表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
13章 悪党は世界から隔離されても変わらない
283/285

第6話

ヒナタ達が遠征試験の日がやって来た。

行き先はハヌルが指定したルカルガの里。

もちろん真の目的地はバノキリ島である。


ヒナタが準備を終えて部屋を出るとシンシアが待っていた。


「アイビーは先に下に降りてるって」


「うん。

私達も行こう」


寮の入り口まで行くと、リリーナが待っていた。


「リリーナお義姉ちゃん。

見送りに来てくれたの?」


「ええ。

ヒナタちゃん、カルカナ王国に行ったらまずヤマーヌ邸に行って。

レインには話を通してあるから、ルカルガの里への案内人を付けてくれるわ」


「うん、わかった」


「あとその時にこれを渡しておくわね」


リリーナはしっかり封のされた赤と青の封筒をヒナタに渡した。


「これは?」


「青の封筒は挨拶状。

ヤマーヌ公爵に渡して。

赤の封筒はルカルガの族長に。

娘の結婚の祝電が入っているわ。

いい。

今回の遠征は全てコドラ公爵からの依頼でこれを届ける事。

だからこれから何が起きるかはヒナタちゃん達は知らない。

後で何か問題が起きても、コドラ家のせいにして知らぬ存ぜぬを通して。

アークム家には何も迷惑はかけないから」


「え?でも……」


「大丈夫。

ちゃんとお父様にもお母様にも話はしてある。

知った上で名前を書いてくれてる。

だからお願い。

これは私の我儘なの。

私には何も出来ないから、せめて後ろ盾にはならせて」


「……うん、わかった」


ヒナタはリリーナの言葉で絶対に上手くやってみせると自身を奮い立たせた。


「行って来ます」


「行ってらっしゃい」


外に出ると今か今かとソワソワしていたアイビーがヒナタ達を見て笑顔で手を振っていた。

その姿にヒナタの心が騒めく。


今回の件はアイビーには内緒にしていた。

最後まで悩んだが、アイビーの性格上絶対に止められる。

その上で最後まで付き合ってくれる。

だからこそ伝えるのは辞めた。

アイビーだけ残してヒナタとシンシアだけで今回の件がバレるリスクを侵してでもバノキリ島に行く手筈にしたのだ。


「おはよう。

もうすぐ馬車が来るわよ」


「うん、そうだね」


精一杯いつも通り挨拶するもアイビーはなんか怪訝そうな顔をする。


「どうしたの?

もしかして寝れて無いの」


「え?うん、そうなんだ。

今日が楽しみ過ぎて寝付けなかったの」


「もう、子供じゃないんだから」


アイビーはヒナタの言葉に笑っていた。

そこに馬車が到着した。

派手では無いが一目で分かる高級感漂う馬車の中からハヌルが出て来た。


「おはよう。

王族御用達の最高級の馬車を用意したよ。

乗り心地は最高にいいと思うよ」


ハヌルはそう言って運転席の方に三人の視線を誘導した。


「彼女は運転手のコハク。

馬車の運転はもちろん、護衛、野営までこなせるスペシャリストだ」


「なんでも遠慮無く僕に言ってね。

お嬢様方の快適な旅を楽しんでね」


コハクと言われた少女はオレンジ色のハウジング帽を脱いで挨拶をした。

なかなか好感を持てる爽やかな笑顔である。


「凄い馬車。

私達は先に乗ってるね」


そう言ってアイビーはシンシアと一緒に馬車に入った。


「ハヌル王子ありがとう」


ヒナタは笑顔でハヌルにお礼を言った。

その笑顔にハヌルは思わず抱き締める。


「え!?」


「ヒナタ」


「は、はい!」


抱き締められたのもそうだが、初めて呼び捨てされた事にもビックリしたヒナタは自分でも驚くほど大きな声で返事をした。


「俺は君の事が大好きだ。

本気で愛している」


耳元で言われたその言葉は自分の声よりも大きく聞こえて、ヒナタは顔が真っ赤になってしまった。

そんなヒナタをお構い無しにハヌルは続ける。


「本当はあんな危険な所に行かせたく無いんだ。

でもきっと君は誰が反対したって押し切って行ってしまう。

なら俺は君を全力でサポートするよ。

だからお願いだ。

必ず無事に帰って来てくれ」


「はい、わかりました。

必ずみんなで一緒に帰って来ます。

もちろんお兄ちゃんとも一緒に」


ハヌルはその言葉を聞いても尚、名残惜しみながらもヒナタを放した。


「行って来ますハヌル王子」


「行ってらっしゃいヒナタ」


また呼び捨てにされたヒナタは顔が赤いまま馬車に乗り込んだ。


その顔を見たシンシアとアイビーに散々揶揄われたのは言うまでも無い。


そんな馬車を見送るハヌルのポケットからハヌルに話しかける声があった。


「あれが君の婚約者だよね?」


その声をハヌルは聞こえていないふりをする。


「無視なんて酷いな。

あの子の為においらの力を借りたいと言ったのは君じゃないか」


それでもハヌルは無視を決め込んだ。


「君がおいらを嫌いなのは知ってるけどね。

あの子はそんなおいらに頼ってでも守りたい子なんだろ?」


「嫌われてるのがわかってるなら話かけないでくれないか」


「嫌だね。

おいらは嫌われるのは慣れてるんだ。

だから無視されたぐらいでへこたれないよ」


ハヌルはポケットから手の平サイズの盾を取り出して忌々しそうに見た。


これがハヌルがいつも使っている魔導具の盾である。

普段はこんなに小さくなって持ち運ぶ事が可能になっている。


「なになに?

おいらを捨てるのかい?

いいよ、捨てるといいさ。

おいらはロビン・アメシスのただの思念体。

どうせ資質を持った君としか意思疎通出来ない。

だから実質ノーダメージ。

でも君は違うよね?

おいらがいないと困るよね?

ねぇ、どうなの?

ねぇってば〜」


盾は煽るように捲し立てる。

ハヌルはイライラしながらも盾を握りしめるしか出来なかった。


残念な事に盾の言う事は正しい。

この盾の力を必要とする時がある。

それにこの盾は王国から渡されてる物。

ハヌルが勝手に手放す事が出来ない。


「そんな性格だから嫌われるんだ」


そう嫌味を言うのが精一杯だった。

その嫌味すらも盾にはノーダメージ。


「知ってるよ。

でもおいらがこんな性格だから君は魔力以外の力を教えて貰えたんだよ。

そのおかげで君は愛しのあの子を救えたんだろ?

それに血縁者なら未完成の破滅の魔導具にアクセス出来るって教えてあげたのもおいらだよ。

感謝の気持ちを述べてくれてもいいんだよ。

さあ」


「うるさい」


ハヌルはそう言って盾をポケットに押し込んだ。


「そんな事より、本当にあのコハクって子は大丈夫なんだろうな」


「大丈夫さ。

彼女程適任はいないさ。

おいらは嘘言った事無いだろ?」


「そうだよ。

そうじゃなかったら今頃口なんて聞いてない」


「だから安心して君は君のやる事をやりたまえよ。

後継者君」

少しでも面白かったと思ったら下にある☆ ☆ ☆ ☆ ☆から、作品の応援をお願いします。


1つでも構いません。


ブックマークも頂けたら幸いです。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