第2話
退屈で窮屈な学園生活を何とかやり過ごす日々。
可愛い妹達と腹黒許嫁の監視があるからサボる事が出来ずに一学期を皆勤で終わろうとしていた。
「ねえ、アークム君。
夏休みはやっぱりリリーナちゃんの実家に挨拶に行くの?」
終業式の後の放課後。
リリーナが職員室に呼び出しを受けていない内に帰ろうとしたら、女子生徒の一人が僕に声をかけて来た。
「そんなの当たり前じゃない。
だって二人はもう夜を共にした仲なのよ」
「でもそれならリリーナちゃんがアークム君の実家に行って遂に熱い夜をね」
他の二人の女子生徒が勝手に話を進めて勝手に盛り上がっている。
この三人はいつの間にかリリーナと仲良くなっていた仲良し三人組だ。
名前は覚えていない。
一度は遂に騎士団に捕まったと噂されてた僕だけど、ここ最近少し評価が変わっている。
特に女子生徒からの評価が少し上がっている。
と言うのも、流石に婚約者が捕まったとなると体裁が悪いと思ったのか、リリーナが僕との婚約の経緯をかなり着色(というよりもはや創作)してふれ回っているからだ。
「アークム君がリリーナちゃんを凄く大事にしてるのは分かるよ」
「そうそう。
一晩お泊まりしても手を出さない紳士も素敵だと思うけどね」
「やっぱりリリーナちゃんは待ってると思うよ」
リリーナの話だと弱みを握っていると言うのは、完全なデマ。
実際は、僕はどんな時でもリリーナを助けに行くナイト様らしい。
もちろん普通はそんな事信じる訳無い。
しかしリリーナがあまりにも惚気て言うものだから女子の中ではそれが正しいとなったそうだ。
それをリリーナは、
「大衆を掌握するのって簡単ね」
とか言っていた。
腹黒女は健在である。
女子からしたら自分をいつも助けに来てくれるナイト様って憧れみたい。
いやいや、行かないよ。
そんなめんどくさい事はごめんだよ。
ただでさえ最近、僕より強ければリリーナに振り向いて貰えるとか勘違いした男子生徒から、決闘の挑戦状が届いてめんどくさいのに。
遂には特待生の男子からも来るようになったんだよ。
全部無視してるけどね。
「リリーナちゃん私達に惚気てばっかりなの」
「アークム君の事話時は完全に乙女の顔だもんね」
「この夏休みでガバッといっちゃえキャー」
矢継ぎ早に喋る三人に、僕は完全に圧倒されてしまった。
女三人寄れば姦しいとは良く言った物だ。
お喋りが途切れる様子が一切無い。
完全に帰るタイミングを逃してしまった。
「あら?ヒカゲ君。
待っててくれたの?」
そうこうしてる内にリリーナが戻って来てしまった。
「あ!リリーナちゃんおかえり」
「私達そろそろ帰らないと。
バイバイ、リリーナちゃん」
「では、ごゆっくり〜」
三人は嵐のように去っていった。
「さあ私達も帰りましょ」
三人にあざとく手を振って完全に見えなくなるのを確認してからリリーナは言った。
「彼女達と帰ればいいのに。
友達だろ?」
「いやよ。
せっかくあなたが待っててくれたのに」
「待ってない待ってない。
彼女達に絡まれて帰り損ねただけ」
「なんで待とうと思わないわけ?」
「逆になんで待つ必要があるわけ?」
「私との貴重な時間が減るじゃない」
「僕の一人の時間の方が貴重――」
いつものボディブローが僕の言葉を遮る。
日に日に威力が増して来てるのは気のせいだろうか?
「君はなんですぐに暴力に訴えてくるかな〜」
「あら?今日は我慢した方よ。
褒めてくれてもいいわよ」
「なんで殴られた僕が褒めないといけないわけ?」
「だって成長したでしょ?」
「拳の威力が?」
「えいっ」
可愛い掛け声とは裏腹に強力なボディブローが入る。
「あなたは成長しないわね?
もしかして!
私に殴れて喜びを感じてるの!?」
リリーナは心底軽蔑するような目で僕を蔑む。
「僕の性癖を勝手に捏造するな」
「大丈夫よ。
私はあなたがどんな性癖を持っていても愛してるから」
「だ・か・ら。
そんな性癖は断じてない」
「私の愛してるには無反応なのね」
「そんな事はどうでもいい」
「あのね。
私も年頃の乙女なのよ。
愛してるって言うのにも勇気がいるのよ。
無下に扱うなんて酷いと思わないの?」
「すぐにお腹に拳をめり込ませる方が酷いと思う」
「それはいいのよ」
出たよ、理不尽の化身。
いや、なんかやれやれみたいな顔してるけどさ〜
それ僕の方だからね。
「とりあえず帰りましょうか」
リリーナは教室の出口の方へ向かって歩きだした。
◇
日はすっかり長くなっていて、外はまだ明るい。
気温も上がって来て暑さも強くなって来ている。
「ねえ、暑く無いの?」
僕の腕に抱きついて歩くリリーナに尋ねる。
ちなみに僕は魔力と気力で体内温度を調整しているから暑く無い。
「夏は暑くて当たり前でしょ」
「そうだけど、わざわざ暑くなる事しなくても良くない?」
「いいじゃない。
あなただって私の胸の感触楽しめて役得でしょ?」
リリーナはこれ見よがしに胸を強く当ててくる。
薄い夏服で僕は半袖、リリーナは薄着だから感触がよく伝わる。
「恥ずかしく無いの?」
「全然。
あなたなら直でもいいわよ」
「顔真っ赤だよ」
「こ、これは……
そう、暑さのせいよ」
リリーナは真っ赤になった顔を慌てて背ける。
「暑いなら離れればいいのに」
「絶対嫌!」
なんでこんなに頑ななんだろう?
