。
起きてますか?」
アンヌの優しい声が聞こえる。
「起きてる起きてる」
僕は慌てて扉を開ける。
「おはようアンヌ。
どうしたの?」
「おはようございますヒカゲ君。
朝早くにごめんね。
ちょっとお話ししたいのだけど、いい?」
「いいよいいよ。
アンヌならいつでも大歓迎。
さあ、どうぞどうぞ」
「ありがとう」
アンヌが柔らかい笑顔で僕の部屋に入って来る。
僕はソファーに座らせてから鼻歌混じりにブドウジュースを用意する。
「朝からご機嫌ですね」
「アンヌが来てくれたからね」
「フフッ。
お世辞も上手くなったのね」
「僕はお世辞を言わないよ」
「そうでしたね」
僕は二人分のブドウジュースを机に置いて、反対側に座る。
「何の用事?
別に用事が無くてもいいんだけどね。
なんならそこに座っていてくれるだけでいい」
「もう、ヒカゲ君ったら」
アンヌが笑ってくれたのを見て僕は満足する。
「今日はレインの事でお礼に来たの」
「ああ、あれね。
いいよ別に」
「私がいくら言っても聞く耳持たなかったの」
「アンヌの言う事聞かないなんて悪い子だね」
「そうね。
悪い子ね」
「でも不思議なんだよね」
「何が?」
「なんでアンヌは協力したの?」
「どうして私が協力したと思うの?」
アンヌは不思議そうに首を傾げる。
でもあまり驚いては無いみたい。
「だって父と取り次いだのアンヌでしょ?
レインが直接ホロン国王に協力を頼むなんて難しい。
となると一番近くの父に頼むのが一番。
でもいくらお気楽主義の父でも、他国のそんなきな臭い話に協力するとは思えない。
溺愛している美人でかわいいアンヌがいれば話は違うだろうけどね」
「やっぱりヒカゲ君は賢いね」
アンヌは笑顔のまま続ける。
「だから私はお義父様に取り継ぐ代わりに条件を出したの」
「条件?」
「ヒカゲ君とお話しする事。
ヒカゲ君をずっと同行させる事」
「え?僕?」
「ごめんね。
せっかくの夏休みなのに」
アンヌが手を合わせてチャーミングに謝る。
うん、とてもかわいいから許しちゃう。
「とてもかわいいから許しちゃう」
「フフッ。
ありがとう」
あ、思わず声に出てた。
恥ずかしい。
「でも、なんで僕なの?」
「ヒカゲ君ならなんとかしてくれると思って」
「僕が?」
「ええ、ヒカゲ君は優しいですから」
「僕が優しい?
アンヌは優しいから誰でも優しく見えるんだよ」
だからとても心配。
いつか僕みたいな悪党に騙されないか。
もしそんな事あったら、僕はそいつを絶対に許さないけどね。
簡単には死なせない。
必ず生きて来た事を後悔するほど痛めつけて――
「どうしたの?
急に怖い顔して」
「ううん何でも」
おっと危ない。
今とてつもない事考えてた。
僕は首を大きく横にふって誤魔化す。
「ヒカゲ君はね、自分に優しく他人に厳しいの」
まさに人間のクズだな。
悪党の僕らしい。
ん?あれ?
もしかして僕ディスられてる?
「でもヒカゲ君の自分には私達周りの人間も入ってるでしょ?」
それは僕の美学だからね。
『美学その9
他人の不幸は蜜の味
身内の不幸は排除する』
「その優しさと厳しさに私は賭けたの。
そして私は賭けに勝ったの。
ヒカゲ君を信じてよかった」
その顔は安堵の顔でいっぱいだった。
きっとこの5日間、アンヌは夜も眠れないほど心配だったに違いない。
朝が来ると友達の亡骸がない事を祈る日々だったのだから。
「一人で抱え込まないで言ってくれたら良かったのに」
「それだと、もしダメだった時ヒカゲ君に重荷を背負わしてしまうわ」
「それぐらい別にいいのに」
「いいえ。
もしダメだった時はヒカゲ君には何も言わないつもりだったの。
私は弟に全部委ねてしまうダメなお姉ちゃんだから、せめて責任だけは一人で背負うの。
だってお姉ちゃんだから」
「お姉ちゃんって凄いね」
「はい。
お姉ちゃんは偉大なのですよ」
フフッとアンヌは可憐に笑う。
この笑顔が見れたのなら、僕は利用された価値があったと心から思う。
僕みたいな悪党は利用するに限る。
利用料は高いけどね。
「じゃあお姉ちゃん、僕はご褒美が欲しい」
「ご褒美ですか?
私にあげれる物なら。
なにがいいかしら?」
「可愛いネコのポーズがいいな」
「前にヒカゲ君がやってたあのポーズ?」
「そうそれ」
アンヌは少し躊躇してから顔を真っ赤にして、照れ笑いしながら。
「ニャー」
と小さな声で鳴いた。
「これ、凄く恥ずかしいですね」
まだ真っ赤な顔を両手で覆い隠しながらアンヌが悶絶する。
その仕草もかわいい。
「とても可愛かった。
顔を真っ赤にしながら小さな声だったのも評価ぎ高い」
「解説しないでいいです」
「その後の仕草も100点満点」
「もう!もっと恥ずかしくなって来たでしょ!
……それで、ご褒美になりましたか?」
「うん、凄く満足。
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