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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
3章 悪党は美術館がお好き
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第21話

明日の遠征を控えたヒナタは遠足前の子供みたいに寝付けないでいた。


パジャマに着替えてベットに潜り込むも一向に眠くならない。


ヒナタは寝るのを一旦諦めて立ち上がった。


「ホットミルクでも飲もうかな」


独り言を言いながら台所へ向かう。


ふと、窓の外の夜空が視界に入る。


「あれ?なんだろう?」


立ち止まって、外の違和感に目を凝らす。


常人では見えない程の遥か先の星空に四体のガーゴイルが見えた。


「行かなきゃ」


ヒナタは衝動的に呟いた。

何かに突き動かされるように剣だけを持ってベランダから飛び降りる。


ヒナタの部屋は二階にも関わらず、綺麗に着地した。


「ヒナタ!」


走り出そうとしたヒナタを呼び止めたのは、隣の部屋のシンシアだった。


ヒナタは反射的にシンシアを見上げた。

だが、その目にはシンシアは映っていない。


「どうしたのヒナタ?

そんな格好で何処に行くの?」


シンシアの問いにようやくヒナタの目に光が戻る。


「え?あ、えーと……

なんか向こうに見えたから……」


シンシアがヒナタの指差した方を見ても、シンシアには一面の星空しか見えない。

でも、シンシアは長い付き合いからヒナタには何か見えた事を確信した。


「ちょっとそこで待ってて」


シンシアは部屋に剣と二人分の上着と靴を取りに行ってからベランダから飛び降りる。


「とにかく、靴と上着ぐらいはいるでしょ」


ヒナタは素直に受け取った。


「これシンシアのいい匂いするね」


ヒナタが上着を羽織るとくんくん匂いを嗅ぎだした。


「変な事言うなら返して」


「いーやーだ」


いつものやり取りに、少しヒナタの様子がおかしいような気がしていたシンシアは安心した。


「それで?行くんでしょ?」


「一緒に来てくれるの?」


「この格好見たら分かるでしょ?」


「お揃いのパジャマ着てくれてるんだね」


シンシアが着ているのは王都で二人が一緒に買い物に行った時に、ヒナタにせがまれて買ったお揃いのパジャマだ。


「茶化さないでさっさと行くわよ。

明日早いんだから」


「そうだね」


二人は夜の町を走り抜ける。


普段ならみんな寝静まって静かなはずの町に、騎士団が所々で走り回っていた。


「何かあったみたいね。

ヒナタが見た物と関係あるのかな?」


「そうだね。

誰かに聞いてみようか?」


「やめときなさい。

そんな事したら怒られるわよ」


「それもそうか。

ん?あれは……

おーい!」


「ちょっとヒナタ!」


舌の根の乾かぬうちに、ヒナタは一人の軍服の着た女に突っ込んで行く。

そしてそのまま抱きついた。


「アイビーちゃーん。

何してるのー?」


「え!?ヒナタ!?

なんでここにいるの!?」


突然の事にアイビーは困惑してあたふたする。


「ってシンシアまで!?

それになんて格好してるのよ!」


「えへへ〜

来ちゃった」


「来ちゃった。

じゃなくて、二人とも何してるのよ」


「アイビーこそ何してるの?」


話が進まないので、シンシアが改めてアイビーに尋ねる。


「騎士団に緊急招集がかかったの。

騎士団見習いにもよ。

詳しい事はまだわからないけど……

だからあなた達は危ないから帰りなさい」


「アイビーって学園にいる間は見習い業休みだよね?」


「うっ……それは……」


シンシアの指摘にアイビーの目が泳ぐ。


実はアイビーは緊急招集用のアラームを返していなかった。


「野次馬仲間だねー」


「その言い方はちょっと抵抗ある……」


「私見たよー。

向こうの方から飛んでくる石像」


「石像?」


「そう石像」


アイビーは訳も分からずシンシアを見る。

シンシアも横に首を振るしか出来ない。


「とりあえず私とシンシアは石像の方に行くの。

アイビーも一緒に行こーよー」


ヒナタが遊びに誘うようにアイビーの手をブラブラさせておねだりする。


「わかったから腕を引っ張るのやめてって、ヒナタどうしたの?」


ヒナタは突然遠くを見つめる。

その瞳に光は映っていない。


「行かなきゃ」


ヒナタは呟くと同時に走り出す。


「ちょっとヒナタ!ってシンシアも……

ああ、もう!」


ヒナタを追って走り出したシンシアをアイビーも追う。


「シンシア、ヒナタどうしちゃったの?」


「わからない。

昔から急なあんな風になる時があるの。

で、決まって危険な所に行くの」


「何それ!?危ないじゃない!」


「だから追いかけてるの」


シンシアとアイビーはヒナタを見失わないようについて行く。


ヒナタは真っ直ぐに王都の外へ向かっていた。



遥か彼方のガーゴイルを見つけたのはヒナタだけでは無かった。


王都の上空から夜空を見据えるその瞳は、ヒナタよりもクッキリとガーゴイルの姿を捉えていた。


「スミレ、何も見えない。

本当にルージュ出て来た意味ある?」


スミレの横で自分よりも大きな抱き枕を抱いてプカプカと浮かぶルージュが不満そうな声をあげる。


「ええ、ガーゴイルが四体。

魔坑石で作られているわ。

だから魔力の武器の通りは悪いわね」


「えー、それが四体も。

ルージュ眠たい」


ルージュの首がコクリコクリと縦に揺れる。

それに合わせて額から生えている小さな二本の角も揺れている。


「別に四体共相手する事は無いわ。

私達はあの人の身内の不幸を排除するだけよ」


「ならそれまでルージュ寝てていい?」


「いいわよ。

必要な時にきちんと起きてね」


「……」


ルージュはすやすやと眠り始める。

その姿を怒る事なくスミレは優しい眼差しで見てから、王都全体を見渡す。


王都内は騎士団が走り回っている。

まもなく王都内に戦乱が起きる。


スミレはその戦乱に混ざるかを見極めていた。


きっと騎士団だけではこの王都は大ダメージを受けるだろう。


だけどスミレはそれを手助けする気は無かった。


この王都がどうなろうとどうでも良かった。


彼女が考えている事はただ一つ。


『美学その9

他人の不幸は蜜の味

身内の不幸は排除する』

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