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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
3章 悪党は美術館がお好き
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第29話

あの後リリーナは泣き疲れて寝てしまった。

だからエミリーが迎えに来たのに


「私の腕力ではお部屋までお運び出来ません」


とか言いつつリリーナを軽く持ち上げて、何故か僕のベットに寝かせて帰ってしまった。


全くもって意味がわからない。


僕がおぶって帰るって言ったのに、


「ヒカゲ様、他人の部屋に勝手に入るような事はしてはいけませんよ」


とか言い出す始末。


今現在進行形で僕の部屋に勝手に入っている主人を目の前に良く言えた物だ。


世の中とは理不尽なものだ。


結局僕はソファーで寝る事になった。


翌朝、僕は部屋の前に人が集まる気配で目が覚めた。


何かあったのかと思っていたらチャイムが鳴った。


凄く嫌な予感がしたけど、仕方なしに僕は扉を開ける。


嫌な予感は見事に的中。

扉の前には騎士が二人が立っていた。


「朝早くに申し訳ありません。

ヒカゲ・アークムさんですよね?」


言葉は丁寧だけど、僕を見る目は何か汚物を見るような目だ。


確かに僕は悪党だけど、こいつらにこんな目で見られる覚えは無い。


「そうですけど、なにか?」


「昨日の件でお話を伺いたいのですが、御足労願いますか?

学校には連絡してますので」


「昨日の件?」


僕はあえて惚けてみせる。

めんどくさいのはごめんだ。


幸い僕があそこにいたのを知っている人間は少ない。


「ルナ王女から話は聞いています。

その件で国王様からもお話があるとの事です」


そうか……ルナが話しちゃったか〜

口止めする暇無かったから仕方ないか……


「わかりました。

少し準備して来ます」


「ちょっと待ってください」


僕が扉を閉めようとしたら騎士が止めた。


「まだ何か?」


「リリーナ・コドラさんも呼んでくださいませんか?」


「え?

なんで僕が?」


「昨日同衾してたのでしょ?」


「別に同衾してませんよ」


おい、誰だそんなデマ流した奴は?

いや、一人しかいないか……


待てよ。

さっきから汚物を見るような目で見られるのはそれが原因か?


エミリーの奴、なんて説明したんだ?


「ちょっと!

なんで私があなたのベットで……」


最悪のタイミングで起きて来たリリーナが騎士団と目が合って固まる。


よりにもよって、いい具合に寝巻きがはだけている。


リリーナは慌てて奥に引っ込み、騎士は慌てて目を逸らす。


もうこれは言い訳出来ないな。


「とにかく準備して来ますね」


僕は諦めて扉を閉めた。



出かける準備をして二人揃って騎士団の本部へ向かう。


その姿が他の生徒に見られて、リリーナを脅して無理矢理同衾させた事によって、遂に捕まったと噂になるのに時間はかからなかった。


みんなの想像力には感服するよ。


「取調べじゃないから寛いでくれて構わないよ」


僕の前に座ったトレインが気さくに話しかける。

どうやら彼が僕の調書を取るらしい。


「何か飲み物でもいるか?

そういや朝食を取ったか?

なんか用意させるよ」


トレインがやたらと勧めて来るので頼む事にした。


「じゃあ王都で一番高いモーニングセットを。

飲み物はミックスジュースがいいな」


「わかった。

用意させよう」


トレインは記録係の騎士に命令して買い行かせた。

しれっと三人前頼んでいる。


「それで、わざわざ人払いさせて僕になんのよう?」


「君は勘がいいって言われない?」


「良く言われますよ」


「だろうね。

それでいて時間のかかる物を頼んでくれてありがとう」


それはただ食べたい物を頼んだだけ。


「経費で落ちるの?」


「落ちるよ」


「その形態は改善するべきだね」


「大丈夫、俺だけだから。

経理のお姉ちゃんと仲がいいんだ」


「例の能力?」


「そうそう。

俺がお願いすればちょちょいとね。

ちなみにお願いしたら、ちょっとした事ぐらいなら忘れてくれるよ」


「それでそれが効かない僕には何のお願いを?」


「やっぱり君は勘がいい」


トレインは嬉しそうに微笑んでいるが、目は僕を見極めようと真剣だ。


「昨晩僕が串刺しにされたの知ってるよね?」


「串刺しにされたの?」


「それで刺さった剣を抜いてくれたのは君なんだろ?」


「はて?何の事か全く」


「みんなの話を総合すると、あの時間にあそこを通ったのは君しかいないんだよ」


「あそこってどこ?」


僕は惚け続ける。

トレインは諦めずに続ける。


「質問を変えよう。

君はルナ王女とリリーナ嬢を助けた。

間違い無いね?」


「結果的にはそうなるね」


「どうして遺跡にいたの?」


「散歩してたんだ」


「あんな所を?」


「昨日は満月が綺麗だったからね」


「御二方を助ける前に俺の死体を見たはずだ。

あそこまでは一本道だからね」


「どうだったかな?

フィアンセのピンチで気が動転してたから、その前後の事は記憶が曖昧なんだ」


「串刺しの死体なんて衝撃過ぎて記憶に残ると思うんだけど?」


「でも今生きてるよね?」


「そうなんだよね。

君が俺を見て驚かなかったのが不思議なんだ。

御二方はそれはもう驚いてたよ。

つまり君は俺が生き返るってわかってたんだ。

それでいて剣を抜いてくれた」


「死んでも生き返るの?」


惚け続ける僕をトレインが黙って見つめる。

やがて大きな深呼吸をした。


「辞めた辞めた。

取引といこう。

俺はこれ以上君に追求しない。

君は昨日見た事を黙ってる。

どう?」


「どう?って言われたって僕は追求されて困る事無いよ」


「なら可愛い女の子紹介するよ」


「可愛い女の子は間に合ってます」


「確かにそうだった。

じゃあ君が困った事があったら力になろう」


「トレインに何が出来るの?」


「これでも王都騎士団部隊長だ。

それなりの権力を持ってるよ」


「持てる力の全てを使って助けてくれるの?」


「ああ、約束しよう」


「何回まで?」


「三回でどう?」


「おかしいな。

僕は一生黙ってないといけないんだろ?」


トレインは苦笑いする。


「……ならこっちも一生でどうだ?」


「わかった。

約束だよ」


「取引成立だ」


「じゃあ早速お願いがあるんだ。

今回僕が彼女達を助けた事は公にしないで欲しいな」


「わかった。

なんとかするよ」


「あともう一つ」


「まだあるのか?」


「王都外の草原で発見された真っ二つのガーゴイルの件。

あれを全く手掛かり無しの迷宮入りにして欲しいな」


「それはまだ公に発表して無い事だ。

何か知っているのか?」


トレインは驚きの声を上げて前のめりになる。

だけど僕は澄ました顔で答えた。


「全く手掛かり無しの迷宮入りね」


「……わかった」


答える気が無いと察したのか、トレインは諦めて元の位置に座り直した。


「頼りになるなトレインは。

まあ、僕は結局何の事かわかって無いけどね」


僕はイタズラっぽく笑ってみせる。


「君って奴は……」


トレインは苦笑いをするしか無かった。


残念だったね。

僕と対等に取引しようだなんて人生一回分早いよ。

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よろしくお願いします。

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