第12話
犯行現場は酷いあり様だった。
派手に壁は壊されて、展示スペースは粉々。
何も考えずに、欲しいものだけを荒らして行った感じだ。
美学のカケラもない。
騎士団が何か手掛かりが無いか必死に調べている。
そんな中、唯一残されたマトリョーシカが寂しそう。
あれの良さがわからないなんて、スミレの言う通りドーントレスってのは無粋な奴らだな。
「これは俺が貰って行くとしよう」
「ん」
「ニャー」
僕達はマトリョーシカの前で話合う。
「お前達!何者だ!どこから入って来た!?」
突然現れた僕達に騎士達が剣を構える。
ざっと20人ぐらいいるけど、これなら簡単だな。
『ひれ伏せ』
僕の霊力を前に全員が地面に伏せる。
ガラスケースの鍵を超能力であけて、中のマトリョーシカをヨモギとミカンが丁寧に重ねて一つにする。
それを受け取って改めて見てる。
やっぱり素晴らしい出来だ。
近くで見ると技術力と表現力の高さが際立つ。
これはロビンコレクションを真剣に集めようかな。
「ボス、帰る?」
そうだね。
でも、その前に名乗っておかないといけない。
「俺は――」
「ナイトメア!」
グラハム総長と一緒に現れたリリーナが僕の名前を呼ぶ。
さっきリリーナを迎えに来た女騎士も一緒だ。
「これはこれは王国の正義よ。
こんな所で相見えるとは」
「それをどうするつもりだ?」
グラハムはマトリョーシカを指しているのだろう。
「これは俺が貰っていく」
「そうはさせん!
レイナ、行くぞ!」
グラハムとレイナと呼ばれた女騎士が剣を抜くと同時に迫り来る。
流石騎士総長だ。
早い、そして鋭い。
だが、それだけ。
それだけでは僕には届かない。
「これを」
マトリョーシカをヨモギに渡して僕も前に出る。
魔力で生成した刀で受け止める。
その衝撃で空気が悲鳴を上げる。
その悲鳴の中レイナが僕の左に周りこんで足を狙う。
僕を生け取りにするつもりみたいだけど、そんなの
「甘い」
レイナの剣を踏みづけて止める。
軍服が違うだけあって動きがいいけど、グラハム程ではないな。
「急所を外すとは舐められたものだな」
グラハムの剣を押し返し、レイナの胸ぐらを掴んでグラハムに投げつける。
2人の体は後方へ飛ぶが、グラハムは両足で着地した。
時間と共に僕の霊力の影響が弱まった騎士達が立ち上がり構える。
そろそろ潮時かな?
正義の前には退散しないといけないからね。
僕はゆっくりとヨモギとミカンの元へと歩みを進める。
「此度は逃げさせてもらうとしよう」
「待ってナイトメア」
ずっと様子を見ていたリリーナが僕を呼び止めた。
一体何のようだろう?
「あなたはドーントレスの仲間なの?」
この子は失礼な事言うね。
僕は唯一無二の悪党だよ。
「あんな美学のカケラもない奴らと一緒にするな」
「なら私達は協力出来ないの?」
「クク。
ハハハハ!」
面白い冗談を言うね。
思わず笑ってしまったよ。
「以前も言ったはずだ。
俺はナイトメア。
奪いたい物は奪い、消したい物は消す。
俺は誰にも縛られない、ただただ自由を求める。
故に悪党。
一縷の救いすら無い悪党。
正義と悪党が交わる時は対峙する時のみ」
「でも、私達の敵は一緒でしょ?
それなら――」
『黙れ』
頼むよリリーナ。
くだらない事言わないでくれよ。
思わずリリーナ目掛けて言霊を込めてしまったじゃないか。
そのせいでリリーナの呼吸が止まる。
リリーナは首を抑えて両膝をつき苦しそうにしている。
「大丈夫かリリーナ嬢!」
異常に気付いたグラハムとレイナが駆け寄るけど、どうしようもない。
このままだと死んじゃうね。
「おっとすまない」
僕は指を鳴らして、言霊を緩和する。
リリーナの呼吸が苦しそうに咳込む。
その顔には死を目の当たりにした恐怖が浮かび上がっている。
ごめんね。
でも、その恐怖を忘れてはいけないよ。
恐怖って言うのは、生き物が生き残るのに大切な感情だから。
「くだらない事を吐かすな。
お前たち善人が悪党に媚びを売るな。
俺はお前たち善人と手を取り合う事は無い。
悪党の美学がわからない小悪党と手を取り合う事も無い。
ロビンコレクションは必ず俺が頂く。
さあ、正義よ抗ってみせろ。
善人よ震えて見てろ」
僕はロングコートを翻して、自身とヨモギとミカンを隠して、黒い影と共に消える。
ちょっとムキになり過ぎたかな?
でも僕はね、義賊とか都合のいい時だけ正義と共闘するキャラとか嫌いなんだ。
だってあんなのは自分の悪事を正当化してるだけじゃないか。
『美学その1
自分が悪党だと自覚しなくてはいけない』
悪党はどこまで行っても悪党。
そして僕は根っからの悪党だから。
決して救われてはいけない悪党だから。
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