第5話
ネズカンはホロン王国王城に出向いていた。
目的は当然禁足地への踏み入れ許可。
その為に国王との謁見を申し出ていた。
しかし応接室で待っていたネズカンの元に現れたのはハヌルであった。
「こんにちは。
お久しぶりですねネズカンさん」
「ご無沙汰しておりますハヌル王子。
しかし儂が謁見を申請したのは国王様のはずですが」
「その申請は俺が止めました。
父さんは来られません」
「ハヌル王子。
申し訳無いが儂は急いでいます。
すぐに国王様に――」
「禁・足・地。
ですよね」
ハヌルはわざとらしく強調して言った。
言い当てられた事にネズカンは言葉を詰まらせた。
「単刀直入に言います。
今回の事は静観してください」
「な!?
何故それを!」
「理由なんて言うわけ無いではありませんか。
俺達にとって情報網は命綱なのはわかっておられるでしょ?」
ハヌルは爽やかに微笑みかけてから続けた。
「ちなみに何故禁足地への踏み入れ許可が必要なのかもわかっています」
「ならば尚更――」
「ヘマイト文明」
その言葉でハヌルはネズカンを黙らせた。
「それはかつて魔導具を作り各国にばら撒いて戦争を激化させた文明。
彼らはそれによって巨万の富を得る事となった。
でも彼らの目的はそれだけでは無かった。
彼らは戦争によって疲弊した各国に魔導具すら通じない対魔力兵器で侵攻。
この世界の全てを牛耳るのが真の目的だった」
これは国のトップと僅かな者しか知らないトップシークレット。
第二王子であるハヌルでさえ知る事が無いはずだった。
故にネズカンはハヌルがどこまで知っているかわからない以上、黙って聞く事しか出来なかった。
「しかしそれは勇敢な者達によって阻止される事となる。
禁足地であるバノキリ島はそのヘマイト文明の者が籠城した最後の地。
彼らはその地の凶暴な魔物を魔導具で使役。
更には地の利を活かして各国の攻撃を跳ね除け続けた。
その戦いに終止符を打ったのが魔導具製造の真の後継者。
現ホロン王国西部統括公爵エイテン・アークム。
ここまで何も間違って無いですよね?」
「良く調べられましたな」
ネズカンが苦虫を噛み潰したような顔をするのをハヌルは楽しそうに見る。
「はい。
とても苦労しました。
資料室を調べても何も出て来ませんでしたから。
それから今は人払いをしているので普段の言葉遣いで結構ですよ。
それだと言いたい事も言えないでしょ?
ヴァン叔父さん」
「そこまで知っていたのか。
記録上は完全に死んでるはずなのだがな」
不意に名前を呼ばれてネズカンは驚きを通り越して感服してしまった。
「バレてしまっているなら叔父として言わせてもらおう。
正直残念だよ。
君はヒカゲ・アークムの事を友人だと思っていると思っていたのだがな」
「大切な友人だと思っていますよ」
「ならば何故儂の邪魔をする」
「とても兄を好きな妹がいるんですよ」
「まさか!
ヒナタ・アークムを焚き付けるつもりか!」
ハヌルは沈黙をもって肯定した。
ネズカンは思わず声をあらげる。
「それこそ失望したよ。
君はヒナタ・アークムの事を愛しているから婚約したと思っていた。
なのに――」
「だからですよ」
ハヌルは強い口調で言い切った。
「いつになったら助けに行けるのですか?
正攻法なら父さんの許可が出て、その後にカルカナ王国への伺いを立て無いといけません。
その許可が出てから人員の選定、それを更にカルカナ王国へ申請。
そして日程調整。
どれだけ待てばいいのですか?
彼が失踪してから半年です。
これ以上あんな痛々しいヒナタ嬢を前に待てと言えますか?」
「それはわかっている。
だが、それが決まりだ」
「わかっています。
俺だってヒナタ嬢にあんな危険な所に行って欲しく無い。
出来るのなら俺が行きたい。
でも王子である俺が行けば間違い無く国際問題になる。
今ほど王族に生まれた事を呪った事は無い!」
王位継承権を放棄したとしてもハヌルは第二王子には変わりない。
なので彼はバノキリ島所か、王都を出るだけでも許可が必要なのである。
「バカな考えは良した方がいい。
いくら家族を想っての事でも勝手に禁足地に入ったら結果はどうであれ厳罰は免れられんぞ」
「確かにそうかもしれません。
でも不慮の事故で行ってしまったのなら咎めようがありませんよね?」
「一体何をしようとしている?」
ハヌルは強い意志を持った目でネズカンを見る。
「彼女がただ兄を想って剣を振れる状況を作ります」
「そんなの道理が通らんぞ」
「通してみせますよ。
今の俺の地位やコネクション全部を使って。
俺は王位継承なんて興味がない。
だけど王族に生まれた事はどうする事も出来ない。
ならば俺は王族として通らぬ道理を通してみせます。
もしそれによって俺がこの国に居られなくなったとしてもいい。
俺は俺の全てを賭けて彼女を守ってみせる。
なにかあれば俺1人で全ての罪を背負って消える覚悟は出来ている。
だから静観してください。
今バノキリ島にヒカゲ君が居る事が公になれば偶然を装いにくくなってしまう」
あまりの迫力にネズカンは圧倒されてしまった。
それでもネズカンは黙る訳にはいかなかった。
彼にとっても大切な友人達の子供である2人の事を放ってはおけないからだ。
「あそこは君が思っている以上に危険な場所だ。
魔導具の解除だってエイテンの血を媒体に起動させた以上、彼の存在は不可欠だ」
「血縁者であるヒナタ嬢なら可能です」
「どうしてそう言い切れる」
「俺はヒナタ嬢を信じています」
答えにはなっていなかった。
それでもネズカンは何故かハヌルに賭けてみようと思ってしまった。
「一カ月だけ待とう。
但し、当然その分だけ遅くはなるぞ」
「それまでには終わっています」
ハヌルは一切の迷い無く言い切った。
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