第28話
王立王都騎士団病院。
ここには常に最前線で戦う騎士団の為に世界の最新医療が揃っている。
夕方、その病院に校外演習を終えたアイビーは訪れた。
手にはお見舞いの花と果物を持っている。
上等な個室の前で立ち止まる。
緊張で早くなる鼓動を深呼吸で落ち着かせた。
近くの壁にある姿見で全身を確認して、最後に髪型を整える。
すると病室から体格のいい男が出て来た。
ダイナの父親のカットバー伯爵だ。
「アイビーちゃんじゃないか。
わざわざ息子の見舞いに?
あいつも隅に置けないな」
「ダイナ兄さんにはお世話になってるので」
「どうか、あのバカ息子を頼むよ」
「はい」
アイビーはカットバー伯爵が見えなくなるまで見送ってから扉をノックした。
「どうぞ」
中からダイナの声が聞こえる。
その声だけでアイビーの心臓は色めきだす。
それを悟られないように平常心を保ちつつ扉を開けた。
「こんばんはダイナ兄さん」
「やあアイビーちゃん。
わざわざ来てくれたんだ。
ありがとう」
ダイナの笑顔にアイビーは頬が赤くならないように必死に堪える。
ダイナは若い頃からグラハムに鍛えられている都合上、アイビーとは旧知の中だ。
アイビーは兄さんと呼んで慕っている。
それが淡い恋心に変わっている事も自覚していた。
「ダイナ兄さん、怪我の具合は?」
「全治1ヶ月だってさ」
ダイナはギブスで固められた利き腕を見せる。
「そんなにかかるの?」
「1ヶ月なんて早いよ。
下手したら使い物にならない所だったって言われたぐらいだ。
ここの技術に感謝だな」
笑ってみせるダイナにアイビーは心を痛める。
いっそ復帰出来なかった方が危険な目に合わなくて済むとさえ思ってしまった。
「何か食べる?
ダイナ兄さんの好きなりんごも持って来たよ」
「それはありがたい。
早速頂くよ」
アイビーは見舞いの品を置いて、手際良くりんごを切る。
そうしながら置いてある他の見舞いの品をチェックした。
「利き手がそれだと食べ難いでしょ?
今日は私が特別に食べさせてあげる」
「恥ずかしいからいいよ」
「いいからいいから、遠慮しない」
アイビーは半ば無理矢理りんごをダイナの口まで運ぶ。
「はい、あーん」
ダイナは恥ずかしそうに口を開けた。
「そういや他に誰がお見舞いに来たの?」
「え?
トレインとレイナが一緒に来て、その後グラハム総長。
あとは王家から見舞いの品が届いたぐらいだよ。
それがどうかした?」
「ううん、なんでも。
はい、あーん」
ダイナに新しい女っ気が無い事に心の中でガッツポーズをして、この話題を終わらせる為に次のりんごでダイナの口を塞ぐ。
「ダイナ兄さんは働き過ぎだから、丁度いい機会だと思ってゆっくり休んだら?」
「そうはいかないよ。
今回だって僕が不甲斐ないからこんな怪我をしてしまったんだ。
あんな石像に傷一つ付けられないなんて情け無い。
僕はもっと強くならないと」
「でも魔坑石で出来ていたんでしょ?
仕方ないよ。
お父様とツバキ様以外歯が立たなかったって聞いたよ」
「いや、他にもいたんだ。
公には発表されていないけど、ナイトメア・ルミナスと名乗る集団の一人がいとも容易く引きちぎるのを僕は見た。
そのトップと思われるナイトメアと名乗る男は巨大な石像をも真っ二つにしたと聞いている」
「ナイトメア・ルミナスですって!」
アイビーは思わず大きな声をあげてしまった。
しまったと思った時にはもう遅かった。
「アイビーちゃん、何か知ってるのか?」
アイビーの苦虫を噛み殺したような顔が肯定していた。
アイビーは怒られると思ってナモナイ村に行った事を黙っていたのだ。
「なにか知っているなら教えてくれないか?
僕達は今少しでも奴らの正体を知る手掛かりが欲しい」
言いたくは無かった。
でも、ダイナの頼みをアイビーは無下には出来ない
「私から聞いたって内緒にしてくれる?」
アイビーはイタズラが見つかった子供の顔で尋ねる。
「もちろん。
匿名の垂れ込みだって事にしておくよ」
そこまで言われらアイビーは断る事は出来ない。
アイビーはナモナイ村に行った時の話をした。
「非合法の裏ギルドか……」
ダイナは考えを巡らす。
彼もギルド協会に属さない裏ギルドがある事は知っていた。
しかし、それが表に出て来る事は殆ど無かった。
ギルド協会が自分達の信用の為に躍起になって摘発しているからだ。
「となると、王都の外で真っ二つになっていたガーゴイルもそいつらの仕業かもしれないに」
アイビーはまた余計な事言いそうになったが、今回はグッと我慢した。
ヒナタとの約束で昨日の事は秘密にする事になっていたからだ。
「とにかくダイナ兄さん、今は確実に怪我を治す事だけに集中しないと」
「そうだな。
1日でも早く復帰しないといけないから」
「毎日私がご飯食べさせに来てあげようか?」
「そんな事したら僕の恋人だと噂されてしまうよ」
アイビーはダイナのその一言で毎日来ようと心に決めた。
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