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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
3章 悪党は美術館がお好き
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第27話

血溜まりの中で眠るトレインの体がピクリと動く。

やがてゆっくりと立ち上がる。


その身体には一切の傷が無くなっていた。


「ゔ〜、血が足りない」


トレインは貧血でふらつく頭を抑える。


「あいつら。

容赦無く刺しやがって」


悪態をつきながら体全体を動かしてほぐしていく。

一通り体の調子を確かめると奥へと歩みを進める。


「これはこれは」


階段を降りた先の惨状を見て自然と言葉が漏れる。


瓦礫に潰された無数の死体の間を縫って真っ二つになったガーゴイルまで進む。


その鏡面のように顔を映す断面に触れる。


「おいおい、これ魔坑石だろ?

それをこんなに綺麗に切れるなんて何者だ?

こんなの総長だって出来ないぜ」


次にガーゴイルの周りをゆっくり周りながら観察し始める。

両方の周りを一周したのち、その作りにも感嘆した。


「このガーゴイルは一個の魔坑石から削り出した物だ。

こんなでかい魔坑石が一体どこにあったんだ?

それに魔坑石の加工なんてそう簡単に出来る物でもないし……

こいつを作った奴も只者じゃねぇ」


周りの幾つもの巨大な足跡を見てこのガーゴイルが動いていた事、そしてこのガーゴイルと戦って真っ二つにした者がいた事を推測した。


「一体どんな化け物が現れたんだ?

よりにもよってこんな時に……

本当に急がないとマズイ」


トレインは貧血がぶり返す。

それを耐えて焦る気持ちを表すように、更に奥に進む歩速が早くなる。


奥の部屋の床に転がっている魔道具の剣を拾う。

それを握っている唯一形の残った鶏冠の腕を乱暴に捨てた。


剣を持った瞬間から貧血が治っていき、体の調子がだんだん良くなっていく。


トレインは遺跡からその剣を持ち去った。



事件の翌日。

騎士団本部では昨晩の戦いのよって亡くなった騎士達のお通夜が行われる事になった。


グラハムはそれまでの時間で被害状況の確認と対応に追われていた。


「グラハム総長。

少しお休みになられた方がよろしいかと」


心配したレイナが進言するが、グラハムは首を縦に振らない。


「死者46名、重傷者87名。

擦り傷など細かい傷まで入れると無傷の者はほぼいない。

決して少なくは無い被害だ。

それに対して我々の戦果はガーゴイル一体。

更にドーントレスの構成員は誰一人捕まえられず、奴らの手掛かりは皆無。

この失態は全て私の責任だ。

今の私に休んでいる暇など無い」


「しかし、都民への被害は無し。

騎士見習いの被害は軽傷者が数名いるのみです。

これも全て普段の総長の訓練あってこそです」


「それを遺族の前で言えるか?」


「それは……」


「我々が戦果を主張するのは簡単だ。

だからこそ亡くなった者達に誇れる戦果を上げなければならない。

そしてその戦果を墓前に報告しに行くまでが残された者の役目だ」


レイナはその言葉を胸に刻み頷いた。


「ときに勇者ツバキはどうされている?」


「宿に伺ったのですが、まだ寝ておられました。

騎士を一人待機させています」


「そうか。

無理強いはするな。

御足労頂けないなら国王様が直々にお礼に伺うそうだ」


「そう伝えています」


「ダイナの方はどうだ?」


「全治1ヶ月だそうです。

その後リハビリもあるので戦線に復帰するにはもう少しかかるかと」


「そうか。

慌てず確実に治せと伝えてくれ。

後で私も見舞いに行く。

それでダイナの所に現れた者はナイトメア・ルミナスと名乗ったのだったな?」


「はい。

その場にいた者の証言から美術館に現れた三人と共通の仮面をしていたと。

おそらく仲間かと」


「そして奴らのトップはナイトメア」


「ルナ王女とリリーナ嬢証言では、遺跡内にあった巨大なガーゴイルを真っ二つにしたのもナイトメアだと……

しかし……」


レイナはこの先を言うかどうか悩んむ。


「構わない。

どうした?」


「私は現場を見て来ました。

あれが人間技とは思えません」


「勇者ツバキだって真っ二つにしたのだろ?」


「総長も見たら分かります。

同じ真っ二つでも断面が違い過ぎます。

ナイトメアが切ったと言うガーゴイルの断面は、まるで磨き上げられたように綺麗でした。

顔がはっきり映る程です」


「御二方が嘘の証言をしていると?」


「とんでもないです。

ただ私はナイトメアの自作自演でないかと」


「そうするとガーゴイル自体ナイトメア・ルミナスが用意したことになるな」


「はい。

それならダイナの所に現れたガーゴイルを引きちぎる少女の存在も納得できます」


レイナの推測にグラハムは少し考えてから口を開く。


「その可能性も充分に考えられる。

私の勘はそうは言っていない。

私の当たって欲しく無い勘は良く当たる」


グラハムは残念そうに首を横に振ってから続けた。


「君の予想が当たっているならそれに越した事は無い。

だが、楽観視は辞めよう。

それで王都の外にあったもう一つ真っ二つになったガーゴイルの事は何かわかったか?」


「残念ながら何も手掛かりがありません。

私見ですが、切り口から遺跡の物とは別人の仕業かと」


「なるほど……

果たしてそいつは敵か味方か……

とりあえずそちらも何かわかったら報告してくれ」


「わかりました」


「あとトレインはなぜ昨日の招集に応じなかったか聞いたか?」


レイナがムッとした表情になる。

グラハムはそれだけでなんとなく察して、質問する相手を間違いえたと気づいた。


「なんかどこぞの可愛い娘達を守ってたらしいですよ!」


「そうか」


「そうかじゃないですよ!

総長からもなんとか言ってください!

毎晩毎晩女のケツばっかり追いかけて!

緊急招集にも気が付かないなんて……」


「わかったわかった。

俺からも注意しておく」


グラハムはレイナに気付かれないように深いため息を吐いた。

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