「それに胸が見えそうだよ」
リリーナは暑いからだろうか、シャツの第二ボタンまで外しているから谷間がくっきり見えている。
若干下着まで見えている。
全く年頃の女の子がはしたない。
僕じゃなかったらお持ち帰りされてたよ。
「いいのよ。
あなたならいくらでも見て。
なんならもっと下まで見る?」
リリーナは挑発するように言う。
でも、顔を更に真っ赤にしているから効果は薄い。
何が彼女をここまでさせるのか?
不思議で仕方ない。
「それで、感想は?」
「君は何着ても美人だろ」
「服じゃないわよ!
胸の感触の話、って何言わすのよ!」
「君が勝手に言ったんだろ?」
「うるさい!
それで感想は?
興奮したのかどうかはっきりしなさい!」
「いや別に」
胸の感触は楽しめたけどね。
思春期の男子高校生じゃあるまいし別段興奮するような事ではない。
リリーナは肩を落として、小声でぶつぶつ言い出す。
「これでもダメなの?
あの子達の言う通りしたのに……」
はは〜ん。
読めたぞ〜。
これはあの三人娘の差金だな。
だから教室で僕を足止めする為に話しかけて来たのか。
でも残念だったね。
僕の弱みを握ろうったってそうはいかない。
伊達に悪党を長年やってる訳じゃ無いんだよ。
そう易々とハニートラップに引っかかる訳無い。
「ねえヒカゲ」
まだ諦めずに胸を押し当てたままリリーナが話かけてくる。
「なに?」
「夏休みはいつから私の実家に来てくれるの?」
「ん?なんて?」
今なんか質問おかしくなかったか?
「初めはヒナタちゃん達と実家に帰るんでしょ?
だからその後私の実家に来てお父様に挨拶に来てくれるんでしょ?
それて、いつ頃から来てくれるの?」
「ちょっと待て。
僕は夏休みは寮でダラダラして過ごすんだよ」
実際は秘密基地でだけどね。
「またまた〜。
そうやって私にサプライズしようと思ってたんでしょ。
でもヒナタちゃんから夏休みのあなたの予定聞いちゃたの。
ごめんね」
リリーナはお茶目にウインクをする。
「ごめんねって、そんなに可愛く言ったって僕はその予定を知らない」
「でも、夏休みはお義父さんから予定があるから三人共帰って来なさいって連絡あったって言ってたわよ」
「それすら初耳なんだけど……」
おかしいな。
ヒナタとは毎日会っているのに何も聞いてない。
「まあ、そこまでは分かった。
いや実際はわからないけど、とにかく置いておこう。
それでなんで君の実家に行く事になってるわけ?」
「だってあなた私のお父様に会った事無いでしょ?」
「無いよ」
「だから挨拶しに来てくれるってヒナタちゃんが言ってたわよ」
またヒナタかよ。
あの子はなんで僕の予定を勝手に決めてるんだ?
後で確認しに行ってこよう。
そしてお説教だ。
「わかった。
とりあえず言いたい事はわかった」
「そう、それは良かったわ。
それでいつから来てくれるの?」
「待て待て。
行くとは言ってない」
「なんでよ」
「なんでって、僕が挨拶に行く理由がわからない」
「だってあなたは私の婚約者でしょ?」
「それも認めたく無いけど……
それは置いておくとしても、別に夏休みに行く必要は無いだろ?」
「あなたは大切な事を忘れてるわ」
「大切な事?」
「だって夏休み中私に会えないと寂しいでしょ?」
「は?」
突拍子の無い事を言われて本気の疑問符が出て来た。
だって全くと言っていいほど寂しく無い。
「夏休み中に私に会えないと寂しいでしょ?」
「……」
「殴るわよ」
「まだ何も言ってない」
「そこは即答で寂しいって言いなさいよ。
全く……
この際だから聞いとくけど、あなた私の事どう思ってるの?
好き?
それとも大好き?」
「おい、選択肢がおかしいぞ」
「それとも愛してる?」
「何故君はおかしいと思わないんだ?」
「だって嫌いって選択肢はいらないでしょ?」
「いや、いるだろ」
「いらないわよ。
そんな選択肢許さないから」
「なら聞くなよ」
「嫌よ。
直接言って欲しいじゃない」
なんて自分勝手で我儘な女だ。
なんか日に日に理不尽に磨きがかかってないか?
「私はあなたの事愛してるわよ」
寮の前についたから、それだけ言うとリリーナは僕から離れて自分の部屋の方へ走って行った。
「私は寂しいわよ。
だから早く会いに来なさいよ」
最後に振り返って言ったリリーナの顔は真っ赤に染まっていた。
はぁ〜めんどくさいな。
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